筋太郎君とカドショに行った翌日。普段通り大学、講義終わりの一時に筋太郎君と乾いた喉を潤していた。
「ふあぁぁ...眠くなるな」
「そうだね」
3限目の睡魔は手強かった。気づいたら瞼が何度も閉じているし、教授の話も飛び飛びで何を言っていたか記憶のパズルを組み立てないと理解できそうにない。
「遊飛、眠気覚ましのデュエルやるぞ」
「え、ごめん今はやめておくよ」
眠気覚ましのデュエルって何?というツッコミはもうやめておく。こんなのに突っ込んでいたらツッコミ役が何人いても足りない。
「デッキ組んだんだしさ、相手してくれよ」
「昨日何回やったと思ったの?」
軽く30は超えている。調整に付き合うまのは責任感からだけど30って調整というべきなのか。5回目くらいからカード入れ替えてなかったし。
はぁ、デュエルの度に煽られて筋肉見せつけられる僕の身にもなって欲しい。
「そう言えば聞いたか?
「なに、それ」
頭に浮かぶ文字だけで相当やばい話なのはわかる。
狂戦士って何?化け物?結東市は大丈夫なの?
「実力あるバックアレイデュエリスト達相手に連戦連勝のすげー強いデュエリストがいるって噂」
「バックアレイデュエリスト?」
「バックアレイは裏路地っで意味で、アンティデュエルや、賭博デュエル、違法な地下デュエルで生計立ててるデュエリスト達のこと」
狂戦士もヤバいが、こっちも十分にやばい。いや違法な地下デュエルって何?いやそもそも違法なデュエルってなんだ?
「バックアレイデュエリストって道外れた反社会的な人間なんだが、
「実力はすごいんだろうけど筋肉はいる?」
「いる、そんで確か名前は
「あの、すみません」
突如ベンチの男二人組に声をかけてきたのは、黒髪ロングの白いワンピースが似合う女性だった。
そよ風に靡いてさらさらと揺れる髪が綺麗で、優しく微笑む彼女の顔はまるで薔薇、上品な大人の女性って印象。かわいいってより美人、美しいってタイプの人だ。
「は、はい」
「後教授の研究室をご存知でしょうか?」
「ううむ、俺は知らないな。遊飛は?」
「僕知ってますよ。案内します」
「そんな、わざわざすみません」
「いえ、僕達時間あるので。それくらいでしたら」
まぁこんな美人さんに声かけてもらって邪険にするのも男が廃るというもの。ここからそう距離もないし、眠気覚ましの散歩ってことにしておこう。
「遊飛、俺はトイレ。その人を研究室に送ったらここに集合な」
「了解。...こっちです、行きましょう」
「はい」
ベンチから立ち上がり研究室へと歩き出す。こんな美人さんと大学の敷地を一緒に歩いていると、少し優越感に浸れる。ちょっと周りをキョロキョロしちゃったり。
「あの、私臥竜院雪と申します。心理学科一年です」
「僕は国光遊飛。文学部1年です」
「遊飛さんも1年生なのですね」
わ、いきなり下の名前。お上品な喋り方だけど、壁とかは感じない人だ。
「臥竜院さんって心理学科なんですね。心理学科って何するんですか?」
「心理学科と言いましても様々ありますの。犯罪心理学、臨床心理学...今はその基礎を学んでいます」
あ、可愛い。にこっとすると、タレ目が閉じて無垢な女の子の顔って感じになる。美人だけど、笑うと少女、このギャップは好きかもしれない。
「それと、私のことは雪、とお呼びください。臥竜院は、長いので呼びにくいかと」
「え、あ、あぁ。じゃぁ、雪さんで」
あぁぁ、呼んでしまった。下の名前で呼んだ!
女性を下の名前で呼ぶの家族以外でいたかな?一人いたなってレベルの僕がこんな美人さんの名前呼んじゃうなんて。うわ、心拍数上がってる。
名前呼んだだけなのにソワソワして落ち着かない。
勘違いするなよ僕、僕はただの案内人に過ぎないんだ。軽く深呼吸して後教授の研究室がある建物に入る。ここの3階の突き当りの部屋だったな。
「ここです」
着いたが、どうもいる気配がしない。ドアの隙間が光ってないし、これは今不在だな。一応戸をノックするがやはり返事はなかった。
「後教授、いらっしゃらないのですか」
「そうみたいですね」
いつもこの時間はいるのにな。戸に不在を知らせる紙やら貼ってないし、急用でもできたのか。兎も角これじゃあどうしようもない。
「では日を改めることとします。遊飛さん、ここまで案内していただきありがとうございます」
「いえいえ、これくらい」
「あの、遊飛さん。この後ご用事などお有りでしょうか?」
彼女との別れに名残惜しく思っていた矢先のこの質問。このあとの予定は決まってないが、どうしてそんなことを聞くのか。えっと、ま、まさか。
顔が火照っていく。身体が熱くて上着のファスナーを下ろしたい。
「は、はい!何もありません!すっからかんです!」
「でしたら、ご一緒に」
ゴクリとつばを飲み込む。これが、大学生活!人が多いと出会いも多い、僕にもやっと、初めての。
「デュエル、いかがですか?」
雪さんは満面の笑みでディスクを鞄から取り出した。
...そうだ、今自分がどこにいるか忘れてた。
火照った体は一気に冷めて夏前だというのに肌寒さで鳥肌が立った。そうだよね、そんなラノベみたいなことないよね。わかってるんだ、わかってるんだよ僕。
自分に言い聞かせながら、一旦筋太郎君との待ち合わせ場所のベンチに戻ることにした。
「おう遊飛...ってその人後先生に用があったんじゃないのか?」
「研究室にいなかったんだよ。だから日を改めるって」
「そうか...でこれからどうするんだ?」
「色々あってこの人とデュエルすることになったんだ」
「俺としてくれなかったのに」
「色々あったんだ、色々ね」
筋太郎君に事情を話すと、彼は僕の後ろにいる雪さんの前に移動して
「俺鋼山筋太郎、遊飛と同じ文学部1年っす」
丁寧な自己紹介をした。大柄でやんちゃそうでデュエル脳な彼だけど、ここら辺の礼節はしっかりしている。
「臥竜院雪と申します。心理学1年生です」
「が、がりゅう、いん...」
雪さんの名前を聞いた途端、筋太郎君の表情が固くなった。聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような、驚きと恐怖の混じった顔をしている。
「お、おい遊飛!」
突如振り返り僕の肩に手を回して雪さんから距離を取った。そして顔を近づけて耳打ちする。
「遊飛、知っててデュエルするのか?」
「な、何を?」
「多分、あの人が
「...はは、まさか」
雪さんの方を振り返ってみるが、どう見てもデュエルを嗜むお嬢様だ。デュエルに狂う戦士とは真逆、対極にいる人。
「俺が聞いた話によると
そ、それはそうだけど。
「それに、デュエルする前は大人しいって話だ。デュエルが始まると人格が入れ替わるとも聞いた」
大人しい...そうも、見えるけど。やっぱり、ちょっとした偶然でしょ。
「ガリュウインって名乗ったのも本当の名前とは限らないしさ。大人しい人が突然変貌したってことなら、大人しいデュエリスト全員が
「こんな偶然、そうあると思うか?」
「...わかった、デュエルで証明しよう。彼女が
雪さんの疑いを晴らすのは、デュエルしかないってことだ。ま、確かにガリュウインの一致はあるけどさ、それも結局人から人に流れた話でしかないし、僕らが直接見た聞いた訳でもない。
あくまで噂話と一致するだけで確証とはならない。
「雪さん、おまたせしました。デュエルしましょう」
「でしたら近くにデュエル公園がありますの。そちらでしましょう」
デュエル公園、なにそれ?
大学から徒歩10分、閑静な住宅街を抜け大通りを外れビルとビルの間の小道を進んだ先に公園があった。
そこそこ面積のある公園だが、遊具もなく、柵と木々に囲まれたデュエルコートが並んでいるだけである。
あー、なるほど。これはどう見てもデュエル公園だね。
既に先客がいたが、端のコートが空いていたのでそこを使うこととなった。
「今日はいい天気ですね。ぽかぽかのお日様、快晴の空の下ツバメが雛鳥達のために元気に飛んでいますし」
「では遊飛さん。よろしくおねがいします」
深々と頭を下げる雪さんにつられ僕もその場で頭を下げた。デュエルってよりは剣道や柔道の試合みたい。
「先攻後攻はどうしましょう」
「デュエルディスクにコイントス機能があるので、それで決めましょう」
「では私は表で」
「わかりました。では僕は裏で」
結東市に来て初めて公平に先攻後攻を決めた。
このやり取り田舎じゃ何回もしたのに久しぶり過ぎて新鮮に感じてしまった。
コートの中央に現れたサッカーボールサイズのコインが回転しながら空中にあげられ、そのまま地面に落ちてくる。からんからんと音を響かせ地面を数度バウンドした後に完全に静止した。見えている面はクリボー、これは表。
「では、私の先攻で始めさせて頂きます」
デッキからカードを5枚引く動作も優しく丁寧で女性らしい。白くてキレイな手でデッキを優しく撫でているみたい。雪さんって見た目通りお嬢様って感じだけど、実際良いところの生まれだったり。話し方も上品で、余裕があるというか、落ち着いているというか
「行くぞ遊飛!血液が沸騰するくらい熱い熱いデュエルをしてみろぉ!」
お?
「聞いているのか!」
「あ、あの。どう、しましたか?」
「デュエルが始まったのだ!ここから先は魂のぶつかり合いだ!」
足を大きく開け腕を組む彼女は叫んだ。淑女が消えた、代わりに