オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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原物と幻物

「これは?」

「騎士団の入隊祝い。弓は私からで」

「こっちのマフラーは私の手編みだよ。残念だったな~オーロラの手編みじゃなくて」

「手編み、は?お前が?」

「あんだこの野郎。私が手編みしたらおかしいのか?」

 

そこは何処かの学校の校庭だろうか。

一人の少年が長身の女性から身の丈ほどもある弓とマフラーを受け取って、少女にからかわれている。

 

「これでも私の得意分野は裁縫だからな!下級生にも教えてやってんだぜ!」

「何偉そうにしてんだよ、留年したくせに」

「一回だけだろうが!今年で卒業してやるわ!なぁオーロラ!」

「う、うぅん。(この成績だと今年も厳しいのだけれど)」

「ま、その間に俺は団長にでも登り詰めてるがな」

 

少年少女は幼なじみで、女性の方は保護者あるいは教師だろうか?

随分と仲が良い様子。

 

 

「────」

 

ここは何処ですか。そう尋ねようとして声が出ない。

意識はしっかりしているのに身体の感覚がまるでない。これは夢だ。藤丸立香は慣れ親しんだ『傍観者の感覚』にそれを悟る。

マスターが見る契約したサーヴァントの過去の夢。パスを通じて時折それらが見えてしまうことがあるのだ。

恐らくこれはロビンの夢だろう。

まだ子供だがこの少年。面影があった。

 

「それにしてもこんなに良い物を貰っても良かったんですかい?見たところかなりの業物だ。騎士団でも見たことがありません。俺だけ特別扱いってやつは不味いんじゃないですか?」

「え?おかしいわね。騎士団の入団祝いの武器は毎回同じ職人が造ってる筈なのに……、そう言えばロビンが弓を使うって言ったら、腕力に自信はあるか?て聞かれたわ。腕相撲で私に勝った話をしたら、これを持っていけって言われたけど」

「あーなる程。造ったはいいが、担い手が見付からず、納屋で埃を被ってたパターンですかい。それならまぁ納得ですね。はい」

「矢もあるけど、弓引けそう?」

 

ロビンが弓を引こうとすると、「ぐおっこれは中々…でもこれぐらいなら行けますね」スパンっと狙いすまされた矢が50メートルほど先にある木の中心を捉える。

 

「完全に使いこなすにはもう少し身体が出来てからじゃないと厳しいですが、これなら実戦でも通用すると思います。ありがとうございますオーロラ様、これから大事に使わせて貰います」

「ええ喜んでくれて嬉しいわ」

「おいっ私には感謝の言葉はなしかよ?」

「あ?あーそうだな。あんがとよ。冬に使わせて貰うわ」

「この私からのプレゼントだぞ。年中使え!」

「んな、分厚いマフラーなんて夏に付けられるかよ」

「うっさい!もう貸せ!!!」「うおっ」

 

綺麗に折り畳んで箱に直そうとしたのが癪に障ったのか、取り上げてロビンの首に巻き付ける少女。

「顔が近い」と、ロビンは小さく悪態をついて頬を赤らめる。

 

「ほら、似合ってるじゃないか」

「あら素敵ね。色合いも長さもダフネの思った通りぴったり」

「まぁ俺ですからね。大抵のものは着こなしちゃうんですよこれが」

「ぶっは!ナルシストかよ!自分で服買ったこともないくせに!」

「あぁ?お前に言われたくねぇよ!オーロラ様にいつまでコーディネートして貰ってんだ!」

「私はいいんだよ可愛いから!」「は!俺の方が格好いいから!」

「なにおぅ」「お?やるかぁ?」

 

これと言って何か起こるわけでもない。ロビンにとっての春の記憶。

今までに見た英霊達の夢と比べれば何て平和的な光景だろうか。

藤丸はこの少女がロビンの言っていた奥さんなのかな。うわー甘酸っぱい~!と何処か気恥ずかしく感じながらその光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、ずっと続けばよかったのに」

 

ふと、オーロラは目が覚める。

懐かしい夢を見ていた。これを見たのは間違いなく昨日のことが原因だろう。

 

「ロビン」

 

私がまだ妖精だった頃に出会った汎人類史から流れついた子。 取り替え子(チェンジリング)。女王歴になってから出会う機会はめっきり減ってしまったが、当時は少なくとも日に一人は流れついていた。

私が出会った当初の彼は3歳ほどの幼児であった。騎士団が遠征中に見つけたのだという。

親が恋しいのかワンワン泣いていた。私が抱き上げると母親だと勘違いしたのかぐっすりと眠ったが、やはり次の日起きれば母親ではないと気付いてしまったようでまた泣き出した。

出来れば元の世界に帰してあげたかったが、残念ながら平行世界への接続という第二魔法に近いこれは、現在でも帰還方法の目処が立っていない。

だからソールズベリーで引き取ったのだ。

私は領主としての仕事もあったので主に面倒を見ていたのは孤児院の先生達になる。

なるべく顔を出すようにはしていたが、彼だけが特別な存在という認識はなかった。同じような境遇の子もいたし、あまり懐かれていなかったので、こちらも少し距離を置いていたからだ。

彼との付き合いはダフネという親友が出来てから一気に増えたように感じる。

 

性根は生意気だが、他人を敬うことを忘れず、そして誰よりも外に憧れた少年騎士。

その為の力も信念も備わっていたのに、肝心の外があれだ。

一度私の制止を無視して同じ夢をもった部下達と6人、ソールズベリーの外に飛び出したが、1ヶ月で帰ってきた。

帰ってきたのは彼だけ。あの憧れに輝いていた瞳から希望は消え去っていた。

 

俺が、俺のせいで……。

 

何があったのか想像には難くない。

 

身内びいきだが、こんな醜い世界ではなくそのまま汎人類史で育ったのなら、人類史に刻まれる英雄になっていたと思う。

この魔境で妖精の後ろ楯もなく1ヶ月も生き延びれただけで偉業だった。

それでも自分が許せなかったのか彼は騎士団を去って酒に溺れた。

 

溺れて、溺れて、ダフネに殴られて、溺れて、ダフネに蹴られて、溺れて、ダフネがケツの穴に酒瓶を突っ込もうとして「ちょっと!!!それは死ぬから!!」

「いいんだよ!オーロラ!こんなゴミ死んだって!!」

 

夢を打ち砕かされた彼だったけど、それでも残っているモノがいた。

 

「お前に何が分かるってんだよ!!!俺のせいで皆死んだんだぞ!忠告だって散々されてたのに、ガキの頃から外は危ないって教えられてきたのに!この俺が言葉巧みにアイツらを騙して、そして殺した!!!」

「なら死ねよ!さっさと死ねよ!無駄に生き延びて死んだやつらに申し訳ないと思わないのかい!死んであっちで土下座でもすりゃいいじゃないか!」

「うるせぇ!黙れ!お前には関係ねえ!!」

「関係あるに決まってるだろ!このボケカスが!!!誰の店だと思ってる!誰の街だと思ってる!今のお前がダラダラと酒に安心して溺れられるのはオーロラとアンタが捨てた騎士団の連中が頑張ってくれてるからだろう?金もねぇアンタを泊めてやってる私のお陰だろう!悪いと思ってるなら働いて返せ!外が地獄でここが天国だと思うなら一分、一秒でも、維持出来るように弓を持て。それも出来ないならさっさと死んで謝ってこい!」

 

こんな世界でも彼らは生きて、足掻いている。

諦めるのは私の勝手だ。でも彼らが生きる為の場所を用意してあげられるのは私だけだと、強く自分を保つことで何とか人間としての魂が蝕まれていくのに耐えられた。

彼らは私の中で生きる希望だった。

何れは別れが来ると分かっていたけど、まさかあんな最後になるなんて……。

 

無い筈の翅から痛みが走ったような気がする。

 

でもそうだ。奇跡でも偶然でも彼は再びこの世界に舞い降りた。

私から会いに行くことは出来ないが、自分たちから来るなら流石にオーケーだとマーリンから許しも得ている。

 

どんな話をしよう。先ずは彼の娘のリンカのことからだろうか?

そうだ。弓の腕も久しぶりに見て貰いたい。

それに彼の遺品として私が受け継いだこの弓も返さなければ。

 

「ふふ、ふーん。ふーん」

 

気分を一転、誕生祭の準備をウキウキでする。

最後だからとっておきの誕生祭にするつもりだったが、もっと凄いのにしようと、魔力で巨大建造物をこね繰り回す。

 

 

 

 

 

 

 

何とか名無しの森を抜け、マシュ達とはぐれながらもオベロンと()()()()()という新しい仲間も共にソールズベリーを目指す藤丸達。

 

「その弓、何故貴様が持っている。それはお母様の……このブリテンで最も貴き御方の物だ!!!!」

 

その前に、ブリタニアの門番にして最硬の騎士と称えられるガウェインが立ち塞がった。




アルトリア「この私が大人しく授業を受けると思ったか、幻影だよ!」
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