オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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二人の誕生祭

オーロラが本気でキレたことは少ない。

感情抑制の魔術で抑えられていることもあるが、元々穏やかな性格の持ち主であり、相手よりも自分が悪かったのではと考えるタイプなので怒りの矛先が他者に向かうこと自体が稀なのだ。

 

「スプリガン?ねぇ聞いてるの?ハァ……もう一度最初から説明するわね」

「も、もう勘弁してくれ……」

 

だが本気で叱ったことは多い。

相手とのマンツーマンスタイルで、その説教は酷くねちっこい。一つ一つの過ちを理解させようと長ったらしい話を繰り返し、逃げようとしたら尾で拘束して何時間でも何十時間でも相手が理解してくれたと思うまで泣いても止めてくれない。

 

これで学校の教師でもしていたら確実に何人かはトラウマになっているレベルである。

 

しかし『怖い』というより『(つら)い』その罰はある意味妖精達への最適解であり、どんな物好きでも一回食えば次は嫌だと姿勢を正した。何とか快楽を得ようとした物好きもいたが三回目にして説教生活5日目となると心がポッキリと折れてしまい、ブリタニアから冬の國へと逃げてしまった。

 

「せ、せめて水を……」

「水?そうね2分ほど休憩にしましょう。あ、シルフ。紙とペンの用意をお願い出来るかしら?休憩後は反省文10万字の時間ね。それが終わったらもう一度0から復習しましょうか。ちゃんと覚えているか確認するから、出来てなかったら反省文からやり直しね」

「───ボキッ」(心が折れる音)

 

ロリカの懸念通り、その日オーロラの説教は日付が変わるまで続いた。

 

 

「ひぃは、ヒィ……フヘヘヘヘ!オレ、遊園地作くりゅ!不眠不休で作りゅ!ウヘヘヘ!絶対完成させりゅ!」

「やっと分かってくれて先生嬉しいわぁ。じゃあこれ渡しておくから辛くなったら飲むのよ」

 

オーロラが手を叩くと木箱が空から降ってきた。

シルフが地面に落ちないようにそれを受け取るとジャリンッとガラス細工が複数擦れるような音がする。

蓋を開ければ30本ほどの瓶の中で緑色の液体がたぷたぷと揺れていた。

 

「オーロラ様。流石にこれは……」

 

シルフはこの液体が何なのか知っている。

悪魔のドリンク。1本飲めば24時間働けると言われている栄養ドリンクだ。

あのモルガンが開発した飲むとどういう訳か頭の中がスッキリして、疲労や眠気が吹き飛ぶ優れ物である。

今のところ後遺症のようなものもなく、ブリタニアの首脳陣の愛用品でもある。

 

……これだけなら大変良いもののように思えるだろうが、継続して飲むと効き目が段々と悪くなり、24時間が18時間、18時間が12時間、12時間が8時間、8時間が4時間と、最終的には浴びるように飲まなくてはいけなくなってしまう。

 

仕事に追われた妖精が寝るわけにはいかないと吐きながら飲んでいる姿から合法の麻薬と呼ばれるようになっていた。

 

つまりそれを今からやれと言うのだろう。それは流石に可哀想ではないかとオーロラの顔を見ると目が正気ではなかった。良く見れば唇の端に緑色の液体が付着している。

 

「あら、うっかりしていたわ。()()()()じゃ足りないわよね」

 

更に積み上げられるドリンクの山。

 

「いつの間にこれほどの量を!?」

 

悪魔のドリンクは数少ない冬の國からの輸入品である。専門ではないものの流通量はだいたい把握しているシルフにとってこの量は異常だった。

軽く半年分の数がそこにはあったのだ。

 

「安心して。皆の分を横取りしたわけでも消費しきれなかった古い物を持ってきたわけでもないの、ちょっとだけ質は落ちるけどこのドリンクを作ったのは私なの」

 

オーロラは自信満々に胸を張った。

悪魔のドリンクを開発したのはモルガンだが、うっかり飲み忘れたモルガンが床で寝てしまった時があり、そのままオーロラはワンオペで頑張ったが、在庫を切らして床で寝てしまったことがあった。

その時思ったのだ。自分で作れるようになろうと。

 

オーロラが手を叩けばドリンクの山。もう一つ叩けばドリンクの山。

 

魔術は苦手なので材料と工程を頭に叩き込んで、膨大な魔力でそれらを省略する荒業である。

 

スプリガンは生気のない面をしてケタケタと笑っていた。

シルフはオーロラの行いに若干引きつつ、オーロラのお手製と聞いてこっそり何本か懐に忍ばせていた。

 

瓶詰めの木箱を五百箱ほど産み出しだろうか。やっと満足したのかオーロラは足りなかったら連絡してね、と牙の氏族も震え上がる笑みを残してその場を去った。

 

 

「ごくごく……うん、元気百倍。やっぱり誕生祭は家に帰れなそうね!今日も頑張りましょうシルフ!」

 

 

オーロラは五日ほど寝ていなかった(正気ではない)

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ!?まだ帰ってないんですか!?」

「数が多いのか、それともとんでもねぇバカが居たのか。こりゃ記録更新かもな!ガハハ!」

「そ、そんなぁ~」

 

小鳥が囀ずる朝早く、一番乗りで本省に到着したロリカ達であるが、オーロラが帰って来てないと言われて驚いた。

まだ出勤していないと言われるなら理解出来るが、夜勤の妖精に問い合わせたところ、昨日の見回りから帰って来てないのだという。

 

「それって普通にヤバい案件なんじゃねぇか?おね、オーロラ様に何かあったとか?」

「この街でオーロラ様をどうこう出来る存在なんていねぇよ。仮に本人が眠り呆けていても、あのバカでっかい手が守ってくれるんだから隙がねえ」

「なら、どっかに泊まってるとかか?」

「うんぃや。俺の読みが正しければこれは徹夜で説教コースだ。誕生祭の一週間ぐらい前から終わるまでオーロラ様は寝ないからな。どっかで休憩してるだなんてあり得ねぇ」

「ブラック過ぎんだろ。泥沼かよ。お母様でも日付が変わったら片付いてなくても普通に寝るぞ」

「お母様?そういやお前見ない顔だが……」

「あー!あー!なら時間を改めてまた来ます!貴方ももうすぐ退勤時間ですよね!お疲れ様です!ごゆっくり!」

 

トリスタンの肩を引っ張り足早に去る。ここで冬の國の内情に詳しい役員でも呼ばれたら全てご破算だと冷や汗をかきながら繁華街まで逃げた。

 

「おじちゃん!これくれ!」

「おうよ。いまどきモルポンドを使うなんて通だね嬢ちゃん!」

 

そしてこれからどうしようと青ざめるロリカの横で露店で目についたアメリカンドックを頬張るトリスタン。

 

「やっぱりこれも美味いな。アメリカンドックだっけ?どういう意味かは分からないけど、毎日食べたいぐらいだ」

「あぅぅ。どうしましょう……」

「まぁ仕方ないし、探しにいってやろうぜ。あのオッサンの話なら一日待っても帰ってこないかもしれないんだろ?」

「うーん。そうですねぇ……それが一番……でも万が一オーロラ様と入れ違いになったら……仕事が……私の立場が……」

「ま、そう悪い方に考えんなって。お姉ちゃんはこの國で一番偉くて、一番人気者なんだろ?ヒトが集まる場所を当たれば意外と直ぐ見つかるかもしれない。それにいざとなったら書類を改竄しとけばいいんだよ。私は正式な手続きで入国してるとか、そういう悪辣なやつ、私得意なんだ」

 

トリスタンは他人事のように言うが、その考えは的を得ていた。

オーロラはこの國の最重要人物であり、彼女を中心にしてこの國は回っていると言っても過言ではない。

 

「おいおい、あっちで乱闘騒ぎやってるらしいぞ」

「騎士と牙の氏族の殴り合いだって!」

「騎士は人間か?」「うん人間!」「結構良い勝負してるらしい!」「見に行こうぜ!」「見に行こう!」

 

そして間の良いことに乱闘騒ぎが起こっているらしい。

治安維持の騎士達と牙の氏族達が揉めているのだそう。大方、無理なノルマを達成しようと牙の氏族のブースの範囲外で屋台を展開していただとかそういう理由からだろうが、住人達が刺激を求めて走り出す。

こういう異種格闘技系の話は妖精も人間も大好物だった。

 

「先ずはあっちだな」

 

今度はトリスタンが手を取った。

 

「あぁもう!どうにでもなれー!」

「その意気だ!何なら私たちも参加してやろうぜ!」

 

 

 

「あらヴィヴィアンとロリカ?……いや、まさかね」

 

その後ろ姿をオーロラは見ていた。

馬車に乗っていたので一瞬だったが、とても見覚えのある二人だったような気がする。

これをヴィヴィアンとロリカなのではと思って口に出したが、理性が否定する。

ヴィヴィアンの次代が生まれ、たまたま巡りあったロリカと再び縁を結んだなんて幸せな夢が現実であっていい筈がない。

こんな素敵な白昼夢を見るなんて……流石に寝るべきかなと呟いた。

 

 

 

 

 

今回の誕生祭。不思議な力でも働いたのか二人とオーロラは最後まで再会することはなかった。

 

ロリカは2日目で自棄になり、「どうせクビになるなら祭りを楽しんでやろう」とトリスタンを優先しようとしたが、トリスタンはサクッとモルガン仕込みの魔術で書類を改竄して「これで問題ないだろ?」と片目を閉じた。

 

「やっぱり貴方は、いえ!有り難うございます!二人で誕生祭を楽しみましょう!」「そうこなくっちゃな」二人は手を繋ぎ心行くまで誕生祭を満喫したのだそうだ。




※オーロラの名誉の為に言うと彼女が不眠不休で頑張るのは誕生祭の期間だけであり、その後は長期休暇もある。モルガンは早朝から深夜0時まで365日休みなく働いていた。


「そうか。誕生祭は楽しかったか(それは良い春の記憶になっただろう)」
「お母様!この國でもたこ焼きやアメリカンドックを売りましょう!」
「それはやめておけ(あぁ言うのは祭りや特別な日に食べるから美味しいのであって日常的に食べると感動が薄れるぞ。かくいう私も綿菓子を魔術で毎日……)」
「……はい。無茶を言ってごめんなさい」
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