オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
ロリカは〝少し変わった子〟であった。
底抜けに明るい性格ではあったが、誰の言うことにも従わず自分本位で生きている。唯一オーロラだけは母親のように慕っていたが、自身のプライベートゾーンに他者が踏み入るのを酷く嫌がり、強く言って従わせようとするものなら全身全霊で泣いて喚く少々厄介な子供であった。
あまりにも特異過ぎて虐められることがないほど孤立してしまったのが不幸中の幸いだったが、職員達もどうしていいか分からず、腫れ物を触るように扱っていた。
一時はオーロラが引き取るという話もあったそうだが、多忙な彼女には面倒を見る余裕もない。それならヴィヴィアンが代わりをやると名乗りを上げたものの、やはり結果は芳しくなくなかった。
ロリカの奔放さに振り回されて..…日々、夜遅くまで頭を悩ませている姿をオーロラは見ていた。
「ロリカは駄目な子なんかじゃないんです!」
「ただちょっとヒトと仲良くするのが苦手なだけで」
「サラマンダー様が感心するぐらい集中力があるんですよ!」
「あの子、今日は四葉のクローバーを見つけて!」
「はぁ……どうやったのか城壁の上を歩いていた時は流石に肝が冷えました……え?メリュジーヌが運んでいた?……あの年中発情クソ蜥蜴!!!!!」
「どうでしょう!この服!ロリカに似合うと思いませんか!」
そもそもヴィヴィアンは子供好きという訳ではなかった。妖精ならまだしも少し強く触れただけで死んでしまうような人間と関わるのは奥手で、オーロラの代わりをやるからという使命感から始めたものだった。
それでも彼女は彼女なりのやり方でロリカという個人に向き合い、個人として尊重することを忘れずに一歩一歩歩み寄っていた。
それをオーロラは内心かなり喜んでいた。
好き嫌いの話で語るなら偶々歯車が噛み合っただけだ。
けれどヴィヴィアンは好き嫌いの感情を抜きにしても、同じヒトとして真摯に向き合っていた。
オーロラの掲げる理想郷……滅びの時は決まっているが、それでもと願うならそれは妖精と人間とが公平な立場で共存している世界だ。
妖精の為に人間を強くしたり、その逆もしたくない。当事者達には所詮夢物語だと笑われるかもしれないが、言葉を交わせる者同士として熱く語り合い手を取り合えるような國にしてみたかったのだ。
こういう者達が増えればもっと國は豊かになるだろう。こういうヒト達こそ女王として守っていかねばと立場に責任と誇りが持てる。
「ゔぃー!ゔぃー!」
殺したな?
「もういいよねオーロラ……あんなやつ生かしておく必要ないよね?」
殺したな?
「誤解だ!オーロラ殿下!これには訳がある!モルガン陛下はヴィヴィアン姫を殺そうとしたのではない!モース化の兆候があったサラマンダーに慈悲を与えようとして、割り込んだその娘を庇う為に彼女は犠牲になってしまったのだ!」
「はぁ?人間が割り込んだぐらいどうとでも対処できるでしょ?」
「それは……当たる直前で入れ替わったとしか」
「当てようとしたのか?この子に?何の意味があって?」
殺したな?
「私が……私が……あぁ、何故。何故なのです。人間
祭り前の活気で賑わっていた街並みがウソのように静まりかえっている。
全身の血液が煮え繰り返りそうだ。
感情が抑制されても次から次へと怒りが沸いてくる。
一度目だって許してはいないんだ。ずっと我慢していた。彼女だって一度は人間と手を取りあって平和な國を作ろうとしたから。何故私の街を滅ぼしたのか何百年考えても全く分からないけれど、きっと大変な誤解があったんだろうと飲み込んでいた。
「オーロラ様……これはもう、その時なのでは?」
ここにいるすべてのヒト達が私の行動に注目している。
恐らくライネックは私がモルガンとの戦争を始めるのではないかと焦って、そしてメリュジーヌはたとえ私が何を言っても言う通りにしてくれる。
私に付いてきたムリアンは私の怒りに同調していた。
そもそもこのソールズベリーは私の街だ。ここにいるのは私の意見に賛成の者が大半だろう。
……そうだ。今ならモルガンとそれに与するNo.2をいっぺんに片付けることも可能ではないか?
溢れ出す。感情抑制の魔術が悲鳴を上げた。
モルガンには逃げられるかもしれないが、ライネックだけなら倒しきれる。そうなれば戦争で優位に立てる筈だ。もうあの戦争の二の舞のようにはならない。
私は真性の竜となった。牙の兵団を瞬時に殺し尽くせる私と、そしてメリュジーヌならモルガンだって…………。
「そうね……今日がその時なのかも」
そう呟いたら、呆然として……泣きそうな顔をしたモルガンが此方を見た。
……助けて。と
ふざけるなクソが。お前のせいでヴィヴィアンが死んだ、ヴィヴィアンが死ななくてもロリカが死んでいた!お前が殺したのに何でお前が被害者面してるんだよ!それで!死んだのがロリカだったらお前は同じように悲しんだのか?いいや!悲しまない!お前はいつだってそうだ!自分の好きな者の為に生きて!好きな者の不幸に悲しんで!当たり前で何処にでもいる女の子みたいなやつのくせに誰よりも苦悩して選んで間違えて!ずっとずっと諦めない!それは美しいことかもしれないけど、一人で誰の意見にも耳を傾けようとしてないから状況は一向に改善しなくて、無駄だと思った物を切り捨てて、私が何度も……何度も言ってるのに!人間牧場の稼働をやめなくて!ウーサー!彼にどれだけ期待して裏切られたのか知らないけど、今の貴方は人を愛せない!人を便利な道具だと、そんなものではないと知っている筈なのに、知らんぷりして、路傍の石みたいに人を殺そうとした、そんな貴方のことが私は大嫌いだ!!!!!
ヴィヴィアンを……私の家族を返してよ……
「…………モルガン。貴方とはもう二度と……顔も見たくない」
「そんッ……ま…………分かり、ました」
顔を下げたモルガンの頬から滴が落ちる。
……泣きたいのはこっちだ。
「ソールズベリーに貴方は今後一切招きません。何せここは春の街。冬の女王は御呼びではないのですから」
信じられないような顔をするムリアンには悪いが、ごめんなさいね。
私はやっぱり……オーロラなの。場の空気が読めないこの國一番のイカれ頭。
壊れそうだった魔術の効果で怒りがぐっと収まる。6秒待てば沸点を過ぎると聞いたことがあるがそれは事実だったらしい。
獣のように叫べばきっと私は止まれなかった。
モルガンに同情したからじゃない。
この街を、もう二度と戦場にするわけにはいかないから。
「君は本当に……」
「
「うんバカだ。バカ過ぎてうっかり死なないように僕が支えないとね……いつまでも」
お人好しのオーロラ。春の戦争を回避した私はそれから暫くそう呼ばれるようになるが、けれど最後までモルガンと和解することもソールズベリーに迎え入れることもしなかった。
モルガン「そうだ……これでよかった」
モル■ン「この國のヒト達は幸せだ、私なんかじゃない……本物の王様に導いて貰えるんだから」
■ル■ン「私みたいな罪人は、冷たい檻の中で……ただ腐っていくのを待っていれば……」
そうして私は城に帰った。城壁の門を閉じ、もう二度と出ることはないであろう玉座の間の扉を開けた。
???「ここは?」
そこには私の■があった。あの美しい星のような瞳が腐ろうとする私という存在を射止めて離さない。
■■■ン「何で……」
モ■■ン「なぜ」
モル■ン「何故なのだ!」
モルガン「何故お前はいつもそうなのだ!!!!」
叶うならお前は永久に楽園で幸せに暮らして欲しかったのに。