オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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悪天狗

ロリカに出会ってから、いやお母様の娘になってから私の人生は常に薔薇色だった。

 

口数は少ないけれど、毎日ずっと一緒で、愛してくれるお母様。

 

会える日は少ないけれど、何でも気兼ねなく話せる友人で、たった一人の特別な親友。

 

この二人がトリスタンの幸福の全てであると言っても過言ではない。

この二人さえいれば幾千、幾万の年月が経とうと幸福に生きられると確信していた。

 

 

 

「ごめんなさい、来年の誕生祭までは持ちそうにありません」

 

 

……え?

 

 

 

その片割れが今、崩れようとしていた。

 

 

 

 

 

「寿命です。人生30年と言われてプラス2年頑張ったんですがこれの辛いのなんのって……もうオーロラ様に用意して貰ったコンタクトがないと指の数だって認識出来ないし、普通に歩くのも結構キツくて、食べ物も流動食以外何も受け付けないって言うか、これ以上は無理そうなんですよね」

「い、いやいやいや-騙されないぞ?人間は80年生きるんだろ?冗談キツイぜ」

 

ロリカは砕けたように笑う。

これが死期の近い人間が浮かべるようなものであるものか。

トリスタンは背筋にヒヤリと流れた汗に気づかないふりをして質の悪い冗談だと思った。

 

「……少し歴史の話をしましょう。旧人類の生きた化石、鋳造されたヒト型の原型。少し古い言葉で短命の人間を第一世代と言うんだそうです。今では差別的な用語だと教科書から抹消されてしまいましたが、あと数年もすれば差別する対象は完全に居なくなるといわれています。あ、ブリタニアの国内に限った話ですが」

「へ、へぇ...」

 

何故ブリタニアに限った話なのか。トリスタンは知っている。知っているが、口には出せなかった。

 

「ある時からブリタニアの人類は鋳造から生殖にメインの生産方式を切り替えました。元々、生殖によって生まれた第三世代と呼ばれる人たちは、後の第四、第五と同じくらい寿命が長いことが知られていましたからね。効率は悪いが長期的に見れば得をするのは我々だ。か弱い人間の子供たちを我々妖精達が育てようと──オーロラ様の発案らしいですが、この頃から急速に人類の平均寿命が延びました」

 

だが、飢饉や病魔も大抵のことは魔力で解決出来る妖精達でも厄災や争いによる犠牲だけはどうしようもなかった。

ある年のことだ。グロスターのムリアンと近隣の領主は仲が悪く、小さな小競り合いの末、街の住人をも巻き込んだ大きな争いが起こった。

 

多くの人間が死んだ。

争いは最終的に痛み分けとしてオーロラに諌められる形で決着がついたが、街の推力を維持するには早急な人間の確保が必要不可欠だった。

 

この時、人間牧場の生産ラインを全盛期まで戻したのはムリアンの発言があってのものだ。

 

「グロスターと近隣の街の人間の数は直ぐに戻って、人間牧場の有用性は証明されました。質は生殖、量は人間牧場と言ったように二足のわらじでブリタニアは今後発展していくのだと誰もが思ったそうです」

 

だが、オーロラが言った。

人間牧場で生まれた人は寿命が短い。愛する人と同じ時を歩めないのはなんて不幸なことなんでしょう。

 

 

──あぁ、全くその通りだとトリスタンは頷いた。

 

「これにより、ブリタニアは人間牧場そのもののシステムを見直し、改良することを決めたようです。ですが、人間牧場は万年同じ技術が継承されてきました。これを作った妖精が残っているわけもなく、当然のように資料もありませんでした。どう扱っていいのかすら妖精達には何となくでしか分からなかったのです」

 

ボタンを押せば人間が出ることは分かる。そういう機械だから。

だけどどういう仕組みで人間が出てくるのかは分からない。

構造的には80年は生きるのであろう人間が何故コピーしたら30年ぽっちしか生きられない劣化品として出力されてくるのか誰にも分からなかった。継承されたのはボタンの押し方だけだったのだ。

 

モルガンは生殖が出来るように一度手を加えたが、モルガンとて生殖能力を復活させるのは容易ではなかった。

実際に搭載されている生殖器の機能を復活させるだけでいい筈なのに、人間牧場のシステムは完全にブラックボックスと化していて、そのノウハウもない。

いつもなら匙を投げる所、他ならぬオーロラからの頼みだからと奮起し、全て一から解析しようとしたが、最終的に彼女は解析するのを諦め、外付けのデバイスで対応した。

 

あくまで停止していた生殖器を動くようにするだけで良かったからだ。この國一の賢者である彼女にしてもデタラメに切って繋げられた人間牧場のシステムはフ〇ックの一言。真面目に解析して改良を加えられるようになるまでの年月を考えると大厄災が何回来るか分からなかった。

 

オーロラの望み通りの結果は出せるし、ウソはついていない。モルガンは見て見ぬふりをした。

 

だが、劣化品を外付けデバイスで正規品に戻すのは流石に無理がある。

 

 

だからモルガンも、それは無理だと言いきった。

 

 

 

つまりそう言いたいのか。人間牧場生まれのロリカが死ぬのは避けようがないのだと………

 

 

「しかしそれも過去の話。ブリタニアの総力を結して人間牧場の改良は成功し、特記世代という新たな人類が生ました。彼らは生殖によって生まれた人間と同等の寿命と性能を誇り、真なる意味でブリタニアの人類は誕生したのです」

 

 

 

「は、はは……なんだよ。たくっ。バカっじゃねぇの。そんなの私も知ってるし」

 

ウソである。だが先ほどまでどんどん沈んでいったテンションが一気に引き上げられたような爽快感があった。

ロリカに親や兄妹がいないことは以前から知っていた。それでもブリタニアは妖精の國であると同時に人間の國でもある。きっと何か不幸な事故があったのだろう。それで孤児院に引き取られ大切に育てられたのだ。ロリカはこの平和な國で、人間牧場で家畜のように作られたのではなく、ちゃんと両親の愛から生まれたのだと信じていた。

 

だって人間牧場で生まれた人間はもっと惨めで無様で、一度野心に溢れた存在が現れても、生まれもった枷に囚われ、この世界に何にも残せずに呆気なく死んでいくものだと、自分の國で嫌と言うほど見てきたから。

 

ロリカはあれとは違う。

だって彼女は外交官を任されるほど賢くて、人間なのにお母様と対等に話せるぐらい大人で、お姉ちゃんにも覚えられている世界に名を残すような傑物だ。

 

 

もう少ししたら、結婚してそして子供を作るのだろう。幸せな家庭という明るい未来が待ってるからこんなに頑張れるに違いない。

 

「これは私が生まれた後の話でした。ちょうど五歳の誕生日の話だったそうです。驚きました?実は結構最近の出来事なんですよ?」

 

 

「何でだよ!!!!」

 

 

トリスタンは悲痛な叫びを上げた。

 

何だよそれ、何でロリカは違うんだよ。こいつは、ロリカは人一倍頑張ってるじゃないか。今もこうして生きる為に足掻いているのに、何で私の友達が死ななくちゃいけないんだ。

 

 

 

せめて、あと5年遅く生まれていたらと思う。だが人間牧場の件は改良ではなく停止だ。所詮見せかけの栄光であり、5年後に生まれる予定だったとしたらここにロリカは存在しなかったかもしれない。

 

 

そんなことは知ってか知らずか、トリスタンは初めてオーロラを憎んだ。どうしてオーロラはロリカを助けてやらないのか。こんな死に体の彼女を一人ほっぽりだして何をしてやがるのか。

女王として忙しいのは理解しているつもりだ。

だがトリスタンは今日この日までオーロラとロリカが会話している姿を見たことがない。──薄情なやつだと吐き捨てた。

 

 

「そうだ。うちにこいよ。お母様なら何とか出来るかもしれない。こんな國を捨てて私と一緒に暮らそうぜ。大丈夫だ!前みたいに変なやつがちょっかいかけてきても私が守ってやる!」

 

着名によりトリスタンは大きな手に入れていた。出会った当初はどうしようもなく哀れで脆弱な泣き虫妖精だったが、今なら泣かせた連中を肉塊にだって出来るのだ。

 

「それは……出来ません」

「何で!?」

「だって、これは私が選んだ道だから。他者からみればどれだけ惨めでも、もっと上手くいく選択肢があったのだとしても、私が選んで私が歩いた道です。私はこの人生に誇りを持っています。それを誰かに奪われたくはない」

「奪うって、そんなつもりはねぇよ!ただ……私はもっとロリカと一緒に、……どうしてそんな短い人生で満足だって笑えるのか分からねぇよ!」

 

 

頭の中がぐちゃぐちゃだ。早く城に帰ってお母様に抱き着きたい。けれど、今ここでロリカと別れてしまえば今世の別れになってしまう。

 

どうすれば、どうすれば、いい……!

 

 

「幸せに時間なんて関係ないんです」

 

俯く私とは対照的にロリカはずっと前を向いて話していた。

 

「妖精よりも短命なのは別の種族だから当たり前で、同じ人間よりも短命なら不幸な人生しかおくれない。そんなことはありません。私は良き親と同僚と友に出会えました。限られた時間で何を残すのか考えるよりも何を得たか考える。持論ですけどこの方が」

 

一歩踏み出す度に、砕けていくロリカの姿を幻想した。

 

トリスタンにはロリカを止める言葉が分からない。

今が幸せで充実している筈なのに壊れていくことをむしろ喜ばしいと感じる彼女の感性が理解出来ない。

 

 

ロリカは、どこまでも達観していた。

 

モルガンに無理やり引き合わせようとしたら舌を噛みきるぐらいの信念は持っているだろう。

 

 

「……どうしても、生きてはくれないのか?」

 

トリスタンから絞り出されたのは泣きそうな声だった。

 

 

「ええ。貴女の願いでもそれは受け入れられません」

 

 

「ならオーロラなら?」

 

「それでも駄目です」

 

 

「…………私が一緒に死ぬと言ってもだめか?」

「ごめんなさい」

 

 

 

 

そうか。

最早切れる手札はなく。どう言葉を尽くしてもロリカが折れることはない。ポツポツと大粒の涙を溢して、受け入れたくないその事実を何とか咀嚼しようとトリスタンは顔を歪めた。

 

「…………」

 

ここでロリカは下を見た。

 

親友にこんな顔をさせてと罪悪感を抱いたからであろう。

 

私に頭を下げて首を晒した。

 

 

 

 

 

血色の良い細い首に視線が釘付けとなる。

 

「────ッゥ!?」

 

稲妻が走り抜けたような錯覚を覚えた。

 

彼女の特性はこの世界線において一度も発露されたことはなかったのだが、本能とでも言うのだろうか?

 

全身が火をついたように暑くなり、溢れ出る唾をごくりと飲む。

 

これまで食べてきたどんな料理よりも魅惑的に見えた。

 

これをすればロリカは死ぬ。死ぬが、一緒にいることは出来る。それが吸血による使徒化だった。本家大元に比べれば肉は腐り落ち知性は失われ、言葉すら介せなくなる生きた死体(リビングデッド)がいいところの劣化版だが、彼女と共に生きるという至上の目的は叶う。───そんなことはしてはいけない。ロリカの全てを否定してしまうと(バーヴァン・シー)は拒絶したが、今の彼女は妖精騎士トリスタンだ。

 

 

 

『もう二度と過ちを犯さないように悪辣に』

 

 

延々と頭の中で響く言霊が背中を押した。

 

 

かぷりっ

 

 

 

「え?」

 

「なら、簡単なことじゃないか

 

 

 

──死んでも一緒にいればいいじゃん」

 

 

血と唾液が混ざった糸を引きながら妖精は笑った。

 

 

 


 

妖精騎士トリスタン…成った。

モルガン…娘の『友達』に防腐処理などを施す。

オーロラ…ホムロの手紙がなかったIf。

ケルヌンノス……もう取り返しがつかないヌン

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