何かに夢中になるということ   作:砂々時計

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3.バットマン

今日は、いつものバッティングセンターが飽きたので他のところに行ってみようと思っていた。

ちなみにただ券のおかげでここ最近のお小遣いは全て貯金に回っている。

今までのバッティングセンターも隣町という割と遠い場所にあったわけだが、今日はさらにその遠くのところに行くことにした。

流石に遠すぎるので電車である。これも貯めた小遣いのおかげだ。電車自体は前にも数えるほどだけど乗ったことがある。

 

そんな訳で隣町の隣町ぐらいのところに来たわけで、全く知らない土地である。

一家にパソコンが一台しかないのでバッティングセンターの場所も調べてない。パソコンはお父さんが使っていた。

とりあえずその辺をぶらぶらしながらそれらしいところに行けばいいかと考える。

 

そこで、俺の野球人生でも割と重要な部類に入る出会いがあったのだ。

 

 

*****

 

 

今日はバッティングセンターに行くだけだったので球とグローブは持っていなかったが、何となく河原の方に行ってみようと思ったのだ。

というのは嘘で、バッティングセンターを探していたら河原っぽいところの近くに来ていた。

 

ぶんっ

 

ぶんっぶんっ

 

ぶんっ

 

ぶんっ

 

俺が土手の上を歩いていると、何だか聞きなれたような、でも少し違うような音が聞こえてきた。

気になってこっそり覗いてみることにした。

その音は橋の柱と柱の間っていうのか?そんな感じのところからする。

とりあえず手前の柱、というか壁の陰に隠れて様子を見てみる。

 

そこには俺と同い年くらいの少年が一人バットを振っていた。

見た感じあのバットは普通のに比べて重そうな感じがする。振り方がなんとなく。

あとは、別にただ素振りをしているわけでもなさそう。

なんか毎回バットの振り方が違うし、まるで何かに合わせているような………。

、まさか、でもなあ

これは………

 

「………イメージトレーニング?」

 

思わず声に出してしまった。だって異常だし。イメトレなんてそんな簡単にできるわけもない。

そんなことを思っていたら、さっきの呟きで俺に気づいたのか、バットを振っていた子がイメトレをやめて恐る恐るこっちを振り返ってきた。

 

「だ、だれ………」

 

「俺は山崎湊。バットの音が聞こえてきたから気になって覗いてた。」

 

普段は初対面の人にこうも上手く喋れないが、相手の方が俺よりおどおどしていたら、なんだか冷静になって喋れる。

まあ緊張している人を見ると落ち着く原理ってやつだな。

 

「なんでずっとイメージトレーニングばっかりやってるの?」

 

「カハハ………うち、貧乏だから……」

 

「なるほど!君名前何て言うの?」

 

「と、轟雷市。」

 

「ライチね!ライチがどのくらいの貧乏かはわからないけど、うちもちょっと貧乏なんだよね。でさでさ、やっぱりそれってイメージトレーニングだよね。」

 

「う、うん」

 

「あと、そのバット持ってみてもいい?」

 

「カハハ………いいぞ!」

 

金のなる木、と書かれた木製のバットを手渡された。

やっぱり想像通りにすごく重い。まあ俺も鍛えてるから振るのも余裕だと思う。

 

ぶんっぶんっ

 

流石に重いから普段よりスイングが遅れる。だけどなんか普通のバットに変えたらホームラン連発出来そうな感じ。

 

「ライチは誰かにこのバット渡されたりしたの?」

 

「うん!俺の親父が野球教えてくれる。それよりさ、お前凄い!俺よりスイングはやい!カハハ!」

 

「ほほう。このバットは重いから、普通のバットの時は俺のスイングはもっと速いぞ!まあその分ライチのスイングも速くなるだろうけどな」

 

「すげぇ!すげぇ!」

 

 

*****

 

 

俺は今日も橋の下でバットを振っていた。

物凄いカーブを投げる投手を思い浮かべ、飛んできた球に合わせてバットを振る。

今日いつもと違うことと言えば、いつもは見てる親父が買い物に行くためにいなくなったこと。

俺たちは貧乏だからあのクソ親父が買ってくるものも安い奴ばかり。主にもやし。

 

投手のイメージ像を変えていき、いろいろな球を打ち込んでいた。

その時、

 

「………イメージトレーニング?」

 

という声が聞こえてきた。親父の声じゃあない。後ろの壁の方から聞こえる。

最初はびっくりしすぎて無視しようかと思ったけど、俺は少し考えた。

普通だったらこの修行を見て大体の人は唯の素振りだと思うだろう。親父も言ってたし。

だけど誰かわからない人はイメージトレーニングだといった。なんで気付いたんだろう。

恐る恐る、振り返ってみることにした。

 

「だ、だれ………」

 

自分の口から思わず漏れ出た言葉だけど、ちゃんと聞こえていたようだ。

 

「俺は山崎湊。バットの音が聞こえてきたから気になって覗いてた。」

 

もしかしたら俺が気づいてなかっただけでずっと見られていたのかもしれない、と思って変に緊張してきた。

俺がおどおどしているうちに、向こうは何か考えるそぶりを見せた後に質問してきた。

 

「なんでずっとイメージトレーニングばっかりやってるの?」

 

それは色々とクソ親父のせいだ。

 

「カハハ………うち、貧乏だから……」

 

ほんと、俺は毎日肉を食べたい。

 

「なるほど!君名前何て言うの?」

 

そういえば、向こうは名乗ったのに俺は名前を教えていないなと思い出した。あいつの名前はたしか、ミナト。

 

「と、轟雷市。」

 

「ライチね!ライチがどのくらいの貧乏かはわからないけど、うちもちょっと貧乏なんだよね。でさでさ、やっぱりそれってイメージトレーニングだよね。」

 

「う、うん」

 

!ミナトのうちも貧乏なのは驚いた。でもちょっとって言ってるくらいだから肉は食べれるのかな?

 

「あと、そのバット持ってみてもいい?」

 

「カハハ………いいぞ!」

 

俺がバットを渡したらミナトがバットを構えた。

 

ぶんっぶんっ

 

!すげぇ!すげぇ!カハハ!

ミナトのスイングすげぇ速い!俺より速い!!

そう思っていたら、ミナトは素振りをやめた。

 

「ライチは誰かにこのバット渡されたりしたの?」

 

「うん!俺の親父が野球教えてくれる。それよりさ、お前凄い!俺よりスイングはやい!カハハ!」

 

「ほほう。このバットは重いから、普通のバットの時は俺のスイングはもっと速いぞ!まあその分ライチのスイングも速くなるだろうけどな」

 

すげぇ!

 

「すげぇ!すげぇ!」

 

「なあなあ、よかったらさ、俺と一緒にバッティングセンター行かない?お金は俺が払うし、ホームラン打てばただ券貰えるし!」

 

すげぇ!本物の球を打てるのか!すげぇ!

けど………

 

「親父に聞いた方がいい気がする。」

 

「!確かに、ライチのイメトレの邪魔になるかもしれないしそれもそうだな」

 

「お、おれ!ここで毎日素振りしてるから!今日たまたま親父が居なかっただけで、いつもはいるから!またここに来てくれ!カハハハ!」

 

「そうか!じゃあ今日は俺帰るから、近いうちにまた来る。じゃあな!」

 

「お、おう!カハハ!」

 

もう暗いし、俺も家に帰らないと。

カハハ!素振りはいつも楽しいけど、今日はミナトに会えて楽しかった!

 

 

*****

 

 

「親父!今日、ミナトってやつに会った!俺のバットで、俺よりスイング速くて、ぶんっぶんっって!!アイツすげぇ!」

 

「!そうか、面白い奴もいるもんだな。」

 

「それで、ミナトにばってぃんぐせんたーに行かないか、って言われた。でも一応親父に聞かなきゃと思って断ったから、また今度親父がいるときに来るって言ってた!お金は払ってくれるって!ホームラン打てばただだって!」

 

「そうか、ホームラン打てばただか~。いうじゃねえか。」

 

「カハハ!ミナトは凄い奴だ!」

 

バッティングセンターか。行くのはいいけど、硬球で、だな。

 

 

 

 

 

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