オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
↑タイトル類似作品(同作者によるもの)↑
「……そうか。キミはもう限界なんだね」
やった!メリュジーヌを誕生させることが出来た!
と喜んだのもつかの間、オーロラは体調を崩した。
今はベッドで横になっているが、多分もう立ち上がることは難しいと思う。
遂に足まで黒ずみ始めたのだ。恐らくメリュジーヌが産まれたことで安心して気が緩んでしまったのだろう。
直ぐに今自分が死んだら大変なことになると思い、持ち直したが、治るようなものではないのか妖精の粉を使っても黒ずんだ足が元に戻ることはなかった。
「ええ、でもいいの。だって貴方に会えたんですから」
「嬉しいことを言ってくれるね。キミ
歩けなくなったことは痛いが、それでもメリュジーヌをこの段階で騎士に出来たことはデカすぎる。
何せ、彼女はこの妖精國で嘘偽りのない最強の一角だ。
流石にケルヌンノス本体は厳しいと思うが、彼女が本気を出せばウッドワスやモルガンだってやれる。
英霊のオベロンは別に私でもやれると思うが、厄災化したバーゲストだって危なげなく倒せるだろう。だがここで重要なのは誰某に勝てるという話ではない。もっと大きなスケールの話だ。
それこそ全員が駒取り合戦をしている時にいきなりゲームを終わらせてしまうようなバランスブレイカー。私ではなれなかった。
だけど、彼女なら出来る。
「これで、これで、やっと終われる!さぁメリュジーヌ!空想樹を切り倒して!!!!」
「え、やだ」
「…………さぁメリュジーヌ!空想樹を切り倒すのよ!!!」
「やだよ」
「お願いします!何でもしますから!」
「え、今なんでもするって言った?……すごく興味を唆られるけど、やだね」
「……どうして?」
「確かにそれをやったらどう足掻いたってこの世界は詰みだ。トリ……トネリコ?っていう魔術師がいくら頑張っても、行き止まりのこの世界は剪定事象として抹消される。そうなったら島の呪いも関係ない。何せ全部〝なかったこと〟になるからね」
この言葉は暗にこの世界がマシュがタイムスリップしてきた二回目又は三回目ではなく一回目だと証明しているようであったが、メリュジーヌは淡々と続ける。
──それに
恐らく場所は変えずにこの土地を中心に生まれる違う剪定事象を選ぶだろうが、この土地由来でこれを越えるものはない。あるとしてもそれは1部六章の焼き回しのようになるだろうから英霊自体は召喚出来るし、それに対抗出来る英霊達とカルデアは多く縁を持っている。だから攻略難易度はぐっと下がる筈だ。
そこまで考えていたわけではないが、メリュジーヌは空想樹伐採を断った。
何故、と聞かざるをえない。
「だって、それをやったら僕が愛したキミが消える。キミが騎士にした僕も消える。それだけじゃない。キミが作ったこの街も妖精も人間もぜーんぶなかったことになる」
「それはでも……最後には!」
「大丈夫。知ってるよ、この國は終わっている」
もうこれ以上の成長が見込めない行き止まりの歴史。それが剪定事象だ。
その中には恒久的な平和を実現させた結果だったり、完全な統治を成し遂げたことにより地続きの歴史を綴るだけの単調なものになったからなど、理由は様々だが、この世界は一度滅んでいる。滅んだ上で死骸に湧いた蛆虫が繁殖しているという身の毛もよだつ状態だ。
『俺』は汎人類史の悪意に囲まれながら死んだ。だからあっち側に立つつもりはないし、この國に比べればマシというぐらいにしか良い印象は抱いていない。だけれどどちらか片方しか生き残れないと言うなら迷いなくこちらを明け渡そうとするぐらい、この世界が大嫌いになった。
初めは前世で
街の人間やごく一部の妖精達に情はある。
情はあるが、いつかは終わるものだと割りきっていた。
「オーロラ。キミはもう諦めているから早く終わらせたいのかもしれない。でも僕はまだ産まれたばかりだ」
「……まだ死にたくないと?」
「ノー。僕はキミの騎士として全ての願いを叶えよう。キミが望むなら世界だって滅ぼしてみせるさ」
「私の望みはこの國を滅ぼすこと……」
「じゃない。諦めているだけだ。この國に明るい未来はないとキミは諦めている」
改めて自己紹介しようか。
そう言ってベッドから少し離れた彼女は名乗った。
「私はメリュジーヌ。敬愛する我が主人オーロラに仕える妖精國最強の騎士。お望みとあらば神の首も妖精全ての命も捧げてキミだけの楽園を築き上げようじゃないか」
つまり、諦めるなと彼女は言いたいらしい。
ゲームで最強キャラクターを手に入れて、まずすることが電源ぶっこ抜きなんてバカじゃないの?
私を使って、環境キャラも害悪プレイヤーも全部倒して無双しようぜ……なんて、子供みたいなことを言ってるのである。
「……そう。眩しいのね。もし五百年前に貴方と会っていれば、なんて頼もしかったかしら」
ランスロットの名を借りていただけあってヒーローみたいな騎士様だ。
でも俺にはもう時間がない。
そしてオーロラが消えるということは彼女が厄災になることを意味している。
「私の次代にも仕えてくれる?」
「それは無理だ。キミが死ぬ時、私も死ぬ。その覚悟で私は成ったんだ」
「なら駄目ね。時間がないもの……だからせめて空想樹を伐って一緒に消えましょう?」
差し出された手とは逆方向の手を伸ばす。
黒ずんでこそないものの、すっかり荒れて痩せ細ってしまった頼りない手だ。
「お願い。心はともかく体は限界なの……」
彼女は本来よりも早く産まれたが、それでも遅すぎた。
「心はともかく……なら体の方がどうにかなればいいのかい?」
「……ええそうね。『私』になった頃なら喜んであなたの手をとったのでしょう」
そうしたらまた違った今もあったかもしれない。とオーロラが黄昏てる一方で
成る程、成る程……と頷いで腕を組むメリュジーヌ。
「よし!なら話は簡単だ」
彼女は徐に右の手首を握ったと思うと、それを引きちぎった。
「え?」
「オーロラ、僕の血肉を食べなよ!!!」
「え?」
そんないきなり、僕の顔を食べなよ、みたいな満面の笑みを浮かべられても困る。
……え?マジでこいつ、自分の手首引きちぎったん?
なんで笑ってるの?私、返り血で真っ赤なんだが?
取り敢えず、妖精の粉か?妖精の粉をこいつの頭に振りかければいいのか?
バイオレンス展開に狼狽えつつも妖精の粉を用意しようとすると、ニョキっと失くなった手首が生えてきた。
「きっも!」
竜は竜でもナメック星人だったのだろうか。
「ほら、冷めないうちに食べて。まだ人肌だよ」
「でしょうね」
こんな世界だ。リョナグロ耐性は自然とついたが、カニバニズムの趣味はない。
「待って……うわぁ。まだ動いてる。いきなり貴方の手首を食べろと言われても困るんだけど」
「オーロラは知らないのかい?竜は全身が強い神秘で出来た存在なんだ。その血や肉には魔術的に見ても強い効果があってだね。確か
「本当にそれだけ?食べたら目も鼻もない芋虫みたいなドラゴンのなり損ないになったりしない?」
「やだなぁ。嫌いな相手ならいざ知らずキミにそんな呪いを向けたりしないさ。デメリットと言えば、ちょっと寒いのに弱くなって、ほんのちょっと竜種に近づくことぐらいだよ」
「えぇ……でも、人の手を食べるのは……」
「見た目が駄目なのかい?ならちょっと厨房を借りてミンチにしてくるよ」
「飴玉とかに魔術で変化したりは出来ないの?」
「それじゃあ興奮できなi…………難しいね」
「そう……」
何か今、とんでもないことを口走ろうとしたような気がしたが、見た目に目をつぶれば破格の条件だ。
この腕を食べた先により良き未来があるのだとしたら私は──。
……ウゲェ。
生で食べるのは無理そう。
私は覚悟を決めてメリュジーヌにお願いし、ハンバーグにして貰ったそれを嗚咽を吐きながら完食した。
不服だが、味は美味しかった。
「じゃあこれから毎日、少なくとも小指一個分ぐらいは食べて貰おうか」
体は頑丈になったが、メリュジーヌが無精卵を産めると気づくまでSAN値はゴリゴリに削られた。