オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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妖精騎士トリスタン

バーヴァン・シー

 

 

本来なら彼女はダーリントンの近くに生まれ、そこにいる領主に吸血鬼として飼われる筈だった。

同じ妖精ではあるが、モルガンが築いた弱肉強食のその時代、力なき下級の妖精の一人に過ぎない彼女は人間(おもちゃ)と変わりない。

ボロボロになるまで使い古され、『血を啜り屍を動かす』彼女の特性を面白がった領主が蘇りの厄災を起こした。

そこでやっと異変に気づいたモルガンが彼女を見つけ出すという悲劇から生まれた偶然。

積年の願いが叶う瞬間が女王としての職務に殉じていたものだとすればそれを運命とは呼べなかった。

 

『お前が此度の厄災か……穢らわしい』

『え、アァ……?』

『私の國を汚した罪、そのいの……ち、を……待て。良く顔を見せろ』

 

だって彼女は殺す気だったのだ。血に濡れた彼女に向けたのは愛情ではなく淡々とした殺意だった。極論だがこうして妖精達をしらみ潰しに殺して行けば、或いは封印でもいいが、何時かは出会うことが出来ただろうから。

運が良かった。それまでだ。

 

しかし時代も場所も違う。

それどころか辿ってきた歴史すら異なり、女王としての立場すら投げ出そうとしたモルガンの目の前で偶然誕生した彼女を運命として言わずして何と言い表そうか。

 

 

 

 

「駄目だ……私、じゃ!駄目なんだ……返さなきゃ……返さなきゃ……この子をオーロラの下に返さなきゃ……!」

「…………?」

 

モルガンは震える手で杖を握りしめる。

 

……大丈夫だ。また私のせいでこの子を不幸にさせてしまったが、運が良かった。

 

もし自分に不幸あれと人生の筋書きを書いている者がいるのだとしたらこの瞬間だけは感謝しても良い。今度こそ私が居なくなれば、彼女はオーロラの下で幸せになれる。

そうだ大丈夫だ。先ほどまで私は自分の名前を忘れていた。妖精が名を失うというのが何を意味するのかは理解している……星を見失えばいよいよ先は長くない。それでも良かった。出来れば自分が作った國をオーロラへ託したかったが、どのみち彼女がいればブリテンは救われる。

 

もう大丈夫だ。私は間違えない。

 

自分に言い聞かせるように魔術を行使する。

水鏡がソールズベリーの街を映し出した。そこに放り込めばまた彼女は春の記憶の中で生きることが出来る。

 

「さぁ。その門を潜るといい。その先はお前にとっての楽園だ」

「……らくえん?」

 

まだ生まれたてのせいか頭が働いていないらしい。

こちらも名を失いかけモース化の兆候が出ているせいか、鉛のように体が重いが、それなら直接背中を押してやるべきだと杖を足がわりに歩み寄った。

 

「とっ、...……悪いな」

 

しかし足を取られて、バーヴァン・シーの肩に覆い被さってしまう。

 

「いえ。かおいろが悪いようですが……だいじょうぶですか?」

「大丈夫か……そうだな。少なくともお前が幸せなら私は満足だ。ほら立て、あれを目指して歩くんだ」

「ここは寒くて暗いです。いっしょに行きましょう?」

「残念だが私はあそこに行く資格を失ってしまった」

「でも……そうだ。ならせめてたいちょうが良くなるまで私におせわを」

「ダメだ!」「きゃ!」

 

バーヴァン・シーの肩を突き飛ばす。

 

「っ!何時だってそうだ。私はお前を救いたいと宣いながら自分のことばっかり……今だってお前が言うことを聞かないのに腹立たしく思っている。こんな私を構って何の得になる?さっさと自分の國に帰れ、ここはお前のようなヒトがいる世界ではない!」

「そんっ……」

「それ以上、抵抗するならお前を撃ち殺す」

 

モルガンの背後に無数の魔方陣が展開した。魔術の知識がないものでもそこから溢れる魔力の淀みを見れば只物ではないと悟るだろう。

 

「…………行きません」

「そうか、まだ言うか」

 

本当なら衝撃波なりなんなりで押し出してしまいたかった。

でももうそこまで精密な操作は困難だった。水鏡の維持に意識の大半を割いてしまっている。

魔力に物を言わせた魔術がバーヴァン・シーとは明後日の方向に飛んでいった。

 

「今のは脅しだ。次は外さない」

 

「行きません」

「やめろ」

「貴方を一人には出来ません」

「……やめろ」

「独りぼっちは悲しいですから」

「……やめてくれ」

 

残りの魔術が霧散してモルガンは顔を両手で覆った。

 

「どうしてお前はそうなのだ……」

 

彼女の優しさが、傷だらけの心に染み渡る。私はお前の幸せを奪った魔女なのに。お前を救えるのはオーロラだけなのに。

言葉にならない嗚咽が漏れる。

 

 

 

もし、モルガンの言う不幸の筋書きを書いている者が居るとしたら「そら、見たことか!」と腹を抱えて笑っているだろう。

どれだけ虚勢を張ろうと、他人の幸せを望もうと、お前は孤独にだけは耐えられない。

 

「少しだけ…………なら少しだけで良いんだ。体調が良くなる……少しの間だけ側にいてくれないか?」

「はいっ!」

 

さぞかし心強いだろう。傷だらけだった霊核が癒えていくのを感じているだろうさ。

運命様々だ。今はその幸福を噛み締めるといい。

 

水鏡が解かれて、砕けるように消えていく。

もし、この時バーヴァン・シーを送り出していれば……それを後悔する時はきっとまだ先の未来。

 

 

 

 

そう先の未来……人間にとっては長く、妖精にとっては瞬きのような先の未来の話。

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