「よーっす、遊飛!」
「おはよう筋太郎君」
「早速デュエルしよーぜ」
「今から講義だよ」
おはようの次に出る言葉がデュエルしよう。結東市のデュエル脳教育は恐ろしい。1限目の講義前という朝っぱらから1デュエルしようぜ、という気力をぜひ学業に注いで欲しい。
「えー、遅れてすみません。では出席を取ります」
この近世文学の講義を持つ後(うしろ)教授は三十代と大学の教授にしては若いが、覇気を感じられずマイクを使ってもボソボソとしか聞こえない。
よれよれのスーツ、丸メガネの奥の眼も開いてるか閉じてるかわからない。こんな様子だから舐められて生徒の居眠りなんかはしょっちゅうだ。真面目に話を聞く生徒は皆無。
「えっと本日はですね、この講義の評価点配分を改めて発表します」
そういや僕この講義の最初の授業、引っ越しのドタバタで出られなかったんだっけ。これは聞いておかないとな。ひとまず簡易レポートなんかは出してるし、講義を休んだのは一回、今の所問題はないはず。
「まず出席点が5%、簡易レポート5%、期末レポート10%です」
ん?あれ、これじゃ合計20%じゃないか。残り80%はどこに行ったんだ。
瞬間、嫌な汗が額から流れ落ちた。周囲の講義へのやる気のなさ、結東市、異様な配分、バラバラのピースがかちりとはまる。
「そして、デュエル戦術80%」
ふ、ふざけている。大学という教育機関の、評価対象に、でゅ、デュエルが入ってきやがった。
そ、そうか、周りが講義にやる気ないのはこの配点のせいなのか!とりあえず講義には出て、このデュエル戦術なる物さえしっかりと点を取れば単位は貰えるとわかっていたんだ。
こんな事あっていいわけない。僕は、大学に文学を学びに来たはずなのに。
「しゃぁ、デュエル戦術は頑張ろうぜ」
『は』って言っちゃったよ筋太郎君。他のレポート絶対やらないでしょ。
「遊飛はデュエル戦術試験どうするんだ?」
「えっとさ、そもそもそれ何なの?」
「LP4000で行うデュエルの試験で、別の生徒とデュエルするんだ」
文学ってなんだろうね。実技じゃん。
デュエルの戦術についてのレポートかと思った僕が馬鹿でした。
「勝敗よりも戦術やコンボ性、意外なカードの活用何かがよく評価されるな。言わばデッキコンテストって感じだな」
いいのだろうか、これで単位貰って。いいのかな。
親にデュエルして近世文学研究の単位貰ったよなんて言えないよ。
「うーん、なぁ遊飛。俺のデッキ見てくれないか?」
「どうして?」
「俺のデッキさ、勝つことだけに拘ってるからコンボとか戦術とか無いんだよな」
「い、いいけど」
すると筋太郎君は鞄からデッキケースを取り出した。
「あー今講義中だから。後で、後で」
講義が終わり自由となった。僕達二人は揃って後の講義がないためここから筋太郎君のデッキ改造会が開かれることになった。90分ぐっすり眠った筋太郎君はお目々パッチリで元気そうだ。
「よし、見てくれ。俺の男デッキ」
「では失礼しますっと」
ケースを開けて中を確認。スリーブは市販のものか、それで中身は...は?
「ねぇ、なにこれ」
「驚いたか?」
「うん、驚いた。モンスターカード37枚、罠3枚。脳どころか全身の細胞が筋肉だね」
「そんなに筋肉を褒めるな。嬉しくって大胸筋がピクピクしちゃうだろ」
褒めたつもりはないんだけど。ってうわ、本当にピクピク動いてる、すご。ちょっと触りたいかも。
「これスキドレバルバロってよりはスキドレビートだね」
「男の世界デッキだな」
デッキに名前つけるのも結東市あるある。
「このデッキのコンセプトがスキドレ発動して殴るだけだし、まぁ理解できなくはないが...流石に極端だとは思う」
「ほぉ、ではどんなカードを入れるべきだ?」
「例えばパッと思いついたのは愚鈍の斧って装備魔法。装備モンスターの攻撃力を1000上げつつ効果を無効にするんだ。毎ターンLPから500引かれるけど、スキドレが来ない場合の凌ぎにはいいんじゃないかな」
「で、可変機獣ガンナードラゴンとかも採用してみたら?個人的にデメリットアタッカーよりもこう言った妥協召喚モンスターの方がスキドレと相性はいいと思う。となるとsinモンスターとかもいいかも」
筋太郎君はうーんと唸ってから
「すまん、紙に書いてくれ」
あ、悩んでたんじゃなくてわからなかっただけだ。
これはこっちが悪い。一気に言ってしまったし、整理の目的で紙に上げていくか。
先程上げたカードの名前を紙に書いていく。
「宮廷のしきたりとかも評価されるかもね。このカード以外のフィールドの表側表示の罠が破壊されなくなるんだ。ただ仮に入れるとしても枚数は調整しないとね」
これも一応書いておこう。
「後は禁じられた聖杯、手札誘発...そもそもスキルドレインを上手く利用できるクリフォートデッキにするのも手だね」
「デッキごと変更か、それもありだな」
あ、有りなんだ。デッキ名つけるくらいだしお気に入りかと思ったがそこに抵抗はないんだ。
「なぁ遊飛、男らしいデッキってなんだと思う?」
どう答えるのが模範解答なんだコレ。そもそもイラスト的に男らしいのか真正面から殴って勝つスタイルのデッキを男らしいと言ってるのかって所だし。
うーん...どうだろうなこれ、とりあえず何個か挙げてみるか。
「...ダイナレスラーとかそれ繋がりなら剛鬼?あとU.A?BKとか...ごめん、わからない」
「ほぉ、男らしいデッキ候補はそんなにあるのか」
男らしいデッキ...んん、男らしいってなんだろう。
確かに彼には似合いそうだが、それで絞っていくのはどうなんだろう。
「...あのね筋太郎君、君が興味を持ったデッキがあれば、それを使うのがいいんじゃないかな。別に真正面から殴り倒すだけが男らしい要素じゃないと思うよ。だから、もっといろんなデッキを知ることから始めてみようよ」
沢山のデッキを持っている僕だからこそ、彼に言いたい。結局どんなデッキを使ってもデュエルは楽しいのだ。だからこそ最初から視野を狭めないでほしい。
シンプルなビートデッキ、複雑なルートで展開するデッキ、バーンデッキ、特殊勝利デッキ、ありとあらゆるデッキがある。好きになれない、嫌いの好みで除外するのは仕方ないが、「よくわからないから」というのは勿体ない。
「...そうかもな、もしかしたら知らないだけで俺に合うテーマやデッキがあるかもしれないな」
「じゃあカドショに行こうよ。見て調べて自分のデッキを見つけようよ」
「決まりだな」
提案したからには責任は取るよ。決まるまでじっくり、付き合うつもりだ。
「じゃあ行くか、カドショ」
場所と時間変わって、夕暮れのデュエル専用公園。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
180はあろうかという男が吹き飛ばされた。苦悶の顔を浮かべ体中傷だらけ、デッキは指定の入れ口から飛び散り、血のように地面に広がっている。壮絶なデュエルだと一目瞭然である。
「ひぃ...」
「こいつが、噂の」
対戦予定だったデュエリスト達は声を震わせて後退りする。
「さぁ、次は誰?早く!」
「こ、こいつが、デュエルバーサーカー」
恐れ慄くデュエリスト達は、巷で囁かれている異名を今はっきりと理解できた。自分と奴とでは立っている場所が違う、奴はデュエルという戦場に立っている。
そこにあるのは勝ちか負け、勝者と敗者、命と精神を削る死闘。そして奴の気迫とオーラに飲み込まれれば、立っていることさえできない。
「血が燃えているぅぅぅ!はやく!次の相手をだせぇぇ!」
叫ぶバーサーカーにデュエリスト達は泣き叫び背中を見せて逃げていった。その逃げ方や鬼を見た子供のようであった。
「ちょっ、まって!」
引き留めようとしたが人1人いなかった。滾っていた血も冷めてしまい、全身から力が抜けていく。
「情けない方ばかりで残念です。アンティデュエルを嗜まれているストリート・デュエリストと聞いてましたのに」
穏やかな口調になったバーサーカーは、最早バーサーカーと言うには失礼な出で立ちだった。
黒髪ロングヘアーでやや垂れた黒目、白シャツ白スカートの淑女が、夕暮れの公園にぽつんと立っているだけ。バーサーカーなどどこにもいない。
「あぁ、もっと血湧き肉が踊るデュエルがしたい...」
デッキを片付けながら淑女はぽつりと呟いた。
最後にスカートの皺を軽く手で払いデュエル場に一礼。彼女なりの敬意である。
「待っていてください。好敵手さん」
今は見えぬ強敵たちへの、宣戦布告。
デュエルバーサーカーこと臥竜院 雪(がりゅういん ゆき)はデュエルに飢えていた。