オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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鉄を打つのを止める時

「ふぃ…………完成してみると、呆気ないもんじゃのぅ……」

 

その日、サラマンダーは百年に及んだ大仕事をやり遂げた。

 

50人は軽く収容出来るであろう、ホールのど真ん中。筆にパテに絵の具と大量の画材が所狭しと厚みのある布の上に並べられている。

 

ちょうど百年ほど前。公共事業の一環で造られたソールズベリーの大聖堂に壁画を描いてくれとオーロラに頼まれたのだ。本来ならもっと早く、そして自分ではない誰かを讃える為に造る予定だったらしいが、不都合が起きておじゃんになったらしい。それを今さらながら建てたはいいものの中身がいつまでも空っぽなのは悲しいので……好きに描いてくれと言われた。

 

これほどのキャンバスだ。出来によっては後世に語り継がれることになるだろう。

それはオーロラ以上に長く生き、最早次代に切り替わるのは目先の問題であった彼にとって遺作にして集大成を飾るには相応しい舞台であった。

 

出来上がった壁画、そして頼まれてもいないのに何百回と作り直してやっと満足のいく出来になったオーロラの等身大の彫像を眺めて、どっぷりと地面に座り込む。

 

誕生祭には間に合わないと思ったが、ギリギリ間に合った。

 

最近では物忘れが酷くなり、自分の名前すら出てこない時があるが、やはりこれだけは忘れないと出来上がった彫像を満足げに見つける。

 

 

「うむ。ツノと翼を付けるべきだと言われたがオーロラはやはりこっちのが似合っとる」

 

サラマンダーが描いたのは風の氏族時代のオーロラだった。

しかもまだ翅も萎れていないホムロに出会う前のいわば妖精オーロラの全盛期の姿である。

この美しさに自分は脳を焼かれたのだ。

今の姿がこの時より劣化したとは欠片も思っていないが、当時受けた衝撃はそれだけ凄まじかった。

 

実は好きにやってくれと言われて先ず取りかかったのがこれだ。だが当時の姿を知るものはもう殆ど残っておらず、翅の萎れていない時期に関しては自分ぐらいしか覚えていない。そんなオーロラの姿は美しいが、あまりに馴染みがなかった。弟子達は皆が観るものなのだから竜になったオーロラにするべきだと反対したがサラマンダーからすればオーロラとはこの姿なのだと無理を言って通した。

 

我ながら歴代最高の出来だと太鼓判をおす。

ここに酒とツマミがあれば最高だが、聖堂にはそういったものは持ち込んではいけないそうなので、仕方なく鑑賞するだけに留める。

 

「はぁ……全く美しいのぅ」

 

恐らくこれを完成させた自分はいよいよ永くない。

この誕生祭の終わりまで持たないだろう。いや、むしろこんなに持ったのが不思議なぐらいだとサラマンダーは思う。

 

ただ鉄を叩く音だけがする火の消えない工房の中で、三百年ぐらい作品を作り続けてもいれば満足して勝手に消えていただろう自分が何の冗談か千年以上もしぶとく生き長らえている。

 

「……体が動くうちに手入れの仕方を仕込まんとな」

 

弟子も沢山取った。妖精の弟子はどうにも堪え症がなく全員辞めてしまったが、人間の弟子には自分に迫る作品を作るやつもいる。

だが寿命が短いことだけが難点だった。

自分が一端の剣を打てるようになったのは10年目を過ぎた辺りだったのに人間は15年は生きないと満足にハンマーを振れる大きさに育たず、それから僅か数年そこらで死んでしまう。だからその弟子が己で弟子を取って技を教える事も儘ならない。折角育てて良い鉄の音を打つようになったのに、それを誰にも引き継がせずにくたばった残念な弟子達をサラマンダーは何度も見てきた。

もともと、自身の創作意欲を刺激するために行っていた半分趣味のようなものだったので止めるつもりはなかったが、やはり同じ道を歩む者として同情はしてしまう。

あと100年とは贅沢は言わん。せめてあと10年は生きられんか。そう願わずも動けずにいたサラマンダーであったが、しかし最近はオーロラのお陰で70年は生きる人間が増えてきた。それだけ生きればその腕と知識を次世代に引き継がせて、気負いなく生涯最後まで研鑽することも余裕を持って叶う。

流石はオーロラだ。儂に……いや、儂ら鍛冶師にとって夢のような時代じゃ。

サラマンダーは弟子達の中でも、こういったことに得意な者の顔を思い浮かべながら目を擦って欠伸を漏らす。

 

 

……少し眠ろうか。

 

何、誕生祭が終わるまでは持たんだろうとは思うが、その誕生祭はまだ始まってすらいない。あと三日。そう後三日もあるのだ。それだけあれば儂の弟子達なら上等なアトリエ一つこさえている。寝ずに必死にやって完成まで漕ぎ着けたのだから少しぐらいは寝ても許されるだろうと大理石の上にサラマンダーは寝そべった。

 

 

 

 

 

 

 

少しして小さな寝息の聞こえ始めた、そんな彼の元に「こんな簡単に潰されて終われるか」と影が忍び寄る。

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