オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「すまない……取り乱した」
ひとしきり泣いた後、モルガンは杖を振るい妖精達からここ数十分の記憶の抜き取った。
「いえ……私ぐらいの胸ならいつでも貸しますわ」
〝後継者〟である私はともかく、妖精達に自分の弱い姿を晒したくないという意思表示らしい。
「彼らにはお前が私からの提案を喜んで受け入れたと、そう記憶を弄くった」
「よろしいの?時には弱いところを知ってもらうのも自分を理解してもらうには大切なのよ?」
「そこまで私は強くなれない」
「ならこれは私たちだけの秘密ね」
「そうだな。私たち親子だけの秘密だ」
相変わらずの鉄仮面だが、明らかに先ほどよりも顔色はいい。
憑き物が落ちた。こういう表現が正しいのだろうか。これまでの全てがこの涙で洗い流せたとは言えないが、今のモルガンの姿は、どこか若々しく……トネリコの時を連想させてズキリっと胸が痛んだ。
それが彼女にとって良い兆候なのは分かるが、依然私の中にある冬の記憶とも言うべき忌むべき過去が脳裏を過るのだ。
(そうだ。彼女は私の街を一度…………)
兵士が殺されるのは分かる。
彼らだって守る為とはいえ敵の命を奪おうとしたのだから。
何せあの戦争で散っていた彼らが望んでいたのは、戦争が終わった後の明るい未来だ。
敗戦国の末路は悲惨だが、彼らの意思を継いで戦後日本が復興したようにソールズベリーも…………と、私が目にしたものは墓の山だった。
妖精も人間も全員死んだ。
これからやり直したとしてそれは復興と言えるのだろうか。今後何れだけ立派な街に育てても、それは同じ名前で同じ土地で始めただけの全く別のソールズベリーではないのだろうか?
「……………………」
高まる感情が抑制される。
分かってる。分かってはいるんだ。あの戦争は起きるべくして起きたもので、私の知る
民間人まで巻き込まれたのもきっと訳がある。
私は記憶に蓋をされて当時のことを思い出せないが、やむをえない事情だったのだろう。もしかしたら
許せないという思うのは勝手な私情だ。
私情……であってほしい。もし円卓軍に悪意があってあの地獄が産み出されたのだとしたら私は彼らを絶対に許せない。彼らの生きた証、その全てを踏みにじられたのだ、同じことをブリテンで!──ふぅ。連続して感情が抑制されるというのはあまり気分が良いものではないな。
だが感情が抑制されてもハッキリしていることはある。
今では秋の戦争の当事者は私とメリュジーヌとモルガン、そしてライネックだけだ。
メリュジーヌは味方なのだから特に思うところはないにして、殺したいほど憎んでいる訳ではないが、二人には何らかの形で精算は取らせたいと思っている。
「オーロラよ。早速なのだがお前が王になる故でとても大切な話がある。会議が終わり次第、キャメロットまで一緒に来てほしい」
それから六氏族会議は恙無く終わり、私とモルガンとでキャメロットに向かうと、例の玉座に隠された召喚システムのこと。これを扱うには膨大な魔力が必要だが恐らく竜になった今の私なら大丈夫なことなどの説明を受けた。
そして獣神の呪いについても教えられ、何故存在税が必要なのかも制作途中の聖槍2門を見せながら説明されたが、そこで彼女は申し訳ないと謝った。
「存在税は間違いなくお前の足枷となるだろう。ムリアンの言う通りだ。発展の為、妖精達はこれまで以上に魔力を使わなければならない場面に出くわすだろうが、徴収される分の魔力には常に気を払わなければならない」
だがこれをあと10門造ったとして、何れだけ撃ち込めば『ソレ』が倒れるか分からない。魔力はあればあるだけ良いのだ。
だから存在税だけは取り消すことは出来ない。
納得出来ないと声を上げる輩には私が対処しようと言われ、なら、とムリアンが理不尽だと訴えていたときから考えていた案を一つ披露する。
「ねぇ、思ったのだけれど。存在税が理不尽だって言うなら正当な理由があればいいのよね?」
「だが獣神の呪いのことは打ち明けることは出来ないぞ」
「そうね。混乱が広がることもそうだけど全てに絶望してブリテン中を道連れにしようとしたり、面白いからとちょっかいをかけようとするヒトが出てこないとも限らないもの」
「なら、どんな理由で妖精達を納得させる気だ?」
「罪には罰を、よ。私たちの街で三禁というものがあるのはご存知?『殺すな・奪うな・貶めるな』これは一つ破るごとに罰の重さが重くなっていくシステムなのだけど、これからは一つ破るごとに令呪を一画刻んでいくルールにしたらどうかしら?三禁とは逆に三つの得なんかも定めてそれをやったら令呪を一画減らしていくなんてあったらもっと素敵ね」
「ん?そんなことをしたら三つの得とやらばかりをして、ろくに存在税を徴収出来なくなるのではないか?」
「普通に考えればそうね。でも陛下は」「お母様だ」「お義母様はソールズベリーで年間何れだけ三禁を犯すヒトがいるのかご存知?」
「お前の街だろう…………あの街では妖精達も穏やかで決して人間達を蔑ろにしたりはしない。そうだな3000人ほどの街だから、8人ぐらいか?」
「いいえ。500人よ。そのうち100人は三禁全てを破って次代に生まれ変わって貰っているわ」
「なん……だと?」
実に六分一のヒトが三禁を破って、投獄ないし追放、処刑されている。
あの街の綺麗な部分しかしらないモルガンはかなり驚いたようだが、成る程と思う。
あのような楽園に居てまだ悪性を捨て去ることが出来ないとは、やはり妖精は愚かである。
モルガンの中で妖精達への評価が下がるが、最早下がりすぎてあまり変化はなかった。
しかしソールズベリーでこれなら、三禁を破る妖精などそこらに溢れ返るだろう。
それで徴収分の魔力を賄えなくなっても、それはお前が罪深いからだと突き放してしまえばいい。
三禁とは逆の概念を生み出すことで詰んでしまう状況も防げる。何とか罪を清算しようと励む妖精達によって治安の向上にも繋がるかもしれない。
「良くできているが、それなら三禁を破ったと通報する者、判断する者、令呪による罰を決定する者達を用意しなければならない。島全土にこのシステムを広めるには10年は必要になるぞ」
「10年?私たちからしたらあっという間じゃないかしら?」
「……ふっ、そうだな。たった10年でこれだけのシステムを導入出来る」
「それでも納得出来ないようなら……力ずくでやるしかないわね」
「その時は任せろ。私の得意分野だ」
「あら頼もしい」
「ふふ」「ははは」
やたら長い時を生きた長寿仲間として笑い合う二人。
これから法整備のすり合わせや思わぬトラブルで年単位の計画が白紙になる、そんな地獄のデスクワークが始まるとは夢にも思っていなかった。
「出来た!ついに出来たぞ!」
「や、やめて。それは……それだけは生み出してはいけない!」
そして妖精の粉を液状化し、飲めば不眠不休で働ける『悪魔のドリンク』をモルガンが生み出すまで、あと半年を切っていた。