オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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2700年

「あら?」

 

私がソールズベリーに戻ると、辺り一面に舞い踊る桃色の花達が出迎えてくれた。

手に触れると光となって消える、儚くも美しいその花吹雪。日本人が見れば何処か懐かしい気持ちになるのではないだろうか?

これは私が何とか桜を再現出来ないかと提案しブリタニアの叡知が結集して生まれた『春雪(はるゆき)』というこの島オリジナルの品種の木の花びらである。

春に咲き、雪のように溶ける。名前自体は安直だが、日本のように四季のあるブリテンには春の風物詩として人々に受け入れられていた。

 

確か開花まではあと一ヵ月ほどあった筈だが、一体どうして?と首を傾げる私の腹にどんっと小さな塊が飛び込んでくる。

 

「オーロラ様!!!ご無事だったんですね!!!」

「ムリアン?どうしたのそんなに慌てて?何かトラブルでも起きた?」

「トラブルって!それを聞きたいのはこっちの方ですよ!何ですか!ちょっと出てくるって言ったきり、一ヶ月も留守にするだなんて!!!」

 

『あっちとは時間の流れが違うから24時間が50日だったかしら?それまでにetc.』

 

………………あ。

 

そう言うことか。私としたことが失念していた。半日ほど留守にするつもりが、この國では一ヶ月(=30日)も空けていたことになっているらしい。

 

「ごめんなさい。綺麗な、虫?いえ、空を飛ぶ…何て言ったらいいかしら。それを追いかけるのに、つい夢中になっちゃって時を忘れていたわ。私がいない間に困ったことは起きなかった?」

「ハァ、そうですか。ともかく怪我や病気じゃなくて良かったです。問題の方は特に報告はありません。不在理由を尋ねにくる妖精達もおりましたが、適当に誤魔化しておきました」

「助かるわ。ありがとう」

「強いて言えば、マーリン様の授業でアルトリア様が今年に入って100回目のボイコットを起こされたことですが現在はその遅れた分を含めて大人しく授業を受けているとのことです」

「意外ね。あの子なら100回でも200回でも抜け出しそうなものだけど」

「コーラルが誕生祭までに出された課題が終わらなければ参加させないと言ったそうです」

 

街の住人にも周知させて、逃げ道をふさいだ。

こっそり参加しようものならオーロラ様にたっぷりお説教して貰いますからね、と脅してやれば魔猪の氏族と呼ばれる暴れん坊も大人しくなったそうな。

 

「流石はコーラル。小さい頃から見ているだけあって、あの子の扱いが上手いわね」

「ええ。よほどオーロラ様のお説教が怖いのでしょう」

「ん?」「ん?」

 

まぁ予想外のタイムロスが出たが、問題がなかったならいい。それよりも20日も空けていたとなるとカルデアは何処で何をやっているのか気になってくる。

恐らく私が戻るより2、3時間早く光の壁を越えただろうから、この島に来てもう10日以上経っているとは思うが、ムリアンが何も言わないことを見るにソールズベリーやブリタニアの街にはまだ足を運んでいないのだろう。

となるとコーンウォールの岬で足止めでもされているのか。

名無しの森は原作同様あの場所にもあるが、私の作ったブリタニアでは罪さえ犯さなければ弱い妖精でも生きられるシステムを築き上げている。

逆に罪を犯せば問答無用で令呪の徴収を受けて死に絶えるのだが、『おしまいの村』のような理不尽に追いやられた妖精達は出来るだけ減らしてきたつもりだ。

そのかいあって、あの森は現在無ジンの筈。

通常の妖精でも急速に記憶を蝕まれる危険な森なので立ち入り禁止区域に定めて(霧避けの呪符を編み込んだ)柵を立て、見張りも立てている。だからもしものことはないと思いたいが、まさかうっかり迷い込んで遭難してたりは……ないと信じよう。

 

「そうだ。マーリンに聞けばいいじゃない」

 

風の知らせで地道に探してみようかと思ったが、こんな時こそ千里眼である。

現在全てを把握するという最高位の千里眼。グランドキャスターの資格を持つマーリンが味方にいる。

 

私はムリアンをぬいぐるみのように抱っこして抱えたまま本庁に訪れた。

 

「やぁ。そろそろ来ると思っていたよ」

「ゲェ。すみませんオーロラ様。気分が悪くなったのでちょっと席を外させてもらいます」

「え?そう、なら救護室で休んでくるといいわ」

 

ムリアンを見送り、改めてマーリンに向き合う。

 

「あの子の勉強は順調かしら?」

「ぎりぎり及第点かな。私の目標は汎人類史の彼女だったけど、実際彼女を魔術師として育てていたなら、これより少しマシぐらいだったろうし、同じぐらい逃げ出されていた予感がある。もともとあっちもこっちも魔術師としての適正があまり高くないんだよ」

 

何なら今からでも剣を握らせれば、それなりになると言われたが、これ以上あの子の時間を縛ってしまうのは気が引けて、断ってしまう。

 

「甘いね。その甘さのまま蕩けてしまわなければいいが」

「私はもう十分過ぎるほど生きたもの。誰かの幸せの一部になれるのなら、これより幸いなことはないわ」

「私としてはカルデアと同行して欲しいんだけどね。そうでなくても呼び掛けには応えてやって欲しい。最近、上が五月蝿いんだよ。君を味方につけろって」

「そうね。気が向いたら考えるわ」

 

マーリンが言う上とは何なのか気になったが、面倒事になりそうなので話を進める。

カルデアは現在何処にいるのか。その答えは何とも要領をえないものだった。

 

ストーム・ボーダーはコーンウォールの岬にある。カルデアスタッフも軽傷者や身動きの取れないネモやホームズはおれど一応は無事。

 

だが肝心のマスターとマシュは?

トリスタンは召喚されたのか?

 

聞いても、そうかなぁ、そうかも、そうだと嬉しいかい?

 

安否については安心してくれと言われたが、何故かはぐらかされる。

ちょっといらっときて、壁ドンすると、私としたことがうっかり壁を突き破ってしまった。

 

「はははは。これ以上変に誤魔化すと余計に拗れそうだから大人しく白状するよ」

「もう最初からそうしてよ」

「ただ。これだけは誓ってくれ。カルデアのマスターの生命や精神が脅かされない限り、君が直接手を加えるのはなしだ。今の彼は、かつての君のように非常に危ういバランスで成り立っている。今はかつて結んだ縁や仲間達に助けられて成立しているが、君という強大な存在がそれを崩しかねない」

「アルビオンだものね。いくら()()()()()()ても与える影響が少なくないことぐらい分かってるわよ」

「…………では」

 

今、カルデアのマスターはシールダーの少女とホムンクルス英霊、そして円卓の騎士トリスタン。

 

 

 

「そして君のよく知るロビンと行動を共にしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※

 

50日を期限にロンゴミニアドの手がかりと、この異聞帯から空想樹が燃えてしまった理由を調査することになった藤丸達。

英雄が存在しない世界ということで先行きに不安を覚えていた矢先、彼らの前には馴染みのある円卓の騎士トリスタンと見慣れない男が姿を現した。

 

「えっと君は?」

「俺ですかい?俺はロビン。ただ弓が上手いだけが取り柄のロビンですよ。どうやら汎人類史の霊基に当てられて召喚されちまったようですね」

「本当です。既に登録されているロビンさんの霊基グラフが反応を示しています」

「さっきまで停止状態だったけど、連鎖召喚?トリスタンの召喚に割り込んだのかな?ロビンフッド=弓が上手い人っていう条件が緩い英雄なのも関係しているのかも」

「つまりカルデアの英霊(サーヴァント)ってこと?」

「まぁ名目上はそう言うことで。こっちでは歴史に名を残せなかった騎士崩れの落伍者ではありますが、召喚されたからにはマスターの為、誠心誠意、頑張らせていただきます」

 

ボサボサの髪を掻く。北欧系の顔立ちをした青年だった。

宝具である弓は霊体化させているか装備しているのは腰にあるスモールソードだけ。

見た目だけならやさぐれてそうな印象を受けるが言葉づかいは丁寧で、敵愾心は感じない。手を差し出せば直ぐに握手にも応じてくれた。

 

「現地の人って事だよね。何にしろ心強いよ」

「あんまり期待しないで下さいね。俺が生きていた時代は結構昔みたいなので」

「同胞が増えるのは喜ばしいことです。ですがアーチャーが二人……役割が被ってしまいましたか」

「いやいやいや、俺なんかが本物の騎士様と肩を並べようだなんて烏滸がましい。俺は索敵、狩り、拠点設置、ご飯作りと何でもござれな便利屋みたいなもんだと思っててくだせぇ」

「ロビンさんは騎士崩れとおっしゃいましたが、この國にも騎士のような存在がいるのですか?」

「まだ残っているか分かりませんが、あのヒトとあのヒトの街があるなら伝承にぐらいなら残ってるかもしれませんね」

「ロビンってどれぐらい前の人なの?」

「そうですねぇ2700年ってところでしょうか?」

「2700!紀元前の方でしたか!」

「それはまた」「どんな騎士団だったの!?聞いてもいい!」

「へ?まぁ時間が押しているわけでもありませんし、語っても問題ありませんが、つまんない話になりますよ?」

「それでも気になる!」「はい。アーサー王伝説より遥か前に存在した幻の騎士団の存在。私の知識欲がビンビン刺激されます!!」

「なら伴奏は私が」「え?それ楽器なんですかい?」「オレも気になるな」

 

目をキラキラと輝かせるダ・ヴィンチとマシュに圧され

はぁ、と腰を切り株に据えて失われたソールズベリーの一幕を語るロビン。

 

 

儚くも美しい、確かに英雄譚とは呼べずとも確かに存在した妖精と人の楽園を知った彼らがソールズベリーを目指すのは不思議な話ではなく───名無しの森に足を踏み入れた。

 

 

周囲に人影はなく、柵は撤去され見張りの妖精の物と思われる槍だけが人目を避けるように落ち葉の下に隠されていたらしい。

忘却の霧が彼らを包む。

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