少女賢者は救いたい   作:たったかたん

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次から1話ずつ投稿です。


首都ノプポラテス

 

 

どすん、と言う音が鳴り響いた。私達がお尻から落ちた音である。

 

「いたたたぁ…」

 

 ズキズキと痛むお尻をさすりながらあたりを見渡す。どうやらどこかの倉庫へと落ちたらしい。

 私、カリーナ=エヴァットが新しく開発した時空間転移魔術は成功したようである。そのことに安堵していると背後から同じような布を叩く音が聞こえた。

 

「のんびりしていられません。早く拠点にする宿でも探しにいきましょう」

 

 今回、国の未来を背負う事となった重大任務を共に来てくれた親友、ダーナ=リルバーン。軽く乱れた赤髪を整えながら不機嫌そうな声と顔でこちらを見ていた。浮遊感に襲われたと思えば急に落下してお尻を打ったのだ。貴族の彼女が不機嫌になるのも仕方ないと思える。

 

「そうですね。とりあえず周囲の状況を確認しましょう」

 

 手のひらに無系統魔法陣を展開する。半透明で白く輝く魔素が凝縮された瞬間、音もなく一気に周囲へと拡散した。

 【感知魔法(ペルチェツォーネ)】。生物から危険な罠などの存在まで事細かく教えてくれる魔法である。

 一つ一つの魔素に術者の五感の一部、聴覚、視覚を付与させる事により詳細な情報を獲得することができる。

 …どうやら危険はなさそうだ。人の数や話の内容から街中であることは間違いなさそうである。

 

 人口五千人程の小さな町程度に規模を拡大。歩いている人の身長から建物の造形、部屋の間取りまで感知していく。

 

「……扉を出て左、まっすぐ歩いた所に宿屋があるみたい。そこに向かいましょう」

 

「分かりました」

 

 ダーナは即答すると警戒することもなく部屋の扉を勢いよく開けた。明るい日差しが部屋に差し込み思わず目を細める。

 

「だ、ダーナ?少しは警戒を…」

 

「はい?カリーナが魔法で失敗するわけ無いじゃないですか」

 

「……あ、あはは」

 

 こちらの魔法を信頼してくれている証でもあるが、少しの危機感はないのだろうかとも思いながら苦笑いした。

 後に続いて部屋から出ると街の大通りに出た。辺りには大勢の人が行き交い、商人の大きな馬車が走っていた。建物の雰囲気は400年後と変わらないようだが、人の服装や髪型で過去の世界へと来たのだと思わせられた。

 

「早くこの時代の賢者様とやらに会いにいきましょう」

 

 ダーナが街の様子を眺めながら呟く。それに肯定しながら拠点とする宿へと歩き出した。

 街中を歩いている時、何かしらの違和感があった。それがなんなのか考えながら宿まで歩いているとその違和感の正体に気づいた。

 

 黒壁がないのだ。

 

 この国から西に空高くまであった黒壁が無く、西へと続く大空がそこには広がっていた。

 空というのはこんなに広いものなのかと思わせられる光景だ。ダーナも同様のことを思っているのか、私たちは西の空を眺めながら街を歩いた。

 

 程なく宿へと到着する。この国のお金は400年経っても変わっていないので問題なく支払いを終えると二人部屋へと入り、ベットへと腰を下ろした。

 

「とりあえず情報を集めましょう。動くのはそれからですわ」

 

「そうですね。この時代の街は伝えられた昔話の通りなら、原因不明の災いが蔓延っているはずですから」

 

 昔話として語り継がれた始まりの賢者の偉業。そのきっかけとなった災いとやらは原因不明のままで語り継がれているため、こちらがそれに巻き込まれる事態は避けるべきで、情報を集めるのが何よりの優先であった。

 

 私は首都に常時発動されてるはずの感知魔法に引っかからないよう細心の注意を払いながら自身の感知魔法で街の全体を覆った。

 

 

 私達がいるこの国はデミマーレ魔導国といい、拠点にしているこの街はノプポラテスと言う首都である。私達が生まれる400年後の世界では魔術の研究が進んでいて、どんな一般人でも初級魔法は扱えるほどの魔術国だった。

 感知魔法のエリアを首都全体へと拡大し、人達の動きから会話の内容まで知覚していくと、どうやら400年前のこの世界もレベルは落ちるが変わらず魔術の研究は盛んのようだ。

 

 感知エリアに王城を入れて目的である賢者を探していく。術者自身の魔素を大量に分散させて行うこの魔法はある一定の魔術師レベルになると逆感知されてしまうことがあるので、ここからは王城のみへと感知エリアを絞り、集中する。

 

 王城は400年後も同じものなので間取りは知り尽くしている。正面の巨大な城門から入り、王城の南側にある建物を目指していく。なぜならそこには私がいつも入り浸っている賢者専用の研究室があるからだ。大体賢者ともなればそれは研究バカであるはずとこの国では決まっている事なので、ほぼ確実にいるはずである。

 

 そう期待しながら研究室を感知していくと、明らかにこの首都で感知した他の魔術師を遥かに凌駕する魔素量を感知した。

 その瞬間、王城からその者の魔素によって私の魔素が弾かれていく。無系統魔法の中でも上級である【阻害魔法(イニビジォーネ)】なのは確実であった。

  

「……見つけた」

 

 向こうも私の存在に気づいた。警戒はされるだろうが会う方法などいくらでもある。初日の成果として幸先がいいと言えるものだろう。

 400年前の魔法技術と言えば発動までに時間がかかるのが当たり前の筈なので、ほぼノータイムで阻害魔法を発動させる事ができた賢者は間違いなくこの時代の国で賢者足りうる存在と言える。

 

「終わりました?夜ご飯買ってきたから晩御飯にしましょう。夜には早速王城に侵入しましょうか」

 

 買い出しに出かけていたダーナが椅子に腰掛けながら牛肉を豪快に焼いた物をナイフとフォークで丁寧に口へと運んでいた。王城に集中し始めた辺りに帰ってきたらしい。その肉の香ばしい匂いに腹が鳴った。どうやら魔法行使に随分と体力を奪われていたみたいだ。

 私はダーナの意見を肯定しながら同じテーブルの椅子へと座った。

 

 

 

 

 そしてその日、私たちは人生で初めて夕日というものを見たのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 様々な機材が並び、至る所に魔導書が山のように重なり合っている。片付けようにも一冊取れば雪崩のように崩れるだろう。

 その部屋の中で黒色のローブ姿の老人、クレイ=セロスは顔を険しくさせていた。

 

「今のは【感知魔法(ペルチェツォーネ)】だな。わしがここまで侵入を許すとは、かなりの使い手じゃ」

 

 この国の初代賢者として、日々研究室で新たなる魔法の研究を行なっている。しかし勿論この王宮の守護も抜かりなくいつでも状況が分かる様に自身の【阻害魔法(イニビジォーネ)】で包み込み、他の魔素が介入すればすぐ感知できるようにしていたが、今の魔法の使い手はそれを掻い潜り、この研究室まで入り込んできた。それが出来る魔術師が世界に一体何人いるだろうか。

 

 敵か、味方か。

 

 その判別はまだできない。少なくとも敵意のような魔素の雰囲気ではなかったし、興味本位でやっただけの可能性もある。しかし確実に言えることもあった。

 

「わしと同等か、それ以上…か」

 

 敵なら勿論容赦はしない。だがもし話しができるようなら……。

 そう思考した所でふと窓の外をみると、首都が夜になって家の明かりがついていくのが見えていた。

 

 まだ民達には公にしていないが、この国の各所で不可解な災いで民が命を落としている。領主が有する騎士団や魔術師が対応しているが、人手が足りてこなくなるのも見えている。

 

 鬼が出るか蛇が出るか。

 

 クレイは敵でないことを祈りながら、今の出来事を王へ報告するために研究室を後にするのだった。

 

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