オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
ソールズベリーが目先になった。
高さ20、いや30メートルはあろう巨大な壁が左右にどこまでも広がっている。
本来、身分証を持たない藤丸達はこれから丸1日はかかる長い手続きをしなければならないが、今回はオベロンの顔パスで直ぐに入れるように取り計らってくれるらしい。
「おっと。ここで僕は一旦おさらばだ。アルトリアが脱走したことで上は大騒ぎになっているだろうから、オーロラに根回しをしておかないと。ガウェイン達が君たちを誘拐犯だと訴えて指名手配されても、オーロラなら取り消せるからね」
「何から何まで助かるよ。ありがとう」
「御安い御用さ。恐らくレオナルド・ダ・ヴィンチ女史はマイクの酒場にいるだろうから訪ねてくるといい」
ポンッと片手サイズに変幻したオベロンは相棒のブランカに乗り、壁を飛び越えて街の中へと消えていく。
「じゃあ私たちも入ろうか。あ、一応言うけど、オベロンみたいに壁を飛び越えて街の中に入ろうとかはやめてよ。特別な許可書を持たない人があれをやると、ズタズタに引き裂かれるから」
「…俺の時代にも壁はあったけど、そこまで物騒じゃなかったなー」
ロビンはどこか遠い目をする。
オベロンはこの壁の中には理想郷があると言ったが、ガウェインやこの壁など、ここまで物騒な物だらけだった。
果たして真実はどうだろうか。
「だーかーらー!この大門をどどんっと開けて!小門だと感動ってやつが薄れるでしょうが!」
「こちらの門は滅多に開けられるものではないのですが……ハァ。今回だけですからね」
どうやらガウェイン達と出くわさないように遠回りしてきたらしい。名無しの森から直行すれは西門からとなるが、ここは東にある正門だ。
見映え重視で無駄にでかく意匠が凝らされている。これが開くだけでもかなり迫力があるそうで、折角ならとアルトリアの
「これは!」
「……変わらないなぁ」
トリスタンが目を見開き、ロビンの顔がくしゃりと歪む。
一面の花吹雪が彩る活気に満ちた街並み。誰も彼もが楽しそうに笑い合い、腹を空かせる美味しい匂いが鼻腔を擽ってくる。
あぁ、成る程。これは確かに理想郷だ。
思い出されるのは、誰もが認める偉大な王が治めていたバビロニアだ。
藤丸立香にとって泣きたくなるような平穏がそこにはあった。
▽▲▽▲▽
今日、夢を見た。
「裏切り者、裏切り者、裏切り者!」
かつての私がオーロラの首を絞める夢だ。
どうしてそんな事をするのか理解が及ばない。第一私がトネリコとして活動していた時期にオーロラとは出会わなかった…出会えなかった筈だ。
オーロラを絞める手の平が焼けるように痛い。見ればオーロラは手足の先から頬に目尻に至るまで全身に黒い痣を浮かばせていた。
それは紛れもなくモース化の兆候であった。
オーロラを蝕むそれが素肌を通して私も侵食しようとしている。
バカな、あり得ない。何故獣神の加護を得たオーロラにモースの呪いが及んでいるのだ。何故冠位の竜であるオーロラに獣神の呪いが効いているのだ。
「何がブリテン一美しい妖精だ!こんなに醜い癖に!羽だってしわくちゃで、手なんて傷だらけだ!」
そんな疑問に自分が答えてくれる。
つまりこのオーロラはまだ風の氏族の妖精だった頃のオーロラだ。
氏族長とは言っても、特別優れた能力があるわけでもなく、ただ美しく人望があるから担ぎ上げられた程度のどこにでもいる妖精の一羽に過ぎなかったオーロラなのだ。
私がトネリコでオーロラが風の氏族と言うことは、まだ初代円卓すら誕生していない時期なのだろう。
「死ね、死ね、死ね!!!」
自らにもモースの毒が侵食していようとも気にする素振りすら見せず、それとも痛みを凌駕する憎悪を持ってオーロラを殺そうとしていた。
……訳が分からなかった。
自分にとってオーロラとは希望の星そのものだ。
道は違えたが、変わらず彼女はこの腐りきったブリテンという地に綺麗な花を咲かせ続けている。
仮に深層心理でオーロラを恨んでいたとしても、それは汎人類史の私の影響で『王』となったオーロラに向けられる、何れ私の王位を簒奪するのではないかという欺瞞の筈だ。
何故手を取り合おうとしない。モースの毒に侵されているなら一時的だが対処法はある。
この時出会えていれば秋の戦争の悪夢は起きなかった筈だ。
「───ごめんね」
オーロラがそう、小さく微笑む。
「っっっ!!!」
ゴキリッと夢の中の私はオーロラの首の骨を折った。
「何で最後だけ……あ、そっか。私の眼は完全に濁っちゃったんだ。はは、ハハ……ハハハハハハハハ!!!!」
壊れたように笑うトネリコ。物言わぬ屍となったオーロラを抱きしめながら涙を流して笑い続けた。
「ふぅ……」
そこで目が覚めたが、背中はじっとりと汗で濡れていた。
何て気味の悪い夢だったろうか。
昼になり、玉座についた今でもオーロラを殺した瞬間の何とも言えない嫌な感触が忘れられない。
「モルガン陛下、もしや、お加減が優れないのですか?」
「ウッドワスか。そうか、もう誕生祭の時期だったか」
「は。今年もオーロラ様より親書を預かってきております」
「…どうせ内容は同じだろうが、後でゆっくり読ませてもらおう。それと返事だが、私は参加しない。娘の道中の護衛は頼んだぞ」
「かしこまりました。ですが陛下。オーロラ様は……いえオーロラはきっと貴女を許す準備は出来ていると思われますよ」
「だからこそ、だ。行ける訳がない。私は人間が嫌いだ。憎悪していると言っていい」
モルガンは、ヴィヴィアンを手にかけることになってしまったあの日、ヴィヴィアンを誤って殺してしまったことに後悔はすれど、人間の子供を巻き込んだことには何の感情も抱いていなかった。
そこに居たお前が悪いと、勿論理性ではそれがオーロラの怒りを買っている要因なのは理解しているのだが、いかんせん人間という脆弱な劣等種を見下してしまい個として認識出来ない。
自身を軽く俯瞰して見ただけでこんな有り様だ。他者から見ればモルガンの人間軽視はもっと酷いだろう。
上部だけの謝罪して復縁を望むほどモルガンも面の皮は厚くなかった。
「……。」
ブリタニアの騎士団長こと『最優の騎士』ウッドワスは、そんなモルガンからの突き放すような言葉に一瞬悲しそうな目をするも、直ぐに気を取り直してオーロラの親書を彼女の配下へと渡した。
「ところで最近、バーゲストの様子はどうだ?」
ウッドワスの背筋が伸びる。
「……アヤツとは部隊が違います故、中々顔を合わせる機会がありませぬ。もう最後に会ってから半年は経つでしょうか」
「おいおい実の娘だろう。それで良いのか?」
「陛下。何度も、何度でも、納得していただけるまで延々と言い続けますがヤツは私の娘ではありません」
肩を強ばらせて強く否定するウッドワスを見て、逆にモルガンは肩を力を抜いて小さく笑った。
「ならば、あの娘の父親は誰だ?断言してやるが、あのオーロラの夫を自称する変態だけはあるまい。そしてあれという忌々しい例外を除いてオーロラが身を委ねるほど気を許している相手といえばお前しかいないだろう」
それにバーゲストは牙の氏族だ。もうこのやり取りも習慣のようになってしまったが、モルガンはバーゲストの父親はウッドワスだと信じて疑わなかった。
「それはヤツがオーロラの実の娘ではなく拾い子なのではと……」
「いいや。バーゲストにはオーロラの血が流れている。冠位の竜の血だ。薄い上に厄災の要素が邪魔をしているが、見間違わんよ」
バーゲストは冠位の竜の娘であると同時に獣の呪いとして生を受けてしまった。
きっとバーゲストを身籠った時、もしくは生まれた直後のあの子に取り憑いたのだろう。
『あれ』は前回の大厄災でオーロラの全てを奪うと言っていた。
自らの子が厄災に変貌したとなれば、オーロラにとって最悪以外の何物でもない。
「お前がバーゲストを認知しないのは勝手だが私としては、あの変態ではなくお前がオーロラの隣に立ってくれれば言うことないのだがな」
「私はオーロラの騎士として忠誠を誓った身。私からオーロラを求めるなど許されざることです」
「……ふっ。そうか」
そこにオーロラへ心は惹かれていたのに、最後まで私に義理を立てて死んだ騎士の面影を見た。
「後悔だけはするなよ。取り返しのつかないこともある」
それ以上は特に言うこともなかった。だがライネックのことを思い出すと、どうしてもウッドワスとオーロラの仲は応援したくなってしまう。
「早く!早く!ほら、ロリカも」
「…………」
今日という日を今か今かと心待ちにしていた娘とその人形がウッドワスに連れられて行くのを見届け、モルガンは再び玉座につき、数刻後。突然の来訪者に厳しい目を向ける。
「──休憩中だったか?すまないノックしようにも扉がないのでな」
「当然だ。ノック程度で来客を迎えるものか。待機室があった筈だが?」
「下にあった亡霊避けか?良い出来だが不要だ。私には待っている時間がない」
「……。解せんな。何故ここへ来た。何が目的だ?」
恐らく戦闘の意思はない。それだけに何の意図があってこちら側に来たのか読めなかった。
「強いて言うならおまえの作品を見に来た。見ておくに値する。空想樹の役割を見抜き、恐れるのではなく、逆に空想樹を利用した。カルデアの召喚式を即座に解析し、自らの血肉とした。まさに偉業。魔術において神域の天才と言っていい。分かるか?私はおまえを褒め称えに来たのだよ、女王モルガン。他に誰も……いや、一人いるのだったか」
「そうだ。貴様に魔術の腕を讃えられても喜べぬ。それこそ嫌みというもの。知っているか?魔術に心得がなくとも純度の高い称賛は胸の内が温かくなる。下手な世辞が済んだなら早々に失せよ。これより先は私
「分かっている。どのみち、ここが最後の介入地点だ。この時点で私が妨害しても、結末は変わらない。完璧な歴史、完遂された脚本、娘という失点はあれど、この世界の勝利は
男はただそれだけ言葉を残して踵を返した。
「私の見立ててでは『予言の子』とやらも、カルデアのマスターも、おまえに
瞬間。この世界から男の反応が消える。次はオーロラの元へ向かうかと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。
「たとえ私が敗れてもオーロラがいる。オーロラさえ生きていれば私のブリテンは永遠に残り続ける」
モルガンは玉座の上で瞳を閉じる。せめて次に観るなら二人で國を統治する幸せな夢をと願って。