オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
オーロラ特化型厄災
女王歴500年。
結局北の氏族のいざこざは牙の兵団の暴走で有耶無耶になってしまい、約束の時が過ぎてもマヴは変わらず氏族長として毎年の氏族会議に参加していた。
「さて、今回集まってもらったのは他でもない。ソールズベリーで行われる誕生祭のことだが、」
あの事件から顔ぶれは変わりなく、一時は兵団を失ったライネックも再編成を終え、前回の厄災では一役買った。
氏族長ではないが、全体のまとめ役として普段は黙して静観し、時たま声をあげては無理難題を押し付けるモルガンは珍しく興奮した様子で司会役を名乗り出た。
「オーロラの話によると、女王歴500年を祝して大々的に開催するらしい。当然、各氏族の代表であるお前達も招待されているだろうが、オーロラは表向きにはこの國の女王だ。労働に勤しみ、税を捧げるべき民であるお前達に一方的に搾取されるというのは見るに堪えない。あぁそうだ。昔から彼女は甘すぎる。それが役目とはいえ、報酬はあってしかるべきだ。そこでお前達は各氏族を代表し、オーロラに貢ぎ物を捧げよ」
この手の場合。だいたい面倒なことになる。
オーロラに相談もなしに王位を譲り渡したのもそうだが、今回はそこまで理不尽な内容ではないと氏族長達はホッと息をついていた。
「それなら、まぁ」
「元々そのつもりだったしのぅ」
「誕生日ですもんね」
「被らないようにどんなものを送るか決めておきましょうか?」
この中で、特にオーロラと関わりの深いサラマンダーは誕生祭でプレゼントを贈り、贈られの関係をずっと前から築いていた。
シルフはいわずもがな、ムリアンは何を贈ろうかと考える。
オーロラのことだ。何を贈っても喜んでくれるだろうが、不思議と本気で喜んでくれている時と気を遣ってくれている時は分かってしまう。
オーロラに本気で喜んで貰うとポカポカと胸のうちが温かくなるのだ。搾取するだけの妖精だがその時だけは奉仕の喜びを感じられるような気がする。
だから折角贈り物をするなら本気で喜んで貰いたい。
前回喜んで貰えた時はアクセサリーだったが、それを繰り返すとダメになった。多少時間を空けたとはいえ別の物を渡すべきかと考えて、ライネックが神妙な面持ちでモルガンに耳打ちしているのが目に入る。
「なんと、正気か?」
「はい。これを以て六百年前に犯した我ら牙の兵団の行いのケジメをつけようかと」
何やらかなりの物を贈ろうとしているらしい。
これは不味い。とムリアンは警戒心を抱く。プレゼントと言うのはインパクトが大切だ。誰が最初に渡すか分からない以上、自分のが一番派手で喜ばれるものでありたかった。
「そう言えば、こういう時って鏡の氏族は便利ですよね」
「え?」
何を贈ればいいか悩ましいが、事前にその未来が分かっているなら悩む必要もないだろう。
ムリアンが話しかけたのは、鏡の氏族の長であった。いつものほほんとしていて会議中であるのにも関わらず欠伸を噛むようなのんびり屋だが、鏡の氏族と言えば未来を予知出来る能力がある。その余裕も未来が分かっているからではないだろうか。
「そう、ですね……オーロラ様に喜ばれる貢ぎ物…………うーん。これはこれは、不味い。オーロラ様、死にますね」
「「「は?」」」
▽▲▽▲▽
もしかしたら、もうやるべきことはなくなったのかもしれない。
女王歴500年だ。
予想していた王の氏族の離反も起こらず、形ばかりの王位を賜ってから500年。
最早恒例となってしまった誕生祭の準備を進める傍ら、オーロラは懐かしい物を取り出していた。
・演技力の向上
・自警団の設立
・街の発展
・メリュジーヌ
オーロラになったばかりの頃、これだけはやらないとと書き出した目標であるが、それを全て達成していたのだ。
演技力に関しては、もう『俺』だった頃の感覚を忘れているぐらいだし、無理だと諦めていたメリュジーヌは側に居てくれている。
それにモルガンが玉座のシステムを使えるようにとオーロラでも分かるように魔術式を書き換えて貰った。
誰でも操作出来るというわけではないが、オーロラが問題なく作動出来るように調整されており、ロンゴミニアドも使えるのだ。
これはあくまで例えだが、メリュジーヌにモルガンを抑えて貰い、その間に玉座を操作すれば簡単に妖精國を火の海にすることが出来る。そうしないのはメリュジーヌに諭されて、どうせ滅びの運命が決まっているならそれまで頑張ろうと奮起したからだ。
やっと半分過ぎたところであるが、ここからすることがまさかの待ちのみであることに気づいて、ちょっと目眩がした。
「オーロラー!この荷物はどこに移せばいい?」
木箱を抱えたメリュジーヌがやってきた。
「それは、倉庫の方でお願い。あと運び終わったら庭の手入れをしているヴィヴィアンを呼んできて。三人でお昼ご飯にしましょう」
「うん分かった!」
現在、オーロラの屋敷は大掃除中である。
定期的に掃除するようにしているが、氏族長たちを招いてパーティーを開くので、あらかじめ壊されそうな物を隠しているのだ。
「ぎゅいぎゅい!」
「きゅきゅっ!」
「むぎゅむぎゅ!」
「そうね。貴方達もご飯にしましょうか?」
隠すと言えばこの子達もそうである。
芋虫型、カブトムシ型、蛾型と小さなケースの中で元気よく飛び回る虫の妖精達。普段はモルガン避けに住まわせていて、放し飼いにしているが、錯乱したモルガンに殺されてはたまらないと、ムリアンに特注で頼んだ虫かごの中に匿っていた。
「オーロラ!呼んできたよ!」
「お待たせしました」
テーブルを囲い、バスケットからパンと具材の数々を取り出していく。
「不思議ね……」
今ここに、この國の主戦力である妖精騎士が二人もいる。
正確にはまだ違うが、果たして彼女達がモルガン側につくのだろうか?
オーロラは思う。
バーゲストは仕方ないにしろ、メリュジーヌは何故か着名しなくても平気だしヴィヴィアンも現状どうこうあるわけではない。
魔力の低い下級の妖精の為、一画だけでも令呪の徴収に耐えられないと心配していたが、ちゃっかり彼女の令呪だけタトゥーに入れ替えられていた。
一度誤解が重なり、二画になっていた時もモルガンが直々に刻み(刻むふり)にきていたし、彼女からは魔力を徴収する気はないのだろう。
何もしなくても百年で死ぬ妖精はいるし、私のようにずっと生き続ける妖精もいる。
ヴィヴィアンのまま彼女がどこまで生きるか分からないが、もしカルデアにバーヴァンシーが召喚されないなんてことになったら……モルガンにその分頑張ってもらうしかないだろう。
ブリテンを諦めてでもたった一度でいいから幸せであれと願った少女が選んだ道だ。
モルガンへの嫌がらせのつもりで幸せにしてやろうと思ったが、彼女の優しさには幾度となく助けられた。
もう妖精なんて全員滅ぼせばいいんじゃないかと思うことはあったが、彼女のような妖精がいるならと何とか踏みとどまれたのだ。最後まで彼女には辛い思いはしてほしくないと私も願っている。
メリュジーヌは尻を蹴って無理やりにでもカルデアの手伝いをさせる気ではいるが、私は……どうだろうか。
何かの間違いでカルデア一行の船に乗ることになったら、なるがままで力を貸してもいいが、このブリテンでちゃんと死ねたならあの子達がいる天国にそのまま行ってしまいたかった。
「オーロラ!どうだいこのホットドッグ!会心の出来だとは思わないかい?特にこのソーセージがオーロラの口に入ると思うと!」
「くそビッチが!メシの時に下品な妄想してんじゃねぇよ!」
「前々から思ってたけど、キミ僕の時だけ当たり強くないかな!?」
わちゃわちゃと平和な光景が目の前に広がる。
ずっとこのままならいいのに。
もしその気になれば、私は原作知識を駆使して……オデュッセウスがドン引きするぐらい卑怯な手を使ってカルデアを潰すだろうと柄にもないことを考えながら珈琲に手をつけた。
(でもそうね。どうせ滅びるにしてもなかったことになるのは悲しいもの……一冊の本にでもまとめてカルデアに渡すぐらいなら許されるかしら?)
「さて、昼御飯も終わったし、もう一踏ん張りね!」
「はい!」
「頑張ったらご褒美を期待するよ!」
思えば何で気付かなかったのだろう。
これだけ予定調和を乱して、救う価値のない妖精達を無理やり矯正して、ごみ溜めの世界を少しばかり綺麗に取り繕っても、この國の悪性は変わらない。
いや、たとえ善意でこの國を包み込んだとしても、アレは変わらずこの大陸をなかったことにしたくて仕方がなかった筈だ。
思い返せば、妖精歴の頃。アレの悪意は何度も私に向いていた。
厄災が不自然な頻度でソールズベリーを襲い、ロビンという騎士はある日、恐ろしく強い人型のモースに襲われ、辛くもそれを迎撃したことがあったらしい。
ロビンとダフネを殺した犯人も分からなかったが、状況証拠から厄災絡みだと結論付けた。
オーロラという異物は間違いなくブリテンを滅ぼす上で障害となる。とっくにそう見られていた筈なのに女王歴になってから平和な日々が続いていた。
それを諦めたのかとオーロラは楽観視していたが、彼女は知らない。
「オーロラ様!オーロラ様!あぁオーロラ様!良かった、また会えた!……こんな感じでいいかな?たまには動かさないと腐っちゃうから、面倒で困るよね」
とある穴蔵。ボロボロの衣服を纏った少女が自らのコンディションを確かめるように体を動かす。
「声はこんな感じ……私です!アンです!……う~ん。こんな事言うキャラだっけ?感動の再会ってよりも、もっと普段話すみたいに近づいて、いきなりグサッてやった方が効果的かな?」
いつでも消せる段階になったので放置されている、その事を。