少女賢者は救いたい   作:たったかたん

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調査という名の散p

 

 太陽が照らす街道を肩がぶつかりそうな密度で人々が行き交っている。その中を私は一人で歩いていた。ダーナとは別行動中である。

 

 流石黒壁ができる前の首都だ。外国の方も大勢歩いている。

 

 歩いている人々を観察してみれば、自分がいた時代ではほとんど見ることのなかった存在がいることに気づいた。一人の長身の男が背中に長刀を装着している。歴史書で西方諸国に剣士の国があると読んだことがある。私たちの国とは違って剣技に特化した国だったはずだ。

 また一人は耳が長く非常に整った顔をしているエルフがいた。詳しいことは歴史書にも書かれていなかったが、確かニグ大陸の果てにある大森林にいるだとか。

 その他にもドワーフや獣人といった者が当たり前のように歩いている。

 

「壁がなければ、なんて考えなかった日は無いですがこの光景を見ると泣けて来ますね…」

 

 そう呟く自分は「災い」とやらを探しに首都を歩き回っていた。

 初代賢者クレイに接触したあの日から1週間も経ってしまっている。あの後この時代の国王に秘密裏に謁見し、事情を話し、この国で自由に動き回れる権利を得ることが出来た。確か公爵家の持つ権利と同等の証明書を頂いたので、本当にどこでも覗けてしまう。この国の王族は過去も未来も良い人であると思い知らされた。

 

「…ん?」

 

 のんびり…してた訳ではないが、路地裏の所から怒声が聞こえた。右手の建物の裏からだ。

 

 姿や影が見えなくなる魔法を体に纏い、路地裏へと入っていくと、見るからに不良そうな男四人が男一人に暴力を振るっている所だった。

 

 ああ…なんでこんな、あ、痛そう…。

 

 実の所自分は血や暴力と言った物が大の苦手である。この程度の輩なら指先で展開する魔法でも容易く吹き飛ばせるのだが、それも相手に申し訳なくなってしまうのでそう言った使い方を故意でしたことが無い。しかし今は一大事。人助けならと心を納得させて魔法を放とうとしたその瞬間、路地の奥からもう一人の男が現れた。

 

「何やっているんだお前ら」

 

「あ?なんだお前」

 

 細目でメガネ。短髪の髪色は深い緑色をしていて魔術学院の制服姿の青年だった。眉間に深く皺を作りながら生徒に配布される小さな杖を構えていた。

 

「お前らみたいな存在、いるだけで不愉快だ。消えてくれるか」

 

「おいおい、大きく出たなにいちゃん。今なら見逃してやるからさっさとお母さんの元に帰りな?」

 

 不良側のリーダーなのか、少しガタイの良いチャラチャラとした男がニヤニヤしながらそう言い返した。その瞬間、その男の隣にいた下っ端の一人が壁に鈍い音を立ててぶつかった。そのまま崩れ落ちて呻いている。

 

「なっ!?」

 

「てめぇ!!」

 

 その光景を見た他の男達が飛びかかろうとするが、次は魔法ではなく見事な体捌きで全員を行動不能に追いやっていった。魔術師というより騎士に近い動きだった。あわわわわ。

 

「お前達の様な奴らがいるから世界が汚れるんだ。同じ人間とは思えないな、殺してやろうか?」

 

 リーダーとおもしき男の髪を掴み、顔を近づけて低い声でそう言い放った。その瞬間、不良グループは何を言ってるか分からない言葉を言いながら一目散に走り去っていく。

 

「…大丈夫かい」

 

「あ、あぁ。ありがとう、助かったよ」

 

 暴行を受けていた男性に手を差し伸べ、立たせると、今度からは気を付けてねと言い残しそのまま路地奥へと消えていった。

 

 あの魔法は先に詠唱を済ませていた。戦い慣れてる様子だったし、ああ言うのを逸材と言うのだろう。

 

 自分は15歳で賢者になったが、いかせん相手を攻撃することが大の苦手である。裏では歴史上最も臆病な賢者と思われていて、二つ名も[静寂の魔女]という、殆どの人と会話ができない臆病者の私にはぴったりなものだった。

 だからあの人の様に言いたいことを言えて実力行使出来る人は凄いと思う。もし次に会うことがあったら名前でも聞いておこうかと考えながら調査に戻るのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ヘイマン=ザラクと言います。良ければお名前を教えて頂きたい」

 

「……カリーナ=エヴァット」

 

 その日にまさかのニ度目の対面を果たしてしまった…。まああちらにとっては一度目だが。

 

「今使っていた魔法、見たことがありません。良ければ御教示して頂きたい」

 

 首都のほぼ真ん中にある公園の隅の方、人気のない場所で休憩がてら暇潰しの魔法を使っていると、茂みの中からこの人が出て来たのだ。どうやら自由に動き回る水を見て駆けつけたらしい。

 

「…この魔法、お教えする事はできない」

 

 言葉が殆ど出てこない。ああ、本当にダーナと師匠以外は口下手になってしまう癖どうにかならないだろうか。人見知りすぎて顔は無表情になるし返事も短調なものになってしまう。だが彼はそのことに気にする素振りも見せず、少し残念そうな顔をした。

 

「…そうですか、それは残念です」

 

 未来で私が開発した魔術原理を無闇矢鱈に教えてしまえば時間軸が恐ろしいことになるのはなんとなく想像つく。どうなるかは知らないが教えないほうがいいのは確かだろう。賢者クレイは協力を仰ぐために必要だったので別枠である。ダーナに緩すぎると怒られそう。

 

「実は僕、魔素量が一般の方より少し多い程度で、魔術師としてあまり素質がないんです。今カリーナさんがしていた魔法、とても魔素効率が高い様にみえましたので、思わず聞いてしまいました。急にすみませんでした」

 

「いえ、こちらこそ…」

 

  

 話をしながら容姿を観察する。先程の殺気漂う雰囲気は無く、人当たりの良い好青年と言った人物だった。キレると怖いのはダーナと似ている。

 

 う、冷や汗が……ん?

 

「あの、首…」

 

 制服の襟の所から見えた首筋が青黒く変色しているのが僅かであるが見えてしまい、思わず口が動いていた。しまった、何かこの人のトラウマの様なものでありませんようにと冷や汗を先程の倍流しながら必死に願った。

 

「あぁ、これですか。少し体術の訓練で打ってしまいまして…ほら、腕のところとかにもあるものですから気にしないで大丈夫ですよ」

 

 少し困ったように笑みを浮かべて腕にもあった黒ずんだあざを触りながらそう答えた。良かった、どうやらそこまで深い事情がある物では無いらしい。

 

「それでは自分はこれで。またお会いしましたら次は魔術論について話せる範囲でお話ししましょう」

 

「…はい。それでしたら」

 

 ではまたと言い残したヘイマンはそのまま公園の外へと向かっていった。

 

「魔術も剣技も鍛えてるなんて、よっぽどこの国が好きなのかな」

 

 私はそんなことを思いながら、ダーナと合流する為に夕暮れになった街へ帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「……遊んでた訳では無いのですね??」

 

「ア、アソンデナイデス……」

 

 目の前にいるダーナの赤髪がメデューサみたいに蠢いている気がする。こわい。

 

 合流時間、夕暮れ前なの忘れてた。

 

 

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