オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
ライネックの渡したかったものとはロンギヌスの事だった。
かつて私の命を奪いかけた強力な宝具だが、ウーサーの死後、これを譲り受けたのがライネックだったのだ。どうやら私という異分子のせいでこの槍は今回、トネリコが振るったことがなく『妖精を殺す武器』にはなっていないようだが、秋の戦争を最悪な形で終わらせてしまった忌まわしき物としてずっと金庫に保管してあったらしい。
それを今になって私に渡そうと思ったのは、元より今回の誕生祭で献上する予定だったそうで、牙の兵団はかつての罪を認め、二度とソールズベリーを戦場にはしないという誓いの証だったそうだ。
「このタイミングで渡してきたということは牙の氏族はオーロラに忠誠を誓うということでいいのかい?」
「いえ、私が生涯の主と誓ったのはモルガン様であります。しかしながら、我らが牙が徒に弱者を傷つけたのもまた事実」
「ケジメってやつか……いいのかい?これは僕らにとって劇物だ。もし戦争になれば、そっちが持っているだけで警戒しなければならない強力なものだよ?」
「後悔はありません」
これで緊張状態でなければまた話も違ったが、状況は変わり、メリュジーヌの言うようにこれはライネックが持っておいた方が色々と都合が良い。戴冠式で妖精達が囁いていたように不信を疑われるし、もしかしたらこれが戦争の決め手になるかもしれない。
それを説いても渡さなければならないの一点張り。膝をついて此方を見るライネックの瞳には迷いがなかった。
「―――分かりました。あの戦争の悲劇を知るのはもう私たちぐらい。貴方があの戦争を憎み、心の底から悔いているのなら、それを次代へと引き継ぎなさい。もう二度とあのような悲劇は起きないように悔い改めるのです。……散っていった命は無駄ではなかったと。
それが彼らへの贖罪となるでしょう。それが出来るのであれば私は貴方を許します」
「ッッッ!ハッ!」
「ですが、勘違いしないように。あの戦争の悲劇はソールズベリーの騎士を殺めたことではなく、女子供まで戦火に巻き込んでしまったこと。戦争そのものではありません。そしてその罪は貴方だけでなく志半ばで力尽きた私たちにも責任はあります」
騎士達が敗れたことは事実だが、彼らだって街を守るために命をかけたのだ。それを無駄な犠牲と言うのは許さない。
けれど円卓は戦えない人たちにまで剣を向けた。
……どんな正義があったら棒切れすら持てない赤ん坊を殺して、薪をくべるように火の山に投げ込めようか。
積み上がった灰の山を放置して自国へと帰れるというのだろうか。
私はモルガンが掛けた記憶のロックを既に解除している。
風の知らせで何があったのかは把握していたが、やはり私が覚えているべきだと、強引にロックを外した。だからあの戦争の……私が全てに絶望して厄災へとなろうとした時の記憶もちゃんとある。
思い出した当初はモルガンの懸念通り、再び厄災になりかけたが、あの時とは違い、私には道を照らしてくれる星があった。だから道を見失わず私はまた歩き出すことが出来た。……それどころかケルヌンノスと繋がりのような物を感じるようになった。
以後、妖精達と励むんノス……みたいな啓示を受けたような気がする。何となくだが好意的に見られているようで、力を貸してくれるようだ。
戴冠式の時のあれみたいな感じで。今のところ彼が干渉してくるのはメリュジーヌのおいたが過ぎた時ぐらいだが、もしかしたら私の気づかない所で手助けしてくれているのかもしれない。(……それでもヴィヴィアンやサラマンダーを守ってはくれなかったからあくまで私だけなのだろう)
話は逸れたが、あの戦争の罪の責任は私たちにもある。
だからライネックが一人で背負うと言うのならそれは違うと言わなければならない。
「ありがとぅ……ございますッッッ!!」
顔も見えないほど深く頭を下げたライネックの下にポツリポツリと雫が落ちる。
この数百年、それが心の針となって苦しい思いをしてきたのだろう。ライネックがその事で相談出来るとしたらモルガンぐらいだが…………どうにも彼女はトネリコだった過去を今の自分とは無関係に考えているところがある。
彼はずっと一人で抱え込んできたのだ。
「ハァ……これじゃあこっちが悪者みたいじゃないか」
メリュジーヌが肩をすくめてこちらを見る。
「否定は出来ないわ。だって私たちは彼がここに来るまで何もしてあげなかったんだから」
ある意味、それが私たちがした彼への罰だった。
罪を認めて懺悔するその時まで、何もしてやらない。いくら時間が経っても許さない、罰してやるものかと……もう充分苦しんだ筈だ。こんな誠意を見せたのだからこれ以上意固地になって拒絶するのは酷だ。
だからライネックは許してもいい。そう思えた。
私も膝をついて彼の頭を抱き寄せる。これまでの分を泣いてしまえと胸を貸した。
「私はッ!私はッ!!!!」
それから数百年後。彼はモース戦役にて命を落とすことになる。だが彼の死を看取ったモルガンによると、母親の腕の中で眠りにつく赤子のように安らかな最後だったらしい。
「とても、幸せそうな顔でした……何を思い出していたのでしょう」