オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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英霊の座

マヴを討ち取り戦争は終わった。

 

後の世で下らないほど起きたクーデターの初めの一つとして語られ、二度目の春の戦争と呼ばれるこれは、ムリアンの先見の明を曇らせることはなくブリタニアの圧勝に終わった。

 

王の氏族は壊滅状態。女王マヴと優秀な文官や武官を失った王の氏族には最早六大氏族として名を列ねる権威すらなく、元々嫌われていたこともあって戦後直ぐに六氏族からの除名が決定した。

 

もちろんこれだけで終わるわけもない。賠償金と土地の明け渡しは早期の段階では法外なものとなり、次代が生まれないほど殺し尽くしてしまおうという意見も出た。これに一番乗り気だったのがムリアンで虫かごに閉じ込めてプチプチしたいと嬉々として語る。

それはオーロラが止めたが重い賠償問題にはあまり口を出すことが出来ず、資産の殆どを没収され元王の氏族達は六大氏族の管理下に置かれることになった。

 

 

 

「あれ?王の氏族は除名されたのに六大氏族なのかい?」

 

戦争から1週間。

ソールズベリーにあるオーロラの屋敷でベッドに腰掛けるメリュジーヌは不思議そうに首を傾げる。

 

ヌンノスの予言では死ぬかもしれないと言われた彼女であるが幸いにも私の横槍が間に合って大事にはいたらなかった。

ただマヴが作った毒。どうやらあれは致死量が高いだけで正真正銘の竜殺しの毒だったらしくあの戦闘で許容量を超えてしまった彼女は現在一人で立つことが出来ない。医者の見立てでは一ヶ月もすれば毒素は完全に抜けるそうだが、それまでは絶対安静である。

 

「ええ。それがね。族長達は貴女を竜の氏族として迎えたいそうよ」

「へ?竜の氏族として……なら、オーロラは?」

「私の妖精の要素はもう楽園に還ってしまったから妖精の枠組みに当てはめることは出来ないの。何よりブリタニアの女王っていう立場もあるしね。あくまで六氏族はブリタニアとは関係のない妖精の組織として独立してて欲しい」

「もう牙の氏族以外はブリタニアの理念に賛同しているのにかい?今さら竜の君を差別するような子はいない。どうせ一人だけなら僕じゃなくても君の方が喜ばれるだろうに」

 

そこまで訊ねてメリュジーヌの瞳が鋭くなる。私、ではなくその足元を見て槍に手をかけた。

 

「待って」

「でもオーロラ、こいつは」

「大丈夫だから。自分の口から話したいそうよ」

 

『ヌンっ!』

 

ヌンノスである。

 

 

『ヌンヌン(アルビオンの子よ、お主とは一度腹を割って話したいと思っていた)』

「僕のオーロラから離れろ。死臭が移るだろ!」

『ヌンヌン(いきなりか……まぁ無理もない。今のお前があるのはオーロラの意思でヌンは見捨てようとしたのだから)』

「聞こえてないのかなぁ!ぽっと出の癖に長年の相棒みたいに気取ってさぁ!いくら僕でも押し潰されたら痛いんだよ!?」

『ヌンヌ(それは、セクハラするお主が悪いじゃん……)』

 

キャンキャンヌンヌン、これではまるでペットの喧嘩だ。

ここで紹介するべきではなかっただろうか?

オーロラは完全に頭に血が上ってしまった様子のメリュジーヌの横に座り、頭を撫でる。

 

「はっ!(どうだ。オーロラは僕を選んだぞ←の意)」

『ヌンヌヌ(なんとも器の小さい……いや、子供か)』

 

 

「二人とも落ち着いた?ヌンノスの言葉は貴女には分からないだろうから私が通訳するわね」

 

 

『ヌン(うむ宜しく頼む。ではアルビオンの子よ。お主はヌンが嫌いなようなので端的に告げるが、その身を蝕んでいる毒はヌンの呪いである)』

「……はい?え、それって大丈夫なの?」

「どうしたいんだいオーロラ?セクハラされてるのかい?やっぱり焼却処分した方がいいんじゃないかな?」

「いえ、違うの。貴女が飲まされた毒がヌンノスの呪いだって言われてビックリして」

「あーそう言うことか。道理で治りが遅いわけだ」

 

言われるまで本人も気づいていなかったようだ。

「オーロラ、ちょっと離れ」「離さないわよ」

私を気遣って離れようとしたのでぎゅっと肩をつかんで抱き寄せた。

 

「大丈夫なのよね?」

『ヌン(勿論だとも。ヌンの呪いではアルビオンの子をどうこうする力はない。目的を失うほど霊基が傷ついた状態ならもしかするが、今では精々四肢の自由を奪う程度だ)』

 

これが戦闘中なら致命的だが命を奪うものではないという。

 

「良かったぁ」

『ヌン(しかしだな、少々困ったことになった。アルビオンの子は元より罪なき子であったが、今回のことでヌンの本体が誤認した。今までは人間と同じように避けていたが今後は普通に当たるようになるだろう)』

「それって、今後メリュジーヌがモースと戦えば今のような状態になるってこと?」

『ヌンヌ(十、二十では問題ないだろうが、厄災級となると厳しいだろう)』

 

だとしたら今後、モース関連でメリュジーヌは出せない。そう思った矢先メリュジーヌは私の裾を引っ張った。

 

「オーロラ。言っておくけど僕は守られて城に隠れるような姫様になるつもりはないよ」

 

『ヌンヌヌ(言われなくともお主がそう大人しくしていられない性分なのは分かっておる。だが倒れたお主を助けようと主人が傷つくのは本意ではあるまい)』

「…何て言ってる?」

「私が貴女を守る為に傷つくのは嫌だろうって」

「…………当たり前だろうが」

『ヌン(それでだ。六氏族の代表達の役割。王の氏族が果たせなかったそれを引き継いでほしい)』

 

「「ん?」」

 

一言一句違わず翻訳したが、私もメリュジーヌも意味が分からなかった。

六氏族の役割とは恐らく聖剣鋳造のことだろう。だがこれは『はじまりのろくにん』がやるべきことであり、雨の氏族が滅ぼされて、あとから加わった王の氏族には関係ない。だから王の氏族の鐘はなかった筈だ。

 

まさか予備の鐘になれと言ってるわけではないだろう、私たちは先を促す。

 

『ヌンヌンヌヌ(少し前に王の氏族は原罪を犯していないとオーロラは言ったが、それは違う。王の氏族も流れてきた妖精達も赦されざる罪を犯して、それを当たり前のように謳歌している。王の氏族の役割は妖精達が犯した二つ目の罪。それ即ち───人類史の簒奪、王の氏族の役割はその贖罪である)』

「人類史の簒奪と、その贖罪……」

 

言われてみればそうだ。はじまりのろくにんの罪は聖剣を造らなかったことでセファールに地上の資源を奪われた。けれどそれだけではなかった。彼らは最後に残った人間の巫女をバラバラにバラバラに捏ねて造って遊び倒す……人類の尊厳をこれ以上ないほど踏みにじって繁栄してきた。

 

王の氏族ははじまりのろくにんには含まれなかったが、人間を"使って"ここまでやってきた。ケルヌンノスからすれば同罪も同然で、六氏族に名を連ねると言うのなら聖剣鋳造に代わる何かを罰として与える筈である。

 

もしや鐘を全て鳴らしてもヌンノスが止まらなかったのはバーヴァンシーの憎しみに同調していたからではなく、半分しか罪を精算してなかったからなのではないか。

 

「贖罪が人類の尊厳を取り戻すことなら王の氏族は人間との共存という…理想に近いことはやっていた。となると、本当に?マーリンも言っていたけどノクナレアだけがブリテンを統治出来た、て言うのは単に魔力量の問題だけでなく最後の罰を精算出来る王の氏族が彼女だけだからってことなの?」

 

 

『ヌン(ヌンの本体は死骸だが、いつか妖精達が罪を認め、巫女が返還された時、彼女を星の内海に還せるだけの力を本体は残した。ヌンが目覚めたのはオーロラ。君が半端とはいえそれを叶えてくれたからだ)』

 

 

 

これは原作を知っていたからではない。この世界で生きて頑張ったから知れた真実だろう。

ぶわりと鳥肌ならぬ竜の鱗が騒ぎ立って、「あうっ、オーロラの鱗が僕の色々な所に当たってる♡」メリュジーヌを枕に放り投げた。

 

 

「痛っ……でもだったら尚更のことオーロラがその後を引き継ぐべきじゃないかな?」

『ヌン!(罪なき者の贖罪だけでは意味がない。罪ありき者が罪を憎み、反省し、人を尊重して過ちを詫びる……それが傷ついた巫女の心を癒す最後のピースとなるのだ)』

『ヌンヌ(しかしこれは他の氏族には任せられない。王の氏族だけが適任だった。出来ないとは言わないが……いや、かなり……ものすごく厳しいと思うが、仮に他の氏族が頑張っても王の氏族だけが何もしなかった場合、巫女の心は完全には癒えないのだ)』

 

少し話が難しいが犯罪グループの被害者が、アイツらはまとめて逮捕したんで安心して下さい。あ、一人だけ捕まえることが出来ませんでした。と警察に言われて安心出来る訳がないと言った話だろうか?

 

「確かにメリュジーヌなら他の妖精とは飛び抜けて人望もあるし、力も強い。贖罪の内容がさっきのであってたらだけどこの子以上に適任はいない」

 

『ヌンヌ(その通り)』

 

「まぁオーロラの役に立てるならやってもいいけど、一つ質問。その贖罪を終えたらお前の本体はどうなるの?」

 

『ヌンヌ(穴の中身を気にしてるなら安心してくれ。今度こそ呪いは消え去り、死骸は死骸らしく何万年か何億年後か、土に還るのを大人しく待つさ)』

 

ならいいかとメリュジーヌは頷いた。

 

「それで具体的には何をすればクリアなわけ?オーロラの騎士として早いとこ万全の状態に戻りたいんだけど」

 

『ヌンヌヌ(なに、オーロラが九割ほど済ませてしまったから残すは一つだ。怪力でも頭脳明晰でもなくていい。たった一人、この島から人類史(英霊の座)に刻まれるほどの英雄を誕生させてくれ。勿論妖精ではダメだ。異邦の者は論外だ。この島で誕生した純粋な人間の英雄である。これを以て巫女の魂は妖精達の謝罪を受け入れるだろう)』

 

 

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