オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
それはメリュジーヌが厄災をワンパンした翌年の氏族長会議でのことだ。
普段はテレワーク参加が当たり前の私だが、今回は開催地がソールズベリーに決まったこともあり、生身で参加することになってしまった。
少し前ならモース化の兆候を見られて侮られる可能性もあったので色々対策を高じる必要があったが、ご覧の通り、今の私はメリュジーヌのお陰で全盛期の翅の輝きを取り戻しているのでどんとこい!という話であった。
……若干、翅というには厚みが増して羽なのでは?と言うか飛べるのでは?と思えるような変化も見られるが、まだ生まれ変わってからそう経ってない時期と同じかそれ以上の美しさだ。
何だか最近は調子も良いし、肌の艶もよくなったような気がする。
翅の氏族長が代替わりしてから今日が初顔合わせとなるが、これなら侮られるどころか魅了して虜にすることも可能だろう。
「さて、もう来てもおかしくない時間だけれど……ねぇ貴方。紅茶を淹れたいからお湯を沸かして貰えないかしら?」
「かしこまりました」
せっかくなら各氏族長のご機嫌でも取っておくかと、選りすぐりの菓子や紅茶を用意して待っていると一番最初に現れたのは王の氏族の長マヴであった。
「ごきげんよう、長旅で疲れたで」
「なんですって!?」
耳がキーンとなる。
いきなりなんだと思ったら彼女は目に穴が空くほどこちらを見つめて、肩を掴んだ。
「なんてこと。私のオーロラに変な色が混ざってるわ!まるでトリュフチョコレートにミルクを混ぜたみたいな変な色が!」
一体どうして、何があったの!?
と一方的に捲し立てる騒がしい彼女。
説明するまでもないが、このメイヴにそっくりの女性こそがノクナレアの先代であるマヴであり、かつてはこの國を支配しようと暴れ回ったものの最終的にトネリコにボコボコにされて王の氏族の代表となった王の氏族の長だ。
カルデアが来る頃には、エディンバラという都市に姿を変えているのだが、今の彼女は個として存在しており、そして何故か私は彼女のお気に入りになっているらしい。
「落ち着いて。そんな乱暴にしたら服に皺が出来てしまうわ」
「これが落ち着いていられるもんですか!私の妃候補にどこの誰とも知れない妖精の唾がつけられているのよ!?一体誰が……もしかして貴方そいつに処女を捧げてないでしょうね!?」
「私は貴方と婚約を交わした覚えはないけど、誰とも肌を重ねた覚えもないわ。きっと風に揺られた布が被さるみたいに偶然他者の魔力が付いてしまっただけよ。だから落ち着いて、ね?」
「そ、そうかしら?」
「ええ、私が貴方に嘘をついたことがある?」
どうどうと興奮した馬を静めるみたいに背中をさすって、席に誘導する。
ある意味、オーロラの演技が上達している証明なのだが、男も女もイケると公言している彼女と一緒にいると、時折背筋に冷たいものを感じた。
「お菓子はクッキーがいい?それともチョコレート?」
「誰に聞いてるの?チョコに決まってるじゃない」
当然オーロラの手作り。それ以外のチョコは今は亡き旦那と自分の街の物を除いてチョコとすら認めていないらしい。
「うぅん!やっぱり美味しい!愛情が込められたチーズ味のチョコ!」
「それはよかったー」
彼女の感情の高ぶりによって、漏れ出した魔力がハートという形を帯びて吹き出している。
彼女がどれほど強いかは詳しく調べたことはないが、この魔力量を見るに少なくとも着名時のバーヴァンシーよりはずっと強いのだろう。
確かノクナレアはもっと強い筈なので、メリュジーヌ≧モルガン>ノクナレア≧ウッドワス>越えられない壁>妖精騎士≧マヴといった感じだろうか。
個人的にはノクナレアよりウッドワスの方が強そうな気もするが、彼女の誕生経緯を思えばモルガンに準ずる力がなければおかしな話。
……少し話がズレたが今目の前にいるのは妖精騎士と同等クラスの大妖精だ。メリュジーヌが側にいない今、襲われたらひとたまりもないだろう。
こうも好かれていると逆にやりづらいが、敵意を持たれているよりはずっと良い。
ノクナレアに引き継いだ後も関係を維持出来るようなら、対キャメロット戦でも円滑に物事を進められるだろうし、自分が彼女を拒絶する理由は何一つとしてなかった。
「おお!オーロラ!元気にしとったか!」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「スンスン……良い匂いがする。これは肉か!」
他の氏族長が集まるまで軽く雑談などをして時間を潰していると、土の氏族のサラマンダー、鏡と牙の氏族の長が到着した。
「あら?翅の氏族長はどうしたのかしら?」
「おかしいですね。来る途中までは我々と一緒だったのですが」
「
翅の氏族長は最近になって代替わりしていた。
本来なら氏族長が次代になると、各氏族長と顔合わせをするのが通例なのだが、氏族会議の時期が重なったこともあり、どうせなら一緒にしてしまおうと今回会議が開かれた。
私とマヴはその姿をまだ見ていないが、残りの三人は先ほど居合わせたらしい。
「もしかしたら迷ってしまったのかしら?」
「ほぼ一本道よ?」
でも心配だわ。と流れるように風の知らせで居場所を探ってみると厨房辺りをうろうろとしている聞きなれない声を拾った。
『はわわわ!どうしましょう!迷子になっちゃいましたー!』
うん、CV山下○海ではないな。
サクラファイブのどの子とも声色は似ていないし、恐らくは白だ。
時期的に次代はムリアンではないかと睨んでいたが、その予想は外れたらしい。
マヴの言う通り、ここまではほぼ一本道の筈だがよほどの方向音痴なのか、それともトイレでも探しているうちに場所が分からなくなってしまったのだろう。
少しビックリしてしまうかもしれないが、風の知らせで案内してあげよう。
『なーんて、迷子のフリをしている間に屋敷中に爆弾を仕掛けて、六氏族を乗っ取ってやるのですよ!』
ん?
何やら雲行きが怪しくなった。
『ソールズベリー……噂に違わぬ
これは……試されているのだろうか。
翅の氏族の長ともあろうものが風の知らせを知らないとは思えない。いや、生まれたばかりだろうから知らない可能性もあるが、なにレフ教授みたいなことしようとしてるんだろう。
もしや私が原作知識持ちの憑依系転生者だと悟って?
それとも頭オーロラなの?オーロラはこっちだけど。
……いや、考えるより先に止めないと。
あまりにも突拍子がないが立派なテロ行為だ。
それが冗談であれ本気であれこちらには領主として街の平穏を維持する義務がある。
拘束して尋問しようと風の知らせで暇を持て余しているメリュジーヌに彼女の捕縛を頼んだ。
と、言うわけで頼めるかしら?
虫取りだね!分かるとも!
「オーロラ!捕まえてきたよ!」
バンっとものの数分で現れたメリュジーヌはタコ殴りにして瀕死状態になった翅の氏族の長をひっさげてやってきた。
イメージはトンボを素手で捕まえた子供である。
そこまでしろとは言ってない。
「ふーん」
「ちょっとこれは」「え!?(ちょっと遅刻しただけでは!?)」
「おぉ……これはまた」
「えっと…………この街で悪さをすると、とっても強ーい私の騎士様がこらしめちゃうのよ。すごいでしょ?」
空気は最悪になったが、あとで彼女が本当に爆弾を仕掛けるところだったことが分かると多少マシになる。
ただこの街で悪さをすると、ほぼ弁明も許されずボコボコにされるという噂が広まり、オーロラとメリュジーヌがセットで居ると氏族長達からは怯えられるようになってしまった。(マヴは除く)
「あ、の……ですね。次回はトネリコ様も参加したいとおっしゃっていたのですが……」
「え?何か言いましたか?」
「っっっす。何でもありません」
特に翅の氏族はこれによって完全に萎縮してしまい、オーロラと話す時だけ濡れた子犬のような目をする。
これが良いことだったのか悪いことだったのか。
彼女はそれから一度たりともソールズベリーの地に踏み入れようとはしなかった。
「ヤバい……トネリコ様はソールズベリーで暴れたことがある大罪人。彼女と懇意にしていることがバレたらまた殴られる」
関係ないがその少し後、トネリコがグロスターを出禁になったらしい。
「何でだ!?」
彼女は叫んだ。