オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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虫取り

サラマンダーという土の氏族と会合してからすぐ。

 

「ふは……終わった」

 

倒れこむようにソファーに横になる俺。

いきなりノリッジの領主が顔合わせにくるということで内心かなり緊張していたが、何とかやり過ごせた……と思う。

 

少なくとも致命的なミスはしていない筈だ。

途中パニックって退室してしまうアクシデントもあったが、紅茶を淹れる為というアドリブでカバー出来たし、何よりサラマンダーは俺渾身の作り笑いにはうっすら頬を赤らめていた。

 

……身体のスペックに甘えるのは危険だと分かっていても、今回ばかりは見た目がオーロラであった事に感謝するとしよう。

 

「さて、ソールズベリーからかなりの距離があるノリッジから領主が訪ねて来たということは他の街の領主が訪ねて来るのも時間の問題……それまでにもっと演技力に磨きをかけて、最終的にはスプリガンやムリアン級の妖精が来ても騙しきれるぐらいにならないと」

 

ソファーから顔を上げて物事の順序を再確認する。

ただでさえ嘘やハッタリが通用しない妖精眼持ちなんて存在がいるのだ。

腹芸で騙せるならそれに越したことがない。

 

そこで俺は一度頭の中を整理する意味で、やるべきことを紙に書き出して、優先順位が高い物から順に上に並べてみた。

 

 

・演技力の向上

 

・自警団の設立

 

・街の発展

 

・メリュジーヌ

 

意外に思うかもしれないがメリュジーヌは一番下だ。

オーロラにとって彼女は正に切り札的存在だが、妖精騎士に着名出来る下地を作ってからではないと易々と連れ出せるものでもない。

本人はオーロラがいる限り着名がなくても自分を保っていられる……なんて本編で独白していたが、今のオーロラは俺だ。

万が一にも自分を保てなくなって新たな厄災などになられたら堪った物ではない。

 

保険を掛けて事を起こすならメリュジーヌが暴走したとしても抑え込めそうなモルガンやウッドワスがいる時期の方が好ましい。

そうなると女王暦までは待たざるをえず、女王暦までは千年以上ある。

 

後のモルガンであるトネリコと懇意になって着名してもらうと言うのも一つの手かもしれないが、自分はご覧の通りの有り様であるし、メリュジーヌは純正の妖精ではない。

もし大厄災で死んでしまったらトネリコ=モルガンでも蘇生出来るかは微妙な所だ。

 

そして先ほども言ったように今のオーロラが自分なのでメリュジーヌが応えてくれるかも分からないから、あまり期待しないようにしている。

 

 

「ふふ、こんにちは。私の可愛い妖精さん?」

 

ふと鏡を用意して笑ってみる。正直顔が良いという以外に演技の上手い下手など分からない。

妖精に演技を評価してもらうのは論外だが、せめて客観的に口を出してくれる存在が欲しいところだ。

 

そう言えばサラマンダーが人間は殖やしたい放題だとか言っていたが、一人ぐらいなら………………いや、人としてアウトだろ。

 

これから先、やむを得なくそういった手段を取らざるをえない時が来るとしても、まだその時ではない。

 

「はぁ……月見バーガー食べよ」

 

気分転換もかねて魔力でちょいちょいと仕上げた月見バーガーを小さなお口で食いつまんだ。

 

『妖精は大概の物を魔力で再現してしまう』と言うのは原作で知っていたが、いざやってみようと思うと呼吸するように出来た物だから「あ、妖精になったんだな」と身に染みて実感する。

 

でも食事の内容が変わらないというのは精神衛生上とても助かっているので、この事に関してはむしろ助かった。

 

だが「魔力で再現できんなら現代兵器量産すれば最強じゃん!」とは問屋が下ろさない。

試しに猟銃等々、モース相手に使えそうな武器を製造してみたが火薬や石油が絡んでくると、てんでダメで、外見だけのハリボテになってしまう。

 

何とか使い物になりそうなのがボウガンや投石機ぐらいだった。

これは自分が創造する物の骨子を理解していないからとか魔術理論に通じる物ではなく、簡単な電池すら出来なかったので、多分そういう物なのだろう。

 

「食べ物系は全部いけるんだけどね……」

 

サイドにポテトとチョコシェイクを出しながら変哲な街並みを見下ろす。

 

「この世界だと関係ないし、マックとかモスバーガー開こうかな」

 

原作の街並みを再現するのが無難。だがどうせなら楽しい街作りをしてみたいものだ。

どうせ大厄災で更地になるのだし、今いる屋敷は先代の風の氏族長が単独で建てた物だという。普通の妖精は魔力の最大値が低いので協力して建てるらしいが、氏族長の自分なら軽いチェーン店ぐらいなら一人で建てられるのではないだろうか。

 

妖精達は目新しい物には興味を抱くだろうし、人類史であれだけ人気なのだからこの世界の人間も気に入る筈だ。

 

自分の強みがあるとしたら氏族の長として通常の妖精より多い魔力、オーロラの美貌と人間の頃の知識と言うか…妖精にはない発想力。

俺は当初オーロラの美貌だけでやっていこうと考えていたが、使える物は猫の手だって使っていきたい。

美人社長だって世の中には存在するのだし、オーロラによる大型チェーン店、全国展開による食文化チート……いけるかもしれない。

 

「ま、厄災の対策の方が優先なんだけど」

 

余裕が出たら試験的に試してみるのもいいだろう。

忘れないようにメモに書き足す。

そして食べ終わった包み紙を捨てると、再び鏡に向き直って演技練習を再開した。

 

「もし、可愛いあなた?」

「まぁ!」

「あなたのお名前は?」

「大丈夫、誰もあなたを愛さなくても私はあなたを愛しているわ」

 

白々しい台詞。心にもない言葉。それがどうして鏡の中にいる絶世の美女に言われると様になるのだからオーロラってズルいと思う。

画面の外ではあれだけ嫌悪したと言うのに、この口を動かしているのは紛れもなく自分であるというのに、不思議と吐き気や気持ち悪さは思い浮かばない。

 

(メリュジーヌはこれにやられたのかね?)

 

ストーリーを読んでいた時はパーシヴァルと「くっ付けくっ付け」等と思っていたが、産まれて初めて見た光景が、こんな『完成された芸術(オーロラ)』に抱き上げられたものだとしたら……たとえその本心を知ったとしても愛してしまうものなのかもしれない。

 

「なぁ。お前は結局、何が目的だったんだ?」

 

鏡に手を当てそう問い掛ける。

当然、答えなど帰ってくるわけもないが、この妖精國で3000年も生き残った妖精が、復讐心に取り憑かれた訳でも、策略に嵌められた訳でもないのに、あんな墓穴を掘るものなのかと……少しだけ不思議に思った。

 

「目先の欲に囚われる馬鹿が何千も生きていられるほど妖精國は生易しくない。

弱みさえ掴まれたら、あんただって表舞台から引きずり下ろされていた筈だ。

アンタは本当は…………いや、そんな訳ないか」

 

鏡から視線を外し、隠すように布を被せる。

自分と向かい合って練習するのは今日は止めにしよう。

まだオーロラになって日が浅いからか、彼女を見つめていると妙な気分になる。

 

(……自分に魅了なんてされたら世話ないわな)

 

もしかしたら、それで身も心もオーロラになるかもしれないが、試すには少し博打が過ぎる。

 

「……ん?」

 

しかし鏡を使わずに演技なんてどうやってすればいいんだろうかと、視線を落とすと屋敷の下で此方を見上げている薄汚れた人間の少年と目があった。

 

……あんなに小さい子も妖精にとっては玩具と変わらないのか。

 

なんと言うか複雑な気分だ。

そもそも両親がいない。30年しか生きられないという制約の中でなんで妖精の都合の良いように生きなければならないのか。

それを善しとしない豪傑や現状を変えんと闘志を燃やした英雄はいなかったのか。

いや、ウーサー君って人がいたんだったけ?

 

(確か、頬を気持ち持ち上げて目尻を少し下げる……)

 

どのみち今の自分には何もしてやれない。

だからせめてオーロラの美しさが明日を生きる彼の糧になればと精一杯の慈愛の笑みを浮かべる。 

 

…………!!?

 

「あ、やべ」

 

すると少年は鼻血を噴き出してぶっ倒れた。

少年とは言え……いや色恋に疎い少年だからか。オーロラスマイルは少し刺激が強過ぎたらしい。俺は慌てて階段を降りる。

 

 

「まあ、」

 

「私はオーロラ。

あなた、お名前は?」

 

そしてこんな時にと思うかもしれないが、練習を兼ねて

つとめて、慈愛に満ちた声で。

つとめて、憐憫を想わせる顔をして

つとめて、大切な物を扱う少女のように

 

俺は少年に語りかけた。

 

「ボク、……ハ。」

 

そして、抱き上げてあまりにも軽い体に絶句。

一瞬、妖精になって筋力が上がったせいかと思ったが着ているシャツのような布切れ一枚を捲ってみれば、殆ど骨と皮しかない状態だった。

 

倒れたのはオーロラスマイルにやられただけではなかったのかと、虚ろな目をして掠れ掠れに音を紡ぐ少年に痛ましさを覚えて唇を噛む。

 

「ア……レ?ボク、ハ……ソウダ。ハヤク、モドラナイ、ト……オコラレル」

 

非常にゆっくりとした動作で立ち上がろうとする少年。

言葉の節々から読み取るに、彼の持ち主ないし飼い主の元に戻ろうと言うのだろう。

 

「ハヤク、モドラナイ、ト……ハヤク……ハヤク……」

 

やっとのこと俺の腕の中から起き上がって、一歩、一歩と踏み出して行く。

 

これが妖精郷……。こんな地獄に3000年も生きていかなければならないのかと、俺は何とも言えない気持ちでその小さな背中を見送るしかない。

 

 

 

その時、少年のズボンが垂れ下がり、

あるべき場所にある物が、抉り取られたように陥没していた。

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ

 

「よし、決めました。たった今、思い立ちました。

貴方はこれから私の物となりなさい」

 

後々、この少年の持ち主が「飯を抜いた人間が何れぐらいで死ぬのか実験してたのに!どうしてくれる!」と俺に文句を言ってきたが虫に変えて踏み潰してやった。

後悔はしていない。

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