オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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ノリッジの厄災

半日以上かけてしまったが、日が昇るよりも先にノリッジへと到着した。

 

「避難は済んだかしら?」

「はっ!住人から観光客、浮浪者にペットやネズミ一匹に至るまで避難は済んでおります!」

「ペットにネズミまで、随分頑張ったのね。後でこの任務に参加した全員分の欲しい物を纏めたレポートを部隊長へ持ってくるように伝えておいて。褒美として私のポケットマネーで賄えるならすべての願いを聞き入れるわ」

「はっ!!!」

 

まだ猶予が数週間あるということもあり、避難が済んでいないようなら手伝おうと思ったが、うちの騎士団は優秀であった。

『成果にはそれ相応の対価を』ムリアンによれば出来る上司の秘訣だそう。全員の願いを叶えるとは言ったが、せいぜい50人程度。中身が小市民な私では千年経っても使いきれない貯金を消費して彼らは満足し、経済を潤すことも出来るので一石二鳥であった。

 

「それで厄災の兆候はどう?」

「鏡の氏族によれば、予定どおり15日後に誕生するようです。ですが、オーロラ様が干渉するならば直ぐに変貌して……その、結果は「外れたら恥ずかしいので言いたくない」と。す、すいません!そいつは俺の同期でして、直ぐにケツを叩いてでも吐かせてきます!」

「いいわよ。別に気にすることではないわ。それだけ自分の能力にプライドを持っているということなんですもの」

「それより私が干渉しなかった場合は誰が倒すのかは言っていた?」

「それなのですが、大盾を携えた少女と一画の令呪が刻まれた罪人が倒すとのことです。少女の方はともかく罪人を我々が通すとはにわかに考えづらい話ですが、鏡の氏族が予言で嘘を言うわけもありませんし」

「通す、のでしょうね。彼を頼って」

 

私の言葉に彼が振り返ると、騎士二人に拘束された藤丸がとぼとぼと歩いてきていた。

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

オーベーローン!!!

 

藤丸の内心は怒りに燃えていた。

こんなに怒ったのはいつぶりだろうか?

 

レポートの提出が遅れていることをゴッフ所長に咎められ、泣く泣く徹夜で仕上げていたところ、背後からマーリンが「突然だがワイバーンだ!」と叫んで、驚いた拍子に溢したコーヒーが完成間近のデータを消去してしまった時と同じぐらいかもしれない。

 

ノリッジに着いたときまでは順調だった。

オベロンも最初は真面目に交渉してくれていたのだが、藤丸の令呪が罪人の証として見られたらしく突き返されてしまった。

このままバカ正直に正面から訴えても無駄だろう。そこでオベロンは密かに侵入する案を出したのだが、普通に見つかった。あと自分が騎士団と戦っている間に逃げた。何なら逃げ切る為にこっちにタゲを集中させようとでもしたのか、花火が上がった。そのせいで藤丸は囲まれ、捕まった。

それはあり得ない裏切りだった。

オベロンはレジライと同系統の英雄だったのだ。

 

「こんな非常時に花火を上げるだなんて、とんだイカレ野郎だ」

「大方もぬけの殻となった街で盗みを働こうとでもしたんだろうが、相手が悪かったな。今日中に二画目を刻んでやるから覚悟しとけよ!」

 

そして拘束されて今に至る。

 

(いや、でも街の中には入れたし、オベロンの計画の内なのかな?)

 

いきなりレジライ扱いは早計だったかもしれない。

もしかしたらオベロンは逃げたのではなく霊体化して助け出すタイミングを伺っているのではないか。

 

騎士たちの会話に耳を傾けてみるに厄災の誕生までは思いの外、時間があるらしい。

一旦作戦を練り直さなければ

 

「そこの貴方。もしかしてカルデアのマスターさんかしら?」

 

その思考を遮るように、声がかかる。

戦場には似つかわしくない一輪の花がこちらに呼び掛けた。

 

「っぅ!?」

 

瞳に収めて息を飲んだ。美し過ぎる。そう思ったのに不思議と感じたのは感動や緊張ではなく安らぎだった。まるであるべき物がそこにあったような安堵感。魅了や精神支配など様々な状態異常を経験してきた藤丸にとってもそれは初めて味わう未知の感覚であった。

 

「お、オーロラ様!!?」

「最敬礼!」

 

自分を押さえていた騎士たちは慌てたように敬礼を取り、勢いで目の前に押し出されてしまう。

 

噂に違わぬ美しさだ。カルデアで美男美女は見慣れたものと思っていたが、これは仮面を外した蘭陵王に匹敵するかもしれない。

 

「もしかして貴方が春の女王様?」

 

身長は女性にしては少し高め。170センチぐらいだろうか?殆ど同じ目線の彼女はオレの手を取って笑いかける。

 

「ええ。はじめまして、貴方のことはマーリンから聞いているわ。こんな危ないところに何をしにきたの?」

「あ、すいません!ここにマシュって子がいるって聞いて。その子は俺たちカルデアの仲間なんです」

 

声も良い。まるで子守唄のような安定した調律に、思わず微睡んでしまいそうになる。けれど不思議だ。蘭陵王や美の女神に匹敵する美しさを持っているのに、彼女のそれは呑まれ過ぎない。深酔いできない酒と言えば分かるだろうか。一定値以上は魅了されないようにフィルターでもかけられているみたいで、何だがむつかしさを感じる。

 

彼女が『お人好し』と呼ばれていることを思い出した藤丸はその違和感を一旦置いておき、マシュの居場所を尋ねた。

 

「一緒に来たのではなくて?それはあり得ないわ、だって避難はもう済んでいるんですもの」

 

オーロラは怪訝な表情を浮かべる。

念のために確認したが、規制線を張ってから住人はもちろん、この藤丸を除いて侵入者の一人も通していないという。

 

それだけなら、マシュに似た騎士というのが他人の空似だっただけだ。残念だがダ・ヴィンチちゃん達の方に希望を託すしかない。

けど『一緒に来たのではなくて?』とは何だか少しおかしな言い回しだ。

 

まるでマシュがここに来ることが分かっているようだった。

それを尋ねると、彼女はうっかりしていたと言わんばかりに大きく頷いて違和感の紐をすらりとほどいた。

 

「街で鏡の氏族には会ったかしら?繁華街の隅っこで良く占い師をしてたりするんだけど。彼女たちは珍しい力を持っていてね。未来が詠めるのよ。その一人が貴方と大盾を携えた少女が今回の厄災を倒すと予言したの。大盾の子がマシュって子なんでしょうけど、まだこの街には来ていないようね」

「未来予知……そんな人達がいたんだ」

「あら?知らなかった?なら街に戻った時に探してみるといいわよ。ヒトの生死に関わるものや賭博関係の占いは禁止だけど、恋愛占いとか結構流行っているみたいだから楽しめる筈」

「その、マシュが来るまで待っててもいいですか?」

 

今どこにいるにしろ、厄災の日にはノリッジで再会出来るのだ。待たせてもらえるなら待つべきだろう。

 

「それはいいけど、困ったわね。誕生祭までに厄災は討伐する予定だったから、予言の内容は変わってしまう。もしかしたらだけど、マシュはこの街には来ないかもしれないわ」

「え?予言をなぞらないんですか?」

 

てっきり予言通りに動いているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「ええ。予言通りにすれば確実に厄災を倒せるのかもしれない。でも厄災はブリテンの問題だもの。貴方達を巻き込むわけにはいかないわ」

 

彼女にとって予言とはあくまで有益な助言のようなものだそうだ。参考にはするが、必ず従うというわけでもなく、今回のような話なら、そんな可能性もあったのだと切り捨て動くだという。

 

「でもそれだと貴方達が困るだけよね。そもそもマーリンが古い情報を教えたのが始まりなのだし、もしよかったらうちの騎士団を使ってマシュを捜索しましょうか?」

「そ、そんな悪いです!!!」

 

いくら『お人好し』人間に甘い妖精の女王とは言っても、借りばかり作ってはられない。それに彼女はカルデアが総力を上げても倒せない未知数の仮想敵だ。心変わりでもして、矛先を向けられたら藤丸はなす術なく死に絶えるだろう。

 

「ふふっ、実を言うとね。ガウェインが貴方達に謝りたいって直談判してきたの。あの子は大のアーサー王伝説のファンだからあのトリスタンが本物だって言ったら腰を抜かしていたわ。それにアルトリアも大きなお願いがあるみたいだし、母親として少しぐらいは恩を返さないと」

 

しかしそこに善意しかない。

ね?と押しきられたら、断れなかった。

なし崩しで藤丸は暫くノリッジに滞在することになり、マシュの捜索はガウェイン率いる騎士団が担当することになった。

 

「そ、それでトリスタン様はどちらに居られるのだ?」

 

その日のうちにガウェインは藤丸の元に訪れたがキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡す彼女を見て、本当に円卓の騎士が好きなんだと悟った。

これで姉妹仲が冷えきっているのが信じられないが、純粋そうなこの人と、周囲に甘やかされて育ったせいで調子に乗りやすい(オベロン談)のアルトリアのことだ。馬鹿みたいに下らない事から殺し合いに発展するなんて珍しくないとカルデアの英霊達も言っていたし、この確執は意外と屈んで拾える浅いところにあるのかもしれない。

 

そして肝心の厄災は───、

 

 

 

「えいっ!」

『グギャ!?(また出落ちかよ!)』

 

オーロラのワンパンだった。

 


 

「くそぅ……なんだよ。あれ、反則だろ」

「あ、オベロン。今まで何やってたの?」

「ごほん!ごほん!え?何って?まさかこの僕が君のことをほったらかしにして、このノリッジ限定メロンを買いに行ってたわけないじゃないか~」

表に出な。喧嘩しよう

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