オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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名無しの森と名無しの英霊

ロビンはこの旅で自分が召喚されたのは盛大な人選ミスだと自覚していた。

そりゃ人理がどうにかこうにか英雄の存在しない國に英霊を送り込もうとして、捻り出した枠に当てはまるのが自分だけだったのは理解しているが、それでも自分は相応しくないと思っていた。

 

「彼処に獣が、ええ今仕留めました。今夜はご馳走になりそうです」

「さっすがはトリスタン卿!俺は気付きもしなかったですよ」

 

別にトリスタン卿の凄さに圧倒されたわけではない。

自分より強い存在なんてこの國にはありふれていた。後継の団長だって全盛期の自分の倍は強かった。

 

「何だか、霧が深くなってきましたね」

「おかしいな。俺がここに来た時はこんな霧は、ハッ!!?マスター!マスターはどこですか!!?」

「マスター?誰のことですか?それに貴方は…私は?」

 

意識が薄くなる。身体が重く、地面に引っ張られるようだ。

 

(……あぁ、またか。またなのか)

 

霧が視界を埋め尽くす。あの時のように真っ白になる。

ロビンは何も守れない。

 

『ロビン!ロビン!!?』

『逃げて下さいダフネ!せめて貴方と貴方の子だけでも!!!』

『いやっ、ミッパ!お願いロビンを!』

『見て分かるでしょう!心臓を潰されています!彼はもう助からない!貴方まで死ねばオーロラ様の心は持ちません!』

 

『逃がす訳がなかろう?』

 

『私を見ろ!!!!私を見ろ化け物!!!』

『に、にげ……』

 

グシャリ

 

必死に伸ばした手に血と肉片が覆い被さった。

そしてその凶刃が次向かうのは自分が最も愛してやまない存在だと絶望しながら力尽きてしまった。

 

 

ロビンはあの時のように何も守れない。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※

 

「はぁ、またですか」

 

今年に入って何回目だとガウェインは気だるげな声を漏らす。

 

「それで今回は外?衛兵は何をしているのです。場合によっては減給では済まされませんよ」

 

アルトリアが脱走した報せはガウェインが一番に受けとることになっている。

それは彼女がこの國の第一王女であるからであり、この國で()()()()()()()()であるからだ。

権力的にもオールラウンドが許される彼女に任せた方が都合が良い。ムリアンやブリタニアの上層部はそう判断しているのだろう。

 

彼女は馴れた様子で部下達と意見を交わし、風の氏族の言でおおよその位置を割り出していく。

外まで出たのはこれが初めてだが、どうせブリタニアの領内からは出ていないに違いない。

第一王女である私を差し置いて次期後継として祭り上げられていたり、王女としての自覚がなく、毎日のように授業を抜け出す彼女には色々と思うことはあるが、それはそれとこれはこれと、騎士としての思考に切り替える。

 

「申し訳ありません。街の外となると風の知らせの範囲が及びませぬ。シルフ様ならもしかするかもしれませんが、あの方はシェフィールドに出張済みでして」

「そうか、ならば妹が向かう場所に心当たりがある者はいないか?何処で何をしたいか噂話でもいい、聞いた者がいれば教えてくれ」

「そう言えばアルトリア様はグロスターのカジノに行ってみたいと申しておりましたな」

「カジノか……」

「私は森でオオクワガタを捕まえに行きたいとこの前聞きました」

「又聞きですが、いつか無人島生活をしてみたいのだとか。小麦でチネリ飯を作ったり、油に釣った魚をドボーンしたいと言っていたそうです」

「それを聞いたのは私だな。オーロラ様の寝物語で聞いて自分もやりたくなったそうだ」

「それなら私も聞きました。猿と飯の取り合いで喧嘩するシーンが爆笑だと言ってました」

「私が聞いたのは1ヶ月1万ロポンド生活をしてみたいという話だったが、それなら街の外に出る意味がないか」

 

まるでバラバラだ。世間話のつもりだったのなら仕方ないかもしれないが、王女として気品も欠片もない願望の数々にガウェインは頭を痛める。

 

「分かった。ならば捜索隊を組んで分かれて探そう。モースなどの危険度が高い班には私がつく」

「は、編成には2時間ほど時間を頂きたく」

「少し遅いが構わない。だが私の班に牙の氏族はいれるな。嫌われているからな。余計な不和は招きたくない」

「畏まりました!」

 

どうせいつものように直ぐ見つかるだろう。ガウェインは戦いに備えて完全武装の準備を進めるが、あのバカも流石に危険な森やモースのたまり場には近づかないと考えていた。

 

今でこそ蝶よ花よと何不自由なく甘やかされているが、あの方の教育方針なのか10歳になるまでは街外れの小さな村で共に生活するからだ。 

住人は年老いた妖精や人ばかりで、子供が数人。数少ない大人達は一日中自分たちの仕事で忙しくしている。

そこで生きる為にはどうすればいいか、支え合い、助け合うとはどういうことか徹底的に叩き込まれる。

かくいう私もそうで、水汲みから薪の調達に畑の管理。罠を仕掛けて獣も捕えた。当然モースが出た時の対処や毒のある動植物なんかは今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 

───だから私が10歳を迎えてソールズベリーに訪れた時、まるで魔法にかかったような素晴らしい衝撃を覚えたものだ。

 

 

話はそれたが、愚妹とはいえ森やモースの恐ろしさは身に染みて理解しているだろう。その為、自身の読みではグロスターで持ち金を全て溶かし道端で途方に暮れているのではと思っていた。

アルトリアは一目見れば誰もが魂レベルであの方の娘であることを悟り、愛してしまう。だから法外な借金を背負わされたり、騙されて奴隷落ちした、なんてことにはなっていないと思うが、あの街の住人は変に強かな所がある。あの方の娘だと尊重して丁寧に扱うだろうが、お勉強料だと有り金を毟りとるぐらいはやってのけた。それならグロスターから連絡が来るだろうからわざわざ向かう理由はない。

 

「私が向かうとなると、人間牧場か、名無しの森か」

 

人間牧場はこの國最大の要とされ、オーロラ様の強大な力で結界が張られている。中に入ることは容易だが、異界化しているあの中は広大であり厄災級の魔獣や竜がうようよといる。自分でも死を覚悟しなければならない超危険地帯だ。

 

名無しの森は、触れれば名や記憶、目的を蝕み、生きる気力と言うものを根こそぎ奪い取る霧が展開される死の森である。

どちらも赤ん坊でも近づかない魔境だが、こちらにはアルトリアが向かう可能性が僅かなりともあった。

 

忘却の霧には御守りや霧避けの札など対抗策があるにはあるのだ。霧は自然現象ではなく呪いなので、長くとどまればそれらも蝕まれる。所詮一時凌ぎにしかならない手段だが、身を潜める時間を稼ぐだけならそれでも充分だった。

 

もし自分が向かうとしたら名無しの森になるだろう。

 

まぁどうせバレるのは時間の問題なのだ。アルトリアの性格なら見つかる前に遊び尽くそうとする筈。そもそも隠れたからと言って、捜索の手が緩まるわけもでもない。だから可能性は低いと思うが見つけたら一度本気で叱らなければとガウェインは使命に燃えていた。

ガウェインは実の妹であるというのにアルトリアが苦手だ。

何なら常にイラついているし、たまに食指(物理)が動いたりするが、それでも妹ではあるのだ。

あの方がどれだけお前の為に尽くしているか、分からないなら姉として叱ってやらねばと義憤に燃える程度には姉の情もある。

 

「────」

「編成隊の準備が整いました」

「そうか」

 

ガウェインはまだ信じていた。

愚妹は愚かだが出来損ないの自分とは違い、あの方の血を色濃く受け継いでいる。

今はまだ未熟だが、いつかはあの方の後継としての自覚に目覚めてくれるだろうと。

 

あの方から王位を賜りたいという欲がないと言えばウソになるが、

『ほう、これを拒むか。お前にはこの霊基が最も馴染むだろう。もしかすれば原典を越えることすら可能かもしれんぞ?』

『私は王になりたいのではありません。あの方に私が娘であって誇りに思うと、ただ褒めて貰いたいだけなのです』

『……()い』

目の前でゴウゴウと燃える『モードレッド』の霊基。強さを求めるならこの霊基が一番だと本能で理解した。

理解した故でそれは自ら拒絶した。

 

 

私はこの國の剣であれば良い。あの方の娘であること以上は望まない。

 

「あれがどこぞでくたばってくれたら完璧なのだが」

 

街の外に出て誰にも聞かれぬよう、そう溢した。

 

 

 

 

もしかしたらとっくの昔に愛想など尽きていて妹を愛そうとするこの気持ちはガウェインの霊基が見せているペルソナなのかもしれない。




一応補足。ロビン達を殺したのは純度100%のヴォーティガーン(厄災の姿)であって、某妖精王は関係ない。
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