少女賢者は救いたい   作:たったかたん

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ダーナ視点の過去回想入ります


ダーナは彼女を支えたい

 

 

「素晴らしい!君はきっと将来賢者になれる!」

 

 

「この年でここまでの腕前なんて、お父様も喜ばれるわぁ」

 

 

 

 ___幼少期、初めて魔法を教えてくれた家庭教師の二人が言った言葉は、未だに鮮明に覚えている。何がどうとか、まだ物心ついてまもなかった私は、この才能がリルバーン公爵家にとってどの様な物なのかすら分かっていなかった。

 

 何処へ行っても天才と持ち上げられ、領地の民達からは崇敬された。それで調子に乗ることはなかったが、少なからず調子に乗っていた所はあっただろうそんな14歳の時、魔術学院への特別推薦枠として入学する事になった。

 

 その学院に入るには、最低でも中級魔法が扱えなければ推薦枠に入ることすらできなかった。しかしこの時すでに私は上級土魔法を会得していた為、問題なく入学実技試験を突破した。

 そしてやはり私は調子に乗っていたのだろう。新入生代表としての挨拶は、この私だと心の何処かで決めつけていたのだ。

 

 入学式、なぜ私じゃ無いのか不思議に思いながら学院の門を潜った事を鮮明に覚えている。倍率100を超えるこの国の中でもトップの超難関校入学を認められたエリート組総勢200名の前で登壇したのは、人生で見た事のなかった癖のない綺麗な黒髪で、猫目の翡翠色の目をした不思議な雰囲気を纏った少女だった。

 

 感情のない声で言葉を発する姿が、まるで人形の様に見えて、この人に負けたのかと悔しさが内心を満たして仕方なかったのを覚えている。

 

 その少女はカリーナ=エヴァットと言うらしく、第35代目賢者エーヴェル=アーノルドの養子としてここへ入学したと言われていた。

 最初は周りからの嫉妬や妬みを買った。実技では彼女に向かって術者不明の魔法が飛んでいくし、陰口を聞こえる声で話されたりもしていた。しかしそれでも彼女は人形の様に気にするそぶりすら見せることはなかった。

 

 

 ただの無感情な人間だと思いはじめた15歳の時だった。西街道と南街道で同時に黒魔術を崇拝する秘密結社が襲撃したのだ。その日私もその場に居合せ、住民達を避難させ、時には撃退すると言った貴族の責務を全うしていた。しかし秘密結社は思いの外数が多く、その時はまだ防ぐ方法が見つかっていなかった黒魔術を捨て身で放って来るのだ。

 

 首都全体を守る魔術師第一師団と一般の魔法使い達が必死に抗戦するも、双方ともに驚異的な速さで死体が増えていく地獄絵図がそこには広がっていた。

 

 自分の魔素も尽き、一旦下がろうとした時だった。目の前の建物から複数人の黒ローブ姿の男が10人街道に飛び出してきたのだ。遅くなった様に感じる時の中で、彼等がローブの裏に仕込んでいる魔法陣を確認した瞬間、死を覚悟した。

 

 それは魔術学院で見た目だけ見る事ができた禁忌中の禁忌の黒魔術、【魂の囚人(アニマプリジュオネラ)】の魔法陣だったのだ。一人でさえ首都の十分の一を飲み込めるのに、それが十人。もはや逃げ場は無く、誰もが諦めていたその時だった。彼等を巨大な火の鳥が飲み込んでいったのだ。

 

 

「……え?」

 

 

 何が起こったのか分からず後ろを振り返ると、そこにカリーナ=エヴァットが魔力を溢れさせながら無表情だった顔を険しくさせて立っていた。

 

 

「…お前…達が」

 

 

 小さな声だった。そこにいた誰もが彼女の姿から目を離せず、聞き取る事さえ義務かのように固まっていた。それほどまでに彼女のオーラは圧倒的だったのだ。

 

 

 1人の男がカリーナの後ろで手を構えた。先程から捨て身で放って来る黒魔法である。当たれば黒魔素に汚染されて死ぬ。

 

 大声で逃げてと叫ぼうとした瞬間、既に彼女の背後には黒魔素の塊が直撃する瞬間であった。パンッと軽い音と共に黒魔素が彼女に降り注ぐ。

 

 もうダメかとその場にいる全員が思った。

 

 

「……」

 

 

「…へ?」

 

 

 カリーナは、平然としていた。先程の怒りに歪んだ表情もそのままに、彼女は無言で右手を振り上げた。

 何をしているのかと思うのも束の間、それと同時に至る所で悲鳴が上がった。その声は上空へと上がっていっているかの様だった。その瞬間、カリーナに黒魔法を放った男が何かに咥えられて空へと消えていったのだ。

 驚きのあまり空を見上げると、そこには巨大な水の城が浮かんでいた。

 

 

「な、な、なんですか、これは」

 

 

 首都の空を覆うほどに広い魔法陣から生み出された水城からは水龍達が生えており、秘密結社の団員達を咥えては水中の中へと閉じ込めているのだ。瞬きをする間にまた1人、また1人と恐ろしい速さで捕らえていく。捕らえられた者はそのまま空中の水中でどんどんと溺死していくのがこちらからでも見えた。

 

 

「う、ぅぇえ!」

 

 

 近くにいた魔術師が先程の地獄絵図にはなんともなかったのに今の光景を見ただけで腹の中を吐き出していた。仕方ない事だろう。

 

 余りにも一方的で一方通行な圧倒的な力の行使を私たちは見せられているのだ。それに周りには一般人であれば気絶しかねない高濃度の魔素が充満していた。正気でいられる方がおかしい。

 

 そんなことを考えていると不意に背中側が熱くなった。急いで振り返ると、あの大魔法を行使しているカリーナが左手を振り上げ更に先程の巨大な火の鳥を形成していた。辺りの魔術師達が何かを察したのか大声で叫んだ。

 

 

 ___全員伏せろ!!

 

 

 その言葉が聞こえた後、凄まじい轟音と衝撃波に吹き飛ばされ建物の窓から室内へと転がり込んで壁にぶつかって止まった。

 

 

「……いっ、一体、何がどうなってますの」

 

 

 痛む体を引きずりながら窓から空を見れば、先程の巨大な水城は無くなり、代わりに空を覆っていた薄雲が巨大な円を真上にぽっかりと開けていた。確か戦争時に水魔法と火魔法がぶつかると大爆発する現象が報告されていた筈だ。

 

 

「……なぜ、そこまで」

 

 

 これが、賢者に才能を見出された彼女の力か。しかしそれと同時に死体を跡形もなく消しとばすなど、やる必要はあったのだろうかとも思う。

 そう思っていると、建物の近くから苦しむ声が聞こえた。誰か今ので怪我でもしたのかと窓から飛び出し駆けつけようとすると、そこには自分の肩を抱いて震えている彼女、カリーナの姿があった。

 

 

「……私、なん…で?」

 

 

 自分に問いかけているのか、言葉には何故か恐怖の感情が色濃く見えた。おかしい、先程の様子とは真逆にも程がある。

 

 私は心配になって側に駆け寄ろうとしたその瞬間、彼女と私の間に黒ローブ姿の人物が空から降りてきた。

 この国で国王以外では圧倒的に国民達の支持を集める賢者、エーヴェル=アーノルドそのひとだった。

 エーヴェルはヒビが入り壊れかけているガラス瓶の様な雰囲気の彼女を優しく抱きしめた。

 

 

「大丈夫じゃカリーナ、もう終わった、もう黒魔法が人を襲うことはない。じゃから、お主がやった事は、何も間違っておらん。お主のおかげで民達の救われた命が数多くあるのじゃ。気にする事はない」

 

 

 優しく言い聞かせる様に何度も大丈夫という言葉と共に縮こまって震えているカリーナの背中をさすってあげている。しばらくすれば彼女の泣き声も静かになり寝息が聞こえてきた。

 私はいつ話しかければいいのか分からずその光景をすぐ近くで見ていたが、こちらを見ずに賢者エーヴェルが私に話しかけてきた。

 

 

「そこの……リルバーン公爵の娘か?」

 

 

 急な問いかけに心臓が跳ねた。きっとリルバーン公爵という私が憧れてやまない父を出された事も緊張につながっているのだろう。

 

 

「は、はい。私はリルバーン公爵家の長女、ダーナ=リルバーンと申します。恐れながら賢者様、その…カリーナ=エヴァットは、どうなさったのですか?」

 

 

 聞きたかった本題を恐る恐る問いかける。賢者エーヴェルは悩んでいたのか少し間があると眠ったカリーナを抱っこしながらこちらに振り返った。

 

 

「…ここではなんじゃから、一緒にわしの研究室にきなさい。この話は少し、人に知られすぎるとこの子に毒じゃからな」

 

 

 

 

 

 

 襲撃の後処理は全て騎士団に丸投げしてエーヴェルと共に研究室の中でカリーナの過去について話していた。曰く、10歳の時、彼女のご両親は目の前で黒魔術師に殺されたらしい。カリーナは自分の精神を守る為なのか記憶に蓋をしているらしく覚えていないみたいだが、その黒魔術師は彼女の魔法によってその場で殺されていた事も後の調査で判明したそうだ。

 

 その調査結果が判明したときはすでに彼女は首都の孤児院に入っていた為、賢者エーヴェルは彼女の魔法の才能を見出し養子へと引き取った。

 そしてカリーナは先程の様に怒りで我を忘れ、急に正気へと戻ると言った発作の様なものがたびたび発生するが、寝た後はその時の記憶が綺麗さっぱり無くなっているというのだ。

 

 そう話す賢者エーヴェルにはいつもの凛々しさの欠片も見えず、ただ心配していると言うのが痛いほどに伝わってきた。

 

 

「…おそらくは、深層意識で大切な人だと判断した人達を襲う存在がいたら、無慈悲に攻撃する人格、または強い感情があるとわしは見ている」

 

 

「……なるほど、それで彼女はあんなに」

 

 

 学校でどれほど酷い扱いを受けても反撃や言い返すこともしないのは、カリーナは自分の事はどうでもいいと心の底から思っているのだろう。

 今回カリーナが暴走したきっかけは、恐らく首都に暮らす住人達の転がる死体を見た事がきっかけだった。賢者エーヴェルの養子に来てから次の賢者は自分だと強く意気込んでいるが故に、すでに彼女の中では国民は大切な守る人々だったのだろう。

 

 自分よりも自分の大切な人のために初めて怒りという感情を表に出せる事ができる、とても優しく、悲しい少女だったのだと、私はこの時初めて理解した。それと同時に、この子を支えてあげる人がもう一人必要だと言う事も。

 

 

「…賢者エーヴェル様、お願いがございます」

 

 

 今の話を聞いてお願いする事があるのかと思ったのか少し目が開かれた。しかし優しい瞳のままだ。

 

 

「なんじゃ、言ってみよ」

 

 

 魔導書でぎゅうぎゅうになってる研究室の中で無理やりスペースを作って寝かせているカリーナの寝顔を見ると、私は賢者エーヴェルの目をしっかり見て心臓に手を当てて誓った。

 

 

 

 

 

 ___私が、彼女の親友となり、支え、彼女の心を蝕む原因になる物を排除しましょう。その為に、私を貴方の弟子にして頂きたく思います。

 

 

 

 

 

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