Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎 作:飴玉鉛
魔術師殺しの戦場構築
「――慎二、あんたの言った通りだったわ。あらかじめ確認を取っていた通り、
(よし――よしッ……よし!)
渾身の、ガッツポーズ。
(賭けに――勝ったッ!)
間桐慎二は賭けに勝った。
今後の戦略で一番大事な前提条件。これからどう動くか、どうしたら一番勝率が高いか、閃いた戦術を最大限活かし切り、なおかつ自身の生存確率を最大まで引き上げる妙手を実行できた。
ネックだったのは、賭けに勝った場合でもどうやって説明するかという部分だったが、そこに関しては心配していなかった。第五次聖杯戦争の醜態からでは想像もつかないだろうが、間桐慎二は本来頭脳明晰である。他人の心は理解する気もないが、人を見る目はあるのだ。
遠坂凛や衛宮士郎が、どういう人間なのかを彼は理解していた。故に、前者を説得できたら全て上手くいくと確信していたのだ。だって士郎は本気で説得したら、半信半疑でも絶対に手を貸してくれると知っている。故に如何にして凛を説き伏せるかだけ考えればよかった。
凛を説得する材料はある。まずは自分に現れた令呪だ。左手の甲に現れた、蟲を象った刻印。まずはそれを凛に見せ、それが令呪として機能するものであるか凛自身に調べてもらった。
次に異聞聖杯戦争に纏わる事情も全て話した。これは流石に信じてはくれなかったが、別にそれはいい。現地人であり冬木のセカンドオーナーである遠坂凛にとって問題なのは、『終結してまだ間もないはずの聖杯戦争が始まる』ということであり、それに関して協力を頼めるか、だ。冬木の聖杯戦争であるならば、普通は遠坂である凛にも令呪があるはずであり、それがない以上はなんらかの異常事態が起こっているのは火を見るように明らかだった。
更に慎二はバゼット・フラガ・マクレミッツを知っている。……顔を知っているだけだが、一時期バゼットが衛宮邸に顔を出しており、そこで士郎や凛がバゼットと知己を得ている事を知っていた。そしてバゼットが本来のランサーのマスターだったことも。
そして――実を言うと慎二は、
理由はただ一つ。起きた時、人の話し声がしたのだ。
――凛のアーチャーの声が聞こえたのである。慎二は何がなんだか分からずにいたが、サーヴァントがいると思って恐ろしくなり、目を覚ましたことを気取られないように息を潜めたのである。その中で慎二はバゼットの名前が出たのを聞き、そして彼女がまだ第五次聖杯戦争を経験しておらず、これからその戦いに臨もうとしているのだという事を知った。
であれば、バゼットの行動は読める。あの場であんな話をされたら、たとえどう転んでも絶対に教会に顔を出すはずだと踏んだのだ。だからこそ慎二は、暗示に掛けられあの話が全て真実だと思っているからこその行動力で、いの一番に間桐邸に駆け込み、自身がいるかいないかの確認を済ませると、即座に遠坂邸に向けて全力疾走したのである。
そこで凛に全てを話し、
そこへバゼットが二人いる事の確認が取れたのだ。バゼットは慎二の読んだ通りに動いた。
結果として凛は――まだ半信半疑ながらも半分は慎二の話を信じてくれた。
「まさか、あんたがマスターに選ばれるだなんてね……」
凛が複雑そうに慎二を見ながら言う。……確かに複雑だろうなと慎二は自嘲した。
こうして凛と肩を並べて歩き、間桐邸にもう一度向かうだなんて、慎二にも信じられない。
「はっ、そんなの僕だってそうさ。令呪を譲れるってんなら、今すぐにでも遠坂にくれてやるよ。僕なんかより遠坂の方が勝率は高いんだし、そもそもこんな野蛮な戦いで命なんか賭けられるもんか」
「……ふぅん」
「……なんだよ?」
「別に? ただ、どんな奴でも変われば変わるものなんだって思っただけよ」
意味深に笑う凛は、こんな時だというのに機嫌が良さそうだった。慎二としてはそんな含み笑いをされても、いたたまれなくなるだけなのでやめてほしいのだが……。
慎二は誤魔化すように舌打ちし、凛に話を振った。
「どうでもいいけど……これからやることは分かってるんだろうな?」
「もちろんよ。間桐臓硯に会って令呪の真贋を確かめるわ。間桐は令呪を開発した家、あんたのそれが本物か偽物かぐらい区別は容易いでしょ。その上で私も把握していない聖杯の状態を、知っているなら聞き出す。第六次聖杯戦争が行われるなら大聖杯は起動してるはずだし、そっちも私達で確認しておきたいわね」
「……あんまり悠長なことはしてられないんだぞ。そこは分かってるのか?」
「ま……慎二の話が本当かどうか、私にはまだ判断はつかないけど、
「衛宮も呼んどけよ? 後から首を突っ込まれたらその方が迷惑だ」
「あー……衛宮くんなら確かに騒ぎを聞きつけて来そうね……分かったわ。ったく、こんなことになるなら、セイバーを引き止められてたらよかったのに」
愚痴って嘆息する凛だが、慎二はなんとも言えない。セイバー……アーサー王。最優のサーヴァントがいてくれたら、確かに心強い味方になってくれただろう。惜しむ気持ちは分かる。
だがいないものは仕方ない。そんなことより、慎二にとって非常に残念なのは、英霊召喚に利用できる触媒を凛が持っていなかったことだ。
――まさか後に、臓硯が
そして。こちらは狙い通りだったが、衛宮士郎にアーサー王との縁があるわけないのだから、必ず触媒を持っているはずだと踏んで、士郎を呼び出し召喚の場に居合わせる事で、慎二は
まだ第五次から半年も経っていない故に、周囲への後ろめたさを多分に持っている慎二の自己評価は、本来のそれよりかなり低い。自分が喚び出したサーヴァントなんて雑魚に決まってると頭から決めつけていた慎二は、最初から触媒なしの英霊召喚などする気はなかったのだ。
斯くして間桐慎二はライダーとして、聖槍の騎士王を呼び出すだろう。その上で遠坂家の地下に
戦闘中は
果たしてそれは大当たりするのだった。
† † † † † † † †
衛宮切嗣は自らの召喚したサーヴァントの真名と、その顔を見て固まった。まさか自分が世界と契約し、守護者になっているイフの世界が存在するとは夢にも思っていなかったが……。
(……まあ、いい。アサシンが僕なら、逆にやりやすい)
未だ嘗てなく戦闘へのモチベーションが高まっているせいだろうか、ショックはあったがさほど動揺することはなく、自分でも意外なほどあっさり意識を切り替えることができた。
世界に『お前なんてそんなものだ』と皮肉を言われたような錯覚もあるが、そこに関して気にするような余分を、切嗣が持つはずもなく。アサシンの自分の手の内を聞き出し、スタンドプレーは絶対に赦さないと断言した。逆らうなら令呪で従わせるとまで脅して。
そんな無駄な令呪を使われたのでは堪ったものではない筈だ、少なくとも自分がサーヴァントなら御免被る――そう切嗣が感じた通り、アサシンは舌打ちしてマスターの意向に従う事を約束した。
が、そんな言葉は表面上のものに過ぎないだろう。アサシンは絶対に、現場で必要だと思ったらすぐに独自判断で動くはずだ。自分でもそうする。そしてそうしたケースでまで縛り付ける気は切嗣にもない。あくまで話をする上での主導権は自分にある事を示す為の脅しだ。
この異聞聖杯戦争の初手をどうするか。重要な点ではあるが、セオリー通りに事を進めたらいいというものでもない。各々が世界の代表である事を意識したら、普通なら萎縮してしまい身動きが取れなくなりそうなものだが――そんな甘い考えは捨てた方がいいだろう。
(アサシン、敵マスターの姿は捉えられるか?)
無線もなく連絡が取れるのは便利だ。パスを通じてのそれに時間差はなく、サーヴァントは使い魔でもある故に視界を借りる事もできる故に、正確に遠くの情景も見通すことができた。
だが今は、切嗣も作業中だ。
『ああ。新都とかいう所にキャスターらしきサーヴァントとそのマスターがいる。アンタから聞いた外見的特徴と一致する、恐らくマスターは静希草十郎だろう』
アサシンの気配遮断のランクはA+だ。本来弓兵しか持たないはずの単独行動スキルもAランクで保有している。アサシンは万が一切嗣が死亡した際も、魔力供給無しで一週間は存命可能だ。
マスターが死亡したらサーヴァントも基本的に即死する。これはガイアの定めたルールだが、単独行動スキルがあるなら話は別だという。ランクに応じた期間のみ、単独で戦うことが赦されるらしい。その場合勝利したサーヴァントのマスターが勝ったという裁定が下されるそうだ。というのも敢えて自身を捨てた戦術で勝利するケースも想定されるべきだから、らしい。
ありがたい話だ。ありがた過ぎて涙が出そうである。
――他にも魔術スキルもBランクと高く、隠密に徹したアサシンを見つけ出す事は、罠を張った神代の魔術師でも不可能だ。霊体化して偵察を行うアサシンを捕捉できる者はいない。
そんなアサシンからの報告に、切嗣は手を止めた。――彼の行っていた『作業』とは、ずばり空き巣である。住人が留守にしているらしい家を探し、忍び込もうとしていたのだ。
拠点は仮初のものでいい。なんなら下水道でも構わない。しかしいざとなれば逃げ場も確保したいため、非常事態となれば即座に街中に出て人混みに紛れられるところが望ましい……そう考えたのだ。
(静希草十郎か。これが普通の聖杯戦争だったら、同盟を持ちかけても良かったが……アサシン、視界を借りるぞ)
『OKだ。キャスターのステータスを確認したら僕にも教えてくれ』
(了解)
サーヴァント・アサシンの視界は、人間とは比にもならないほど図抜けて精度がいい。センタービルの屋上から、雑多な人間たちに紛れている存在をハッキリ識別できた。
切嗣は草十郎のサーヴァントを見る。女だ。霊体化しているが、アサシンも同じサーヴァントであるため視認できている。その視界を借りている切嗣も、だ。故に彼は眉を顰めた。
(――妙だな。キャスターのステータスが高い)
『なに?』
(筋力がC、耐久がE……敏捷がBランクなのはキャスターらしからないが、そこはいいにしても魔力がA+だと? 静希草十郎は一般人だ、魔術の素養が皆無なのは確認している。あの少年にキャスターを維持するのは不可能なはずだ。アサシン――)
言うよりも先にアサシンの視界が動いた。左右に素早くだ。切嗣の言葉を聞いて、アサシンも同じ疑惑を懐いたらしい。すると冬木中央公園付近に、何人もの人間が倒れているのを発見した。
(『ビンゴだ』)
声がハモリ、一瞬微妙な気分になる。自身の声が重なって聞こえたからだ。
『マスター、』
(分かっている、今一般人宅に侵入を終えたところだ。――よし、アサシンはキャスターを尾行していてくれ。何が起ころうと手出しは無用だ)
『了解』
切嗣は視界の共有を切り、自身の作業を迅速に終えて一般人宅に侵入。すぐさま住人の有無を確かめ、無人であると確信すると、据え置きの電話に手を伸ばした。
記憶している電話番号――時計塔のとある番号に掛ける。世界は違うし、時代も違うが――繋がらないなら他を当たるまで。果たして受話器を誰かが取ったらしい気配を感じた。
よし、と思う。その相手が、こちらが何者か訊ねてくるのを無視し、一方的に告げた。
「――日本の冬木で神秘の秘匿が破られている。至急確認した方がいい。サーヴァントらしき者を従えた奴が犯人だ。マスターは黒髪の少年、歳は10代後半で身長は172cmほどだろう。マスターとサーヴァントがいることから、なんらかの要因で冬木の聖杯戦争が再開されている可能性が高い。事は急を要する、急いで向かえ」
言って、返事も聞かずに受話器を置く。
あの番号は基本的に、時計塔からの仕事を請け負ったフリーランスの魔術使いが用いる。
切嗣はその番号を、母親代わりだった師から受け継いでいた。ほとんど使う事はなかったが、一応は時計塔とのパイプである。
――これで、時計塔は念の為、セカンドオーナーの遠坂を介して確認させるか、聖堂教会に連絡を取り対応するだろう。どちらにせよ時計塔の執行者が駆り出されてくる可能性は高い。
アサシンはクラスの通り暗殺者だ。対人戦、対サーヴァント戦でも高い戦闘力を発揮できるが、無敵ではない。ならば不必要なリスクは切り捨てるべきだ。切嗣もアサシンも、最後まで隠れていたって構わないのである。隠れたまま、戦場を支配する。いつもと同じだ――小規模とはいえ、これまで幾つの紛争を終息に導いたか数知れない。その経験を活かす。
(――現地人に危害を加えるのは禁止だ。だが……利用するなとは言われていない。さて、いったい何人のマスターが……そしてそのサーヴァントが、殺意を持った魔術師や代行者達を
『――僕の出番だ。僕がサーヴァントを後ろから刺し――』
(――サーヴァントが対処したら、僕がマスターを銃撃する)
『魔術師殺し』は伊達ではない。このパターンに嵌まれば確殺できる。嵌まらずとも、混迷を極めた戦場での身の隠し方は知悉していた。有利な戦場を作り出すという目的は果たせるだろう。
衛宮切嗣による、戦場の撹乱。一方の魔術師殺しは不敵に笑い、もう一方の魔術師殺しは無感動に任務を遂行する。
次はアサシンにサーヴァント戦を起こさせよう。敵と交戦し、そのヘイトを他のサーヴァントに擦り付ける。――アサシンと切嗣は、共にスケープゴート戦術も得意中の得意だった。
面白い、続きが気になると思って頂けたら、感想評価等よろしくお願い申し上げる。