オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「見ての通り牙の兵団は全滅…………手綱を握れなかったお前の落ち度だといえ災難だったな」
「はっ。おっしゃる通り此度の件の責は全て私にございます」
「とは言え、部下を失った恨みもあるだろう?暫くはオーロラと顔を合わせないように取り計らってやる」
「いえ。オーロラ様には牙の誇りを守っていただいた感謝の念こそあれ、恨む気持ちなど一切ございません」
「誇り、か……」
「どうか下手人の始末は私にご命令を」
水鏡でグロスターのことの成り行きを見守っていたモルガンとライネック。
本来はライネックからの嘆願を受け、雷の一つでも落としてやるかと思案していたモルガンであったが、その必要はなくなった。
「よかろう。部隊の再編成の傍らお前で探せ。どうせ取るに足らない虫の甘言に惑わされたのだろうが……見つけ次第、嫌というほど令呪でも刻んでやればいい」
「感謝いたします」
幸いにも百年周期の厄災は終わったばかり。次の厄災までに牙の兵団も新設されるだろうと、モルガンの中ではもう今回の事件は終わったも同然であった。
「それにしても、あのオーロラが……自ら」
ライネックが退室し、思考に耽る。
今回気になることがあるとすれば、オーロラ自ら牙の兵団の打倒に名乗りを上げたことだ。竜の得体があれば万が一にも負けることはなかったとは言え、あのオーロラにはしては随分と……アッサリしている。
魂への損傷を最小限に、次代へのバトンを途絶えさせないようにと、一瞬で牙の兵団の命を狩り尽くしたのには確かに慈悲を感じたが、これだけの短い期間で対話ではなく武力による制圧を試みるとは思わなかった。
(…………変えてしまったのか、私が)
それが最善だったから自分で動いた可能性はある。だがもし救世主トネリコが率いていた円卓の
私の英雄を汚してしまったと、一生自責の念に苦しめられる。
これが少し前なら、それが当然だと受け入れられたのだろうが、オーロラは私を頑張ったと認めてくれて愛してくれた。
憧れのヒトからそんなことを言われて嬉しくないわけがない。
だから、あれはお前のせいだったのかと憎まれ、失望されたくなかった。
(大丈夫だ……救世主は死んだ。魔力パターンも姿も変えている……バレるわけがない……)
円卓の皆に毒を盛った愚かな妖精にトネリコの姿を着せ、それが周囲の妖精に嬲り殺しにされることで救世主の物語は終わったことになっている。
そんな分かりきったことを確かめるように自分に言って聞かせた。
まるで親に叱られるのを怖がる子供のようだが、その通りだった。最初にして最後になるかもしれない縋れる存在に突き放されることをモルガンは本気で恐れていたのだ。
(それに……顔を合わせたことのあるライネックについて何も言っていないんだ。案外バレても誠心誠意謝れば…………いや、憎んでいるからか?憎んでいるから牙の兵団を何の躊躇いもなく手にかけることが出来たのか?)
だとしたら、ソールズベリーを滅ぼすことに決めたトネリコは彼女にとってどのような存在だろうか。
愛した存在を何百何千と殺しておいて、許して貰える方法など思い浮かばない。
(…………)
あの戦争の記憶は消している。だが何かの拍子に顔を思い出したりするかもしれないと、モルガンは認識阻害を付与したベールを召喚し、顔を隠した。
歪まずいつまでもキラキラと輝いていてほしい。
歪んでしまってもどうか私のことを嫌わないで。
濁った瞳で星を見ていた。
冬の女王は今日も己の罪から目をそらし続ける。
悪い虫がたかるその時まで。
▽▲▽▲▽
オーロラは竜になった時からずっと違和感があった。
頭の先から足のつま先まで、ワンサイズ小さい服を着ているような窮屈な感じがする。
最初は長い期間眠っていたから、身体が凝り固まっているせいかと思ったが、どうにも改善する様子がない。まさか成長痛?なんて身長や体重を計ってみたが、変化はない。そこで竜になったせいなのかとメリュジーヌに尋ねてみれば、「あぁ、人型って小回りが利いて便利だけど窮屈だよね~」と竜共通のあるある話であったことが判明した。
「別に不便になるわけじゃないから構わないけど……これって、もしかして竜形態とかあるの?」
「あるよ。と言うかそもそもそっちが本来の姿なんだ。オーロラは後天的に成ったから違和感がすごいのかもしれないけど、こういうのは慣れだよ慣れ」
「なら、竜形態の成り方を教えてくれないかしら?」
「いいよ。でも絶対僕がいる所でならないでね」
「どうして?──いえ、待って。たまには当ててみたいの。…………ずはり!竜になった姿が性癖にドストレートすぎて我慢出来る自信がないからね!」
「何当たり前のことを言ってるんだい?僕が我慢出来ないこともそうだけど、問題なのは竜になった君だ」
メリュジーヌはやれやれと首を降った。
「竜ってのは変に血統に五月蝿くってさ。混血やワイバーンなんかはゴミクズ扱いで、今の僕みたいな半妖精なんてものを見たら反射で殺そうと動くんだ」
「ん?でも私も元は妖精よね?」
「元は、ね。少なくとも今の君を構成するものに不純物は一切混ざっていない。もう一度言うけど、純度の高い竜ってのは半端ものを許せない変な本能に縛られる存在なんだ。だから君の竜の側面を強くしたら、さぞ僕はおぞましい害虫のように見えるんじゃないかな?」
竜になる方法は意外にも簡単で、真名を叫べばいい、それだけ。
ただ君とは殺し合いをしたくないからくれぐれも僕の居るところで竜になったりしないでおくれよ?と念を押され、試す機会は今の今まで全くなかった。
「オーロラ様。雨も降りそうですし、そろそろ元の姿に戻られては?……その姿では入れる建物もありませんし」
「うーん。そうねぇ……」
そして成ってしまった後で気付いたが、成り方は教わったが、戻り方は教わっていなかった。
(……あぁぁぁ本当だ。思い浮かべただけで捻り潰したくなる)
あの変態、ではなく穢れた血を宿した竜の紛い物を一刻も早く滅したいという欲求が膨れ上がって、モルガンに掛けられた感情抑制で抑えられるというエンドレスの戦いが心の内で盛大に繰り広げられる。
まだギリギリ、トネリコの感情抑制が勝っているようだが、考えただけでこれだ。実際にメリュジーヌに会ったらどうなってしまうかはやらなくても分かった。
ポツリ、ポツリと振りだす雨粒に身体を震わせながら、オーロラはゆっくりと現実を受け止めた。
「…………詰んだ」
※この後、三日ぐらいかけて自力で元に戻った。