少女賢者は救いたい   作:たったかたん

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プロローグ

 赤い煉瓦で作られた小さな宴会場ほどの空間。その地面には足の踏み場のないほど細かく刻まれた巨大な魔法陣が描かれ、そのすぐ側には老いたローブ姿の男が立っていた。

 男は魔法陣に右手で触れる。

 

「【時空よ(スパージオテンポ)】」

 

 その瞬間、描かれた魔法陣は眩いほどに蒼く輝いた。最終調整の魔素の充填が終わった証である。

 その様子を見て男はうなづき、後ろを見た。

 

「準備はいいな」

 

「勿論ですわ」

 

「…はい」

 

 男の問いに答えたのは、ローブ姿の少女二人。一人は赤髪で肩まで伸びた髪が、蒼の魔素の輝きにより神秘的な色へと輝かせている。目もぱっちりで赤眼。自信に溢れているのが赤眼の奥から垣間見えた。

 もう一人は腰上まで伸びた癖のない黒髪に、可愛らしい猫目からは翡翠色の美しい瞳が輝く魔法陣を見つめていた。一言で返事はしたものの瞳の奥には不安が見え隠れしている。

 

「よろしい。では二人とも、中へ」

 

 蒼く輝く魔素の中を二人は歩み、魔法陣の中心で立ち止まった。

 

「よいかカリーナ、ダーナ。これは国命である。必ずや400年前の大賢者クレイ=セロスから黒壁の解除方法を聞き出すのじゃ。これにはこの国の未来がかかっていると心得よ」

 

 真顔にしがれた声で念を押すように話す男、エーヴェルに向かって二人は大きく頷いた。

 更に魔素の輝きが増していき、二人を包み込むように動いていく。

 

 姿が見えなくなる瞬間、カリーナが不安を抱えたままの翡翠の目をエーヴェルに合わせた。

 

「必ず無事に帰ってみせます。師匠」

 

 輝きがさらに増し、蒼から白に塗りつぶされた。その瞬間、あれほどまでにあった高密度の魔素が消え、まるで雪のように残留した魔素が部屋に降り注いでいた。

 

「…生きて帰ってくるのじゃぞ、二人とも。」

 

 その部屋に取り残されたエーヴェル=アーノルドはただ静かに、その光景を眺めていた。

 

  

 ◆◆◆◆

    

 デミマーレ魔術国民話

 

           【初代賢者様の偉業】

 

 

       

 昔々、この国ができてまだまもなかった頃のお話。この国にはとてもとても優秀な賢者がおりました。

 賢者の魔法で土地は守られ、賢者のお陰で戦争は起きない。とてもとても平和な世の中が続いておりました。しかしある日突然、この国に大きな災いが降りかかりました。

 ある町は原因不明の病に侵され、ある町は建物ごと破壊し尽くされるなど、それはとても酷い物でした。

 この事に賢者は酷く心を痛め、民へ向かってこう言いました。

 

「私に任せなさい」

 

 その言葉を民達も、そして国王も心から信じ、全てを託しました。しかしある日、賢者の行方が忽然と分からなくなりました。

 逃げたのかと、皆がそう怒りを抱き始めた時、突然空から黒い壁が降りてきたのです。

 その壁は大陸へと続く陸を分断するように空へも地平線へも永遠と続く巨大な壁となったのです。

 皆が戸惑う中、国王は黒い壁を見て、こう言い残しました。

 

「これは、この国を守る為に賢者が命と引き換えに作ったものである」

 

 その言葉を裏付けるかのように、民を苦しめていた災いがぴたりと収まったのです。賢者は国民を見捨てず、自分の命を代償にこの国を守ったのです。

 その壁には後に「不朽の黒壁」と名付けられ、国の平和の象徴となったのでした。

 

 

 ____民が、王が、この黒壁がこの国を苦しめ続ける負の遺産だと完全に理解するのは、100年も後のことになるのでした。

 




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