オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「もう我慢の限界だから!今日という今日は絶対会って話をしてやるんだから!」
「やっぱり荒事になりそうかい?そう言うのは嫌なんだけど」
「全く……やっと忍び込めたと言うのに、こんなにうるさくしていては直ぐにバレてしまう」
やるぞーと杖を握りしめてやる気をアピールしている青い帽子の少女。それを小動物のように可愛らしい少女は不安げに見つめ、黒い鎧を着た小柄な男性はやれやれとため息をついて項垂れた。
トネリコ、トトロット、エクターの三人組である。
彼女達はある意味、オーロラから最大限警戒されている妖精でトネリコに至ってはソールズベリー内に立ち入ることすら禁止されているが、なんと現在彼女達がいるのはソールズベリー内にある繁華街であった。
「これぐらいでバレてたまるもんですか。この日の為に10年掛けて用意した礼装を何重にも展開してるんですよ?私と同等かそれ以上の魔術師でもない限り、見破ることは不可能ですよ」
「だといいがな。この街ソールズベリーには魔術を学ぶ場所もあるという。しかもそこに通うのは主に人間だ。おまえを越える魔術師など早々現れないと思うが、おまえが予想もつかない方法で暴いてくるやつがいるとも知れん」
「それはまぁ……だけどそう言って気にしてたら、何も出来なくなるじゃないですか」
「我らが何故、オーロラに毛嫌いされるようになったのか。それを知らぬままに放置せず知ろうとするのは素晴らしいと思うが、その手段がこっそり侵入して強引に会おうとはどうかと思ったのだ」
「ぐぅっ……正論ですね」
彼女達はどういう訳かオーロラに嫌われていた。
それは彼女達のリーダートネリコが楽園から送り出された妖精だから……ではないと思う。
何と言うか、絶対に会いたくない?
何が彼女の琴線に触れてしまったのか分からないが、これまで何かと理由を付けられて会うのを断られてきた。
「うわっと」
「おっと、ごめんよお嬢ちゃん」
ふと、体格の小さなトトロットが人間とぶつかって尻餅をついた。直ぐに人間は謝罪し手を差し出すとそれを掴んでトトロットは立ち上がる。
「ありがとうなんだな!」
「……大丈夫ですか?」
「話には聞いてたけどすごいね。ここではちゃんと妖精も人も対等なんだ」
ぶつかったトトロットに特に怪我はない。
仮にもトネリコから着名を受けているのでこのぐらいで怪我を負うわけもないのだが、妖精にぶつかったのにも関わらず通行人にぶつかった程度の対応を見せた人間に彼女は驚いていた。
「……まぁ。外なら人間は泣いて許しを乞うだろうな」
妖精歴の妖精國では人間の立ち位置は奴隷や家畜よりも下にあった。
もちろん、全員が全員そうではないのだが、ちょっと不快にさせたら殺されるのが常識である。
「あの人、これぐらいじゃあ殺される訳がないって微塵も恐怖を抱いていなかった。それがこの街では当たり前なんだ」
今の時代、どれだけ趣味嗜好が合っても妖精が上で人間が下という構図は変えることが出来ない。
一体ここまで人間の意識改革を執り行う為にどれ程の年月と努力を注いだというのか。
少なくとも数百年単位の話だろう。
「やっぱりすごいよ、オーロラは。たった500年で妖精と人間の共存出来る街を作り上げたんだ」
右を見れば牙の氏族と人間が肩を組んで酔っ払っている。左を見れば、翅の氏族が人間の赤ん坊をあやしている。
妖精と人間が共存している村や街は今までにもあったが、それは人間が自由を許されているからで、対等と言えるものではなかった。許されているのではなく当たり前としてそこにある日常を見るのは生まれて初めてだ。
故にトネリコは期待してしまう。オーロラなら私の望みを叶えてくれるかもしれないと。叶えるまではいかなくとも彼女を知れば夢の足掛かりになるかもしれない。
「ところでオーロラはどこにいるんだろう?」
「ん?あぁ普通に考えれば自分の屋敷だが、今日は祭りだもんな」
ソールズベリーには年に一度お祭りが開かれる。
それはオーロラが生まれた日を記念したお祭りであり、基本的に外部の者が入ることが許されていないソールズベリーの門が今日だけは開かれていた。
勿論、全くの素性が知れない妖精は入れない。ある程度の身分と良識を持った存在であるかどうか、普段は行商人などが利用する検問所で証明する必要があるが、この國で一番面白いソールズベリーに自由に出入り出来るその日にこぞって妖精達は押し掛ける。
その数に忙殺され、当然本来よりも精度は落ちる。これまで全てその検問で引っ掛かっていたトネリコであったが、今回は事前に顔パスが許されている相手を眠らせて簀巻きにし、魔術で変装して通るという手段でそれを突破していた。
「先ずは屋敷から探した方が一番なんだろうけど」
この人混みだ。オーロラの風の知らせも直接名前を呼び合ったりしない限り、私たちを見つけ出すには苦労するだろう。
トネリコは街の全体図が抽象的に描かれたパンフレットを取り出す。
ここから一直線に向かえば何もない街道を歩くことになるが、ちょっと進路をずらせば様々な催し物を満喫しながら向かうことが出来る。
「ファッションショーに迷宮を使った宝探し、くるくる回る作り物の馬に、演劇かぁ……」
ちょっと進路をずらしてこれだ。迂回に迂回を重ねればもっと面白そうなものが沢山ある。
正直に言おう。
全部見てみたいと思った。
この街は外から流れ着いてきた人間達を積極的に受け入れていることもあってか、トネリコが知識としては知っているものの実際には見たことない物達で溢れかえっている。
チェイテピラミッド姫路城と言うのは、ちょっと意味が分からなかったが、一度は見て体感してみたいと思ったもので目白押しだ。
「いや!ダメダメ!遊ぶ為に来たんじゃないんだから!」
ブンブンと頭を振るが雑念は振り払えない。
「……ちょっとぐらいはいいんじゃないか?」
「そうだよ。ちょっとぐらい遊んだってオーロラは逃げないだろ?」
これまでろくなことがなかったトネリコの可愛らしい葛藤を見かねて従者二人はあえて寄り道に乗り気である。
「僕、このわたあめって言うのを食べてみたいなぁ」
「ワシはあのサラマンダーの作品も並ぶという陶芸や武具の博覧会に興味があるな」
「なら……少しならいいかな?」
そうだ。朝一番でこの街に入ったからまだ時間はある。
少し遊んで、肩の力を抜いたあとでオーロラに合えば一石二鳥ではないか?
大体一時間ぐらいなら問題もない筈。
「よし!なら急いで回るよ!先ずはこの、風雷イリヤ城から!クリアすると賞金が出るんだって!!!」
楽しみを抑えきれないといった様子で、キラキラと目を光らせながら走り出すトネリコ。
この時ばかりは、自身の夢も使命も忘れて純粋に祭りを楽しむことに注力した。
「あれ見てよ!火を吹いてる!魔術を使ってる様子はないのに火を吹いてる!」
「サムライ!ニンジャ!ニンニン!キリステゴメン!」
「みんなで一緒に!はい、ちーず!」
「あはっ!耳の大きなネズミが歩いてる!」
「あのカップ……まさか聖杯?いやいや、聖杯に足が生えてる訳がないか」
「え?なに!私が魔法少女に!?」
「この木刀……何故だか分からないけど欲しい!」
「あの建物、ホテル?すっごいっね!何だかすっごいって感じがする!」
「はわわわ!こんな書物を売ってるなんてハレンチな……一冊下さい」
「キャー!速ーい!」
「綺麗なドレス……ウェディングドレスっていうんだ。いつかこれを着て私も……」
これまでの年月を取り戻さんばかりの大はしゃぎ。約束の一時間など忘れ、彼女は遊び呆けた。
「はい。また来年~!」
「いや~!楽しかったね!」
「うむ。あれほどの細工……一体どれほど時間と数を重ねたのやら」
街の外に出て、来年も絶対来ようねと笑い合う三人。
ーその翌日ー
「オラァ!オーロラ出てこいや!お前がここにいるのは分かってんじゃーい!」
──わぁ!お客さんだ!
──見たことない!新しい子かな!?
──歓迎しよう!歓迎しよう!
──可愛い可愛いお客さん!
──寒くなかった?暖めてあげる!
「キュピ!!!?」
忘れてた!とばかりにソールズベリーの門を蹴り飛ばした元祖魔猪の氏族ことトネリコ。
今までの慎重さは何処に行ったのか、立ち塞がる騎士達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、遂にはオーロラのいる屋敷まで無理やりたどり着いてしまったが、三食お昼寝付きでぬくぬくと養われていた虫の妖精達に囲まれて泡を吹いて気絶した。
「…………どうしましょう、これ」
オーロラは迷った末に外壁の外にそれを放置。
これを問題にしてトネリコは正式に出禁を食らったが、不幸中の幸い、トネリコはとんでもないトラウマを負った代わりに、あの魔猪が変装など回りくどい手を使うわけがないと毎年開かれる祭りをひっそりと楽しむことが出来るようになった。