オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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冠位の竜と亜鈴百種②

「すまない。起こしてしまったか?」

「いえ。そういう訳じゃないわ。少し夢見が悪くて」

 

私に気づいたウッドワスは素振りを止め、汗を拭う。ふかふかの毛皮の上から拭いてもさして意味がないように思えるが、癖のようなものなのだろうか。

 

「いつもこんな朝早くから鍛練してるの?」

「あぁ。勇者ライネックの次代として恥じぬよう、早く一人前の騎士にならねばならないからな」

「大厄災の活躍を思えば貴方をライネックの後継として認めない人はいないと思うけど」

「あれは駄目だ……あの時のオレは我武者羅に牙を振るう怪物だった。勇者ライネックは己の剣が砕けると共に死んだと聞く。彼のようにあるのならば牙ではなく剣で戦えるようにならなければ」

 

あの瞬間のことははっきりと覚えている。ウッドワスはヴォーティガーンの背中から侵入して腹を食い破り、両手に抱えきれない量の臓物を抱えたまま私に飛び込んできたのだ。

原作での彼はすっかり腑抜けてしまったそうで、案外楽に倒せるんじゃないかと油断して戦闘モーションを見た時にはどこが腑抜けだよ……と戦いていたものだが、これほどインパクトのある登場を飾られては納得せざるをえない。

 

剣を使うイメージはなかったが、本能のままに暴れる獣ではなく牙の氏族としての理想を探求していた彼の足掛かりが『騎士』なのだろう。

 

だが彼の素振りを見て私は違和感を覚えていた。

 

「その剣の師匠はいるの?」

「……痛いところを突くな」

 

私も伊達に長く生きたわけではない。前世のマインドを取り戻して剣ビームや燕返し(多重次元屈折現象)を出来るようになりたいと、メリュジーヌや騎士団に稽古を付けて貰ったことがある。

結局それらは出来なかったが、騎士としての基本の剣術ぐらいは身につけたつもりだ。そんな私から見てウッドワスの剣は、子供が力任せに振り回しているだけのそれだった。

 

「頼れる相手がいない訳じゃない。頼めば稽古をつけてくれる妖精に心当たりはあるんだが、牙の氏族の長としてみっともない姿を見せたくなくてな」

 

せめて熟練者から見てそれなりに心得があると思われるぐらいには上手くなりたいらしい。だからこうして人目を盗んで鍛練に明け暮れているのだと恥ずかしそうに語った。

 

「だが、剣を握って200年経っても素人のままなら、いい加減諦めるべきかもしれない」

 

もしかしたら原作の彼はこのまま誰にも見られず何百年と鍛練に明け暮れ、自身の才能のなさに絶望して人知れず剣を捨てたのではないだろうか。

 

「その妖精に稽古をつけてもらうの?」

「……いや、ヤツの剣の腕は確かだが合理的なところがある。あまりの才能のなさに大笑いして、爪でも研いどれと見放されるかもしれん」

「そんな酷い。ヒトの努力をそんな風に言うなんて」

「悪いやつではないんだ。オレに剣の才能がないと笑っても吹聴するような男ではない。才能がないオレが悪いんだ」

 

ウッドワスだってバカではない。誰かに直接教えを乞うことは出来なくても、騎士団が稽古している様を観察したり、兵法を書き記した書物などを読みこんで間接的に学んできた筈だ。素人に毛が生えた程度の私が直接教えるよりよっぽど身になる鍛練を積んできたのだろう。

その上での200年。力任せの剣だ。

 

哀愁漂うその背中は、何て言うか見ていられなかった。

 

「──ウッドワスは剣士になりたいわけじゃないのよね?」

「ん?あぁ騎士と言えば剣だと思って取ったが、礼儀作法についても平行して勉強しているぞ。騎士とは紳士、ご婦人の頼みは決して断らないものなのだろう?」

「騎士という高潔な存在に憧れがあるのね。この國で立派な騎士と言うと、メリュジーヌかしら?」

「よしてくれ。あれを手本にはしたくない」

「ふふ、そう。じゃあ騎士団の誰かかしら?貴方よりも強い騎士はこの國にはいないけど、それでも憧れる?」

「ああ。騎士というものの真価に強さは関係ないとオレは見ている」

 

その言葉を聞いて剣の才能がなくても臆病でも、王の願いに叛いて、独りぼっちになっても、それでも最優の騎士であり続けた人間の背中をオーロラは思い出していた。

 

 

「じゃあ、騎士様。一つお願いを聞いてくれないかしら?」

 

 

 

 

 

 

○○○○○○

 

「ハッハッハッハッ!!!」

 

ウッドワスの背中に乗って草原をかけている。

汗は魔力で飛ばしたのか、乾かしたてのタオルのような気持ちの良い感触に顔を埋めながらオーロラは息をすったり吐いたりしていた。

 

「昔、隣の人が犬を飼ってて良く撫でさせて貰ったなぁ……犬種はコーリーでこんな匂いがして……ふわぁぁぁぁぁ」

 

とてもリラックス出来ていると思う。胃の中は空っぽなのに、色々吐き出してしまいたかった気持ちの悪さはもうない。

 

「お、オーロラぁ!?あ、あまり強く抱きしめられるとむ、胸が!!!」

 

猫吸いならぬ犬吸い、これは良い文明である。

ブラをしてうつ伏せになると溢れてしまうので胸を固定する程度の若干緩めのサラシにしてきたが、正解だった。より感触を味わおうと回した手に力をこめるとウッドワスの声が裏返る。

 

「ごめんなさい。苦しかったかしら?」

「い、いやそんなことはないぞ!!!断じて!むしろ飛ばされたら危ないからもっと強く抱きしめて欲しい!いや、抱きしめて欲しいんじゃなくてするべきだなっと!」

「ふふ。ありがとう騎士様」

「それよりもオーロラ。その湖には何があるんだ?オレを頼ってくれるのは嬉しいが、君が危ない目に遭うのは避けたい」

「大丈夫。異変はあるかもしれないけど危なくはないと思うわ。危なかったら行ってみればなんて投げやりなことあの人は言わないだろうし」

 

それでもモース戦役後のモース被害は例年並みに戻ってしまっている。死霊もいないわけではないので、あくまで私個人なら問題ないと判断したのかもしれない。

 

「でも独りぼっちは怖かった。どうしてでしょうね、こんな不安な気持ちになるのは初めて。直感だとしたら私にとって良くない真実が待ち受けているのかも」

「ならば誓おう。その不安を取り除くことが出来なくともオレは震える君の側から離れたりはしないと」

「……今のはすっごく騎士ぽかったわ」

「そうか!」

「一人称がオレじゃなくて私なら異性として好きになっちゃってたかも」

「なっ!?え、本当!!!?」

「どっちだと思う?」

「な、な、な、、、う、ウオオオオオオオ!!!」

 

風のように駆け抜けるウッドワスの背中は益々温かくなるが、この熱が今のオーロラにはとても心地よく感じた。

 

 

 

 

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