オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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冠位の竜と亜鈴百種③

竜形態の私が本気で飛行すれば半刻も掛からず着く手筈だったが、その場合、騎乗したウッドワスが無事でいられる保証はないので彼の背中に乗って少し景色を楽しみながら3時間かけて私たちは湖までたどり着いた。

 

「ガァァァア!!!チッ!モース風情が!」

「少し多いわね。元となったのは北部の妖精達かしら?」

 

湖の周りにはモースが数十体ほどたむろしていた。ウッドワスが片付けてくれたので私の出る幕はなかったが、通常のモースより手強かったそうで、恐らくマヴの先祖にあたる北部の妖精達がモース化した個体達だったのだろう。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

メリュジーヌを掬い上げてから何百、いや千年ぶりか。

ウッドワスと共にアルビオンの死骸がある方まで私たちは歩いていった。

だが一歩、一歩、進む度に足取りが重くなるような気がして、目の前にあったウッドワスの腕を掴んでしまう。忘れていた恐怖が途端にぶり返してしまったようだ。

今の私の顔はきっと帰りたいと必死に訴えているのだろう。

 

あぁ怖い。怖くてたまらない。

 

理性ではなく本能が全力で警鐘を鳴らしていた。声に出してしまえば悲鳴を上げて飛んで逃げてしまうかもしれない。モースは何とも思わなかったのに、一体この先何が待っているというのか。少なくとも心の平穏には良くないものであるのは確かだった。

自身の体を労るならここで引き返すべきだろうが、その対価が最悪な未来というなら釣り合いが取れなさすぎて笑いが込み上げてくる。

私は唇を噛み締め、顔を上げてウッドワスと目を合わせた。

 

「オーロラ?」

「…エスコートをお願い出来る?」

 

腕に胸を密着させて笑った。

図々しい女の媚びへつらいである。

竜になったこの身では使う機会も減ったが、オーロラとしての美しさを私はエサにした。

こうすればウッドワスが断れないのを分かってやった。そして彼が性に暴走すればヌンノスが止めてくれると知っての行動である。いつか刺されても文句は言えなかった。

 

「ここに来てから君の顔色が一段と悪くなった。オレには何ともないが、感じからして毒や呪いではないのだろう」

「ええ。そうね」

「そこに向かえば君が回復するかは分からない。だが少なくとも君の抱えている蟠りは解消されるのだな?」

「心理的なものだからもしかしたら悪化するかもしれないけど、知らずに苦しむよりは私は知って後悔したい」

「…………理解した」

 

ふとウッドワスの顔が遠くなった気がした。

まさか、苦し紛れに微笑む私の姿は彼に醜く映ってしまったのだろうか。

このまま突き放され、放置されてはこの先に進むことは出来ない。物理的な問題ではなくその勇気が私には足りなかった。

 

だから彼の腕を離すまいと力を込めようとするのだが、それより少し早くにちょいっとウッドワスは私を抱き上げてしまった。

 

「ひゃあ」

 

俗に言うお姫様抱っこである。

え、まさか本当に発情して?とウッドワスの背後からヌンノスの腕がゴゴゴ……と伸びる中、彼は私の頭を自身の左胸に寄せて沈黙するように促した。

 

「…………」

 

何をするつもりかと身構えたが、会話を止めて静かになるとどくん どくん と心音が聴こえる。一定のリズムで彼の生きている音が刻まれていた。

 

「落ち着くだろう?種族的なものなのかは分からないが、ヒトは恐怖や混乱に陥った時、心音を聴かせると落ち着くことがあるのだそうだ。オレもモース戦役の頃、理性を失くして怪物のように暴れまわっていた、そんな時に抱きしめてくれた君の心音で正気を取り戻せた」

 

確か医学的には母胎の中にいた記憶を思い出すからだったか。それなら妖精や竜は当てはまらないが、何となく大丈夫になった気がする。

そう言えば、あの時は臓物を抱えたウッドワスを反射的に受け止めたけど、急に静かになったっけ?

 

「少し鼓動が早い?」

「惚れた女が腕の中だ。許してくれ」

「ふふ。それなら仕方ないわね」

 

自然と笑いが溢れる。

私の呼吸が落ち着いたのを見て、ウッドワスはそのまま湖の中央に向かって歩き始めた。私も降りて歩こうかと思ったが、この心音から離れがたくて大人しくする。

 

ヌンノスは取り越し苦労だったかと静かに消えていった。

 

 

 

 

そうして到着した湖の中央には、何もなかった。

 

「ここであっているのか?」

「ええ。ここで間違いない」

 

ぎゅっと袖を握る。間違える訳がない。

 

ここで私はメリュジーヌと出会い、そして()()()()()()()

私の記憶にはないが、土地の記憶とも言うべきそれが教えてくれる。

 

モルガンにかけられた記憶の蓋を解いても何故か思い出せなかった私が妖精から竜に変わるまでの空白期間。

マーリンはメリュジーヌが自身の心臓をくり貫いて食わせたと言ったが、心臓=霊核を抜き出して何故彼女は平気なのかと前から気になってはいた。

 

メリュジーヌはここにあったアルビオンの亡骸という46億年分の生命情報を食らいつくし、それを使って成長(あるいは回帰)するわけでもなく凝縮して新たな霊核をうちに生み出した。

オーロラのオーロラの為だけの二つ目の霊核、それをえぐり出して私に食わせたのだ。

 

 

真性かつ純正も純正だ。私はアルビオンの子供どころか────彼の生体情報を丸ごと受け継いだ

 

 

「私がアルビオンだった」

 

 

 

くらりと目眩がしたが何とか持ちこたえる。

メリュジーヌ、貴方は事あるごとに私を驚かせてくれるけど、想像の百億倍重いプレゼントにこっちは胃もたれしちゃいそうよ。

 

冷や汗を拭ってウッドワスを支えに立ち上がる。

 

『絶対に君を失いたくないんだ!!!』

 

平気であった筈がない。正気でやれる筈がない。

一日で食べきれる量だとも思えないから毎日こつこつ足を運んで腹におさめてきたのだろう。

 

こんな事はしたくないと嗚咽を漏らして泣いていたのか。これでオーロラが死ななくてすむと歓喜して笑っていたのか。

 

確かなのはオーロラという存在への執着の強さだった。

 

「ごめんなさい。……これは、吐く」

「オーロラ!」

 

片割れの愛は深淵の底にあった。

私はその日無条件に信頼出来る最後の砦を失ったのだ。




真名判明
ブリタニアの女王オーロラ
<オーロラ・アルビオン>
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