オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「でね!これがまた笑える話なんですけど、マスターったらヤベェ女ばっか好かれてんの!何だよ溶岩水泳部って、意味分からんねー!」
ケラケラとロビンが笑う。
「ふふ。そう、マスターさんはモテモテなのね」
「ええ。男の俺から見ても魅力的な人ですわ。あれは顔じゃなくて人間の本質的な部分が好かれるタイプですね。
古今東西、あらゆる時代の英雄が跋扈している魔境なだけあって、ああいう凡庸な優しさを持つ存在はそれだけで興味を引かれちまうものなのでしょう」
「あら、何だか他人の気がしないわね」
「ははっ!オーロラ様は凡庸には程遠いでしょ!?あんたは何て言うか、慈愛って言葉が結晶化したみたいなお方だ!」
酒も入っていないのに、随分とおべっかが多い。
「そうかしら?私って身内以外には結構ドライなつもりなんだけど」
「いやいや、俺の居た頃なんてソールズベリーの全員を身内認定してたじゃないですか。普通、自分の街に住んでるだけのやつを身内として受け入れたりしませんって」
いや、そうだった。ロビンはこういう子だった。本人として嫌味のない素直な称賛のつもりが、どうにも初対面だとイヤらしくゴマを擦っているようで勘違いさせてしまう。
こういう性格になったのは何故だろう?
ロビンは
「どうでしょう?親のことは覚えていませんが、確かに物心ついた時には、舐めてんのかと大人に怒られてた記憶があります」
「あら、声に出てたかしら?」
「いや、声には出てませんけど分かりやすい顔をしてたので」
この、何とも言えない懐かしさを噛み締める。
忘れられない幸せな思い出が、いつしか、もう二度と戻らない悲しみへと変化して、積み重なって。
しんどいだけだと思っていたけど、こんな奇跡に巡り会えるだなんて。
「そういや、オーロラ様。再会した時から聞いていいものか、駄目なのかずっと気になってたことがありまして」
「ん?」
「あの、本当に失礼なことかもしれないので、黙っておこうと思ったんですけど……この機会を逃したら、次があるかも分かりませんし」
「なに?遠慮なく聞いて」
「翅はどうなされたんですか?」
一瞬何の事か分からなかったが、ロビンの生きていた頃の私は風の氏族で、蝶のような翅が生えていた。私の精神面が脆弱だったせいで少し黒ずんでいたから、完全に失くなったのを見て、それは大丈夫なのかと心配していたらしい。
……ふむ。
バサリっ
「おわっ!?翼!?」
唐突に竜の翼を出してやる。
「ドッキリ成功ね」
メリュジーヌとの訓練で翼は出し入れ出来るようになったのだ。
風の氏族の時ほど綺麗ではないが、そんじょそこらの攻撃ではびくともしない頑丈な翼である。
「そいつは、え?本物?」
「触ってみる?凄いのよ。風の氏族の時は頑張っても滑空するのが限界だったけど、今は飛べるんだから」
「おお……そいつはまた」
恐る恐る翼に触れる。「あ、普通に触るんだ」と、内心思ったが、ロビンも男の子だもの。ドラゴンの翼とか触りたくなるわよね。
「ひんやりしてるんですね。あとテカテカしてる。なんでこんなことに?」
「妖精のままじゃ何も守れなかったからかしら。手入れはよくしてるから、鱗が鏡みたいになってるでしょ?」
「本当だ。これ鱗ってことは生え代わりますよね?それとも脱皮?どっちでもいいですけど、それを売りに出したら高値で売れるんじゃないんですか」
「それが、まだ一枚も落ちたことがないの。欲しいなら一枚上げましょうか?」
「上げましょうか?って引きちぎるって意味でしょうが。嫌ですよ、そんなことオーロラ様にさせたって知られたらダフネに殺されちまう」
あーやだやだ。アイツ、オーロラ様が絡むとしつこいったらありゃしない。
英霊になってもダフネが怒ったら怖いようだ。
「そう言えば、ロビンは『座』という所に登録されてるのかしら?私、その場所がどう言うものか分からないのだけど、そこにはダフネもいるの?」
「あーいえ。俺は大分特殊なケースで、英雄ロビンの霊基を乗っ取ってる感じなんです。未練があってブリテンに留まってはいたけど、亡霊にもモースになる熱量もなく、フワフワと漂ってまして。
「……その間の記憶はあるの?」
「いえ全く。見えない、聞こえない、考えない。無害ですし空気みたいなもんですよ。まぁその未練は消化されたから今度こそダフネ達の元に行けるんでしょうね」
それって………ダフネはちゃんと成仏したってことで良いのよね?
怖くて聞けなかった。ダフネだけじゃない、未練を抱えて死んだ皆が成仏も出来ずに彷徨っているかもしれないのだ。
「何とか出来ないの?」
「うーん。さっきも言いましたけど俺は特殊ですし。別にそいつらも苦しんでるわけじゃないですからほっといても平気だと思いますよ」
「でも、向こうで再会出来ないのよ?そんなの寂しいじゃない」
「オーロラ様。それはいくらなんでも無茶ですよ。聞けばソールズベリーだけじゃなくてブリテン全土を統治しているそうじゃないですか。街一つのころだって死にそうになってたのに、亡者にもなれない魂の残りカスみたいな俺らまで面倒をみてたら潰れちまう」
「でもその中に、ダフネやリンカが居たら?居ないって証明出来る?」
「それはまぁ、無理っすけど。ダフネはともかくリンカは大往生だったんでしょ?」
「たとえ可能性が1%でも大切な人が苦しんでいるなら私は助けたい。全てを救いたいんじゃないの。大勢の中にいる大切な人だけよ」
「はぁぁぁ。それって結局どこにいるか分からないから全員助けましょって話でしょ?」
彼は呆れるように頭を掻く。
「俺だって、あんたを残してあの世になんて行くつもりはありませんよ。何があろうと最後まで付き合うって決めたんですから」
「ありがとう。協力してくれるのね」
「ええ、まぁ──しっかしそうなると、マスターとの契約は切って、オーロラ様と結び直した方がいいですね」
「そうね。この國の問題だもの。彼らを付き合わせるわけにはいかないわ」
「それじゃあ取り敢えず仮契約といきましょうか。オーロラ様、お手を」
魔術的な部分は分からないので、されるがままに手を差し出すと、ロビンがその手の上に自らの手を翳す。
すっと、胸の中に何かが入り込んだ。これがパスが繋がったということなのだろう。
仮にもアルビオンなので竜の炉心は持っている。魔力供給は問題ないと思うが、逆に供給過多でパンクしてしまわないだろうか。
心配になって顔を上げると、ロビンが弓を私に構えていた。
「……頼む。これで死んでくれ」
「気負わないで、こんな化物、憎んで当然よ」
「そうだ。あんたはそういうヒトだ。そういうヒトだから俺たちは好きになったし、どこかで立ち止まって欲しかったんだ」
意表をついたまさかの出来事だったけど、不思議と裏切られたという気持ちはなかった。
だから苦々しい顔をする彼に私は精一杯の笑みを浮かべた。
私の魔力がごっそりと減る。そして彼は唱えた。
「真名解放」
屋敷は吹き飛んだ。
誕生祭の準備で使用人達が留守にしていたことは幸いだった。
……それにしても、そうか。ロビンはやっぱり私を恨んでいたか。
当然だ。守ると誓っておきながら彼も最愛の妻も守れなかったのだから。
彼がこうする気持ちも理解出来る。
どこまで本当で嘘だったか分からないけど、英霊としての神秘に私の魔力を上乗せしたら倒せるとふんだのかもしれない。私と仮契約する為に、とっさにあの話を思い付いたのなら大したものだ。
「オーロラ!!!!?これは一体、何が起きたんだ!」
「あらメリュジーヌ。帰ってきてたのね」
何もなくなった大地で私は平然と立っていていた。
服は焦げたが痛みはない。無傷だ。
「誰がやった!許せない!僕のオーロラをこんなに傷つけるだなんて!」
「傷つける?この通り私は無傷よ?」
「そんな訳ないだろ、そんなに泣いて!」
「泣いて?……そう言えば最後に泣いたのっていつだったかしら?」
涙はとうの昔に枯れてしまった。それでもメリュジーヌは泣いているというのだから、よほど私は分かりやすい顔をしているのだろう。
「痛いなぁ」
ロビンは星の中にはいなかった。
彼はオーロラに立ち止まって欲しかった。
会ってしまえば、殺さなくてはいけなくなる。──『アレ』とはそういう契約だった。
殺したくはなかった。けど、殺さなければならないと化物になった彼女を見て思った。
また守れなかった。