オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
王の氏族との戦争があっても誕生祭はやる。
国力の増強。産業の活性化。色々と理由はあるが、年に一度のこのお祭り。年々の大盛況のお陰で下手に開催しないと暴動が起きてしまうレベルの熱狂的コンテンツと化していた。
「予算は惜しみませんよ~!今回こそは我ら翅の氏族がコンテスト部門を独占して牙の氏族に吠え面かかせてやりましょう!」
「ガオゥ!分かってるなぁお前ら!!!翅の氏族にはぜってえ負けるな!!!!飯部門は質より量!初日でたこ焼き100万個売り上げて行くぞ!!!」
誕生祭まであと三日。
朝早くから声を張り上げるのは『コンペの二強』と言われるムリアン筆頭の翅の氏族とボガーンという恐らくボガードの先代にあたる妖精を筆頭とした牙の氏族である。
翅と牙と言えば別の世界線で殺し合いをしていた両者であるが、この世界では誕生祭の売り上げ勝負に熱を上げていた。
「やれやれ、翅と牙は相変わらずですね」
「そうね、昨年は戦争のせいで予算を削られたからより一層やる気になってる気がするわ」
私とシルフだ。今回私たちは誕生祭の審査委員長と副委員長を任されており、危険な出し物がないか、また酔狂な妖精が爆弾を仕掛けたりしていないかなど挨拶ついでに見回りをしていた。
「そう言えば風の氏族は今回何をするの?去年は確か水中アートだったわよね」
それは直径50mほどの立方体に水を貯め、数百の風の氏族達が一糸乱れぬ泳ぎで舞ってみせたという話だ。
風の氏族は自らの美に絶対的な自信を持ち協調性を持たないことで知られるが、このシルフという男がその根底を覆した。
美しさを追求する美の探求者達が魅せる華。これが美しくないわけがなく、モースの毒に侵され余命いくばもなかった妖精が美しさのあまり浄化されて助かったと言われるほとだ。
まるでこの世のものとは思えないほど幻想的な演出は会場の全てのヒトを虜にした。
「今年は予算に糸目をつけないということで皆やる気に満ち溢れておりましたよ。前回が水中でしたので今年はこの空をキャンバスに描かせて貰おうと思います」
「それは楽しみね」
「アートで思い出しましたが、あのマスコットはオーロラ様がデザインされたのだとか。最初こそ民衆の受けは悪かったですが、今では大人から子供まで大人気だそうですよ」
「え、あーそうなのね。それは良かったわ」
丁度その時、私がデザインしたことになっているマスコットのぬいぐるみを持った子供達が遊んでいる姿が目に入った。
「みゃくみゃく~!」
「この世界はみゃくみゃく様に支配されるのです~」
「お前もみゃくみゃくにしてやろうか~」
『みゃぁくぅ~!』
まるで神を崇めているようだが子供がやると微笑ましい……あれ?何かあのぬいぐるみ動いてね?と思ったが、まさかそんなわけはないだろうと先を急いだ。
「こちらは土の氏族達のベースですね」
そして漸く土の氏族達の催し会場である。
彼らはソールズベリーの遊園地にインスパイアを受けて誕生祭用に作り上げると言っていたが、果たして間に合ったのだろうか?
「掘るぜ~!掘るぜ~!マインクラフト!俺たちゃ炭鉱家~!マインクラフト!」
「ひゃっはー!ボタンを押せ!ぶっ飛ぶぞー!」
───何ということでしょう。小山が一つ浮かぶ豊かな草原は泥と小石で踏み荒らされ、とてもスパイシーな香りを漂わせる漢どもが石を掘って、ダイナマイトで穴を広げていた。
「おい責任者」
早速問題発見である。
「うん、令呪はなし。手配書にも該当なし。身分証がないのは問題だけどロリカさんが身元保証人をしてくれてるなら問題ないでしょ」
一方その頃、ロリカ達はソールズベリーの検問を無事突破していた。
「ぷはぁ!やっと解放されたぜ!かたっ苦しくて嫌いなんだよなああ言うの」
「これでも身内贔屓でかなり甘く見てもらった方なんですよ?今どき冬の國からブリタニアに来ようと思ったら半日は足止めされて当然なんですから」
「だとしてもあそこまでするか普通?尻の穴まで診られたぜ」
「令呪を刻む場所は指定されていませんからね、過去には舌の裏に刻んでいるヒトもいたそうです」
これはブリタニアに限った話ではなく刻まれた令呪の数でおおよそその妖精の危険度を推し量ることが出来る。
善行を積めば取り除くことも出来るとはいえ、だいたい半月はかかる。常習犯はその間にも罪を犯すので二画か三画刻まれていることが常であった。
もちろん令呪がないから百パーセント安全という話でもないので身分証の提示を求められる街は多いが、今回は時期が良かった。
誕生祭はヒトの出入りが多くなるため、どうしても一人に割いてられる時間に限りがある。だからこの期間限定で簡易マニュアルが適応されていたのだ。
「それでどこ観に行く!?私はこのパンダさんに乗ってみたい!お母様が言ってたんだ。パンダさんより素晴らしい乗り物はないって!」
「パンダ……ええ。あれは良い乗り物ですね。私も小さい頃は良く乗り回して、よく怒られました。でも先ずはオーロラ様にお目通り願わないと。外交官としての仕事が優先ですし、何より許可を貰わないとバレたら追い出されてしまいます」
「そっか。ならお姉ちゃんに会いに行くとするか!」
二人はオーロラを求めて先ずはブリタニアの本省を目指すことにした。
「え、出られてるんですか?」
「あぁ丁度入れ違いになったみたいだな。先ほどシルフ様と見回りに行かれたぜ」
「いつ頃お戻りになられます?」
「問題なければ2、3時間で戻ると思うんだがこればっかりはなぁ。オーロラ様の説教は兎に角長いことで有名だ。どっかのバカがやらかしてたら夜まで戻らないかもしれねぇ」
「そんなぁ」
しかしオーロラは生憎の留守。一先ず帰還の報告だけ済ませたロリカは仲間達と別れ、トリ子と一緒にたこ焼きを食べていた。ちなみにたこ焼きをチョイスしたのはトリ子である。
「あふっあふっ。テーブルにつかないで食事なんて食べたことなかったけど美味しいなこれ。何でこんなに美味しいのにうちではやってないんだろう?」
「うーん。参ったなぁ、さっきムリアン様にも見られてたし、多分気付かれるのは時間の問題だよね。言質だけでも取らないと本当に私、クビになっちゃうよ」
「まぁそんなに慌てんなって。ほらお前のたこ焼き冷めちまうぞ」
「B級グルメですよ?お姫様にしては適応力高すぎませんか?」
ロリカはもう今日はトリ子を家に匿って明日の朝イチでオーロラに会いに行こうと考えた。時間がないことは確かだが探そうにもソールズベリーは広くて宛もない。まだ御披露目前らしくトリ子の顔を知るヒトは少ないとはいえ、万が一お姫様に何かあったら物理的に首が飛ぶ可能性もあったからだ。
「……よし。トリスタン様、今日のところは私の家に泊まりませんか?一般の方よりは良い家に住んでる自覚はあるので不便はさせないとは思うんですけど」
「え?別にいいけどお姉ちゃんを探すのは諦めるのか?まだ昼だぜ?」
「ソールズベリーは空間拡張されている区画もあって見た目以上に広いんです。牙の氏族が本気で一周しようとしても丸1日かかるぐらい広大です。それに誕生祭ではヒトも溢れかえって、待ち合わせているならまだしも探すのは建設的ではないんですよ」
「うーん。でもそれだと不便じゃねえか?急な用事の時とかどうしてるんだよ」
「普段は風の氏族のヒトにお願いして風の知らせを運んで貰うんですけど、他のヒトに話せる内容じゃないですし。何より私程度の権限で公務中のオーロラ様を呼び出せませんよ」
「何か近いようで遠いヒトなんだなお姉ちゃんって。お母様もそうだけど、王様ってのは窮屈そうで嫌になる」
「何言ってるんですか。貴女はモルガン陛下の後継ぎになられるのでしょう?」
「だよなぁ……私も期待には応えたいんだけど、お母様を見ていると自分の気持ちを圧し殺してバカらしいほど数がいる妖精どもの面倒をみないといけないって、それは拷問みたいだと思えちまう。もちろんやり甲斐はあるんだろうぜ?でもそれにしたってアイツらはバカだしクズだし頑張ったお母様に何も返さねぇ。あんなやつら全員殺した方がいい……ロリカはそう思わないか?」
予想外な問い掛けに一瞬言葉が詰まる。
悪辣であろうとしつつ善性を隠せないトリスタンにしては真っ黒な殺意だった。
「私は……そうですね。ヒトは愚かだと思います。人間も大概ですけど妖精はもっと酷い。何度理不尽な目に遭わされたか考えるのも億劫ですし私の一番古い記憶は、妖精に殺されそうになった時のことです」
「だよな!やっぱりロリカだけは私の気持ちを分かってくれると思ってた!」
「でも……覚えていないんですけどその時、私を助けてくれたのも妖精だったそうです。彼女は私を突き飛ばしてそのまま妖精に殺されてしまいました。だからどれだけ酷い目に遭わされても信じちゃうんですよね。妖精も捨てたものじゃない、キチンと反省して、してはいけないことを学べば手を取り合えるって」
「…………」
「それに会ってみたいんです。たとえ私を知ってるそのヒトではなくても次代のそのヒトに会って話をしてみたい。もしその時、私を助けたのが偶然とかだったら流石に諦めてしまうかもしれませんけど、もし違ったら……。殺し尽くしたら会える可能性もなくなるでしょ?」
まぁこの広いブリテンで何処で生まれるかも分からない妖精と再会する確率なんて殆ど0だろう。だがロリカは星になった彼女に助けられた。だからその星の正体を暴くまでは美しいものだと思うようにしている。
「…………」
コテンとトリ子はロリカの肩に頭を預けた。
「はは。望む答えじゃありませんでしたよね。すいません」
「……もしそいつに出会えたら何て聞くつもりなんだ?ロリカが死ぬまで会えなかったら私が代わりに聞いといてやるよ」
「そうですね。そのヒトはオーロラ様のお気に入りだったそうですから、オーロラ様の好きなオヤツでも聞いてみましょうか?」
「おい、さっきの話と関係ないじゃないか」
「誰だって美しいと感じたものには美しいままでいて欲しいと思うじゃないですか。たとえ正体が悪辣であっても私は最後まで幸せな記憶だと騙されながら抱えて逝きたい」
見て見ぬふりはしないが探す気はないという自分で言ってて何とも偏屈な話だ。
「そっか。でも私はその妖精はきっとロリカのことが大好きだったと思うぜ。自分の命よりも大切だったかは分からないけど、咄嗟に身体が動いて助けようとするぐらいには大好きだったんだ」
触れ合う体温が、労るように優しく握る手の強さが、何故か懐かしい。
「っ……なら妖精全体を愚かだと判断するのはまだ早いかもしれませんね」
地面に流れる涙の軌跡が四つ。私と──もしかして、このヒトが。
「うし!休憩終わり!ルームツアーしてくれよ!友達の家に泊まるの初めてなんだ!」
「ふふ!分かりました。楽しみにしておいて下さいね!」
振り返った彼女の顔は笑顔だった。
ロリカは真実を求めない。だがトリスタンという素晴らしい妖精がいるならやはり妖精も捨てたものじゃないと思った。