少女賢者は救いたい   作:たったかたん

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遭遇

 

 薄暗く、じめっとした空気が漂う下水道。そこの奥深く。大きな広間がある場所に一人の男が木材などの瓦礫の上で足を組んで座っていた。耳は細長く、丸眼鏡をつけ執事服を着ている。

 その広間へ一人の男が入ってきた。

 

「…遅かったじゃ無いか」

 

「申し訳ありません。少し時間を食ってしまいました」

 

 入ってきた男は跪くと、頭を下げながらそう返答した。その返事にさほど興味はなかったのか執事服の男は言葉を続けた。

 

「それより、例の物はどうなった」

 

「…ご希望通りに、設置完了しております」

 

 その返答に満足したのか、眼鏡を一度持ち上げた。

 

「ふむ、ならば良い。決行は四日後の夜。お前はしばらく目立たぬ様行動を控えろ。命令があるまで待機だ」

 

「承知いたしました」

 

 そう返事した瞬間、広間から執事服の男は消えていた。残された男はいつものことなので特に気にすることも無かった。

 

「ふふっふ、っははははは!!」

 

 男は込み上げてくる笑いが抑えきれなかった。これで、人族の浄化が進むと思えば思うほど、笑みが溢れてくる。やっとだ。やっと自分の望みを叶えられる。

 

 レンガで作られた天を仰ぎ、笑い続ける。しかしふとした瞬間、笑い声がぴたりととまる。

 歪んだ笑顔が感情のない顔へと変わり、広げていた両手で顔を覆った。

 

「……大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ、僕の存在意義を見失うな、人は浄化、人は浄化、ヒトはジョウカ、ヒトハジョウカ!!ジョウカシナケレバ!!」

 

 自身に言い聞かせる様に何度も何度も叫び続け、一通り落ち着いたのかふらりと来た道を戻り始めた。

 

 ガリッと、掻き鳴らす音を広間に残して。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 日が沈み、すっかり夜の街の雰囲気へと変わった西街道の表通りから一つ外れた道をダーナは歩いていた。そろそろ合流する時間なので王城へと向かっていたのである。

 

「どうだいそこのお嬢さん!レンブ焼き、今なら一枚付けとくぜ!?」

 

「お気持ちだけ貰っておきます」

 

 左右に置かれた屋台からは少し迷惑に感じるほどに通り過ぎるたびに声がかかる。当たり障りのない微笑みで答えて行くのもそろそろ疲れてきていた。

 私がこの国のリルバーン公爵家の血縁だと気付かれないだけマシだろうが。もし気づかれたら多分、いや確実に囲まれるだろう。勿論いい意味でだ。こっちは普通に嫌なので決してフードを下ろす事はしない。

 

 勧誘を適当にあしらいながら歩いているとふと目の前を黒のローブ姿の男性が私のスレスレを通り過ぎていった。反射的に身体を寄せていたのでぶつかる事は無かったが。

 

「もし、そちらの黒ローブの方。お急ぎですか?」

 

 突然呼び止められた事に驚いたのか体が一瞬跳ねると、こちらに振り返った。

 

「…あぁ。少し野暮用があってね。ぶつかりそうになったのを言っているんだったら謝るよ、すまないね」

 

 しわがれた声の老人、ではなく中年男性は頬骨が見えるほどに痩せ細っているのが被っているフードからも容易に見てとれた。

 

「いえいえ。私はそんな事で呼び止めたのではありませんよ。少しお疲れの様でしたので、心配になりまして」

 

「…大丈夫さ。俺は昔から痩せててよく心配されるけど、一応これでも調子が悪い事はない。元々少食なんだ」

 

 疲れた笑みを浮かべ、枯れてはいるが優しい声でそう答えた。

 

「そうでしたか、それは失礼をいたしました」

 

 その答えを聞いた瞬間、去ろうとしたその背中に本当に聞きたいことを投げかけた。

 

 

 

 

 ___そちらの指先、どうなさいましたか?

 

 

 

 

 ◆◆◆

  

  

  

「…うーん、なかなか上手くいきませんね」

 

 山の様に積まれた魔導書が所狭しとぎゅうぎゅう詰めになっている。400年経っても殆ど変わらないその部屋の中で私は机に頭を放り出しながら一人呟いていた。

 

 ダーナに怒られた日からさらに二日経ち、そして今日の散p…調査もあらかた終わって帰ってきた所だ。いつもここで賢者クレイとダーナの三人で情報共有をし、次の日の行動範囲が決まるのだ。

 

 

「それにしても二人とも遅いですね。なにか見つけたのでしょうか」

 

 

 暇つぶしに魔素を指先に圧縮し、今日の出来事で思いついた事を簡単に書いていく。

 

 {西街道。焼き鳥。喧嘩。黒ローブの男。夕日}

 

 ん?黒ローブの男って明らかに怪しくない?

 

 あれ?もしかして見逃してしまった?と、嫌な冷や汗が溢れる。

 

「い、いやいや。そんなこと言ったら私だって黒ローブですし。魔術師ならよくいる格好じゃないですか」

 

 誰も責めていないのに言い訳が流れる様に出てくる。昔からの癖、一種の現実逃避である。

 しかし、しかしだ。なんとなく書き連ねる記憶の中で物や場面、光景の中に一人だけ記憶の中に残っている人物とは、私が無意識に違和感を感じた証ではないか?

 

 姿勢を正し、顎に手をやり目を瞑ってその時の情景を思い出す。

 その時は確か焼き鳥待ちだったから横目で見るだけで終わったが、よく思い出せば指先が紫色に変色していた気がする。指先を見るのはポーションを作る魔術師の癖の様な物だ。

 

 確か指先が紫色になる要因は…。

 

「黒魔素の高濃度汚染…」

 

 この世界の魔法に必要不可欠なものが魔素である事は一般人でも分かっている日常知識レベルだ。だが魔素にも色によって種類、もとい性質が分かれる事は魔術師にならなければ気付く事はない。

 例えば白〜透明の魔素であれば、無属性の状態にある魔素で世界に存在する魔素の殆どがこれである。そこに詠唱し、属性付与を行い変換する事で炎を出したり水を出したりする。そこでその属性の色に変わるので、この事は魔術師であれば半人前でも知っている事である。

 

 しかし、黒魔素という非常に特別な魔素が存在する。これは一言で言えば暗黒物質だ。何にも属性変換されず、どんな魔法で使えば良いのか実用性が殆どない魔素。しかしこの魔素にしか出来ない魔術がある。それは___

 

「…呪術」

 

 まさか、とは思うがこの時代背景を鑑みると明らかに要注意人物なのは間違いなかった。そのことに気づいた瞬間椅子から勢いよく立ち上がり、男を見た所に引き返す為に扉から出ようとしたその時だった。

 

 ズンと言う地鳴りの様な轟音が街の方から響いたのだ。慌てて窓に駆け寄ると、夕陽が沈み夜になった首都の西街道ど真ん中で、黒く、そしてこちらからでも陣に刻んだ文字が読めそうなほどに巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。

 

 

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