オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
ソールズベリーのインフラ整備はオーロラが莫大な魔力にものを云わせて整えている。
飲み水も排水処理も、ガスも街の街灯も、魔力から電気エネルギーに変換するというイメージだけは再現出来なかったが、おおよそ近代レベルの生活基盤は出来上がっていた。
基本的に罪を犯して罰することはあっても、税などを取ることはないソールズベリー。そこに類を見ない娯楽の数とくれば桃源郷のようだとよくヒト達に言われる。
だが、それだけだと働かない6妖精のような存在が量産されるだけなので、ただ一つだけ街に永住するには条件があった。
その条件と言うのが街で働くこと。
これが思いの外難しく、まず街が運営する学校に通わなければならないが、学費がそこそこ高い。在学期間は例外として街に滞在することは許されているが、街の外と中とでは物価の桁が違うため、貯蓄を切り崩して卒業まで乗り切ることはまず不可能とされている。
その為、バイトなどで稼ぐ必要があるのだが、骨の髄までワカラサレタ住人達とは違い、自由奔放な外部の者を街の住人は信用していない。
下手に招き入れて、冗談で店を燃やされたらたまらないと、街のヒトの推薦でもなければ外部のニンゲンなどを雇う所はない。なので入学して初めてするべきは友だち作りだと言われていた。
「ここが……ソールズベリー」
その日、淡い桃色の髪色をした風の氏族の少女が門を潜った。
新しい新生活。期待を胸に大量の教材と私物を積めたリュックを背負って、街のパンフレットを広げる。
「えっと学園までは……バスで向かえばいいのですね」
ほぼ街の中央にある学園の付近にはバスの停留所があり、どこにいても学生達が通学に苦労することがないように、街中のどこのバス停でも通ることになっているらしい。
丁度時間帯もよくバスに乗り込むことが出来た彼女であるが、早速の関門に「げっ」と言葉を漏らした。
「バスの料金だけで、グロスターの五倍……」
彼女は元々はグロスターで生まれた妖精であり、ソールズベリーのパクりが多いグロスターにもバスはあった。
だが、通常料金がバカみたいに高く、節約して歩いて行くべきかどうかの選択を叩きつけられたのだ。
「どうした嬢ちゃん?乗らんのかい?」
「いえ、乗ります」
一瞬の葛藤。重い荷物もあるし、知らない街を探索するのは少し怖い。だからここは必要経費だと思って乗り込んだ。
「……ふわふわです。もしかしたら五倍の価値はあるのかも」
「あれ?もしかして貴方、学園の生徒?」
「えっ、あ、はい。グロスターから引っ越してきまして、今年から通うことになってます」
そして高いだけあって静粛性、乗り心地と完璧なバスが動き出してすぐ、隣の席の年若い少女に話しかけられた。
「うわ!偶然!私もなんだ!私の名前はフレイだよ!」
「そうなのですか。私の名前は
「コーラル!私はフレイだよ!」
「それはさっき聞きましたが……」
「私、私!この街の生まれでね!いつか外の街のヒト達とも友だちになりたいって思ってたの!もしよかったら、私の友だちになってくれない?」
「友だちに……えっと、それは」
圧の強い彼女に圧倒される。
見たところフレイは人間のようで、コーラルの同級生になるらしいが、いきなり友だちになろうと言われては困惑してしまう。
(ですが、彼女に紹介して貰えばバイト先の斡旋も……うーん。流石にあって直ぐのヒトにそんなことを頼むのは憚れます)
「ダメかな?」
「いや、ダメではないんですけど……何と言うか唐突すぎて」
「あ、ごめん!急に言われても困るよね!もっとやり取りっていうか……自己紹介するよ!」
フレイは第一世代の人間で、育ちは施設。
親代わりは何とオーロラで、名前も彼女に貰ったらしい。
もしかしてとんでもなく高貴なお嬢様なのでは?とコーラルは畏まったが、施設の子供の大半はそんな感じなのだという。
オーロラはこの街の人間にとっては母のような存在であり、同時にあらゆる厄災から自分達を守ってくれる父のような存在であると。
ちょっぴり妖精嫌いなのは玉に瑕だが、寝るときはいつも隣で子守唄を歌ってくれるオーロラが大好きだと照れるように言う。
「学園でいっぱい友だち作るってオーロラ様と約束したんだ!でも勉強も頑張らないとね、って言われて……それが不安」
この街の人間はほぼ強制的に学園へ入学させられるが、フレイは勉強が苦手で、施設で習った読み書きも一番覚えが悪くて苦労していたそうだ。
「でもでも!コーラルは主席なんだよね?」
「あれ?何でそれを?」
コーラルはソールズベリーの学園に通う為に並々ならぬ努力を重ねた。そのかいあって主席の座を勝ち取ったが、確か一般公開はされてなかった筈だ。
「この街以外のヒトが珍しく主席で入学してくるの。ってオーロラ様が話してたんだ。外から来るヒトは少ないからコーラルのことかなって。何か頭良さそうだし!」
つまり鎌を掛けられたという訳だ。
本人曰く勉強は苦手だそうだが、こういう駆け引きは才能があるかもしれない。
「それは、えっと……ノートを写させて欲しい的な友人関係をご所望でしょうか?」
「いやいや!そんなことしないよ!?してくれたら嬉しいけど、君の努力の結果じゃん!」
「では何故、会ったばかりの……それも外から来た妖精と仲良くなりたいと?自分で言うのも何ですが、信用ならないのでは?」
この街では事件も事故も滅多に起きないが、その滅多に起きる原因の四割が外から来た妖精達が元凶となっている。
コーラルは知らないが、学園などあるのだから外の妖精がいかに危険な存在であるかは小さい頃から教えられているのだろうと思っていた。
妖精歴まで遡れば、とある妖精が率いた兵団に街を滅ぼされる一歩手前までいったというし、本来なら差別的な対応をされると覚悟していたのだ。
「なんだろう。直感でさ、君と仲良くなったら毎日楽しそうだなって思ったんだ」
「そんなあやふやなもので?」
「うん。私ってバカだからさ。スパイとか裏切りとか、そういう難しいことはよく分からないんだ。ただ仲良くなったヒトがこの街に悪いことをするのは悲しい。でも決めつけだけで、このヒトは悪いヒトかもしれないから距離を置いとこうって考えは寂しいと思うんだ」
「」
警戒心というものが欠如している。
会ったばかりのコーラルがそう判断するぐらいにはフレイという少女はお人好しであり、放ってはおけない不思議な魅力があった。
「分かりました……ひとまず友だちということで」
「本当!?これからよろしくね!私の名前は──」
「フレイ。もう覚えましたから復唱は結構です」
自然と笑ってしまう。
それからフレイと学園生活を過ごし、バイトをし、オーロラの側近として仕えることになるコーラル。
第一世代という人間の中でも特に限られた生を生きる少女との出会いと別れを経験したからか、人間牧場の反対派の顔としていずれ有名になっていくのだが、まだ何も知らない彼女達にとってそれが知られるのはまだまだ先のことだった。
「コーラルはなんでうちの学園に通おうと思ったの?やっぱり永住権が欲しくて?」
「いえ、私は勉学が好みなのですが……グロスターの学舎が変に偏っていたので、こっちで本格的に学ぼうかな、と。卒業後はまだ考えていませんが、グロスターに帰ることになっても卒業証明さえあれば街の出入りや、色々な教材の割引が効くそうなので定期的にソールズベリーには訪れようと思っています」
「なら〝学者さん〟っていうのになればいいよ!勉強してお金貰える仕事をいつか作るんだってオーロラ様が言ってたんだ!」
「それは夢のある話ですね」
「勉強に興味があるってことは歴史にも興味あるよね!今度街を紹介してあげるよ!」
いつかのソールズベリーの話。
時期は不明。
ただ卒業したらオーロラは全力で囲った。