オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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大厄災

殴ってみたら通り抜けた。

どうやら夢の中だけあって実体があるわけではないらしい。

 

服は用意出来ないのかと聞いたけど、こちら側からは干渉出来ないから自分でどうにかするしかないと言われ、仕方なく全裸で対応することにした。

 

「思いの外、落ち着いているね」

「ええ。私でもびっくり。感情にカギでも掛けられているのでは?」

「成る程、ヴィヴィアンの魔術か。ふむ……記憶の欠落……そして恐怖、怒り、後悔、おおよそ負の感情に繋がりそうなものを抱けないようにされているね」

 

裸を見られて恥ずかしいという羞恥もある意味負の感情に繋がるということなのだろうか。

先程はかっと顔に熱が集まるような感覚を覚えたが、今は裸を見られても何も思わなかった。

 

「あぁヴィヴィアンと言うのはその國でトネリコを名乗っている妖精の二つ名のようなものさ。特定の感情を抱けなくなると聞くと大変なものなんじゃないかと危機感を覚えるかもしれないが、心配しなくてもそこまで危ない魔術じゃない。少し強力な暗示のようなものだ。何なら今、解いてあげようかい?」

「いえ、ありがたい話だけれど今解かれてしまったら恥ずかしくてまともに話すことも出来なくなりそうだから」

「それもそうか」

「記憶の欠落の方はどうにかならないの?」

「忘れさせられているだけならどうにかなったんだけどね。どうやらロックされているようだ。こういうのは正規の手段で鍵を手に入れて開けた方が一番手っ取り早い。強引に破るとなると……うん、この場所からだと厳しいかな」

 

少し長くなる。座って話をしようとマーリンは椅子とテーブルを取り出す。

それに座って……あれ?これは干渉していることにはならないのか?と思いはしたが、別に性的な目で見られているわけではないのでスルーすることにした。

 

「先ずは……そうだね。君の直前の記憶は何か聞いてもいいかな?」

「記憶?……もうすぐ戦争が始まると準備をしていたこと……いえソールズベリーは円卓に滅ぼされた、それは分かるわ。昔一緒に星を見上げた騎士の子が犠牲になったことも、それで円卓に怒りを覚えたことも覚えている。でも…………気持ち悪い。ところどころが虫食いにあったみたいに思い出せない。これが記憶の欠落ってことね」

「おや?ヴィヴィアンのやつ、詠唱を噛んだりしたのかな?随分と粗っぽく記憶を消されたみたいだ。──

まぁ今はそれはいい。君が覚えているのは円卓軍との戦争まで。それでいいかい?」

「えぇ」

「なら説明の手間がかなり省けた。あの戦争で全てを失った君は絶望し、世界を呪った。そしてその呪いは島の呪いと共鳴して新しい厄災が生まれる筈だったんだが、それをよしとしないトネリコは君に魔術をかけてそれを防いだ。そこまでもいいだろう。それから少しして君たちは目覚め、王の氏族の協力もありながらソールズベリーの復興に勤しんでいた」

 

その辺りの記憶は完全にない。

もしかしたら、魔術の誤作動で数年間の記憶を消すという力が過去ではなく未来に働いて、これから数年間の記憶が消える、そういう風に書き変わったのかもしれないとマーリンは考察を交えながら話を続ける。

 

「最初の一年は良かった。竜の因子を得て魔力量に余裕があった君たちは、瞬く間に城を作り上げると道を敷いて家屋を建て、店を建てた。途中で趣味に走ったのか遊園地を作り出したが、たったの一年で破壊された街並みは以前よりも機能性や娯楽に優れたものになった」

 

そのあとは次代に生まれ変わった元ソールズベリーの民衆の受け入れ、そして妖精には欠かせない人間牧場から人間の大量輸入。

 

「二年で見た目と数は戻った。だが質は最悪で、あっちこっちで妖精も人も大暴れ。君たちは教育と選別に追われ、忙しない年を送った」

 

「…………選別って言うのは、殺したの?」

 

そうだとも。妖精も人も問わず、三禁を()()破ったものは全員殺した。以前の君なら人は殺さなかっただろうが、そういった甘さは捨てたのかい?

 

そう問われて、何も言い返せない。

 

覚えていないのもあるが、これから街を作って行くならそういう方針に行き着いてしまうだろう確信があったからだ。

行き着いたところで普通はそれを人道的にやれるかどうかの話になるだろうが、トネリコの魔術に掛かった今の状態なら何の躊躇いもなくやれそうだった。

 

 

「三年目。あらかた問題児を片付けた君たちは、次に騎士団の設立を目指して、腕に覚えのある者や牙の氏族などを積極的に勧誘するようになった。現牙の氏族の長ライネックとは遺恨のある君たちだったが、君の熱心な勧誘のお陰で何人かは牙の氏族の兵団を離れてこっちに流れてくれるようになった」

「ライネックは何も言わなかったの?」

「言いたいことは沢山あったんだろうが、言えなかったんじゃないかな?」

 

何せあれだけ罪のない民衆を殺戮しておいて、その大義が全部無意味になったのだ。

誕生祭に何度も招かれては、力比べの大会でメリュジーヌや騎士達と笑顔で張り合っておいての、あれである。

 

牙の氏族もあの戦争には参加していたが、止まらない民衆を殺し回る時には、その精神的苦痛に耐えきれずにモース化する者たちだっていたそうだ。

 

これで少しでも罪滅ぼしがしたいと出ていった者たちに、何と言葉をかけてやればいいのやら。

ライネックには分からなかった。

 

 

「四年目。兵力も整い、人々の生活も安定して新しい文化も生まれようとしていた転換期だ。本当ならそれから素晴らしいものになる筈だったんだろうが…………アルビオンの子がやらかした」

 

百年もじっくり竜の血肉を馴染ませたんだから、ここいらで一発どキツイのをいっときますかと自身の心臓をオーロラに盛った。

 

 

「心臓を?え、なんで??」

「竜の炉心でも持たせたかったんじゃないかなぁ?」

 

生きたまま心臓をえぐり出すなんてアルビオンの子であろうと充分自殺行為だが、それまでに入念に準備を重ねたらしく、本人はピンピン、いや、イキイキしていた。

 

レバーだと偽って、限界まで神秘を込めた心臓を食べさせる。

 

「そうして君はこの大厄災が訪れるこの時まで長き眠りにつくことになった」

 

「は?」

 

なんかいきなり話が跳んだ。

 

 

「流石は竜の冠位。その神秘は桁が違った。竜の炉心や不死性を獲得するだけでなく、君の体は妖精から竜種へと置き換わる為に休眠状態になったのさ」

 

つまり目覚めた君はもう妖精ではない。

 

ほら、とマーリンが鏡を向けるとおでこにひょっこりと角のような物が生えており、翅は翼へと変貌していた。

 

「そのお陰で君は、ブリテンの妖精という枠から脱し、妖精達を罰して、人間達を正しく導いたという功績もあって楽園(アヴァロン)に招かれる資格を得た」

 

「ま、待って。急過ぎる……!」

 

「そうだね。そもそも君にはブリテンの妖精であるという意味や、彼らの祖先がおかした罪についても知らないのだから」

 

一つ一つ説明しようと、原作で知っている『はじまりのろくにん』が犯した罪と、ケルヌンノスの呪い等など丁寧に語る。

 

「君が眠っている間は、あの子が盟主代理をしていたようだが、大厄災が起きてまた街は滅んでしまった。彼女は全力でソレの対処に当たったが、今回は力でどうにか出来るものではなかったんだ。それでどうしようもなくなった彼女は何とか君だけでも助けようと、アルビオンが掘った霊洞に逃げることにした」

 

まさか楽園(アヴァロン)に招かれるとは夢にも思わず、無我夢中で奥へ奥へと逃げた。

 

「あの子が貴方からの招待を断ったということは少なくとも楽園(アヴァロン)まで逃げる必要はなかったということ。……大厄災が終わったのか、霊洞の奥深くまでは干渉出来ないナニかだったのどちらかかしら?」

 

「うむ、鋭い。正解は後者だ。大厄災は未だ地表で猛威を振るっているが君たちがいるD層一歩手前まではあれも到達出来なかった」

 

「成る程……よく分かりました。また頑張ろうと思った手前、またソールズベリーが滅び、まさかこの身が竜になろうとは…………流石に夢では?」

 

「夢だね」

 

事実だけど。

 

マーリンはこれで空白期間の説明はいいだろうと一旦区切り、それで本題を切り出した。

 

「ヴィヴィアンはやりたい放題。妖精達の過ちを正すどころか円卓なんていう組織を立ち上げて、君の街を滅ぼすなんて暴挙にすら走った。

最早『楽園の妖精』としての使命を完全に放棄したとこちらは判断した。そこで、ある程度の期間を開けた後に『楽園の妖精』を再度ブリテンに送ることを決めた。これは僕の個人的なお願いなんだが、君には現地で彼女の手助けをして欲しいんだ」

「……ッ」

 

なんでわざわざここであの件を蒸し返したのかは分からないが、どうやらマーリンは私にアルトリア・キャスターの面倒を見て欲しいらしい。

 

「どうして私なのかしら?」

「たまたま干渉出来るのが君だけだったこともある。だが、その功績は充分信頼にたるものだと判断させてもらった」

「…………楽園の妖精の面倒……ねぇ」

 

原作大好きな『俺』としては願ったり叶ったりな話だが、それを引き受けたら原作崩壊まっしぐらだ。

アルキャスの悲惨な過去には思うところはあるし、たくさん幸せな思い出を残せるように色々してあげたい、そういう思いがないでもないのだが…………リスクが高すぎる。

 

モルガンは分からないが、ウッドワス辺りにバレたら反逆者として殺されそうだ。

 

「勿論、ただでとは言わない。お願いを聞いてくれるなら、出来る限りの望みを叶えよう」

 

「望みって言われても…………うーん」

 

いきなり望みと言われても妖精の悪性を取り払って欲しいとか、人間の寿命を伸ばして欲しいとか、そういう大きなスケールの話ならいくらでもあるのだが、マーリンが叶えられるぐらいのちょうど良い望みと言われると分からない。

 

リスクとリターンが見合う物がないというか、写真や握手の対価に、特大の爆弾を抱えたくはなかった。

 

 

……でも、アルキャスの生涯には本当に胸に来るものがあったし、春の記憶がなかった時の、あの察した反応とか何回見返しても涙が出る。

もし自分が妖精國にいたら彼女に何をしてあげられるかなんて散々『俺』だった頃に考えてたことではあるし、本当に断っていいのだろうか。

 

 

物凄く悩む。

 

 

でもたくさん未練を作って、そのまま聖剣になれだなんて無慈悲なことは言えないし、やはり断るべきなのだろう。

 

「そうだ。例えば人探しなんてのはどうだい?僕の目ならたとえ相手が何処にいようと探しあてられる」

「いいわ。引き受けましょう」

 

 

 

あれ?

 

 

 

「それでいつ何処で現れるのか、連絡があると助かるのだけれど、アフターサービスは充実してるのかしら?」

 

 

口が動く?いや、やりたいことを喋ってる時みたいな……なんだこれは?

 

 

「報酬の話だけど、あなたの目を貸してほしいの!どうしても見付けたい妖精がいてね。それに協力してくれるんだったら、トネリコと敵対しても構わないわ」

 

 

探したい妖精というのは何故だか凄く心当たりがあった。

そしてその妖精で何をしたいのかも分かってしまう。

 

 

「そうかい、そうかい!いやー良かった。正直断られるんじゃないかと思ったけど、やっぱり若い竜は欲望に忠実だね~!」

 

どうやらマーリンは私のこれが何なのか理解しており、私がこれのせいで初めから断れないと確信している様子だった。

ホッとした笑みを浮かべているように見えて、物凄く腹黒い笑みをしているようにも見える。

 

「約束だ。必ずその妖精は僕の瞳で見つけてみせるとも。だけど僕はこれでもハッピーエンド主義者でね。ヴィヴィアンを苛めるのもほどほどにして欲しいな」

 

 

「ッッ…………良い趣味してるわ」

 

「お褒めに預かり光栄だ」

 

その言葉でこちらも理解した。

メリュジーヌの前例があるのだから、もっと慎重になるべきだったかもしれない。

 

竜は妖精以上に理性ではなく本能で動く。

 

私は円卓にソールズベリーを滅ぼされたことをいまだに許していない。円卓は壊滅したのだからその矢印がトネリコに集中するのは当然で……マーリンの人探しという言葉にピンときて彼女に特大の嫌がらせをしたいという欲求が膨れ上がった。

 

アルキャスを幸せにしたいという気持ちと、安全に行動したいという気持ちはイコールだったが、そこにトネリコに復讐してやりたいという不純な気持ちが交ざって僅かに傾いた。

 

そこから一気に天秤が傾いて、本能で動いてしまったという訳らしい。

 

 

間違いなく狙ってやっている。

嵌められた……グランドクソ野郎と私は内心で悪態をついた。

 

 

 

 

「……ハァ。まぁいいわ。付きっきりは難しいけど、楽園の妖精が健康で文化的な最低限度の生活が送れるように面倒を見る。その対価に貴方は妖精探しに協力する。それでいいわね?」

「いいとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くしてバーヴァンシーらしき妖精を私は保護することになった。

冬の戦争の最中のことである。




「ッゥ!?これはまさか……毒!?」
「残念、僕の心臓だよ」

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