オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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間話 人間牧場

女王になることは不本意ではあったが、なってしまうからには受け入れなければならない。

そこで私は女王として先ず何をするべきかを考え、ずっと考えないようにしていた禁忌に触れることにした。

 

 

「ウゲェェェ…………うぷっ」

 

胃の中身がひっくり返り、酸っぱい味が口の中に広がる。

ぶちまけられた吐瀉物には殆ど何も混ざってはおらず、暫く何も食べていないことが伺えたが、それを気にするヒトはどこにもいなかった。

 

そこはソールズベリー管轄の『人間牧場』がある場所だ。

 

誰もいない時間帯にその中身を見た私が思いっきり吐いたのだ。

人間を生産する牧場の中身がどんなものなのか、どうしようもなく残酷なものだろうとは思っていたが、実際に見たそれは想像以上だった。

 

「うぇ…………」

 

かつて獣神と共に現れた巫女をバラバラにして、効率的に人間を増やす為に今も利用されている場所。制限さえ設けなければ日に五百人までは生産出来るとされている。

 

『俺』だって前世は男の子だった。そういうジャンルの本は沢山読んでいたから、自然とそういうやつなのかと思っていた。

 

全然違った。

SFチックでもファンタジーのエロ要素もあったものではない。

そこにあったのは人を吐き出す()()()だった。

 

■、■■■……■(た、すけて……て)

 

ぶよぶよとした肉の塊が小さく震えている。

こんなもの、あって良い筈がない。ましてや産業機械のように酷使していいわけがない。

 

人として妖精として竜として『俺』の全てが人間牧場という存在を嫌悪し認められられなかった。

 

私が女王として何をするべきか決まったと思った瞬間だった。

 

 

 

 

「人を繁殖により増やす……だと?」

「えぇ。だって人間牧場は妖精達の罪そのもの、獣神の呪いの元凶よ?いつまでもこれに頼っていたら呪いは積み重なるばかり。生産数を抑えれば呪いもある程度抑えることは出来るんでしょうけど、もういっそのこと生産というイビツな手段は捨てて繁殖出来るように作り替えたらどうかしら?」

 

翌日さっそくとばかりにモルガンに会った私はそれらしい理由を重ねて人間牧場の撤廃を求めた。

ウソは言っていない。妖精眼で見られることはないとはいえ、適当に考えたハッタリが通用する相手だとは思っていなかったし、原作でモルガンが生産数を絞ったというのは厄災対策なのではと『俺』の頃からにらんでいた。

そして生殖能力の付与、または復活だがこれも出来ると思っていた。やらなかったのは単純に生産するほうが増やし方としては優れていたからだ。

 

「出来なくはない。だが人間の繁殖には時間がかかる。それに妖精のように死んでも数は減らないというわけではないからな」

 

やはりそうだ。

生殖による人間の増やし方は手間がかかりすぎる。だから誰もやろうとしなかったのだ。

 

「そうね。厄災で犠牲になってしまえばまた増えるまで時間がかかるわ。妖精にとって人間の存在は不可欠。それに産めや育てやといって人間は増えるわけではない」

「ならばどうする?数を絞るという案は盲点だったが……そちらを採用するか?」

「いいえ。ブリテン各地に散らばった巫女は解放するわ」

「解放だと。そんなことをすれば巫女は獣神の呪いを呼び覚ますのではないか?」

「そうね。そのまま野放しにすればそうでしょう。妖精がやったことは赦されることではないけど、だから謝るの」

 

悪いことをしたら謝罪する。当然の話だ。

 

「…………?らしくない。いや……優しいお前だからこその提案か」

 

だが正しいことだからといってそれをやって利益が生まれるわけではない。

これは政治の話だ。この時の私はあまりにも急ぎすぎてモルガンが納得するような答えを用意することが出来なかった。

モルガンは私が優しいからそんな非生産的なことを言い出してしまったのだろうと納得してしまう。

 

「巫女の解放はダメだな。許せるわけがない。だがそうだ。人間達が勝手に数を増やせるようになるというのは良い案かもしれぬ。いきなり生産数を絞れば反感を買うだろうが、自分たちが用意した環境次第で人間の数を増やせると思えば……どうだ?」

 

人口の増加具合でどれだけ街が住みやすい環境であるか分かりやすくなるだろう。

 

「良い……と思うわ。でも!」

「待て。さてはお前、牧場の中身を見たのだろう?

私があれをはじめて見た時と同じような反応だ。確かにあれは堪えるものがあるが、ブリテンという地においてなくてはならないものだ」

「ですが陛下!このやり方を続けていればブリテンの妖精達は永遠に罪から目を背け続けることになるわ!」

 

今回ばかりは百零でモルガンの方が正しい。

私のそれはただの我が儘だ。だけどこれが間違いだとは思わない。

 

だって彼女は生きていたのだ。ソールズベリーにいた彼女が『腕』なのか『足』なのか、それとも『内臓』のどれかだったのかは分からない。

それでも生きて、助けを乞われた。

 

「私は彼女を助けたい!」

「私の意見は変わらんよ。それにあれらが真の意味で贖罪を果たせるとは思えぬ」

 

モルガンはそんな甘い考えを切って捨てる。

自身にカリスマはないと自覚しているが、それでも女王として國を存続させる目は腐ってはいなかった。

 

巫女の解放がブリテンにとって不利益になることを彼女は分かっていた。そして私の手前、語らなかったが巫女はもう生き物としては死んでいた。たとえバラバラになったパースを集めてくっつけたとしても、ただの死体になるだけでブリテンは人間牧場という貴重な資源を失うだけである。

 

それだけでも充分不味いが巫女の恨み辛みが獣神の呪いと共鳴したら大厄災が起きかねない。

 

「暫く休め。それで二度と人間牧場に足を踏み入れるな。あそこはそういう場所だ。変えることは出来ん」

 

 

当然こんなことで諦めるつもりなどなかったが、最後までモルガンは折れず、最終的に巫女が死んでいることを教えられて無駄だと言われた。

 

 

 

 

 

 

■、■■■……■(た、すけて……て)……■、■■■……■(た、すけて……て)

 

「オギャァァ」「オギャァァ」「オギャァァ」

 

ソレが生み出した赤ん坊達を抱き抱える。

 

「……………………」

 

いっそのこと全て破壊してしまおうか。

そう思って稼働中に入ってしまったのがいけなかった。産まれたばかりの赤ん坊達は、普通に産まれてきた彼らと見分けがつかない。

 

「どうしたら……いいの?」

 

分からない。けど産まれてくる命を蔑ろにすることは出来なかった。

 

■、■、■■■……(た、す、けてた……)

 

 

「おぎゃぁぁぁぁ!」「あ、ぁぁ……よしよし!どうしましたかぁ?」

 

私はその声が聞こえないふりをして目の前の赤ん坊をあやし続けた。

 

頭がどうにかなりそうで、涙が溢れる。

 

「きゃっきゃっ」「ごめんね……ごめんね……」

 

竜になっても私は無力だ。女王の肩書きも彼女を助けるには何の力にもならなかった。

 

せめて彼女が苦しまなくて済むようにと、繁殖が可能となった人たちに向けて出来る限りの政策を打ち出したが、ブリテンの最後まで工場の灯りが消えることはなかった。

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