ふたりはプリキュア Origins Light   作:シン・ナス

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意外に早くできたのですよ……


第一話 藤村ほのみ

「でやぁッ!」

 

「うぐッ」

 

 濃い茶色の髪に道着を着た少女が投げ技を繰り出し、相手の背中が地面に叩きつけられた。

 

「はい」

 

「イテテテ……ありがとうっと」

 

 勝利した方の少女が手を差し伸べて敗れた方の少女の起き上がりを補助した。

 

「ほのみってやっぱ強いなぁ」

 

「伊達に地区大会優勝、取ってないよ」

 

 ほのみはニッと笑みを浮かべてそう言った。

 

「にしたって、あすかも前より十分強くなってるじゃん」

 

「言い過ぎだよ〜」

 

「またそんなこと言っちゃってさ」

 

 ほのみがあすかの胸をトントンとする。

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 チャイムの音で二人は思わず時計の方を見た。

 

「もう最終下校時刻五分前かぁ」

 

「帰ろっか!」

 

「うん!」

 

 道着から制服に着替えたほのみとあすかはそのまま帰宅の途に着いた。

 

「そういえばさ、ほのみのお母さんってベローネ学院のラクロス部キャプテンだったんだって?」

 

 あすかが時計型携帯端末をちょいと操作すると写真を表示した。

 

「もう二十五年も前の話だけどね。母さんの頃はこんな便利なものは無くって、ガラケーなんて古いものを使ってたそうだしね」

 

 ほのみは端末が付けられている左手を見せるようにあげた。

 

「……母さんか。なんでラクロスだったんだろ」

 

「でもカッコいいじゃんラクロス! 男子にはモテモテだったんじゃなーい?」

 

「母さんがモテモテ? ぶっちゃけ、ありえな〜い」

 

 ほのみはわざとらしくそう言う。

 

「なにそれ」

 

「母さんの口癖。昔はあったんだって、あり得ないことがいっぱい」

 

「ふふっ、なにそれおもしろいんですけど」

 

 あすかは思わず笑ってしまった。

 

「ホント、笑っちゃうよねー。悪と戦って世界救ったんだよ、とか。嘘にも程があるってもんだと思わない?」

 

「面白いお母さんじゃん!」

 

「えーそう? 小学二年生までにして欲しいわー」

 

 心底うんざりするような感じだった。

 

「ま、色々と飽きない母さんだとは思うよ」

 

 あすかは心配そうにほのみの顔を覗き込んできた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「いつもクラスの人気者なほのみがちょっと暗い感じになるのは珍しいなーって思って」

 

「そーお? いつも通りだよ。ホラ、ね!」

 

 腕についた筋肉を見せつけてそう言うとあすかは少し安心したようにホッと息をついた。

 

「あっはは。やっぱ武のほのみは伊達じゃないね! あ、もう駅に着いちゃった」

 

「ホントだね。じゃ、またあしたー」

 

 各々の帰宅の途に着いた。

 

 ほのみは腕の携帯端末とは別に、スマートコンピュータ、過去の名残でスマホと現在も呼ばれている端末を取り出して操作する。

 

 スマホの画面にはカレンダーが表示されていて、四月十四日を指していた。

 

(誕生日、か……)

 

 少し複雑な気持ちになる。

 

 毎年決まってこの年を迎えれば祝ってくれるのが母さんだ。父さんは結構普通な人だが、二人のラヴラヴっぷりには目に余るものがあった。母さんはなぜか父さんのことを藤Pと呼ぶことがあるのだが、アレは何だろうか。あとはうるさい弟だ。

 

 と、家族を頭の中に思い浮かべた。その度に思う。私はこの家族の一員でいいのか、と。

 

 何だかんだ思っていると、家に着いていた。

 

「ただいまー」

 

「お帰りほのみー!」

 

 玄関に入った瞬間に、一年に四回限定の甘ったるい匂いがしてきた。

 

「ケーキの匂い……」

 

 呟きながら靴を脱いでいると、リビングへ続く扉が開く。

 

「ちゃっちゃと手洗っちゃってよ。ケーキ焼きあがってるんだから」

 

「父さんは?」

 

「もう帰ってるよ」

 

「じゃ、急がなきゃね!」

 

 急いで手を洗い、家着に着替えに行った。

 

 ストトトと急ぎ足でダイニングへ向かうと、部屋は真っ暗だった。いや、正確にはそうではない。ダイニングテーブルの上にロウソクが十五本刺さっているケーキが置かれていたのだ。

 

「「「ハッピバースデーディアほのみー!!」」」

 

 誕生日の歌で出迎えられて、頰のニヤケが抑えられなくなったほのみはケーキに近づいて、ふぅっと一息で消した。

 

 

 

 お誕生日おめでとう!! 

 

 

 

「えへへ……」

 

 年数えの儀式はこれで五回目だ。

 

「早いなぁ、もう十五歳だなんて」

 

「ホントもう中三だなんてねぇ」

 

「お姉ちゃんお菓子奢って!」

 

「ハァ? いつもはそうかも知んないけど、今日はわたしが要求する側でしょ⁈」

 

 家族で各々私について話して夕食の時間を過ごした。

 

「何というか、疲れたわ……」

 

 ベッドに身を投げてため息を吐きながら腕の時計を外した。

 

「疲れたロプ?」

 

「うん疲れた……って、ええええッ⁈」

 

 白くて小さな生物が、腹の上に乗っかっていたのだ。思わず飛び跳ねて、距離を取った。

 

「な、何者?」

 

「始まりの園出身で星の園からやってきた、ロップルだロプ!」

 

「……」

 

「……」

 

 驚きすぎて、身構えたまま唖然としてしまった。

 

「な、なんとか言うロプ!」

 

「こっちはびっくりし過ぎて何も言えないっての!」

 

 なんとか尋ねるべきことを絞り出す。

 

「な、なにが目的?」

 

「始まりの戦士を探し出すことロプ!」

 

「始まりの戦士ぃ?」

 

 母親の言っていたことが現実味を帯び始めていて、少し怖くなった。

 

「なんで始まりの戦士なんて探してるの?」

 

 もっともな質問を叩きつけた。

 

「闇の勢力が虹の園と星の園に勢力を広げてきているロプ。このままじゃ均衡が崩れて世界が壊れてしまうロプ!」

 

 ほのみは頭の中をフル回転させて思考を巡らして理解しようとしていた。

 

「信じられないんですケド……」

 

 これが普通の反応なのだ。すると、ロップルは不思議そうにした。

 

「二十五年前のことを知らないロプ?」

 

「二十五年前ぇ?」

 

 二十五年前といえば、ほのみの母親が今のほのみのと同じ学年で、世界を守ったと主張する年だ。

 

「ドツクゾーンのジャアクキングを三人の戦士が倒した年ロプ」

 

「……それマジな話なの?」

 

「マジ、ロプ!」

 

 そろそろこの得体のしれない生物の存在を認めるしか無くなってきたほのみは少しだけ考えた。

 

「じゃあ、アンタの話が本当だとしてみんなが知らないのはなんで?」

 

「そんなはずは無いロプ……ハッ」

 

 なにかを思い出したロップルは頭をポンと叩く。

 

「わーすれてたロプ! 始まりの園の主様が、人知で理解出来ない出来事の記憶を厳重に封印したって言ってたロプ! プリキュアたち以外は、だけどロプ」

 

「つーことは母さんがそのプリキュアって戦士で世界を守ったと。もう信じるしか無さそう」

 

 しかし、目の前の妖精だけではどこか現実味が足りない。

 

「その話、ホントって確固たる確証が欲しいんだけど」

 

「じゃあ、ロップルをラップルの元へ連れて行くロプ!」

 

「ハァ?」

 

 また新しい単語が飛び出すものだから、思わずそう返さざるを得なかった。

 

「いーから連れて行くロプー!」

 

「ハイハイわかったよ!」

 

 どうしてもと言うので連れて行くことにしたのだが、もう時間は結構遅い。

 

「今で外出したら絶対に怒られるけどなぁ……」

 

 どうあれどうにか理解する必要があったのも事実だ。

 

(母さん父さん……ごめん!)

 

 ほのみは寝間着のままひっそりと家を出たのだった。

 

 しかし、ほのみの母親はそれを知っていたのだ。というか、察知していたのだ。

 

「ほのみ……」

 

 心配そうに呟いて窓から見えるほのみの背中を二十六年前の運命の日の自分と重ね合わせた。

 

「で、どっちにいけば良いの?」

 

 ひたすら歩くのが遅いロップルを抱えて歩いていた。

 

「とにかく真っ直ぐロプ!」

 

「了解ですよーっと」

 

 適当に返事しておくとロップルがほのみを見上げて尋ねてきた。

 

「名前はなんていうロプ?」

 

「そういや言ってなかったっけ。わたし、藤村ほのみ。よろしくしたくないけどよろしくする気がするからよろしく」

 

「ほのみ! 良い名前ロプ!」

 

 ほのみはもう一つ尋ねる。

 

「なんでわたしの元に来たの? もっと他に居たはずでしょ?」

 

 一番聞きたいことを尋ねた。

 

「多分なんとなくロプ!」

 

「ハァ? アンタねぇ……」

 

「なんだか、ロップルが持つ『始まりの闇』の力をほのみから感じたロプ」

 

「始まりの闇……」

 

 なんだか物騒な響きなのに、妙に落ち着く雰囲気だった。

 

「闇って悪いもんじゃないの?」

 

「それは違うロプ! ロプ! ここを左に曲がるロプ!」

 

「まるでカーナビね」

 

 という感じで案内されるがままにやってきた場所は、遊園地だった。

 

「ここにラップルがいる筈ロプ!」

 

 ロップルがほのみの手の中から抜け出すと、辺りを歩き始めた。

 

 しばらく歩き回った、次の瞬間だった。

 

「ロプッ⁈」

 

 何者かがロップルを掴んでアトラクションの上に立ったのだ。

 

「見つけたぞ、始まりの園の妖精……」

 

 その姿はまさに異形だった。どう表現すればいいかとわからない、少なくとも人型ではあるが何かとおかしかった。

 

「アンタ何者⁈」

 

 人型の怪物は重々しく名乗る。

 

「ン……私は暗闇王国の将軍ヤミコト。人間、我々の邪魔をせぬならばお前たちに危害を加えるつもりはない。この妖精を黙って私に渡せば貴様は見逃してやろう。されど、取り返すような真似をすればどうなるか」

 

「逃げるロプ! ロップルの為にほのみが傷つくことは無いロプ!」

 

 ロップルの言う通りだった。しかし、ほのみはいつもの様に構える。

 

 走り加速を付けて思い切りの一撃を入れる。

 

「デヤァッ!」

 

「む⁈」

 

 ヤミコトはこの一撃が思いの外強かったことに驚き、思わずロップルを手放した。

 

「ロップル!」

 

 自由落下しているロップルを受け止めて抱える。

 

「ありがとうロップル。私を気遣ってくれて。それにね、私って一度縁を結んだ相手のことは守り通す主義なんだ」

 

 ロップルに微笑みかけた。

 

「……ありがとうロプ」

 

 ヤミコトは体勢を立て直してほのみを真っ直ぐ見据える。

 

「人間! 貴様などと呼んで悪かった! どうやら勇者の気質があると見た! 名をお教え願いたい!」

 

 面食らいそうになったが、ヤミコトに負けないぐらいの大声で名乗る。

 

「わたしは藤村ほのみ! 只の藤村ほのみだ!」

 

 ほのみのその姿を見たロップルは決心した。

 

「ほのみ! ロップルのパートナーになってプリキュアになって欲しいロプ!」

 

「わたしが……母さんと同じプリキュアに?」

 

 ヤミコトが動かないか確認した。どうやらこちらの動きを待っている様だ。

 

「わかった。どうすればいい?」

 

 するとロップルは光となって左手首の端末に入り込んだ。

 

「左手を空に掲げて、『オリジンズウェーブ』と叫ぶロプ!」

 

 指示された通りに左手を空に掲げ、

 

「オリジンズ・ウェーブッ!」

 

 と叫ぶと黒い翅が現れ、ほのみの周囲を渦巻き始めた。

 

 身体が宙を浮かび始めるとたちまち戦士としての衣装が身に纏われ、最終段階として着地する。

 

「始まりの闇、キュアノイル!」

 

 名乗ると同時に拳を前に突き出す決めポーズを繰り出した。

 

 それを確認したヤミコトは構えの体勢をとる。

 

「始まりの闇の戦士よ。いざ勝負!」

 

 地面を蹴り、超加速で近づく。

 

「デヤァァッ!」

 

 ノイルもそれと同時に拳に力を入れながら地面を蹴り、急接近した。ヤミコトの繰り出した拳とノイルが繰り出した拳がぶつかり合い、爆風の様な衝撃波が発生した。

 

「ウォォォッ!」

 

 ヤミコトの力一杯の雄叫びと同時に、その衝撃波がもう一度発生する。

 

「グッ……」

 

 それを受けきれずにノイルは後退りしてしまう。

 

「ダァーッ!」

 

「うああああッ」

 

 力負けしたノイルは吹き飛ばされ、遊園地の建物の壁に叩きつけられてしまう。

 

「ハァハァ、グッ」

 

 立ち上がろうにも一撃が強すぎて無理だった。

 

「先程の生身である我が身の安全を恐れぬ拳はなんだったのだ!」

 

 ヤミコトのその言葉は挑発ではない。それは、ノイルにはハッキリと理解できた。

 

「でも単純にスペックが違いすぎる……」

 

 この違いも明白だった。するとロップルが

 

「デュアルパワーが無いからフルパワーを発揮できてないロプ……」

 

 と悔しそうに呟いていた。

 

「デュアルパワー?」

 

 視界が朦朧としているノイルは尋ねる。

 

「話している場合かッ!」

 

 ヤミコトの拳がノイルの腹に刺さる。

 

「グ、ハァッ」

 

 築き上げられてそのまま遊園地の入り口付近まで飛ばされてしまった。

 

「大丈夫ロプ⁈」

 

 ロップルの叫びにも返事が出来ない。

 

「これで終わりだ」

 

 ヤミコトが掌を突き出しエネルギーを集め始めた。

 

「まずいロプ! 早く立ち上がるロプ! 何が何でもかわさなければ死んじゃうロプ!」

 

 それを聞いて、脚を蹌踉させながらも立ち上がった。

 

「……いいや。避けられない。避けたらそこにいる誰かが……」

 

 それを聞いてロップルは入り口を見る。

 

「ラップル⁈」

 

 そこにはなんと、ラップルを抱えた黒髪の少女が立っていたのだ。

 

 

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