オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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トネリコ

「うん、この分だと今月のノルマも達成出来そうね。サラマンダー様には本当に感謝しないと」

 

資料を捲り、してやったりと小さくほくそ笑むオーロラ。

 

「……オーロラ様。ご機嫌なのは分かりますが、少々弛み過ぎでは?」

 

「いいの。いいの。どうせここには貴方と私以外誰もいないんだから」

 

そんな彼女を窘めるように少女が声を上げた。

 

年の頃は14…5歳くらいであろうか。ツンとした眉と触角のように突き出たアホ毛が特徴的な可愛らしい少女である。

 

頭を撫でてやると、不服そうな声を漏らして離れた。

 

彼女は少し大きめのベレー帽の位置を直しながら、無条件に自らを甘やかしてくる彼女に嘆息する。

 

「はぁ……」

 

「あら、ため息?ダメよ。貴方達人間はただでさえ寿命が短いんだから。ストレスなんか抱え込んじゃ、あっという間に老け込んでしまうわ」

 

「そんな簡単にお婆ちゃんになったりしませんって。第一私は妖精とのハー…………て、ここじゃその常識も通用しないんでした。忘れて下さい」

 

「?別にいいけど、疲れが溜まっているようなら直ぐに言ってね」

 

彼女がオーロラと出会ったのはここ数年の話だ。そしてホムロが亡くなってから、実に30年の月日が流れていていた。

 

無論、妖精の感性を持つオーロラからしてみれば30年の年月など瞬きの一時に過ぎない。

瞼を閉じれば、まるで昨日のことのようにホムロとの思い出が浮かんでくる。

しかし日本の城にピラミッドにビルに巨大彫刻と、あの頃に比べ街の景色はかなり……いや、劇的に変化していた。

 

それと言うのも、ホムロの一件で時間の流れの早さに危機感を覚えた彼女が一日一軒などと評して、無作為に建築物を増やしていった為だろう。

 

もしこの時期にカルデアのマスターたる藤丸達が訪れれば「あれ……もうハロウィンだっけ?」なんて口にしてくれるに違いない。

規則性なんて物はなく、覚えのある歴史的建造物が無造作に立ち並ぶ玩具箱のような街の有り様には万能の天才でも頭を痛める筈だ。

 

今ではこの少女に咎められ、又は純粋にネタが切れて慎むようになったようだが、最近では単に魔力で産み出してしまうのではなく建築材料だけを造って、それを手作業で組み建てるという長丁場に嵌まっていた。

 

 

さて、話は少しずれたが目の前の少女の名をアンという。

彼女との出会いは、たまたま遠出していたオーロラが霧の深い森で気を失っている彼女を保護したことに始まり、それからなんやかんやあって住み込みで働くこととなった。

 

ホムロ以降、オーロラは人間を引き取る事には敬遠的であったが、その時は何せタイミングが良かった。

 

あと彼女がこの國出生の人間ではない……つまりは最低でも80年は生きられる外の人間であったことも影響しているのかもしれない。

そしてこれはオーロラの知らぬことだが、彼女は人と妖精の混血であり、80年どころか下手をしなくても200年は生きる。

 

200年。それが最終的に3000年生きることになる彼女にとって、どれぐらいの話になるかは分からないが、少なくともホムロの時のように"いつの間にか寿命がきていた"なんて事態には陥らないだろう。

 

 

 

「しっかし……街の発展はともかく、これが案外儘ならないことだ」

 

いつの間にか日は落ちて辺りは暗くなっていた。

今日はもう休みますと退室したアンを見送り、オーロラはリクライニングの椅子を限界まで下げる。口調は男の物へと戻っていた。

 

「演技力の向上……これはまぁ良い。最近何となくだけどコツが掴めてきた。自衛団はまだ設立出来てないけど、サラマンダー経由でノリッジから多量の武器を注文して、それを牙の氏族に格安で売り付けているから、いざとなったら優先してこっちを助けてくれる筈。

問題は…………やっぱあれかな。トネリコ……ハァ」

 

思わずため息が漏れてしまう。

(のち)のこの國の女王で、どこまでも残酷で悲しい妖精の話だ。

実を言うと、ホムロと生活していた時から彼女の情報だけは逐一自分の耳に入るように徹底していた。

そしてホムロと出会ってから丁度5年ぐらい(この翌年に厄災があった)経つある時に、一度彼女から顔合わせをしないかと打診があり、それを突っぱねてしまった過去がある。

 

それでお互い遠慮して距離感が空いてしまった、とかならまだ話はマシだったが、オーロラが人間(ホムロ)を対等に扱い、とても親しくしていたと言うのは噂好きな妖精郷ではそれなりに有名な話で、彼女がそれに何か希望めいた物でも抱いたのか知らないが、定期的に「何とか話だけでも聞いてくれないか」と、かなりの頻度でお誘いがくるようになったのだ。

 

正直、妖精眼で此方の全てが丸裸にされると分かっていて会える訳がないのだが、後々彼女があの冷酷無慈悲なモルガンへとなった時に、原作とは違った扱いを受けるのではと一抹の不安もある。

 

「あぁぁぁぁぁ…………胃が痛い」

 

いっそ事、例えばアンなどの第三者に仲介してもらって話し合うのも手の一つかもしれないが、下手に怪しまれても困る。時期的にはもう賢人グリムことクー・フーリンを召喚して魔術は習っているだろうし、強行策に出られでもしたらその時点でゲームオーバーだ。

 

「……案外、全部ゲロって協力するって案も……いやいや、俺の中で将来的に妖精郷が滅ぶのは決定事項だし、俺が死ねばその可能性がぐっと減るって分かったら普通に殺されるか」

 

つまりトネリコと俺が手を取り合う未来はない。

もしかしたらこの國に愛着が湧き、心変わりする時があるかもしれないが、少なくとも人と妖精が仲良く暮らせるような世界にもならない限りはあり得ない話だと思う。

 

ならトネリコがそんな國を造れたら?

という話なら、それは無理だ。原作の結果から言ってもそうだが、トネリコの能力以前に、単純に統治される妖精側に大きな問題がある。ここ30年で他の妖精と関わる機会も増えてきたが……まぁ終わってるよねって話。

全部が全部悪いってことはないんだろうが、この國では比較的マトモに見えたサラマンダーですら、目の前で妖精が他の妖精に面白半分で殺される、そんな悪夢のような光景を見て眉一つ歪めなかった。

曰く、何を慌てる必要がある、こんなの日常茶飯事だろうとのこと。……人とは根本的に在り方が違うのだとその時強く感じた。

多分スキルにカリスマEXとか有っても無理だろう。

 

「うん、今回もしらばっくれるか!」

 

だから全力で無視する方向でいく。あと今思い付いたけど、トネリコが強硬突破してきた時の為に屋敷の庭に虫の妖精を住まわせてみるのはどうだろうか。

 

途端に眠くなってきた思考でそんな事を考える。

 

モルガン/トネリコが虫嫌いなのは有名な話。最悪発狂した彼女に屋敷ごと燃やされるかもしれないが、例えば『この先オーロラの屋敷→(虫いっぱい居ます)』などと言った看板を立てれば、勝手に二の足を踏んでくれるのではないか。

 

何なら写真付きでもいい。注意書きを添えるなら『いきなり飛び付いてくるかもしれないですが、彼らに悪意は全くないので苛めないで下さない』なんてどうだろう。

 

 

……思いつきのアイデアだけど思ったより有効かもしれない。

 

早速明日試してみようと心のメモ帳に書き留めて、オーロラは眠りについた。

 

ちなみに、今回はグロスターで開催される舞踏会に参加しないかというお誘いであったが、彼女は踊れないので初めから無理な話だった。

 

 

 

 

 

 

それから500年後ぐらい。ついに堪忍袋の緒が切れたトネリコがソールズベリーの門をぶち破り、オーロラに無理やりにでも会おうと突撃してきたが、敷地内に足を踏み入れた瞬間、この國の妖精にしては珍しく善良な虫妖精に囲まれ……泡を吹いて死んだ。




アン 汎人類史から流れ着いた人と妖精の混血子
目的:なし
半分は妖精と言っても、ちょっとだけ長生きなこと以外は人間とそう変わらない。それは彼女の母がそう望んだからであり、本当は完全な人として産んであげたかったらしい。

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