オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
どうせ死ぬと言うのなら 生まれないで欲しかった
全てが無駄になるというのなら その罪を別けて欲しかった
貴方は一人で居なくなった 妖精達の罪を背負って
あぁ愛しのヒト こんな想いを抱かせる貴方を私はそれでも愛します
あぁ愛しのヒト どうして貴方は人に生まれてしまったのでしょう
氏族長の会議にて当代の鏡の氏族長がオーロラの死を予言した。
会議中いつも寝ているかお菓子を頬張っているその妖精曰く、ソールズベリーの主にして妖精國の女王オーロラは誕生祭の準備の最中、虫の知らせにより出向いたその先で殺されるというもの。
あのオーロラが。よりにもよって誕生祭でだと?
六代氏族長達は何たることだと大層慌てたが、モルガンは今回の事についてさほど危機感は抱いていなかった。
それというのもモルガンが知る限りオーロラは二度、予言による死を覆している。
一度目の詳しい時期は不明だが、風の氏族から
二度目は……
本当の二度目は妖精歴最後に起きた大厄災の時だ。病魔の厄災と呼ばれるそれでオーロラは死ぬ筈だった。
無論、事前に分かっていたのだ。そこで死んでも蘇生させるつもりであったが竜の氏族から僅かに残った妖精の要素を捨て、竜として何気ない顔で彼女は再び姿を現した。
二度も死の予言を覆した。それは簡単なことではない。鏡の氏族が適当なホラを吹いていれば話は別だが、何故かあの妖精達は予言にまつわる嘘だけはつかない。
まさに百発百中であり、死の予言をされたものが絶望してモースに変容したこともあったが、それすら予言通りであったというのだから質が悪い。
鏡の氏族の予言とはそれだけ絶対であった。仮に明日死ぬと言わればどれだけ抵抗したとて無駄なのだから自分とて大人しく受け入れるしかない。けれどオーロラは死の予言の度に私では想像もつかないような方法で乗り越え、そしてヒト達を正しく導く先導者としてカリスマ性を見せていくようになった。
彼女本人が自覚しているか分からないが、楽園からも赦されている。もし楽園が私ではなくオーロラを送り出していれば数千年と言わず数年で鐘は鳴らされていたかもしれない。
そんな相手に期待するなと言われるのが無理な話。今はヴィヴィアンと呼ばれる妖精をオーロラが世話していると知った時、モルガンは女王として彼女が自分よりも優れている者だと確信した。
そして三度目の予言。その内容は氏族長達に共有され、なるべく予言の内容を変えない為にオーロラに情報共有はされず速やかに脅威だけを排除する方針で固まった。
……それはどうなんだろうとモルガンは一瞬思ったが、どうせ今回もオーロラが自分で何とかするだろう。と氏族長達の好きにさせてしまう。自分も動くことになったが、先ほど言ったように自身が動く必要性を見出だせずにいた。
むしろ自分が行動したせいで良からぬ事態を招いてしまうのではないかと過去のトラウマもあり、予言の指した『ヒト気のない薄ら暗い場所』からは離れ、なるべく明るい場所で散策していていた。
「もー1回!もー1回!」
「しかしですね……これ以上使うと財布の管理をしているライネックの冷たい視線が」
「もー1回なの!入れて!!!」
「ハァ……」チャリン
そして何故か現地の幼子と共にトラの乗り物で移動することになっていた。
メルヘンな音のなるトラの乗り物。一回1モルポンド。子供は随分とはしゃいでいるが、移動の手段にするには些か燃費が悪い。少し前の誕生祭で羽目を外してしまい経済を傾けかけた散財でオーロラから厳しいお叱りを受け、財布の紐をライネックに握られている身分としてはうっすら目尻に涙が浮かんでくるぐらいの痛手であった。
「でも……悪くはない」
「あれ、もしかしてモルガン陛下ですか?」
「そうですが何か……ヴィヴィアン。貴方ですか」
特に変装もしていなかった為、あと乗り物が乗り物の為(妖精の感性でもこれで移動するのは恥ずかしい)、かなり目を引いていたモルガン。この妖精國の『怖い方の女王』とは彼女のことで、露骨に距離を取られて、近づくのは怖いもの知らずの子供ぐらいであったが、そんな彼女に妖精が声をかける。
一体誰かと思えば、何とヴィヴィアン。彼女がついぞ自らの手で救うことの出来なかった妖精國の良心である。
「名前を覚えていてくれていたんですね」
「当然でしょう」
私が与えたのだから。喉まででかかったそれを抑える。
そもそも名を与えたのは彼女の先代であるし、それを次代の彼女が記録として持ち越し、好きで名乗ってくれているのは嬉しく感じるが、守ろうとして守れなかった者が何を今更……という自己への戒めである。
今の彼女を救ったのはオーロラで、ヴィヴィアンの名を与え、守ると約束をした憧れの妖精様とは縁もゆかりもない。
いや、オーロラは私の娘であるからして、オーロラがこの子を実の娘のように可愛がっているから...……私にとっては孫なのでは?
祖母が孫を可愛いと思うのは当然なのでは?
「あ、あのぅ……どうしたのでしょう?」
「え?あぁ、少し埃がついていたので」
気付けば彼女の頭を撫でていた。
「あー!ずるい!私も撫でて!」
「こら。ロリカ、陛下を困らせたらダメよ。ゴミを取ってもらっただけって言ったでしょ?」
「この子と知り合いなのか?」
「えぇ。お恥ずかしながらこの子の住んでいる孤児院で働いているのですが、何を言ってもよく聞かせられず、日々、実力不足を痛感するばかりです」
「そんなことはない。このぐらいの年齢の子なら元気があって当然。変に畏まられるよりこの方が私も好ましい」
「そうでしょうか……」
「そうだとも」「そうだもと!」
人間というものにはあの戦争以降、関心を持たないようにしていた。また絆されて、夢を見て後を追っても、必ず自分は取り残されるからと。
しかししつこく撫でろと言われたので撫でた子供の体温は程よく温かく、か弱いながら確かに生きているのだと力強さを教えてくれるような気がした。
オーロラが人間に入れ込むのも仕方のない。
少しだけオーロラのことを理解出来たような気がした。
……気がした。だけだった。
モルガン達はそのまま三人で街を散策した。ロリカがごねたこともあるがトラの乗り物を内心かなり気に入っていたモルガンの路銀は途中で尽きてしまったが、ヴィヴィアンからの手出しで露店の菓子や串焼きなどを楽しみ、警戒心など欠片もなく、昔身分を隠して誕生祭に参加したトネリコの時のように思う存分ソールズベリーを満喫していた。
だが夕方に差し掛かった辺りだろうが、何やらヒトだかりが出来て、ライネックが険しい顔で睨んでいる聖堂に三人は行き着いた。
「何があったのですか?」
「おお!我が王よ!実は」
毎回、死ぬ死ぬ詐欺をしていながら次の氏族会議にはけろっとした顔で参加していた最長老のサラマンダーがモースに変容しようとしているのだと言う。
ただのモースなら牙の氏族でも問題ないし、せめて完全に変容する前に知人への最後の言葉でも聞いてやるぐらいはしてやるが、サラマンダーのモースへとなった脅威は推定で厄災級。
ことライネックが本気で当たっても危ういと感じる國を滅ぼしかねないものであった。
「今はオーロラ様に連絡して返事を待っているところなのですが」
「何を悠長なことをしているのです。数千年生きた妖精から生まれたモースがどんな呪いを有しているか分かったものではないと言うのに………ハァ。下がりなさい。貴方達で判断出来ないと言うのなら私が直接手を下しましょう」
ここはソールズベリー。オーロラが直接治める街で勝手なことは出来ないと規制線を張るだけで精一杯のライネックにため息。
それを押し退けモルガンの魔術回路に熱が灯った。
杖を召喚し、宙を浮いた彼女の背後にはプラズマ化するほどエネルギーの込められた魔力弾が無数に展開される。
「止めて!」
そう飛び出してきたのはロリカであったが、モルガンは厄災級のモースへと変貌しようとするサラマンダーへ向けた魔術の行使を止めるつもりはなかった。
予言に通じる物ではないようだが、ここでこれを誕生させてしまっては祭りどころではなくなってしまう。このまま放てばロリカも巻き添えになってしまうだろうが……
本当の孫のように可愛がっていたサラマンダーが殺されようとしているから。オーロラ様が大切にしている聖堂が壊されようとしているから。無知の蛮勇とはいえ、この國で最も恐ろしい女王の前に飛び出したロリカは称賛に値する。
こんな人間が増えればもっと國は豊かになるだろう。こういう人間こそ生かすべきなのではないか……と、モルガンはそういう思考には行き着かないのだ。
どうせ人間は直ぐ死ぬ。どれだけ優秀でもどれだけ強くても妖精の悪意が一つ添えられただけで簡単に死んでしまう。
人間などまた牧場で増やせばいい。わざわざ質を吟味している暇はないと、そのまま放ち―――ロリカを庇ったヴィヴィアンごとサラマンダーを撃ち抜いた。
「え?」
まるで入れ替わるようだった。何らかの魔術によるものなのかロリカに当たるという寸前で身代わりになられてはモルガンと言えど対処のしようがなかった。
少しも残さないように確実にと込めた魔力の弾丸はそれが元がヴィヴィアンであったと分からなくなるぐらい一瞬で粉微塵にしてしまう。
「ァ……ァァ……」
致命傷ならまだ助かる余地はあった。だがこれは治せない。空気のない肺から無理やり絞り出したような悲鳴が漏れた。
そしてモルガンにヴィヴィアンを殺めるつもりがなかったとはいえ、彼女はロリカを巻き込もうとした。それは人か妖精のどちらかが犠牲になったかの違いでしかなく、外ならまだしも内ではモルガンがヒトを殺めた事実にはなんの正当性も誤解もなかった。
瞬く間にモルガンの拳に宿る令呪。
ヴィヴィアンを殺し、ロリカから親代わりを奪い、ロリカを路傍の石のように貶めた。三禁に全て抵触した彼女に宿ったのは三画。
それが端から見ればどう映ったかなど語るまでもなく、数分後に飛んで現れたオーロラは泣いて縋るロリカを宥めるばかりで表情は見えず、色が抜け落ちたように呆然とするモルガンをメリュジーヌが射殺さんばかりの目付きで睨んだ。
祭りどころではなくなった。それどころか春の戦争の再来になるかもしれない。
「…………、くそが」
この場にいる誰もが、オーロラの次のアクションに注目していた。