オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「やぁ、マーリンお兄さんの時間だよ」
月日は流れ季節は巡り冬となり、春の都にも雪がちらついてメリュジーヌの寝起きが一段と悪くなるその頃。珍しくマーリンが夢に干渉してきた。
「今回は裸……じゃないけど、ちゃんとした服ではないのね」
マーリンの夢は寝間着のままの姿で反映される。
私はいつものように生まれた姿のまま眠りについていたが、今は厚手のバスローブなものを纏っていた。少しサイズが小さくて生足は太ももの付け根まで見えそうだし、隠そうとすると胸が飛び出してしまいそうになるが、一応配慮してくれたのだろうか。
「貴方の趣味じゃないわよね?」
「楽園の妖精に頼んだんだが意外と俗っぽい趣味をしているやつがいたようだ」
「そう。ならその子が
「おお怖い。楽園の妖精が強制的にブリテンに堕ちるのか。ちなみに犯人が僕ならどうなっていたのかな?」
「安心して。貴方には色々とするべきことがあるのは知っているから妖精郷に監禁したりなんてしないわ。ぷちっと潰しておしまいよ」
何を、と男ならわざわざ言わなくても分かるだろう。
いつも朗らかに笑っているマーリンの頬が一瞬ひきつった。
「まぁそれより、今になって干渉してきたのは何故?もしかして楽園の子をこちらに招く時期が決まったと言うの?」
前回の最後で予兆があったら連絡すると言っていたが今は女王歴1300年頃だ。正確には1281年だが本来の彼女が生まれる2000年にはまだ700年ほど早い。
「いや、今回は魔術師らしく予言の一つでもしようと思ってね」
「あら、何か面白いものでも視たのかしら?」
「本当ならこれは本人が言うべきなんだろうし、もしかしたら君が自力で気付くべきことなのかもしれないが、あまり時間をかけすぎると取り返しのつかないことになりそうだからね。今、私の口から打ち明けることは出来ないが、切っ掛けを与えるだけなら許されるだろう」
「本人、私が気付くべきこと?」
もったいぶるような口振りだが、時期としても中途半端で心当たりはなかった。
「今の君はアルビオンの血から生まれた真性の竜。それは理解しているね?」
「ええ。だから竜としての格?が高くて竜種のなかでもかなり上澄みだってメリュジーヌが言ってた」
「普通は血を分けたぐらいで竜化なんてしたりはしない。浴びるように飲んでもせいぜい権能の一つか二つ手に入れられるかどうかだ。よほど適正があればその血を切っ掛けに竜化したりもするが
「真性だとか純正だとか難しいことは分からないけど、それって重要なことなの?」
「竜は竜。確かに幻想種としての頂点である君達からすれば生まれの問題など些細なものだろう。結局は腕っぷしと蓄えた神秘の強さがものを言う」
だからこそ君の親が問題だとマーリンは言った。
「私の親?妖精としてなら先代の風の氏族になるけど竜としてならメリュジーヌよね?」
まさか前世の親のことを持ち出すとは思えない。共働きでろくに家に居なかった両親だが、ごく普通の一般人だった。
ならメリュジーヌだが、何か問題あるのだろうか?マーリンの拘る純正な竜は生まれた時点で親と同等でいずれ親よりも遥かに強くなるそうだが、メリュジーヌはアルビオンの左腕だ。先程の条件に当てはめるなら腐り落ちた左腕から生まれたメリュジーヌはアルビオンの子であっても純正な竜ではないのだろう。そもそも妖精であるし。
アルビオンは冠位の竜で型月でも最強クラスらしいが、それから分かれた彼女が引き継いだ力なんて、多分半分もないんじゃないだろうか?
言っては悪いが、メリュジーヌから少し強くなったぐらいでセファールに勝てるとは思えないし、カオスなど夢のまた夢。それどころかギリシャ神話の機神の超合体にすら敵うとは思えなかった。
「私の神秘が汎人類史に悪影響を与えると言う話ならそもそも私はあちら側に行くつもりはないのだし、」
「時に、オーロラ。君はアルビオンの子が誕生してからあの湖には行ったかい?」
「え?」
「ただの妖精だった君がアルビオンの子を産み落としたあの湖だよ」
「そう言えば一度も行ってないわね。管理だけは鏡の氏族が変わらずしてくれてるから問題は起きてないんだろうけど」
「君はある選択を選んだ、このブリテンの未来を知ってるそうだね。ならば、もう一度あの湖を訪れて比べてみることだ。少し前からその未来と解離し出して予想がつかなくなることを懸念していたようだが、君の思うずっと前にこのブリテンの運命は変わり出している。それを知り、理解しなければきっと君はこのブリテンを最悪な形で滅ぼす大厄災になるだろう」
街と國。人と妖精が煉獄にまみれて踊るそんな最悪を孕んだ瞳が私を射貫く。笑みをひそめ、感情のない能面のような顔をしたこんなマーリンを私は初めて見た。
そして目が覚める。
「むにゃ。むにゃ……あと5分……」
時刻は朝の5時。
よほど寒かったのかベッドから転げ落ちて暖炉の前で毛布にくるまるメリュジーヌが寝言を言っていた。
オーロラが起き上がるとシーツがじっとりと汗で濡れていた。
「…………」
何だろう。凄く嫌な夢、いや予言だった。
取り返しのつかないことになる、それも自身の半身とも言うべき彼女が起因であり、私がこの國を最悪な形で終わらすと言われては胸のざわめきも直ぐには収まりそうにない。
オーロラはベッドから降りると魔力で生み出した服を着て、メリュジーヌの肩を揺すった。
「ねぇ、起きて。メリュジーヌ」
「んんっもう。5分……」
「お願い、確かめたいことがあるの」
「んんんんっ!」
毛布で全身を包んでくるまってしまった。
こうなると昼まで起きないだろう。
ならばと私は考える。あの湖のことはメリュジーヌが一番理解している筈。だから本人に聞けば早いと思ったが、これならマーリンの言うように自分の目で確かめるべきだろうと。
幸いにも湖までなら半刻もしないで着く。いつもならひとっ飛びで向かっていたが、今回はどうにも心細いというか、一人で向かうのが怖かった。
……どうしようか。
身体が震える。開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったような見えない恐怖をオーロラは感じていた。
今すぐにでも確かめにいきたいが、誰かついてきてくれないか。
屋敷にいる妖精達では万が一があった時に守りきれない。ムリアンは仕事でグロスターに帰っている。メリュジーヌ以外に頼りになって心強い誰か、どこかにいないか。
こんな早朝に起きているとすれば職人のサラマンダーぐらいかと一瞬考えて、胸の内がチクリと痛んだ。
逸る気持ちと押し付けられる恐怖に苛まれ、オーロラが当てもなく探し求めて屋敷の外に出ると、荒い息遣いが裏手で聞こえた。
「フッ!ハッハッ!」
こんな朝早くに誰だろうか?導かれるように裏手に回ると、そこには木剣を素振りするウッドワスの姿があった。