オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
メリュジーヌが誕生してから暫く、はじめての原作イベントである秋の戦争が始まった。
この國全体を巻き込んだ大きな戦争だ。
混乱に乗じた火事場泥棒や突如としてモース化する妖精が現れないかなど最悪を考えてソールズベリーの門は閉じて、街の治安維持に全力を注いでいたが、不気味なほど円卓軍から接触のない日々が続いていた。
「何が……目的なのかしら?」
「ふふっ!この僕に恐れをなしたか」
「それはない……とは言えないわね。だったらいいのだけれど」
風の知らせでこの街以外の全てを制圧し、統一国家の建国を宣言したと知った時は、この街のことは除外するつもりなのかと思ったが、そんな生易しい話ではなかった。
同盟か隷属か、厄災を何度か退けたソールズベリーの『
「……ねぇ、ひどいと思わない?こちらは何度も貴方様の理想は素晴らしいわ。ぜひご一緒にって使者を送ったのに全員生きて帰ってこなかった。しかも、それでいきなり再三の通告に従わなかった?…………言うだけなら簡単よね。そんな手紙
オーロラの顔色は冷たい。
信用している子供達が全員殺されたのもあるが、今回のそれはあんまりな言い掛かりだった。
だって、知らない連中がいきなり出張ってきて全く新しいことを始めます、付いて来てくださいと言われるより、馴染みのある人たちがやっていることに協力してくださいと言われた方が信用出来る。
だけどこのソールズベリーの妖精と人との共存関係が築けているのは徹底的に妖精の権利を管理して、尚且つ数を絞り、そして失敗した数だけ次代に切り替えているからだ。
かなり猟奇的な話になる。だけどこうでもしないと妖精たちは自分たちの置かれた立場というものを理解しなかった。
原作知識は助けにはなったが、これ以上広げて同じ環境を維持出来るとは思えない。
ソールズベリーは管理された箱庭。だからこそ端から見れば美しく見えるし、全てがこうであったらと思えるが、箱庭だからこそ外には持ち込めない。
「……たくさん人が死ぬでしょうね。最近は誰も死なないことが誇りだったのに、もしかしたら民間人にも被害が及ぶかも」
今日、その戦争の火蓋が切られるのだ。
質はこちらの方が勝っているとは思うが、あちらには牙の氏族の長ライネック、神造兵装に匹敵する宝具を持つ円卓の騎士達がいる。
そして何よりそれを用意したトネリコがいた。
この百年。メリュジーヌの血肉を食べて生物として成長したから多少は分かる。あれは全力のメリュジーヌをもってして勝てるかどうかという化け物だ。
つまり、こちらの最大戦力であるメリュジーヌを早々に抑えられることが決まっている以上、
……勝ち目は限りなく薄い。
民間人はシェルターに移動されているが、捕虜の扱いがどうなるかは今は考えたくなかった。
「オーロラ。君はどうせ泣くだろうから最初に言っておくよ」
オーロラの執務室。そこで私の魔力をふんだんに使い、外皮を全身鎧へと変化させたメリュジーヌは告げる。
風の氏族長オーロラはベストを尽くした。
ソールズベリーという限られた箱庭の中で妖精と人の完全なる調和が取れた世界を再現することに成功した。
もし英霊の座が正常に起動していたら君は類いまれなる大英雄として人理の輪にその名を刻まれるほどの偉業を成し遂げた。
……この百年ちょっと。短かったけど凄い楽しかった。
本音を言うなら
だけど君が王として立ち向かうというなら君だけの騎士である僕は戦うよ。
たとえそれが勝ち目の見えない戦争であったとしても、必ず君の元へ勝利の美酒を持ってこよう。
そうしてぎこちなく笑う。
彼女が騎士になってから色々なことがあった。
ベオルフと街を半壊させたり、無駄に大きな建物を造ったり、カジノを建てて有り金全部摩って大変なことになったり、好きに生きろと言うので取り敢えず滅茶苦茶なことをしてみたが、お陰でひとときも気の休まらない毎日を送ることが出来た。
そんな彼女は今回死ぬかもしれないという戦場に出陣する覚悟を決めてくれた。
いや、彼女だけではない。恐怖もあるだろうに
「泣かないわ。だって負けるつもりはないもの」
その想いを無下には出来ない。
あぁ確かに勝ち目は薄いだろう。バカ正直にぶつかっただけなら結果は火を見るより明らかだ。
だが
そんな私がこんなところで死ぬ?あり得ない。
そして私が治めるソールズベリーも滅びるわけがない。
「あの日、貴方に言われて……やっと決心がついた。妖精國を滅ぼすのは私。そして女王歴を治めるのも私。モルガンなんて口下手で寝てばかりの盲目娘に任せてたまるもんですか!ただの人間だった妖精の底力見せてやる」
この理想を外に広げることは出来ない。
だからなんだ。それは外に手を伸ばさない理由にはならない。
この街だけが私の理想……箱庭の外はついで気分で支配してしまえばいい。
どうせ滅びる運命にあるこの世界だ。
だったら開き直ってカルデアが来るまで遊び尽くしてやる。
『俺』という原作大好きだった自分とは決別だ。これからは『私』という利己的な妖精が好き勝手に生きる為の戦いだと、かつてロビンの使っていた弓矢を手に取った。
こうして戦争が始まる。
妖精國に終わり行くまで刻まれる秋の戦争の終幕が語られる。
円卓軍VS
円卓軍の勝利
救世主トネリコVSオーロラの騎士メリュジーヌ
決着はつかず
ウーサーVSオーロラ
ウーサーの勝利
結果的に見れば円卓軍は圧勝した。
両者ともにそれなりの犠牲はあったとはいえ、やはり防衛機能を軒並み破壊されたあとに城内戦となってしまえば、守るものが多いこちらにはひたすらに部が悪く、オーロラが築き上げた人と妖精の入り交じる
完膚なきまでの敗北を喫したソールズベリーは、かつて楽園と言われた面影はなく、踏み荒らされ、戦闘の余波で倒壊した繁華街、家族を失いうちひしがれる人間達と都市機能は完全に麻痺していた。
「そんな……うそぉ」
けれどこれで終わり……速やかな鎮圧により被害は最小限に抑えた。かと思えばその後に起きたのは最悪の光景だった。
まるでどこか遠い未来。圧政に苦しんだ民衆が勝ち目のない一揆を起こしたように、戦う能力のない女や子供がオーロラの敵討ちへと円卓に刃を向けたのだ。
オーロラは死んではいなかったが、ウーサーは彼女との戦闘で聖槍ロンギヌスを用い、それを彼女へ突き刺した。
竜の因子を取り込んだ彼女には聖槍は劇物で、あと数日は何をしても目覚めることはない。
『皆さん。オーロラ様を手にかけたのはあのトネリコ。救世主を騙る我々妖精の裏切り者なのです』
つまりは言ったもんがちだった。
「誰だこの声は……」「風の知らせか!」
「やはりトネリコ、アイツは悪魔だったんだ!」「オーロラ様が警戒していたわけだ!」「殺せ!オーロラ様を殺したヤツを殺せ!」「いや、単に殺すだけでは物足りない!全身の内臓を引きずり出して生きたまま獣に食わせてやれ!」
「誰がこの声をやっている!」「やめさせろ!」
そこから始まる虐殺は円卓軍の心をすり潰すに十分だった。
手足を折っても止まらない修羅と化した民衆達を一人一人手にかけていく。
「だけど……これで……これでもう終わりなんだよな」
「もうこの國の地獄はおしまいなんだよな」
「この血と怨嗟も全ては我らが悲願の為……」
摩りきれてしまった彼らには最早、ウーサーの掲げる人と妖精の楽園に縋るしかない。
そうしてウーサーが毒殺され円卓は崩壊した。
「私は……一体…何のために………………あは、はは!ははははははははははは!!!!!!」
やりたくもない秘密の花園を踏み荒し、散々妖精達に心を砕いてこの仕打ち。
トネリコの心は限界を迎えていた。
「あ、ァア!ああああああああ!!!!!みんな!みんなが!私のッ全部私のせいで!」
そしてオーロラの人間の心はそれ以上に呪いを叫んだ。
目が覚めたら何もかもが死に絶えていた。女も子供も、赤ん坊すらも焼かれたあとの炭の山がたくさんあった。
「何もかも!玩具みたいにグチャグチャになった!彼らだって必死に生きていたのに!次の誕生祭では一緒に回ろって約束したのに!ゴミみたい!弄ばれたんだ!許さない!許さない!ユルサナイ!!!」
……万に一つの希望すら途絶えた。その絶望は計り知れる物ではなく、必死にそうならないようにと抑えていた竜の因子すら打ち破り、ただの厄災を超えたナニカへ変貌しようと、島中の呪いをかき集めた。
「オーロラ……君が行くなら私も付き添おう」
彼女の側にいるメリュジーヌも厄災になろうとしていた。
「だめだ…………それでは私のブリテンが滅んでしまう」
全てを失ってもやはりこの地が欲しい。
あぁ私って…………。
トネリコはその様を見て立ち上がる。
殺すことより残酷なことであると分かりつつ、二人の記憶を消すことにした。そして再び厄災にならないように心に蓋をした。
せめてもの罪悪感からか、どうやってオーロラがあの楽園を築いていたのか。記憶は覗かず、ここ数年の記憶を消す程度に。
オーロラがこの街を愛している。それは嘘ではなかったので、彼女の瞳には何も隠された真実は映らなかった。
「いつか必ず私がこの國を……」
それが救世主が死に、女王が誕生した瞬間だった。