Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎   作:飴玉鉛

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未知数・最優・最強のマスター

 

 

 

 

 うぅむ、と。自然の中で生きてきた山育ちの少年、静希草十郎は深刻な顔で呻いていた。

 

 見渡す限りの人、人、人。おまけにキラキラしたショッピングモールやらなんやら。塔か何かかと錯誤してしまいそうなセンタービルに、未遠川という川にかかる巨大な赤い橋、海に面したコンテナヤード。映画館、プティック、雑貨店などなど……余りに店が多くて目が回る。

 なんという事だろう。これではまるで異世界だ。かつて久遠寺有珠と蒼崎青子がドンパチやらかした遊園地なんかより、よっぽど異世界をしている。草十郎にとっては、暗示なんかなくても、この新都とかいう街を見ただけで全てが事実であると認めるに足りただろう。

 だって草十郎は1980年代後半の時代の人間だ。2004年の新都なんて、10年どころではない差異があり、それだけの時間があれば首都に近い街ほど景観がどんどん様変わりしてしまう。

 1980年代後半の街を見てすら『都会だなぁ、凄いなぁ、何がなんだかさっぱりだし、そりゃ魔術とかあってもおかしくないか』と、魔術の存在をすんなり受け入れたほどなのだ。15年以上も時代をジャンプしてしまった今の草十郎の心境は、はじめて山から出て人里に降りてきた時以上の衝撃で染まっていた。これだけ世界が様変わりしていたら、ここが異世界だというのも頷ける。

 

 ――まあ、草十郎には暗示なんて掛けられていないのだが。

 在るがままを受け入れる静希草十郎は、こんな時だというのに、この事態を受け入れていた。

 

(困ったな。どうやら本当に、殺し合いをさせられるらしい)

 

 人殺しはいけない事だ。そんな事、当たり前の事なのに。その当たり前の事を知らんぷりしてしまうのは如何なものか――と、思わなくもない。しかしなんとかガイアとかいう輩の話を呑み込み、必死に頭を回して理解するに、ガイアとは自然そのものなのだろう。

 それがなんの間違いか意思を持ってしまった。そして自然の擬人化的な何かであるガイアは、切り捨てられた枝である世界を纏めて、生き残りを賭けた生存競争をさせようとしている。

 まあ、人間だって動物だ。自然の一部だし、自然災害によって生存圏を賭け戦うこともあるだろう。それが今回は世界規模なだけで。問題は、自分が世界代表とかいう奴にさせられたことだが。

 

(いや、人は無理に殺す必要はないんだったか。なら……)

 

 マスターとかいうもの。サーヴァントとかいうもの。サーヴァントは幽霊みたいなものらしいし、気にするべきなのはマスターの方だ。人殺しはいけないことだから――と、そこではたと思い至る。

 

(……待てよ? そもそも、やらないとやられるのはこっちなんだった)

 

 自分だけではなく、自分の世界の全ての人が――人だけではなく全ての生命が死んでしまう。

 本当の意味で死ぬのかは知らないが、世界が消えるというのだから死んでしまうことより酷い。

 となると、自分の拘りで迷惑を掛けるわけにはいかなかった。何より――特に願いなんかないけれど、自分にできることをしないで、友人達に負債を押し付けるのは気が引ける。

 

(気は進まないけど、仕方ないか。殺しに来るマスターに関しては、うん……俺も割りきろう)

 

 容赦なく、手加減無く、握った拳は緩めない。

 さて、ではどうしようかと思案する。戦争の経験なんかない。こんな異世界でどう過ごしたらいいのかも見当がつかない。困ったことに、自分一人だと何もできないだろう。

 冬木中央公園という場所で、ブランコに揺られながら草十郎は頷く。何もできないなら、なんとかできるかもしれない味方を喚んで、群れになればいい。三人寄れば文殊の知恵だ。三人いないし一人(自分)は知恵なんて出せないから、実質喚び出す人におんぶに抱っこだけど。

 

 ――日はまだ高い。公園に人は少ないが、いないわけでもない。

 

 だというのに草十郎は気にしなかった。

 

「頭の中に知らない呪文があるっていうのは変な感覚だな……えーと、素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖に代わり星の意思――降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。――閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)。繰り返す都度に五度、ただ満たされる刻を破却する。

 ――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯(ガイア)の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――だっけ?」

 

 急に熱を感じて右掌を見ると、そこには髑髏を模した赤い刻印が三画浮かび上がっていた。

 令呪である。頭蓋骨で一、上の歯の部分で二、顎で三。溜め息を吐く草十郎に、神秘の秘匿なんて感性はない。意識せず破り、これからも意識することなんてないだろう。――他マスターも殆どそうだ。

 目映い光はエーテルの乱舞。そこに人影がある。召喚に掛かるリソースは皆無だった。それはガイアが肩代わりしている。故に――立ちくらみを草十郎が感じたのは、そのサーヴァントの現界を維持するコストの重さで、体からゴッソリと生命力を持っていかれ始めたからだ。

 

(あ――これ、まず――)

 

「キャスターのサーヴァント、召喚に応じ参上しました。貴方が()()()()()マスター……おや。魔術の素養がない方でしたか」

 

 この異聞聖杯戦争にて使役されるサーヴァントは、召喚された時点で全ての事情を了解している。現れたサーヴァントは汎人類史の英霊ではない、草十郎の生きる世界で、()()()()()()()()だった。

 英霊とはその多くが()()の存在だ。守護者のような人側の存在は稀有である。故に、星側の存在である以上、ガイアの意思が経由した存在は基本的に()()()()()()()()()()()()()()現界し、全霊を尽くしてマスターの力となるのである。

 

 黒いヴェールで顔を隠した()()()()()妖艶な魔女は、古今の魔術世界に於いて五本の指に入る神域の天才である。分野によっては彼の魔術王をも上回る稀代の魔女は、自らのマスターの様態を一目で見抜くと、迷いなく即座に手を打った。

 

「――アコーロン」

 

 魔槍(つえ)を掲げ、自らの魔力の大部分を消費してまで周辺を探知(サーチ)しながら、探知に引っ掛かったありとあらゆる生命から魔力を吸い上げていく。魂喰いだ。情け容赦なく死の一歩手前まで魔力を吸い上げ自らのものとし、マスターの生命力を回復させると余剰分を自身に還元、ひとまず存在を維持するのに不足のない魔力を集めると、もう一度自身が消滅する寸前まで魔力を用い、この地の霊脈を遠くにいながらにして探り当てるや、すぐさまそこへ接続して自らへの魔力供給を開始した。

 聖杯戦争のセオリーもへったくれもない。神秘の秘匿など一考する価値すらないと言わんばかりの荒業であり、彼女以外には魔術王にしか真似できず、他の者では相応の準備を要する所業を即興で成し遂げた。

 

 この時点で、キャスターのサーヴァントはマスターからの魔力供給を不要とする。立ちくらみから快復した草十郎は、座り込んでしまったまま自らのサーヴァントを見上げた。

 すると魔女は微笑み、淑やかに手を差し伸べる。

 

「――お手を、マスター」

「……助かる。ありがとう……えっと、キャスター?」

「お気になさらず。よりにもよって全英霊の中から、この私を喚び出したマスターの為です。この程度で礼を言う必要はありませんよ」

 

 キャスターの手を取って草十郎が立ち上がると、キャスターは彼の目を直視した。草十郎はその目に――綺麗な目だと、思わず見惚れてしまう。

 

「では改めて。キャスターのサーヴァント、真名をモルガン。召喚に応じ参上しました、共に此度の聖杯戦争を勝ち抜きましょうね? ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖杯戦争。

 

 はじめて聞いた名前であるはずなのに、どうして既知感があるのだろう。

 どうして、どう立ち回り、どう戦えば良いのか。魔術はともかく、魔力供給だけならなんとかなると確信を持てる?

 冬木という場所ですぐ警察署を探した。制服の上着を脱いだ肌着姿で、警察署に着く前に()()()を振り回し、狂人のふりをしたまま留置所にぶち込まれてから――やっと一息吐いて熟考した。

 

(これで人心地つけた)

 

 留置所にぶち込まれ、一人になれた岸波白野は()()()()()()()()()()()()

 

「――これからどうしよっか、()()()()

『さて。戦となるに今暫しの猶予はある故、私は(けん)に徹するが宜しいと愚考致すが……マスターは如何お考えか?』

 

 ポツリと呟くと、霊体化したまま侍ていたサーヴァントが応じる。日本刀は彼のもので、警察に押収された刀も回収済みである。

 セイバーのサーヴァント『柳生但馬守宗矩』は、冷徹な眼差しで自らの主の智略を見定めようとしている。白野はそれを肌で感じていた。故に、彼は自身のサーヴァントからの出題に回答を出した。

 それは現状、満点と言える答えだった。

 

「……じゃあ、俺は此処にいるよ。最低でも戦闘開始の一日後……明後日までは狂人のふりして粘るから、セイバーは一人で他陣営の様子を見ていてくれ」

『――戦闘は基本避けよ、と。では剣を交えざるを得ない状況に陥れば、私はどう致せば?』

「パスを通じて俺に念話できるだろう? その時は令呪で空間転移させて逃がすよ。ただ遠距離攻撃ができる奴、特にアーチャーを見つけたらすぐに報せてくれ。サーヴァントは依り代であるマスターの傍にいないと真価を発揮できないけど、単独行動スキルを持っているアーチャーは例外だ。フィールドの広い聖杯戦争の場合、弓兵だけは放置できない」

『――暗殺者は捨て置けると?』

「アサシンは確かに怖い。けどそっちは今のところ警戒に値しないさ。寧ろ序盤から派手に動き回るようなアサシンがいたら、()()()()()()()()()()()()。どういうタイプの暗殺者か分かれば収穫だし、アサシンだっていきなり俺の居場所を探し出せはしないはずだ。此処から出た後はセイバーと常に一緒にいるから暗殺の心配もしてないし。……そこは信じていいんだよな?」

『無論。主君に卑劣な刃を届かせるほど、私は未熟ではないと自負しておりますれば』

「ならやる事は決まったな。まずはアーチャーを倒す。()()()()()セイバーでも、遠距離攻撃が可能なアーチャー・クラスだけは鬼門だからだ。一人で偵察してる時にアーチャーを見つけたらまず俺に報告してくれ。そうしたら俺は()()()()()()、依り代の俺が近くにいなくても十全の戦闘力を発揮出来るようにする。()()()()()アーチャーの真後ろに空間転移しろと命令するよ。それでいいな?」

『――承知。私からも異論はありませぬ。戦術眼の確かなマスターのようですな、感服仕った』

 

 フ、と微かに相好を崩し、セイバー・柳生宗矩は霊体のまま留置所を後にする。

 セイバーが去るのを待って、白野は固い息を吐いた。

 何をしているんだろう、と思う。――病気の後遺症なのか、白野は自分の名前以外の何も思い出せない。記憶を失くす前の自分は何者だったのだろうか?

 右も左も分からないはずなのに、判断を迷わず下せている。……なんの為に戦おうとしているのだろう。失う世界(きおく)なんて無いというのに、なぜ……。

 前に進もうにも、どちらが前かも分からないのだ。なのになぜ戦う? どうして?

 

「――とりあえず、行けば分かるな」

 

 分からないなりに進んでみよう。進んだ後が道になる。道は、振り返れる。

 ()()()岸波白野は、()()()()()()()()()()()、彼に行く道を迷わせない――

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そうして、此処に()()()()()()()()()()()()

 

「……弱ったな」

 

 エミヤシロウは、アインツベルンの城にて苦笑した。

 そこは激しい戦闘によって倒壊し、そのまま放置されている廃墟である。

 

 彼の記憶は摩耗していない。

 生まれ育った冬木の事は、今も克明に覚えている。

 故に地形の確認は、高い場に登り辺りを一瞥して、自分の記憶との差異の有無を探して『無い』と判断できれば充分だった。

 

 あの話が真実か否か。そんなもの、気にする必要はない。

 

 彼の鷹の目は、遠く離れた地にて、2()0()0()4()()()()()()()()()の存在を視認している。であるならば、少なくとも自分が過去にいるという確信は持てた。そして過去にいるなら――尋常でない事態も想定できる。それこそガイアの意思の言葉や、見せられた地表とやらの状態、異聞帯云々の話にも信憑性を認められる。――何より、彼には別の確信もあった。

 

 ――エミヤシロウは、『世界』と契約している。

 

 エミヤの契約した世界とは、人側の抑止力のアラヤだ。そして契約で結ばれている以上、エミヤの知覚しているものはそのままアラヤにも伝わる。そして()()()()()()()()()()()()は、エミヤがガイアにより召喚された瞬間――()()()()()()()()()()()()()

 故にエミヤは『()()()()()()()()()を受けている。異なる世界に跳んだ今も接続は保たれており――彼の能力はサーヴァント級に跳ね上がっていたのだ。

 

 そして、異聞聖杯戦争にて行われる英霊召喚では、縁は機能しない。触媒こそ機能していても、それが無いなら基本的に召喚主に最も()()英霊が選ばれる。

 であれば、エミヤに最も合う英霊もまた決まっていた。

 最もエミヤの戦闘スタイルに合い、最もエミヤの思想に合い、最も相性の合う存在。そんな英霊は――()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 だからこそ、その事態は必然だった。

 

 要因は二つ。一つは、エミヤがアラヤと契約し、アラヤが『エミヤを可能な限り全力でバックアップする』事を選択し、他の参加者と違い本当の意味での世界の代表として送り出されている事。もう一つは、ガイアが『サンプルであるマスターに最も合う英霊を喚び出す』ようにしている事だ。結果として喚び出される英霊は『エミヤシロウ』となり。そして――

 

「今のオレは……差し詰め()()()()()()()()といったところか?」

 

 ――世界からの後押しがある故に聖剣の投影をも無理なく行える、超級のマスターが誕生したのである。

 

 まさかの召喚事故だ。剪定された側のアラヤと、ガイアの意思の判定が、同じ英霊を喚び出した結果。英霊エミヤと生前のエミヤが融合してしまった。

 マスターでありサーヴァント、守護者であり殺戮者。それが今のエミヤだ。

 汎人類史における英霊エミヤは、未来の英雄である故に知名度が絶無であり、そうであるからこそ聖杯によって喚び出された場合は、大幅に弱体化した状態で召喚されるのが常だ。しかし、もしもエミヤに知名度補正があれば、彼のステータスは魔力と宝具……幸運の値を除いてランクが跳ね上がる。故に今のエミヤのステータスは最高の状態になっていた。

 

「……なんでさ」

 

 エミヤは黄昏れる。呆然としているのだ。まさか英霊召喚を決行すると、自分自身が召喚され、挙げ句の果てに融合する羽目になるとは夢にも思っていなかった。更に追い打ちかのように、英霊エミヤは力だけを置いて速やかに退去してしまったのである。

 鉄の心を持ったエミヤといえど、これには困ってしまった。

 

「まあ……いいか。下手なサーヴァントを喚び出し、足並みを揃えられなかった場合のリスクを考えたら……一応許容範囲内、という事にしておこう……」

 

 エミヤはそう呟き、無理矢理に自分を納得させた。もしかしたらセイバーとまた会えるかもしれないと、ちょっと期待していたから、少し……いやかなり落ち込んでしまったが。――結果的にベストな状態になったのだから、よしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 




真名・エミヤ(本人)
マスター・エミヤ(本人)
クラス・弓兵
ステータス・筋力B、耐久A、敏捷C、魔力EX、幸運E−、宝具E〜EX
備考
 「エミヤのデミ・サーヴァントのエミヤ。神造兵装の投影を行っても自壊・自滅しない。知名度補正あればこれぐらいかなというイメージ。見せ筋とは言わせない…! なお魔力に関してのみアラヤのバックアップで無尽蔵。幸運は多分、全英霊の中でワースト3に入るぐらい酷い(偏見)。死後も酷使され続けて摩耗してるからね、仕方ないね…」
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