オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「え?キャンプ?名無しの森で呑気にキャンプとか自殺志願者なの?」
「ロビンがレンジャーじゃなかったらオレ達全滅だったね」
「私も冒険や円卓での遠征で経験はありましたが、それすら忘れてしまうとは恐ろしい」
「
藤丸達はあれから1週間丸々名無しの森で遭難していた。この森に入った目的も自分の名前すらも忘れて、何とか身を寄せ合い、ロビンのスキルで仲良く野宿していたのだ。
だが、全く外敵が存在しないというわけではなく、はぐれのモースの襲撃に遭い、あわや大惨事と言うところで出会したのがアルトリア・キャスターであった。
「ところで君は?」
「私ですか?私はアルトリア・キャスター。貴方達が私の従者でいいんですよね?」
「アルトリア、キャスター……もしかしてアーサー王?ん、従者ってなに?」
既に彼女から施された『とてつもなく苦い気付け薬』で藤丸達の記憶は戻っていた。
何処からどう見てもアーサー王そっくりのアルトリア・キャスターという少女。場所がブリテンだし、何より『キャスター』だ。もしかしたら現地鯖なのかと思えば、どうやら事情が違うようで、予言にある旅の従者を探している途中なのらしい。
「え、うそまた勘違い?もう何十回目なのかな。もしかしたら百回超えてるかも。……でもあのままだと三人とも危なかったし、人助けが出来たんだから無駄なことじゃないよね!偉いぞー私!この調子で頑張れー!」
「失礼ですが予言とは?」
「あれ、知らない感じ?王都以外ではメジャーじゃないのかな。全部は長いから私も覚えてないんだけど、」
この島には春の國と冬の國、二つの国家がある。
正式名称で言えば春の國はブリタニアで、冬の國はブリテン帝国らしいが、一般的に呼ばれるのは春と冬だ。
それは国家の特徴を短く端的に表しているからで、春の國は人と妖精が共存する国民にとって春のような優しい國だが、冬の國は怖い女王が圧政をしく国民にとって怖い國らしい。
かつては一つの國で、春と冬の女王は二人仲良く統治していたらしいが、あることが切っ掛けで決別してしまった。
予言によれば春の女王から生まれたアルトリアが異邦の旅人達と共に巡礼の旅をし、六つある鐘を鳴らして、この別れた國を再び一つに戻すのだそう。
「最初は功を焦ったエインセルの妄言だって誰も見向きもしなかったんけど、私が生まれてから皆信じるようになったんだ」
「ってことはアルトリアさんはお姫様なんだ」
「そうですよーとっても偉いのです。でも敬われるのは苦手だから敬称とかはつけなくて大丈夫」
「巡礼の旅……そして、あぁ。もしや二つの国家を統一して玉座に着くのは貴方が?」
「いやいやいや!私に王様とか務まらないから!お小遣い帳ですら桁間違えて叱られるのに、政治とか細かい数字のやり取りなんて絶対無理。私が王様になったら国庫が空になっちゃうよ。そういうのはお母様が適任だから、お母様にやって貰う!」
「お母様……失礼。もしやとは思いますが、貴方様の母親の名前はオーロラ、ではございやせんか?」
「え?うん、そうだけど、どうして?」
この「どうして?」は何でそんな当たり前のようなことを聞くのだろうという疑問であった。
だが、ロビンはその一言に膝から崩れ落ちる。
──生きていた。
あの方が、自らが騎士として忠誠を誓ったあのヒトが。
あれから2700年の時が経っていて、当時で既にその優しさ故に傷付き、もう先は長くないだろうとされていた。自分達が死んだことで恐らく、残り僅かな命すら縮めてしまった筈だ。
自分達は今ソールズベリーに向かってはいるが、正直オーロラありきで成り立っていたあの街がまだ存在しているかは半信半疑で、あったとしても妖精が人を玩具のように振り回す地獄絵図が広がっているのではないかと内心不安を募らせていた。
「え、ちょっとどうしたの?お腹痛い?妖精の粉いる?それとも妖精の錠剤いる?」
「いえ。大丈夫です。ふぅ、すみません。オーロラ様のご息女様、うん。あの方に似てすっげえ美人だ。子供好きなあの人のことだ。きっと何よりも大事に育てられたのでしょう」
「もしかしてお母様の知り合いでしたか?」
「仕えるべき主であり、友人でした。もう二度と会うことは出来ないと思っていましたが…ソールズベリーに行けば会えますかね?」
「会えると思いますよ。過去に何があったのかは分かりませんが、お母様は慈悲深いお方です。心の底から悔いるのであれば、罪人であろうと決して無下にはしない。そのせいで睡眠時間を削って、お姉ちゃんが心配してるのは玉に瑕ですけど」
「なんと!ご息女はお姉様までおられるのですか!?」
「え、はい。お姉ちゃんと私。二人姉妹がお母様の娘です。三百歳ほど離れてるんでお姉ちゃんってよりおばさんって感じが近いけど、それを言うと本気で怒られるので本人の前で言ったらダメですよ?」
まさに満潮の思いだ。ロビンはこの時、アルトリアと彼女の姉はマスターを除く他の全てを犠牲にしてでも守り抜くと誓った。
「三人はソールズベリーを目指してるんだよね」
「うん。もうこの森にはマシュ達はいないみたいだし、なら事前にソールズベリーに行こうって話してたから先に向かってるかもしれないしね」
「なら私が道案内してあげるよ。と言うかそろそろ帰らないとヤバイし」
「そう言えば姫様」「こら、敬称」「これは失敬。アルトリア様の護衛はいないのですか?オーロラ様とて街を出歩く時は騎士団長を側につけておりましたが」
「あ、ははー。実はこっそり抜け出して来たんだよね…」
「「は?」」
アルトリアが従者探しをしているのは事実だが、彼女の師曰く巡礼の旅を迎えるレベルには達しておらず現在修行中の身らしい。本人としては充分成長出来たと感じていて、もうあんな辛い修行なんて続けてられないからさっさと終わらせたいんだそうだ。それで予言の従者を探しているという何ともまぁ、呆れるような理由だった。
「それって大丈夫なの?」
「平気、平気。街の外に出たのは初めてだけど授業を抜け出すのはいつもやってることだし。あと一応お母様からお墨付きを貰ってるオベロンがついてきてくれるから……そう言えばオベロンどこ?」
「ダメじゃん!!!」
「はぐれたのですか?一体いつごろ?」
「まさかアルトリア様を探しに森へ入ったんじゃ」
「おっかしいな。藤丸達に会う直前まで側にいたのに。もしかしたら、そのマシュって子達と合流したのかも。オベロンもお守りは持ってたから霧の呪いを受けることはないし、先に帰っちゃおうか」
「良いのですか?」「一応護衛なのでしょう?あっちは見つかるまで探すんじゃないんですかい?」
「そうだなぁ。あ、なら森の外で空砲を鳴らして先に帰るってことを伝えようか」
万事解決。
私に付いてこーい、と歩き出してしまったアルトリア。
「……何て言うか、豪快な子だね」
「ええ。これはオーロラ様も苦労されてるかもしれませんね」
「私は悲しい。王は人の心が分からない」
そして森の外へ出た四人は辺り一帯に響き渡るほど大きな空砲を数発打ち上げた。
「すっごい。これがアルトリアの魔術なんだ」
「今のは魔術と言うより魔力放出の応用だよ。私の属性は風だから震わせて音を大きくしたんだ」
「これなら森の奥まで聞こえそうですね」
「私たちが先に立つ合図だと分かればよいですが……」
一抹の不安を抱えつつ、アルトリアの帰路を辿る。
「少しお待ちを。あれは──騎士でしょうか?武装した集団がこちらに向かってきます」
「同じ鎧を着てるし、統一感もある。見覚えはないが、今のソールズベリーの騎士団なのか?」
アーチャーとして目の良い二人がいち早くそれを視認した。
「うげぇ…あの、もしかして先頭に角の生えた大柄の女騎士が居たりする?」
「ええ。そのようですが知り合いですか?」
「うわー。お姉ちゃんが出てくるってことはガチだ。甘々なシルフじゃなくてムリアンから説教……もしかしたらお母様から怒られるかも」
「あの方がお姉様なのですか!?」
「うん。怒ってるかなー、そりゃ怒ってるよねー。ねえ私たちはまだ見えてないけど、あっちもまだこっちは見つけられてない感じ?」
「今、捉えられたようです。貴方様を食い入るような目で見ています。表情だけでもかなりの怒気を感じますね」
アルトリアは頭を抱えた。見つかってしまってはもう誤魔化しようがない。せめて相手がシルフ辺りだったらいくらでも言いくるめられたのだが……と、肩を落とす。
「ですが何か妙です」「何か俺を睨んでいるような……いや、この弓を?」
「弓?……て、これ、お母様のやつじゃん!!なんでロビンが持ってるの!!!?」
「はい?え、オーロラ様がこの弓を?確かに俺が死んだら他のやつに譲って下さいとは言いましたが、もう2000年以上前の物ですよ?」
「うん。流石に老朽化が激しくてもう戦闘では使えないからってお母様が大事そうに飾ってた。うちの国宝になるんだけど、さっき普通に使ってたし偽物なの?だとしたら造った人は凄い職人だよ。籠められた神秘の量も質もまるっきり同じじゃん」
「そうわけではないんですが、レプリカで通りそうですか?」
聖剣や魔剣が一目で業物とわかるようにロビンの弓もかなりの物だ。だから単なる模造品というのは無理がある宝具である。
「言葉を尽くせば理解して貰えたかもしれませんが状況が最悪です。あの騎士にとって我々は放蕩娘と国宝を盗み出した一行にしか見えないでしょうね。どうしますかマスター。このまま迎え撃って誤解を解くか、一旦退避して向こうの熱が冷めるまで待つか。あちらは馬があるので逃げ切るのは難しいと思います」
「なんか急に毒吐くなこの人」「迎え撃って、誤解を解こう!!」
ロビンの弓はランクD-のイメージ。