オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
──言っちゃだめだよ。
──分かってるさ。
──それを言ったら絶対にだめだ。
──うっかり口に出したあの子なんて、ぐちゃぐちゃに踏み潰されて獣の餌にされちゃったよ
──お優しいオーロラ様が本気で怒っちゃう
──これだけは人間も同じ
──三禁には含まれてないけど、きっと三禁を全部破るよりもオーロラ様を怒らせるんだ
──もしソールズベリーで暮らしたかったらダフネとロビン。それとミツバという名前を決して出さないように
──同姓同名って言い訳は通じないよ
──出してしまったら最後、この國で一番恐ろしい
「オーロラ様、少し休まれたほうが……」
「ええ、そうね。……ほんの少しだけ疲れた。けど大丈夫よ」
俺がオーロラになってから五百年が経った。
亡き友人の約束を守ろうと親代わりをしていたリンカは疾うの昔に大往生を遂げ、その子孫達は最早追いかけるのが困難なほどに多くの血を残した。
それから暫くして年の離れた妹のように思っていたアンが死に、いつの間にか厄災が過ぎること何回か。
70歳ぐらいで元気なうちにポックリ逝きたかった俺からすれば7倍以上の時を生きたことになる。
長い、本当に長すぎた五百年だった。
ソールズベリーを頑丈な城壁で囲い、強度を高める為に魔力を流し込んでみたり、聞き齧った魔術を試してみたりと試行錯誤を繰り返し、ある時から外から流れ着いてきた
長としての仕事は殆どほっぽりだして領主としてしか働いていなかったが、妖精歴時代の氏族長の仕事なんて精々、モースと厄災対策ぐらいで、政治的な結びつきはなかった。
一応敵対されない程度に全員と良好な関係を維持しているが、定期的に交流があるのは土の氏族のサラマンダーと王の氏族長ぐらいである。
これでやっと六分の一だ。
初めのうちは妖精の感性に感化されていたが、ホムロの一件から人間である自分を意識することになった。それが良かったのか悪かったのか、少なくとも半世紀を越えたぐらいから人間としての感性はずっと「しんどい」と悲鳴を上げていたが、ホムロの時のようにいつの間にか死んでいたという別れを経験することはなかった。
それでスッキリ友人達との死別を割りきれたかというとそんなわけはなく、初めは絹のように煌やかで透き通るようだった羽はすっかり萎れてしまい、端から黒くカビていた。
忘れようと思っても、瞳を閉じれば昨日のように思い出せるからである。
感性は人のそれでも体は妖精なので記憶がなかなか風化してくれないのだ。
10年前に死んだ友との出会いも交流も死別すらも最近のようなことに感じる。
……こんな状態なら誰だって精神を病む。
羽以外の見た目は変わらずだが、昔よりも大分体力は落ちて節々が痛い。あと最近はどうしようもなく眠たくって仕方がなかった。
まるで老人になったみたいだが、多分これはモース化が近づいているという証なのだろう。
あと何年持ってくれるのか。
一応私がカルデアのマスターが訪れるまで持たなかった場合の
最悪でも推定Bランク相当の宝具を「今、蚊でも止まったか?」なんて言葉で済ましてしまう牙の氏族の長ウッドワスだけは削っておきたいが、残念ながら彼が生まれるのは女王歴になってから千年後のことだった。
その先代ライネックとやらは探しているが、少なくとも今代の牙の氏族長ではないらしい。
まぁ、見つけたところで、彼がウッドワスの力を一割でも持っていれば私ではどうしようもないのだが、クソオブクソ(殿堂入り)のオーロラによる最大の
それ以外にもカルデアにとっては都合のいい
二部六章までやっていない全部ストーリーはスキップしてるなんて人には、多分対界宝具を全力でぶっぱしてもギリギリ耐えてくるようなやつ、そして通常攻撃だけでもアルキャスいないと大分キツイやつだと言えば、彼のしぶとさと強さが分かるだろうか。
裏切るといっても別にカルデアの味方になるわけではないが、下手をしなくても彼の生存はそのままカルデアの敗北に繋がる。
「だからここにきたの」
百年を越えた辺りから自分の死についてどうでもよくなっていた。ひとえに私が五百年も生きてこられたのは使命感と残してきた人間の子達を見殺しには出来なかったからだ。
でも、自分の体だ。気力だけではどうしようもない段階にきてしまっているのが分かる。
今私がいるのは、鏡の氏族達が暮らす街の近くにある湖だ。
カルデアが来る頃には、骨だけになって水質も沼と言えるぐらいには改善されていたが、
呪いの肥溜めのような場所。
だがこの巨大な竜の骨の正体こそ『アルビオン』竜の冠位と言われる最強の存在の成れの果てだ。
私がここへ訪れたのは……言うまでもないだろう。
未だ動くことも声を発することも出来ずに、湖のそこで踞っているソレを呼び覚ます為だ。
本当は女王歴になってから彼女を呼び覚ます予定だったが、どうにも俺は女王歴までは持ちそうにない。俺がオーロラだし切り落とされた左手が彼女へと変わるかは分からない。もしかしたら彼女ではなく厄災になるかもしれないし、上手く行っても私が死んだら、厄災になるかもしれない。
だけどもう、予防線を張って強いカードをあえて使わないという選択がとれる猶予はなかった。
「オーロラ様、なにを?まさかあんな醜悪なものに触れようというのですか?」
「お止めください、お召し物が汚れてしまいます!」
「あれはモース以下の下等生物。触れればどんな呪いが降りかかるかわかったものではございません!」
「なぜ?だって生きているのだもの。そして、あんなに苦しそうにしている。なら誰かが助けてあげないと」
大丈夫、底の浅い湖ですもの。
私でもきっと助けてあげられるわ。
案内人の妖精達からの制止の言葉を振り切って、湖の中に踏み入る。
なるべく原作をなぞるように、彼女の運命を汚してしまわないように、そして産まれたばかりの命を掬い上げるように、ソレを抱き上げた。
「随分と体が冷えて……寒かったでしょう、ふふ、こんにちは愛らしい方。それともおはよう、がいいかしら?」
俺はこの世界の妖精が嫌いだった。美しい
瞳には感情が映ると言うが、まさにその通りで、彼らの瞳は悪意そのものに見えた。
「ァ……ァァ……」
抱き上げたソレがブルリと震える。
そして鳴き声のような物を発したかと思うと、ポコリっと目のような物が発生して、こちらを見た。
「綺麗……まるで宝石みたい」
どうやら何もかもが偽物の
恐らくオーロラを真似て変質しつつある彼女が初めに造り出したのは瞳であったが、これまで見たどんな宝石や色よりも美しいと思った。
「私が名付け親になっていいの?なら、貴方の瞳を見たとき、ぴったりの名前を思い付いたの!メリュジーヌ、これから貴方の名前はメリュジーヌよ」
「良い名だ……大事にするよ。だけど、君があの時、本当に思い浮かべた名前もいつか教えてほしいな」
「え?」
彼女に隠し事が出来そうにない気づいたのはそれから間もなくのことだった。