オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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獣の加護

「ええっと、画材はあそこの倉庫に、それはこっちにお願いします!」

 

 

その日はバタバタとヒトや物が行き交っていた。

 

「ありがとう。こんなに手伝ってもらっちゃって、でももう大丈夫だからムリアンも休んで……」

「いえいえいえ!ご心配なさらず!この日の為にドリンクをキメてきてますから!」

 

 

誕生祭。

一体いつからやりだしたのか。初開催の日の出来事はもう覚えてはいない。だが妖精歴から女王歴現在まで、すっかり恒例行事となって街を挙げてのお祭りになってしまった。

大言壮語にもオーロラの生誕を祝う為に開催される年に一度のお祭りだと言われているが、切っ掛けは些細なもので、年に一度ぐらいは大きなイベントがあってもいいだろうと思ったのが始まりだった。

 

一回目が好評だったので、次も翌年も気付けば数百回。

オーロラ個人が人間だった頃の記憶を頼りに遊具などを大量に生み出してヒトたちに遊ばせる。それから各々が出し物や出店を出して自然と金の流通を加速させるようになり、今では興行としてそれなりに価値のあるものになっていた。

 

女王歴になった時には体制的にも自粛した方がいいんだろうかと考えることもあったが、「やらんのか?」とモルガンから謎に圧をかけられてここまで続いている。

聞けばオーロラが休眠していた期間もメリュジーヌが取り仕切って開いていたらしいので本当に途切れたことがない。

もはや妖精の國としては唯一にして無二の伝統ある文化だ。

 

これだけ続けば、続けることにも誇りのような物を感じるもので、今年もこの時期が来たかと女王としての仕事は休みを貰って、いつものように準備を整えていた。

 

 

そんな時である。ムリアンが手伝うと名乗りを上げた。

日頃の礼と言われたので最初はありがたくしていたが、寝ずに夜通しで、それも悪魔のドリンクを大量に抱えている状況と言うのは異常と言う他ない。

 

「そんなこと言って、三日も寝てないじゃない。上級妖精だからって少しぐらいは休まないと」

「いいんです!むしろ今が私の全盛期ですよ!ぶははは!!!!お空きれい!!!」

 

言っても聞かず、ぐびぐびとドリンクを呷る彼女。充血した目が爛々と輝いていた。

……これは完全にキマッている。悪魔のドリンクに副作用はない筈だが、まるで薬物中毒者だ。

 

無理やりでも休ませてしまいたいが、最近になってようやく発現した周囲の存在をレベル1にするという彼女の妖精領域。まだ発現したばかりで安定していないのか範囲こそ狭いが、オンオフ出来ない常時解放型であり、この屋敷ごとすっぽり範囲に含まれているので、力尽くという訳にはいかなかった。

 

 

「もっとゆっくりやっても誕生祭には充分間に合うわ。早く終わらせたいなら私も…」

「あ、こんな所に悪魔のドリンクが!いただきますね!」

「もうっ」

 

 

私が取り出した悪魔のドリンクをかっさらい、飲み干してしまう。

自分の分はまだ大量に残っているというのに、私が飲もうとしたものをわざわざ奪った。

場合によっては三禁に当てはまるかもしれない危険な行為だ。ここら辺の判断は各街の裁量に任せているが、領主にだって効力は適応される。

ムリアンはこんな考えなしなことをするような妖精ではなかった。

 

意地でも私を働かせたくない理由でもあるのだろうか?

 

少し考えてみるが全く心当たりがない。

 

「これ、パンに染み込ませて食べれば一石二鳥では!?私ってば世紀の大発見をしちゃったかもしれません!――あうっ!?」

 

じゃぶじゃぶとエナドリの海にパンを沈めて啜り食らう、何とも恐ろしい姿に背筋を凍りつかせた。

流石に怖くなり、範囲外からの狙撃で気絶させてベッドに寝かしつけたが、どうしてこうなったのか理由が気になって久しぶりに風の知らせを使って調べてみることにした。

 

私が竜となってからどうにも勝手が変わり、扱い難くなった風の氏族の特性であるが、"オーロラ"であるからかまだ使えはする能力だ。

風の届く限り、誰がどこで何をしているか、声を拾ったり運んだりすることが出来る。

諜報向けだが、自身の声を拡張して拡声器代わりにも出来たり普通に電話の代用にもなるなど何かと便利な能力で風の氏族だった頃は重宝していた。

 

試しにこの街で似たような事例が起こっていないかと網を張ると、瞬く間に不穏な会話をキャッチする。

 

 

『見付けたか?』

『いや、それらしい物は……しかしあの方を殺せるものなど本当にあるのでしょうか?あの方が倒れるとしたらそれこそ団長か陛下ぐらいしか』

『やめろ憶測で語るな。俺たちの任務はオーロラ様の脅威となるものの排除だ。なければないで最悪いい』

 

 

どうやら牙の兵団の一兵卒らしい。

 

『ハァ……こっちの騎士団のヒト達とも連携はとるなって言うし、()()牙の兵団が裏切るんじゃないかって街のヒト達がピリピリして嫌なんですよね』

『まぁそういういざこざのない誕生祭でこれだからな。気持ちは理解出来る』

『早いとこ終わらないかな……』

 

武器は持っていないが、街の警備途中だろうか?

この街には独自の警備体制が敷かれているので、普段は彼らの手を借りることはないのだが流石にヒトも物も増える誕生祭となると手を借りることになってしまう。

だから彼らが兵団員として街のパトロールに出ることは珍しくない光景ではあるが私の脅威となるものの排除とはまた変に具体的な指示が出されているものだ。

 

これまで私の命を狙う存在が全くいなかった訳ではないが、これでも空いた時間に鍛えてはいるのだ。最近ではメリュジーヌに剣を「つまりそういうことだね!キミはボクの鞘!」「黙れ」を習っているし、竜となった今では、モルガンやライネックでなければ傷をつけることすら厳しいだろう。

 

それに私を殺そうとする規模の魔術や技を繰り出そうとすれば、それこそメリュジーヌが飛んでくる。あれは性欲にこそ素直だが、強さは本物だ。

 

流石に今のブリテンに竜種を二体相手取れる存在なんていない。

まず私を殺そうと思うなら力技は諦めるべきだろう。

 

ならば私を殺したいと考える存在はどう動くか?

妖精等という際限なく増える悪意の一つ一つを考えて対策していればキリがないため、ケルヌンノスが蓋をして抑えている『呪い』ならどうするか。それを考えてみると、私の信頼しているヒトを裏切らせて、背中からアゾるか、それかノクナレアの時のような毒を用いた手段だろう。

 

まだこの段階の『呪い』は力技でどうにか出来ると思っている頃の為、オベロンの時ほど策略や謀略には長けていないと思うが、メリュジーヌやヴィヴィアンがいきなり竜殺しの聖剣なんかで貫いてきたら避けられそうにない。

 

Fate/Grand Orderにおいて竜属性は弱点特効の負けフラグ。

こんな言葉が脳裏に浮かぶ。

実際それでウーサーには殺されかけたらしいし、聖槍ロンギヌスはライネックが持っているらしいが、盗み出されて使われたらかなりキツイ。

 

……もしかして聖槍が盗まれでもしたのか?

 

それならこのピリピリ具合も分かる。と言うかそのレベルなら早急に相談するべきだと思うが、まぁそこは妖精クオリティ。

 

都合が悪くて黙ってる可能性もあると、更に風の知らせの網を広げる。

 

『もし、そこの娘。この顔の周りにヒゲが生えたネコさんはパンダさんとは何が違うのですか?』

『これはライオンって言うんだよ!パンダよりも速いの!メダルを沢山いれるともっと速くなるの!』

『なんと!い、いえ今はこのような物に惑わされている時では』

 

モルガンは動物カーのコーナーでライオンさんを興味深そうに見ていた。

 

『ふぃ……完成したのぅ』

 

サラマンダーは美術館で手掛けた彫刻の完成を喜んでいた。

 

 

『もう!まだ見つからないの!?この、これぐらいのヒトのメスよ!』

『申し訳ありません!何せここはソールスベリー!ヒトの母数が違います故!』

『早く見つけないと……!』

 

マヴは何だが落ち着きがない。何か今回の件に絡んでいるのだろうか。

 

『ふぃ……もう駄目だよ。動けないよ』

『いい加減にして下さい!あなたがいないと始まらないんですから!』

 

風の氏族の長であるシルフと、確か今代の鏡の氏族の長。

どこかジナコに似てるなぁ……主にだらしない脇腹と、怠け癖のある彼女はシルフに引きずられてどこかに連れていかれているようだ。

 

 

 

『ハァ……ハァ……』

 

 

そして本命であるライネックは……息が随分と荒そうだ。

 

怪我をしている様子ではないが、疲労困憊のよう。町中を駆けずり回りでもしたのか?

今すぐにでも尋ねたい所だが、彼自身が血迷って私を害そうとしている可能性もある。

大事を取るならメリュジーヌを傍に置くべきだろう。

 

 

『オーロラ様ー!何処ですかー!』

 

 

 

 

やはり聖槍が盗まれてしまったのか。よりにもよってこんな記念日にと…………私は()()()聞いていなかった従者の声にピンとその場に立ちあがった。

 

この声は……アン?

どうしてあの子が……『ごめんなさい!迷ってしまいました!迎えにきてくださーい!』……あぁもう。こんな時に、あの子ったら。

 

 

アンは昔から方向音痴だった。どこに行っても何度同じ道を行っても迷ってしまう無辜の怪物や病弱みたいにバットステータスとしてスキル化しているんじゃないかと疑うレベルの重度の方向音痴。

だから良く風の知らせで探して迎えに行ってあげていたんだと、何故か懐かしい思いになりながら、私は竜の速力で一気に彼女のもとまで駆けつけた。

 

 

「えっ?何でアンが生きてるの?」

 

いつもの事だった。けれどそれは九百年も前の話だ。

アンは、アンと暮らしていた当時のソールズベリーは秋の戦争で滅んでいる。

けれど、長寿の種族としての感覚と人間としての感覚の齟齬が邪魔をして、思考が一手遅れてしまった。

 

「あはっ!チェックメイト♪︎」

 

アンの姿をした何かが嗤う。振りかぶった短剣……それはギリギリ避けられたが、彼女から噴き出した黒い靄が私を覆った。

 

 

 

『ヌンっ!』

 

 

 

 

「へぇ?――――ぴぎゃ!?」

 

 

何かの毒。もしやモースの呪いかと目を瞑ったが、グシャリと何かが潰れるような音がして、目を開けると、そこには何もなかった。

 

「…………」

 

考え過ぎていたせいで白昼夢でも見たのか?

 

魔力の痕跡すらないものだから、まさかこの歳になってボケたのかと……普通に怖くなったので考えるのを止め、屋敷に帰った。

疲れてるだけ、まだボケる歳ではないんだ……そう言い聞かせてベッドに潜り込む。既にムリアンがいたが大きなベッドである為気にならなかった。

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