オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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最終再臨

あれからどうやって帰ったのだろうか。

 

覚束ない動作でベッドに潜り込んだことは覚えている。だがあそこから自力で帰れたとは思えないからウッドワスが運んでくれたのだろう。

隣を見ればヒト1人分の膨らみがあった。それはつまり、そう言うことで、私は彼と男女の仲となってしまったのだろう。初めてだったが意外にもショックはなかった。だからといって異性として特別な感情を抱いていたわけでもないが、あんな事をしたのだ。これぐらいはされても仕方ないと布団を捲る。

 

「むにゃむにゃ……オーロラ」

 

そこに居たのはメリュジーヌだ。

寒かったのか限りなく全裸に近い薄着でありながらモコモコの下着を着けたメリュジーヌである。

こいつホンマに……とオーロラは頭を抱える。

 

そして、一瞬でもあの清廉潔白な騎士を疑ってしまった自分を恥じた。

今度お詫びに何か贈ろう。彼は騎士が好きだと言っていたからアーサー王伝説なんてどうだろうか。個人的にはアーサー王伝説よりもトリスタン物語の方が好きだが一緒に薦めてみてもいいかもしれない。

 

「うへへ……オーロラぁ」

 

メリュジーヌが寝ぼけて私の腰回りを掴んだ。性的な手つきで指が動いている。無意識なのか夢でも見ているのか。私はいつものように叩き落としてやろうと尻尾に意識を向けて───あれ?

 

スヤスヤと眠るメリュジーヌ。

本当はアイアンテールでソールズベリーの外壁まで吹き飛ばしてやろうとした。だが出来なかった。

尻尾の感覚がない。まさか尻尾を下にして寝でもして痺れてしまったのだろうかと腰の付け根を確認すると、何もない。

 

 

「え、ちょっと嘘……取れたの?」

 

竜も自切とか出来たのか。

慌てて姿見で確認すると、傷跡も何も生えていた形跡すら残っておらず、綺麗なお尻と背中がそこにはあった。

 

「翼も!!?」

 

なんと翼すらない。それで正面を向けば角もないときた。これはもしかして相当やばい状況ではないか。軽くパニックになったオーロラが妖精の粉を角があった額や、お尻に塗っているとメリュジーヌが唸り声を上げて起き上がる。

 

「んんんん!もぅ、何だい?こんな朝早くからぁ」

「良かった!メリュジーヌ!どうしましょう!私の尻尾がなくなっちゃった!!!?」

「尻尾がなくなるぅ?そんなバカな。僕たちは蜥蜴じゃないんだよ。第一君の尻尾を切れる存在なんてこの國の何処にも……ハッ!!!?」

 

目を擦りながら私を見たメリュジーヌが固まる。

 

 

「め、メリュジーヌ?」

 

 

戸惑いつつ、肩を揺すってもメリュジーヌは石のように動かない。

 

「ねぇ、こんな時にふざけないで。貴方にはこれの事以外にもアルビオンのことでいっぱい聞きたいことがあるんだから」

 

気絶しているわけではないと思う。目は開いてるし、あわあわと声も発している。

私から角や翼がなくなった事がよほどショックだったのかと考えて、もしこれが私から竜の要素が抜け落ちたというとんでもない状況なら理解は出来るような気がした。

何せ半身どころか左腕以外の全てを捧げたのだ。それが全部無駄でしたとくれば私でも心が折れてしまうかもしれない。

でも体感で分かるのだ。私の竜の力、アルビオンの力は失われていない。ただ竜の要素として外見に表れていた部分がまるっきり消え去ってしまっている。それに何だが見た目もちょっと若返っているような?

ともかく翅がないことを除けば風の氏族のオーロラまんまだ。

これはアルビオンの力のせいなのかとメリュジーヌの肩を揺すって尋ねる。

 

「う、美しすぎる…」

「ありがとう。何万回も聞いたわ。それとも今さらになって惚れ直した?」

「ち、違うんだ。まさか分からないのかい?………それとも本人だから、効かないのか」

「効くって何か私から出てるの?」

 

放心ぎみのメリュジーヌは私の目を見て、何かを拒絶するかのように頭を振るう。けれどその抑圧に負けて食い入るような目で私を見つめ直した。

 

「ごめん。本当にごめん。僕は今、君に魅了されている。こんなことになるとは思わなかったんだ。ただ君が明日を切り開く為の力になれたらと全身を捧げたけれど、そうか。ただでさえ美しい君にアルビオンの力が合わさればそうなるのか」

 

とても興奮している。いつもとは違い、まるで媚薬でも盛られたみたいな辛そうな顔をしてメリュジーヌは涙を流した。

 

「訳が分からないわ。もっと分かりやすく教えて?」

 

「いいかい?オーロラ。これから暫く誰にも会わず、誰とも喋らず、誰かいる場所でも暮らしてはいけない。残り香ですら並の妖精には猛毒だ。早くその力を制御出来るようにならないとこの國は君の美しさで滅んでしまう」

 

 

それからメリュジーヌは、少しヌイてくると言って半日ほど帰ってこなかった。

そして帰ってくると目に包帯をして、鼻に詰め物をしていた。怪我をしたのではなく視覚と嗅覚を遮断するためだという。

 

あまりに説明不足だった為、気を抜けば本気で襲ってきそうな彼女を宥めて何とか問い質したが、どうやら今の私の身体は原作のオーロラが最も美しい状態とされていた16歳の姿であり、竜になった折、失われていたオーロラのヒトを酔わせるフェロモンのようなそれ。

アルビオンの力で3000倍に濃縮されて常時放出状態らしい。

 

何それ、対魔忍?と呟いたが冗談ではないようで、私がアルビオンだと自覚してしまったのが切っ掛けで力が暴走状態にあるそうだ。

 

 

「でも尻尾や翼まで消えてしまったのは何故?」

「分からない。力を制御出来るようになれば出し入れ出来るようになると思うけど、多分なくても空は飛べると思うし、尻尾で"はたく"みたいなことは出来ると思うよ」

 

試しに花瓶に狙いを定め、尻尾を操るという意識をせず、ただいつものように"はたく"と勝手に割れてしまった。

超能力的なやつだろうか?射程距離はせいぜい尻尾の長さと同じ2メートル弱といった所だが見えない攻撃というのはかなり便利そうだ。

 

「力を制御するって具体的には何をすればいいの?」

「そのことについては大丈夫。かくいう僕も、生まれたての頃は霊基が不安定で人型を維持するのもままらなくてね。それを自力で制御してこの姿を保てるようになったんだよ」

「───そう、なのね」

 

さらりと言うが、やはりメリュジーヌがメリュジーヌであり続ける為にはランスロットの霊基が必要だったと言うことだろう。

今は平気なようだが裏で大変な苦労をかけてしまったようだ。

 

「アルビオンの肉体を自分ではなく私に渡したのは自分じゃ制御出来なかったから?」

「うん。でもそれ以上に君には死んで欲しくないんだ。その為なら僕は何だってやる」

「生きていればいいの?心はどうなってもいいと?」

「そんな訳ない!だけど君は生き急ぐから目を放すと燃え尽きてしまいそうで、不安だったんだ……ごめん」

 

 

今の私は死にたくても死ねない不死の怪物だ。

こんな化け物に勝手にされて、彼女に怒りの感情がなかったと言えば嘘になる。

そしてやはり彼女は私を殺せないと言った。

 

ずっと今までメリュジーヌは私の最後の砦で、私を終わらせてくれる存在として頼っていたが、認識を改める必要があるのだろう。

 

私がメリュジーヌを理想の騎士と言った時、ウッドワスはあれを見習いたくないと言った。私はライバルのような関係で、彼女の節操なしな所を嫌っているからそう言ったのかと思ったが、もしかしたら彼も気付いていたかもしれない。

 

メリュジーヌは騎士の演技が上手いだけで、騎士そのものではない。

 

原作の彼女とは根本が違うのだ。

彼女と真に向き合うなら騎士としてではなく、友……いや、それ以上だ。しかし伴侶というのは早すぎるような。恋人、と言うにはロマンチックさが欠片もない。

 

そうだな。手のかかる甘えん坊の妹が一番近いかもしれないが、それだとライクではなくラブを叫ぶ彼女にはあまりに酷な話だろう。

 

「メリュジーヌ、貴方のやったことは私が一番やって欲しくないことだった。私が暴走した時、誰も止められない。私の手で愛したもの達の命が消えていくのは、自分が死ぬ事よりも恐ろしいわ。きっと貴方が全力を出したとしても今の私は殺せないのよね?」

「うん」

「ごめんの一つで許すことは出来ない。でも私のことを想ってやってくれたことには変わらないし、貴方が一番頼りになる存在なのも変わらない」

「…絶対に見つけるよ。アルビオンを殺す方法を」

「いえ。別にいいわ」

「え?」

 

てっきり、その信頼に応えて私を殺す方法を見つけろとでも言われる気だったのだろう。困惑の声が漏れる。

 

「成ってしまったものは仕方ないから受け入れるわ。それに貴方は私が死ぬのが嫌なんでしょ?それなのに殺してくれだなんて、身勝手な願望を押し付けていた私にだって非はある」

「君は悪くない!だってこの國だ!どれだけ善良な存在だろうと穢されて、悪逆に堕ちても不思議じゃない。そんな時、信頼する誰かが止めてくれるから頑張れるだなんて儚くも尊い願いが罪である筈がないんだ!」

「それでも貴方にそれを押し付けるべきではなかった。貴方は好きなヒトの幸せな未来を願う優しい妖精なのに、不幸を終わらせる騎士のレッテルを押し付けた」

 

最初から彼女は私のことを殺したくないと言っていた。

けれどどうしても原作でオーロラを殺した印象が高過ぎた。あの彼女だって平気でやれた訳でもないのに、出来るというその事実だけを見て依代にしてしまった。

 

それに応えて私の理想の騎士を演じ続けたメリュジーヌ。

 

「やめましょうこんな歪な関係。このまま続けても何処かで破綻する」

 

綻びはこの身。原罪の体現者。

マーリンの言うことは正しい。たかが死ねなくなった程度。まだ十分取り返せる。

 

「貴方はどうしたい?」

「交ぐ合いたい!……えや!違う!僕は君が幸せならそれで、でも生きていて欲しくて、えっとその、君が望む理想の騎士として君を守れればそれだけでいいんだ」

「嘘ではないようね。騎士としての自分を窮屈に思ったことはないの?」

「そりゃオーロラと会えない時間が増えるのは嫌だけど、仲の良い人たちだって一杯いるし、苦ではない。でも冬のパトロールはキツイかな?」

「なら騎士は続けてくれる?貴方の為にマフラーとセーターを編んでみるわ」

「本当かい!?」

「ええ、なるべく側にいられる時間も増やすわ。それでそうね、体のことだけど、ちゃんと貴方の愛に向き合ってみることにしたわ。半年、いえ一年は欲しい。それでもし私が貴方をパートナーとして見ることが出来たのなら」

 

 

ごくりと唾を飲む。私とメリュジーヌが同時に。

 

 

 

 

 

「け、結婚を前提にお付き合いをしましょう。身体を重ねるのは結婚してからよ。だから私と貴方の関係は婚約者みたいなものね」

 

「ピュア!!!!」

 

相互理解。何千年もの付き合いなのに私たちにはこんな初歩的なことが足りていなかった。だからこれから一歩、一歩前進していこうと思う。

 

「それはそうと、こんな時に目隠しに鼻栓だなんてしまらないわね。いいのよ外しても」

「それだと君を襲ってしまうんだ!」

「いつもと同じじゃない?それに私はアルビオンよ。貴方が本気できても実力でねじ伏せてみせるわ」

 

ちょうど、二人っきりでアルビオンの力を制御しないといけない用事も出来た。

ムリアンには悪いが、暫く彼女には仕事をまかせっきりにさせてしまうかもしれない。

 

 

 

 

 


数ヶ月後

 

オーロラ「私たちの子です」

バゲ子「ばぶぅ」

 

ムリアン「何があった!?本当に何があった!!?」

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