オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「こんにちは、サラマンダー様」
星が微笑んだ。
冗談抜きでその瞬間、サラマンダーにはそう見えた。
「ァ……ぁぁ」
黄金を編み込んだ艶やかな髪。彫刻のように整った顔立ちと滑らかな肌。それらを際立たせる大きな羽。
自らが手掛けた数多の芸術の類の物、極限を極めた宝剣は……あぁそうか。この星には届かなかったのかと勝手に絶望したほどだ。
様々な感情が膨れ上がる。それはサラマンダーが知っている物、知らない物、多々あった。
風の氏族の長オーロラ。成る程、これでは妖精たちが噂するのも無理はない。
「……と、すまん。つい惚けてしもうた」
サラマンダーは持ち前の自制心で何とか冷静さを保ってみせ、少し照れ臭そうに笑ってみせた。
「ふふ、もしかして私誉められているのかしら?
だとしたらとても嬉しいわ」
「そうだとも。お前さんは儂が今まで見てきた中で、飛び抜けて美しい」
「まあ、サラマンダー様はとっても紳士なのね!」
クスクスとオーロラが笑う。大したことを言ったつもりはないのに、こんなにも嬉しそうにする物だから何だが申し訳なくなってしまう。
こんなんなら、髪飾りの一つでも拵えて来ればよかった。
サラマンダーが後悔したのも束の間、そう言えば自分は土の氏族長だったことを思い出す。
そうだ。長らく面倒で会議になど出ていなかったが、オーロラも風の氏族の長ならまた会う機会も自ずと訪れる筈だ。
次の六氏族会議は確か一ヶ月後だったか?今回の厄災について対策を話し合うとかでいつもより煩く参加を呼び掛けられていたので偶然覚えていた。
まあ厄災については牙の氏族の領分だ。その時はとびっきりのネックレスでもプレゼントしようとサラマンダーは奮起する。
「まあ!」
ふとオーロラは手を叩いた。
「お客様にまだ紅茶の準備も済ませていなかったわ!サラマンダー様、少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「お?もしかしてオーロラがやるんか?」
「……え、ぇぇ。実は最近紅茶にはまっていまして、淹れ方には少々心得がありますの。もしサラマンダー様がよろしいなら、私の淹れた紅茶を味わって貰おうかと思ったのですけど、ご不満のようでしたら代わりの者にやらせますわ」
「うんいや……そんなことはない。少し驚いただけじゃ。儂はオーロラの紅茶が飲みたいぞ」
「ふむ……(味は普通じゃな。それとも実は美味いのか?紅茶の味なんて、甘いか酸っぱいでしか分からんぞ)」
それから少し退室して、オーロラの運んできた紅茶に何ともいえない感想を抱くサラマンダー。
幸いにも彼は鍛冶屋仕事以外には基本無知だったので、そのお世辞にも美味いとはいえない紅茶の味に対して深く思うところはなかったが、オーロラが自分の為に淹れてくれたという満足感は得られた。
「お味はどう?」
「おーいしいぞ」
たぶん。だがこれで感想でも求められたらどうしようかと悩むサラマンダーは話題を変えようと試みる。
「時にオーロラよ。妖精誰しも誕生した時に己の目的を知るという。儂の場合は『より良き物を作る』という物だがお前さんの場合はいったいどういった物だろうか?」
風の氏族と言えばそこにあるだけで完成された種族だ。
『美しくある』だの『美しくを保つ』だの、種として前進しない目的が多い彼らは基本自分で働きたがらない。
だから文明の発展には人間の奴隷やその他の種族が欠かせない物になっていて、顎で指図するような傲慢なヤツはその美しさを以てしても嫌われる事が多い。
だから風の氏族は他よりちょっとだけ少なかったりする。
先ほどオーロラは自分から紅茶を注いだ。
これは風の氏族にしては珍しいことで、だが全く居ない訳ではない。潔癖性のある風の氏族は時に他者が淹れた紅茶すら毛嫌いすることがあるからだ。
そういうヤツはぶつくさ文句を言いながら自分でやる。
しかし誰かの為に注ぐとなるとこれは珍しいどころか、
そんなオーロラがどんな目的があるのかサラマンダーは気になったのだ。
「えっ?私の目的?」
「お主ほどの変わり種だ。さぞ珍しい物を持っているに違いない」
「……目的」
「もしかして不躾じゃったか?」
中々答えない、というより曇りある表情を見せるオーロラに失礼な問い掛けだったかと心配になるサラマンダー。
「いいえ!そんなことはないのよ!でも……ほら、私は次代として生まれたばかりだから上手く言葉に出来なくて」
尻すぼみするオーロラの言葉に、サラマンダーは成る程と相槌を打った。
「あぁ、そういうのなら儂も分かるぞ」
「え?」
「儂が初めて作ったのは剣になるんじゃが、作り上げるまでの間、他の妖精の行動に目移りしては、何で儂はこんなつまらん目的にしてしまったのかとたくさん後悔したものじゃ」
より良き物を作るというのは結果であって、過程は含まれない。
そして妖精はその過程をすっ飛ばして結果を実現させることが出来る。
人間を好き勝手に
そんな中で、わざわざ熱い鉄を何度も何十時間も叩いて形にするのは本当に苦痛で、サラマンダーは何度さじを投げそうになったか憶えていない。
「実際出来上がってみると、儂にはこれしかないと思うようになったんじゃが……つまるところ、実感がないという話じゃろ?」
当時を思い返しながらサラマンダーはウンウンと頷く。
「……そう、きっとそうなのね!ありがとうサラマンダー様!」
「こういうのは時間が解決してくれる。焦らんでドンと構えていたらええ」
何せ風の氏族なのだからな。
なんもせんでも勝手に意味は向こうからやってくる。
嬉しそうに感謝の言葉を述べるオーロラに、頬を赤らめながらサラマンダーはそう言った。
サラマンダー 土の氏族(長)
目的:より良き物を作る
他の妖精が人間を玩具にしてしても特に感じることはないが、自分はやろうとしないタイプ。だがそれは鉄を打っていた方が面白いからであってその感性は他の妖精と変わらない。―――が、特定の人間から技術の面で新しい発想を受けた場合、その人間には一定の敬意を払い、彼/彼女が不当な扱いを受けるようであれば氏族長としての立場を使うことも辞さない。
尚、保護された人間は寿命が尽きるまでサラマンダーの鍛冶仕事を手伝う物とする。