オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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閑話-愛の厄災-

「……愛されてはいる」

 

何よりも愛しい人は、私を愛してくれている。

それだけは、間違いない。

私が泣けば直ぐに駆けつけて、涙を拭って抱き締めてくれた。

私が傷つけば大量の包帯と妖精の粉を抱えて、「痛かったねぇ!痛かったねぇ!」と半泣きになりながら手当てしてくれた。

私が過ちを犯せば、本気で怒った。怒ることは不得意だと言っていたのに我が事なら話は別だと──私の罪を自分の犯した罪だと怒り、真剣に向き合って叱ってくれた。殴られはしなかったけど、ある日おいたをした『ランスロット』が地平線の彼方まで吹き飛ばされるのを見て、悟った。あのヒトは力加減を誤って私を傷つけてしまうことを恐れていたのだろう。

 

 

この國ブリタニアにとどまらず、このブリテン全土で愛される女王の寵愛を一身に受けて我が身は成長した。

何て羨ましい存在だろうか。並の妖精なら嫉妬に狂ってモースになっても可笑しくはない。

 

「あぁ流石はガウェイン卿!また一人で厄災を蹴散らしてみせた!」

「ガウェイン卿こそ騎士の鑑!反旗を翻した民衆を無血で説き伏せられた」

「ガウェイン卿こそ我らがブリタニアの門の砦。あの方さえいればブリタニアが落ちることはない」

 

けれど誰もが認めない。

 

「ねぇ聞いて!今日私の店にアルトリア様が訪れたの!」

「オーロラ様の愛娘、アルトリア様。噂に違わぬ愛らしい姿だったわ」

「近くにいるだけで癒される」「挨拶を交わすだけで心が洗われるわ」

「明日も来てくれないかしら?」「でもダメよ。お勉強の時間を抜け出してきたそうじゃない。オーロラ様の後継者として恥じぬようあの方にも頑張ってもらわなければ」

「でもちょっと息抜きするぐらいはいいでしょう?」「そうだよ。ずっと缶詰めだと息が詰まっちゃうよ」「……まぁ少しぐらいなら」

「なら決まりだ!」「決まりね!」

「あの方が好きなパンを焼こう」「あの方が好きな曲を奏でましょう!」「あの方の為にとびっきり甘いメロンを用意して」

「アルトリア様!貴方様の次のご来店を我らは心待ちにしております!!!」

 

私だってあのヒトの娘だ。

 

 

私の方がずっと前からあのヒトの娘だった。

 

 

私はあの娘のように、あのヒトの才能を何一つとして受け継がなかったから必死に努力して認めて貰おうとした。

本当はずっとあのヒトの腕の中に居たかったけれど、私だって胸を張って言いたかったのだ。

 

私は貴方の娘ですと。

 

だからモースの毒は激痛で、剣で斬られれば涙が出るほど痛かったけど、頑張れた。

この身はあのヒトのような細身とは程遠い骨と筋肉の塊だ。だから美しさではどうしようもない。あのヒトから貰ったこの頑丈な身体で、ひたすらにこの國に仇なす敵を斬り続けた。

そうすれば皆も認めてくれると思ったから。でも斬れば斬るだけ腹が減る。ただ食べるだけでこの腹が満たされてくれるのであれば文句はなかったが

 

「バーゲスト!!!!また貴様か!?」

「うぇ……あ、ぁぁ……申し訳ありません、ウッドワス様。今度こそはうまく、行くと思ったのに」

「何度言えば分かる。お前のあり方は騎士とは程遠い獰猛な獣だと!」

敵を食らい、同胞を食らう。敵よりも戦場を共にした同胞の方が甘く感じた。

 

この身は生まれついての悪食であったのだ。

記憶にはないが乳歯が生えたばかりの頃、あのヒトの肩に噛みついたらしい。

あのヒトは何とかこの悪食を治そうとしてくれたが、愛した者ほど甘味に感じるこの本能だけは、どうしようもなかった。

 

「黒犬の娘が来たぞ、子供を隠せ」

「黒犬公だ。何と恐ろしい」

「黒犬が」「黒犬の娘が」

 

「違う。私はあのヒトの娘だ!」

 

と、声に出して叫べれば良かった。だけどこんな化け物があのヒトの胎から産まれ落ちたと言える訳がない。

ついにはウッドワス様にも匙を投げられ、兵団を追い出された。

心が折れかけた私は自室に籠りきりになり、毎日扉の外で優しく語りかけるあのヒトへの罪悪感でどうにかなってしまいそうになる。だがある日、ボガード様に激励されて思い立つ。

このままでは駄目だと、あのヒトの対極にいる存在に私は頭を下げた。

 

 

「我が力を望むか」

「は。その為なら私はブリタニアを捨て、ブリテンの騎士として貴方様に忠誠を」

「お婆様(ばあさま)だ」

「……はい?」

「あるいはお婆ちゃんでもいい。モルガンお婆ちゃん。うん、良い響きではないか。他の者が呼べば即殺すが、お前にだけそう呼ぶことを許そう」

「あの、何を言っているのか私には……。モルガン陛下、私は母を裏切る思いでこの場に立っているのです。ご不快だというなら直ぐにこの首をハネましょう。それでも足らぬというなら獣のエサにでもなりましょう。だからどうか、我が思いを嘲笑するのだけはお辞め下さい」

「よい、これが孫のわがままというやつか」

「???」

 

想像していた流れとは違ったがそうして手に入れたガウェインという誇り高き騎士の霊基。その力で私は誰もが認める騎士となった。

 

 

 

 

 

……だけど、皆が称賛するのは騎士としての私だ。

あのヒトの娘としての私ではない。容姿が似ていない、本質はかけ離れている。とてもあのヒトの娘には見えないと、暗にいつも言われているようで奥歯を噛み締めた。

 

それなのにお前は、ただ生まれただけであのヒトの娘だと認められた。

 

 

何だ、何が違うんだ。おかしいだろう。ふざけている。

 

「お願いします」

「……オーロラ。残念だがあの子は楽園の妖精として聖剣の」

「お願いします」

 

そうだ。ふざけている。あのヒトが()()()()()()()()()()()()呼び寄せた講師の授業を抜け出して街で道楽にふけり、あまつさえオベロンなどと素性が知れない怪しいやからを街に招いて親交を深めている。

 

お前は何様のつもりだ?

 

お前はあのヒトがどれだけお前の為に尽くしているのか知っているのか?

 

そんな不肖のお前を皆が言う。オーロラ様の娘だと。

 

おかしい。おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい

 

 

嫉妬で狂いそうだ。

 

 

 

 

 

 

「あるいはお前を食らえば満たされるのだろうか?」

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