オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
ロリカとシルフを始めとした外交師団が首都ソールズベリーを出発して直ぐのことだ、ブリタニアは王の氏族から宣戦布告を受けた。
曰く、王の氏族はブリタニアから不当な扱いを受けている。
ブリタニアは即刻、王の氏族長マヴに女王と同等の地位を与えると共に、このような悪意ある操作を行った幹部の粛清をするべきである。六氏族の代表として理性的かつ公平な対応を春の女王に求める。
「これが叶えられないなら悲しいことだが、王の氏族は武器を持って訴えるしかない、ねぇ。完全に舐められてるよ?どうする?」
「流石にオーロラ様まで対象に含めたら民衆の反感を買うと思ったのでしょうが、」
「論外ですね。土台が出来上がってるお国の上で政治ごっこをするのとは訳が違うのですよ。まだ芽が出て間もないこんな時期に実力のない者に発言力なんて持たせたら、蕾が出来る前に枯れ果ててしまいます」
会議に集まった全員が渋い顔をする。
一応今回は秋の戦争の時のようにいきなり開戦とはならずに譲歩として条件が出されたが、建国間もないブリタニアには到底飲めるものではなかった。
そもそも今の幹部達を選出するにあたり、あえて王の氏族だからと選考から省いた覚えはない。王の氏族にもやる気のある優秀な人材はいたが厳正な審査の結果、今の彼らの方が優れていた為、大変残念ながら、今回はご期待に添えない結果となってしまわれたのだ。
「ムリアン、軍師の貴方から見て勝算はどれほどあると言える?」
「そうですねぇ、8、いえ9は確実かと。懸念されてきた竜種への毒ですが完成品のサンプルをメリュジーヌ様が試飲なされた所、少し舌がピリピリした程度だったとのこと。最大戦力のマヴはメリュジーヌ様が抑え、その間に我々で敵の軍隊を切り崩していけば、負けようがない、てやつですね」
「メリュジーヌを無視してマヴが私を討ち取りにくる可能性は?」
「メリュジーヌ様がそのような蛮行を許すとは思えませんが、たとえマヴがオーロラ様との一騎討ちに持ち込んだとしても、殺す手段を持たない以上、千日手になるかと」
「正攻法では不可能、ね。毒のごり押しか、奇策でも思い付いたのかしら?そう言えばその毒は竜種にだけ効果があるのよね?」
「ええ。流石に妖精にも効果があると自軍にも影響が出かねないと自粛したのでしょう。それと相手に毒の用意があると分かればこちらもバカ正直に顔を出したりはしません。厄介であるメリュジーヌ様やオーロラ様を一点に絞った策で討ってでるつもりかと」
ちなみに、ガス状にして広範囲に散布するという現代の戦争法で禁止されているような策は妖精郷では使い物にならない。倫理の問題ではないのは当たり前だが科学と神秘云々の話ですらなく、下級妖精でもやろうと思えばつむじ風ぐらいなら起こせるからだ。目に見えて実際に来ると分かっていればたとえ雨のように降らせたとしても余程のことがない限り防ぎきれてしまう。だから毒の使い道は武器に塗るか騙し討ちと昔から相場が決まっていた。
「うん?何であっちには竜がいないのに竜種にだけ効く毒なんて作れたんだい?」
「それはあの…………」
そこでメリュジーヌは疑問を口にする。
効果は以下の通りだが、この國で竜と言えば自分とオーロラ以外は存在しないからだ。
ムリアンは気まずそうに私を手招きした。
「報告ではマヴがオーロラ様を再現して産み出した器の反応で確かめたとのことです。意識はないとのことですが、これを知ったらメリュジーヌ様は恐らく」
「カチコミをかけるわね。よくやったわ」
つまり私のクローンを作って人体実験していたそうだ。
いつ、どこで、どうやって産み出したかは調査中とのことだが、これを知ったらメリュジーヌは修羅と化して王の氏族を根絶やしにするだろう。
私は怒りよりもあのマヴがそんなことをしていたとは思えずショックを受けたが、最近似たようなことをされていたのであまり動揺はしなかった。
「まどろっこしいことは置いといて開戦はいつになるの?」
ここまで情報を掴んでいるのだ。今さら言い逃れは出来ない。
「それなのですが、ブリタニアはその成り立ち上、こちらから戦争を仕掛けるわけにはいきません。条件を突っぱね、あちらが開戦を宣言してはじめて武力行使が可能となります」
それまでは防衛準備すら大っぴらにも出来ないと言うのだから歯痒く感じる。
それで不利になるとは思わないが、曲がりなりにも相手が交渉のテーブルに立っているうちは武器を振りかざすことが許されない。
街の領主をやっていた時とは何もかもが違った。
これから始まるのは妖精の戦争ごっこではないヒトによる戦争だ。
勝って終わり、奪って終わりではなく、徹底的に差別し、冷遇し、敗戦国の末路という見せしめのために罪のない人たちを粛清せよと、声をあげなければならないかもしれない。
胃がピリピリとしてくる。
こんな事、出来ればしたくない。マヴだって千年と少しの付き合いなのだ。
今回のことで間違いなく彼女は粛清の対象となる。次代もきっと自由はない。
それは一人の友人として胸が裂けるような思いだ。
モルガンならこんな時、「やめろ」と無理やり自分の意見を通そうとするだろうか?
しかし同じ女王であると言っても、私はモルガンほどの権力は持っていない。自分から分散させたのだ。私の力だけでは國を維持するなんて不可能だと思ったから。
その判断は今でも間違っていないと思うが、頭の悪い私では会議の流れを立ち切らないように、合間合間で頷くことしか出来ない。
とてもマヴに情状酌量の余地を与えようだなんて発言する隙は作れなかった。
「ねぇ、オーロラ。無理してない?」
「ううん、大丈夫よ。これは必要なことだから。それより毒を飲んだって……もうそんなこと絶対にしないで」
本人はさらっと流したが、龍殺しの毒の効果を確かめる為に飲んだと言われた時、オーロラは感情が爆発するような怒りと恐怖を覚えた。
直ぐに抑制されたが、自分は思ったよりメリュジーヌに依存しているのかもしれない。
「えへへ、心配してくれるのかい?」
「しない理由がないわ」
子供のように小さな自分だけの騎士様。その頭を撫でながらオーロラは小さく息を吐いた。
会議で満場一致で王の氏族からの譲歩は破棄し、ブリタニアは宣戦布告を受領したと返答した。
王の氏族の街 王の間
「そう、なら仕方ないわね。戦争を始めましょう」
マヴは1人、オーロラからの親書を丁寧に包み込み小さく呟く。
そして彼女が造り出したというオーロラのクローン。毒の影響で四肢が黒ずんだ彼女の手を取りながら、祈るように目を閉じた。
「あの子がもう、傷付かない世界を私は作ってみせる」
クローンは何も言わない。決して目を開くことはない。ただ苦しそうな呼吸音だけが空間を満たしていた。