オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
バーヴァンシーを見つけた。
正確にはバーヴァンシーの先祖にあたる妖精だが魂は同一のものだ。
それは大厄災が終わり、真なる意味でブリテンを統一するべく
「ァ……ァ?」
「あぁ、可哀想に。こんなに傷付いて……でもこれぐらいなら大丈夫。ちゃんと治療すれば傷も残らないわ。直ぐに良くなるから安心して」
「おい!何勝手に連れ出そうとしてる!そいつはッ」
「おっと待った待った。ここから先は僕が通さないよ。君は……人間かぁ…………でも殺すね!だって三禁を全部破ってるんだもん!」
彼女は今の時代では珍しく、とある人間の都合のいいように扱われていた。
妖精と人間。力の差は歴然であるが、ヒトの良い彼女は善意で言いなりになっていたのだろうか。
骨は折れていないが、とにかく痣の跡が多い。その人間は太い木の棒を持っているが、まさかそんなもので日常的に彼女を殴っていたのだろうか?ろくに治療もせずにこんな生活を続けていたら、あと一年も持たなかっただろう。
……まるでホムロの時とは真逆だ。
「ま、待ってくれ!三禁ってのはあれだろ?!『殺す・奪う・貶める』!俺は確かに他二つを犯したのかもしれないが、殺しはやってねぇ!」
早々にこの子を保護して去ろう。そう思っていた矢先、その人間が理不尽だと叫んだ。
「第一、ソールズベリーでもないここでなんでそのルールを守らなければならねぇ!俺はひっそりこの森で、何の役にも立てねぇグズ妖精を使って暮らしてただけだろうが!」
確かに彼の言い分は正しい。
三禁はソールズベリー内でのみ適応される法律のようなものだ。これを一つ破ったら投獄で、二つ破ったら永久追放、三つ破ったら死刑だと過去に私が定めた。
現在でもそれは適応されており、昔は妖精へ向けたものだったが、今は人間にも適応するようにしている。
だがここはソールズベリーではない。
つまり三禁を全て犯したとしても殺される謂れはないのだ。
「その妖精はやる!惜しいが……どうせもう長くは持たねぇボロ雑巾だ!だから俺は見逃してくれよ!いいだろ!?」
「どうするオーロラ?」
「……いいわ。見逃しましょう」
あまりにも酷い命乞いの言葉だ。物語の噛ませ犬でももっとマシな事を言うだろう。一瞬このまま殺してしまおうかと思ったが、意味のないことだと気づく。
それより早く彼女を治療したいとバーヴァンシーを抱きしめ、私たちは飛び去った。
「本当によかったのかい?」
「ええ。自分で言ってたでしょう?
あの森は虫の妖精達の温床だ。
彼らはふつうの妖精よりもずっと弱いから、きっとこの子の存在があるだけで怖くて近づけもしなかったのだろう。
それが居なくなればあの人間がどうなるか……そんなの考えるまでもなかった。
「え?ここは……どこ?」
それから丸一日が経過してバーヴァンシーは目覚めた。
妖精の粉をふんだんに使ったが、まだ全身包帯グルグルのミイラウーマン状態だ。
見慣れない天井にこの包帯の量、おまけに知らない顔がいるときて戸惑ってる様子。
「おはよう。良い天気ね」
「そう、ですね……良い天気」
「それに見て、ここからだと街が一望出来るの。あの観覧車はね、原理は知ってるのにどうしてだか魔力で再現出来ないから、一つ一つパーツを生み出して皆と一緒に協力して積み上げたの」
「かんらんしゃ……」
「元気になったら一緒に乗りましょう?天辺はここよりもっと見晴らしがいいんだから」
「え……はぁ……えっと、その貴方は?」
「オーロラ。この街ソールズベリーの領主オーロラよ」
自己紹介をしたが、私はもう風の氏族の長ではない。
私が竜になってしまったからか、それとも目的を抱く必要がなくなったからなのか。風の氏族の長の次代が生まれてしまったのだ。引き続きこの街の所有権は私にあるし、氏族長会議にも出席しなくて済むようになったので私としては良いことづくめだが、一つだけ困ったことがあって、それが前よりモテなくなってしまったこと。
風の氏族であった頃にはそういうフェロモンでも出ていたのだろうか。今は相手を惚れさせようと思うと意識してそういう風に振る舞わなければならない。
まぁこの容姿ではあるので大概のオスとメスと爬虫類は簡単に虜になるのだが、このような初対面の相手とは慎重に対応しなければならなかった。
「ソールズベリーの領主様!?申し訳ありません!私なんかこんなところで!汚れてしまいます!」
いけません、いけません。とベッドから降りようとする彼女の手をそっと握る。
「落ち着いて。貴方をここに招いたのは私なの。どうしても去らなければならないのなら、せめて傷が治るまでここに居て、お願い」
「そんな!ここまでしてもらう価値は私にはありません!それに、私がいないと旦那様は!」
「あの人は貴方に暇を出したのよ」
「え?」
「怪我をして家事も出来ない使用人をいつまでも家に置いておける余裕はなかったのだと思うわ。それで偶然居合わせた私が貴方を引き取ったの」
「それは……その、新しいご主人様ということでしょうか?」
「こんなに可愛いメイドさんが居てくれたら素敵ね。でも私が貴方を引き取ったのは怪我をしていて可哀想だったから。勝手にやったことよ。だから怪我を治したからと言って私の為に働く必要はないわ」
「帰っても居場所はない?それに貴方様には求められていない?……そんな……どうしたらぁ」
頭を抱える彼女。本当に参っている様子で、どうやら仕事を失って困っているという感じではなさそうだった。
「…………もしかして〝求められたものに答える〟又は〝誰かの為に生きる〟それが貴方の目的なのかしら?」
「はい。私は誰かの為にあれたなら。そういう目的を持って生きてきました」
私はバーヴァンシーになる前の彼女というものをあまり深く知らない。
知り得ることと言えばただひたすらに無垢で善良だった彼女は他の妖精達に弄ばれ、捨てられ、そうして魂を磨り減らしながら、モルガンに保護されてトリスタンになったということぐらいだ。
だけどこの有り様。元の善良性もあったのだろうが、そういう目的を持っているのでは問いかけてみたら正解であった。
「そう……なら新しいご主人様を見つけるのは急務であるだろうし、それまでうちで働かない?もちろん給料は出すし休みもあるわ。その期間で新しいご主人を探したらいいじゃない」
「ですが、それだと貴方様にご迷惑をおかけするだけでは?」
「さっきも言ったでしょう?貴方みたいな可愛い子がメイドをしてくれるなら、それよりも素敵なことはないわ」
「………………」
悩んでいる。
咄嗟に考えたが、悪い提案ではない筈だ。出来れば手元に置いておきたいが、私のモルガンへの嫌がらせはどんな形であれ彼女が幸せであればいい。
このブリテンでトネリコの頃からモルガンが本気で幸せにしたいと願い、そして最後まで叶えることが出来なかった悲願の少女。それを赤の他人が叶えていると知ったら、さぞ愉快な顔になるだろう。
「……分かりました。もし貴方様がよろしければ暫くこの身を置いていただければと思います。ですが!お給料も休みも最低限で結構です!お、お望みなら体も差し上げますので!これからどうぞよろしくお願いしましゅ!」
頬を赤く染めて頭を下げる。
あれ?可愛いから側に置きたいって、ちょっと違う解釈をされてる?
何となくそんな気はしたが、私は笑顔でその申し出を快諾した。
「まぁ!今日は素晴らしき日ね。早速パーティーの準備をしないと!──あ、私ということがついうっかり。貴方の名前を教えてくれないかしら?」
「ヴィヴィアンとお呼び下さい」
「へ?」
「昔。とは言っても前の私の話ですが……とある妖精の騎士様に貰った名です。もう私にはいらないからといただきました。次代へと本来なら記憶は持ち越せない筈ですが、魂に刻まれたものであったからなのか、これだけは持ち越すことが出来たのです」
こんな私には勿体ないぐらいの素敵な名ですが、何れはこの名に相応しい存在になれるようにと思っています!
そう改めて頭を下げるバーヴァンシー、もといヴィヴィアン。
もしかしたら私という異物がこの世界に現れてから原作にも影響が出始めているのかと、初めに気づいた切っ掛けがこれだった。
「きゃあ!」
バリンっ
「危ない!」
パッリーン!
「退いてくださーい!」
ドンガラガッシャーン!
そしてメイドとなった彼女はハッキリ言って無能であった。
このままだと屋敷の皿とツボが全滅しそうな勢いだったので、本人が興味がありそうにしていた靴屋に弟子入りさせることに。
「これだ!これこそが私の求めていた理想の靴!!!」
やはり魂が同一なだけあって趣味も同じなのだろうか。
のちに彼女はシューズデザイナーとしてソールズベリーに一大ブームを到来させることになるのだが、それはまだ先の話だった。
ヴィヴィアン(バーヴァンシー)
あくまで着名を受けたのは前の彼女であるので、その名に特別なギフトはない。
本人がそう名乗っているだけである。
また前の彼女が死んだ時にモルガンへその名は返却されているので、マーリンがモルガンのことをヴィヴィアンと呼んでいるのはおかしな事ではない。
ソールズベリーの三禁
殺す・奪う・貶める
一つ破ったら投獄で、二つ破ったら永久追放、三つ破ったら死刑。
妖精歴以前までは妖精に適応される法であったが女王歴になってからは人間も適応されることに。
投獄される監獄塔からは未だに脱獄者は出ていないらしい。