オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
妖精歴1000年。
まだ空想樹はあるけれど、育ちきってはおらず、街と言えるものはロンデニウムぐらいだったブリテン島。
マシュはオーロラにつれられ、彼女の屋敷でひとごこち。
同じようで違う、風景に戸惑いながら、できる範囲でこれまでの話を語って聞かせました。
「……と言うのが、私の知る妖精國、ブリテン島です。参考になったでしょうか……?」
「え?私って厄災をワンパン出来るぐらい強くなるの?フィジカル最強オーロラ様とか解釈違いなんだけど。と言うか何?何で私が子持ちで、あの子達が娘になってるわけ?……義理、義理なのよね?メリュジーヌが伴侶になってるのは、まぁ分からなくないけど、ケルヌンノスがマモルンノスになって、アルビオンに生まれ変わってモルガンの対抗馬になるとか、何が起きたらそんなことになるの?対抗馬はノクナレアがいるじゃない……。三つ巴とか嫌よ。真っ先に潰される。……いえ、身体はアルビオンで、ケルヌンノスは味方、妖精騎士やウッドワスがいる私の陣営って最強過ぎない?どうなったらそんなことに」ブツブツ
「あの……?」
「……ごめんなさい。私から聞いていてなんだけど、未来の話はこれっきりにしましょう。私の知ってる未来とは、その……違い過ぎるから」
「はい、ですが……『私が未来のブリテンから来た』ことをオーロラ様が信じてくれたのは部分的に未来の知識があったからなんですね」
「ええ。少し不思議な経験をしてね。その未来ではモルガンがブリテン島を統治して、妖精國と名付けた。私もその中にいたけど、離反して新たな國を立ち上げるような力はなかった。誕生祭なんて楽しげな祭りも開いていなかったけど、話に聞く限り、皆幸せそうで嬉しいわ。そんな未来もありえるのね」
オーロラは冷めてしまった紅茶をおいて、目をつむる。
何か思うことでもあったのだろう。一息ついてマシュのこれからについて語りだした。
「マシュ。どうやら私の未来の知識は当てにならないかもしれないけど、貴女が妖精歴に来ることは知っていたわ。そして貴女がどうやって帰ったかも知っている」
「本当ですか!」
「ただ問題が二つ。一つは貴女の飛ばされた時期と場所が違う。しかも帰り方を知っている私の目の前に偶然転移したとは考えづらい。何かあると警戒するべきだと思う」
「オーロラ様の知識では私はノリッジで、妖精歴400年の頃のブリテン島に飛ばされたのですね。約600年の差……それもオーロラ様が誕生して間もない頃とは、確かに何か作為的なものを感じます」
「二つ目、その方法はトネリコしか使えない。いえ、恐らく大妖精の魔力ならたった一人の人間を生かしたまま眠らせ続けることは不可能ではないけれど、女王歴2017年までマシュという少女が存在しなかった証明をするには今の私では力不足。絶対は保証出来ない。だから貴女はこれからトネリコに会って親交を深める必要がある。それに私は関われない。貴女が一人でやり遂げる必要がある」
「それは……はい。その人とオーロラ様は出会わなかったそうですから、会ってしまったら矛盾が生じてしまいます」
マシュは言うべきかどうか迷って口を閉ざしてしまったが、オーロラがトネリコを憎んでいるという話をガウェインから聞いていた。
秋の戦争で彼女とトネリコの率いる円卓は衝突し、彼女の街と民衆は一人残らず殺し尽くされた。
未来の怨敵である。彼女がそれを知っているなら、会いに行こうとするわけがない。
「でも安心して。私の知ってる未来とは違っても、性格までは変わっていないようだし、トネリコとは苦労せず仲良くなれると思うわ。この時期だと、翅の氏族のあの子は生まれてないかもしれないけど、頼りになる黒騎士はいた筈。もし無理だった時は、誰も掘り返せないぐらい深く穴を掘って埋めてしまいましょうか」
石化でも凍結でも、とにかくマシュの存在が2017年までなかったことになればいい。
原理は第四異聞帯でジナコがやったことと似ていたので、マシュにも何をするつもりなのかは直ぐに理解出来た。
問題は恐らく『このオーロラ』は女王歴へ記憶を持ち越せないので、マシュが永遠に地中に埋まってしまう可能性があるということ。
そうはなりたくないとマシュはかぶりを振る。
「埋めるのは冗談で、パッとした思いつきだけど代案はあるの。だけどこっちはおすすめはしないわ」
「それは、高いリスクがある……と言うことでしょうか?」
「ええ。私が今すぐにアルビオンになって、ブリテン島を支配する。そうすれば眠りについた貴方を護り通すことも出来るわ。だけど、どうやってアルビオンになったかは推測の域を出ないし、失敗して状況がより悪い方向に転がる可能性もある」
「そんな方法、選べるわけがありません!ただでさえ右も左も分からない状況を助けてもらった恩もあるのに、これ以上、オーロラ様の迷惑になるだなんて!」
「落ち着いてマシュ。単なる思いつきよ」
「……はい。そうでした。すいません、急に大声なんて上げてしまって」
シュンとして小さくなってしまったマシュの頭をオーロラは優しく撫でる。
「そうだ」そのタイミングで彼女は魔力で仮面のような物を作り出してマシュに渡した。
「何があるかも分からないし、貴女の存在はなるべく隠した方がいいと思うの。だから変装用の仮面を用意してみたわ」
「わぁ、ありがとうごさいます!」
見た目は簡素に見えたが、質感は素晴らしい。それに認識阻害の魔術的効果が働いているようで、目元を被うその仮面をマシュは嬉しそうに受け取った。
「真名も隠した方がいいわね。……うーん。安直だけどギャラハットで、いいかしら?」
「私の名は妖精騎士ギャラハット。ソールズベリーを守護する鋼鉄の門、ですね!」
「そこまで喜んでもらえると思ってなかったから嬉しいわ」
一旦話が落ち着いたところで、オーロラは紅茶を淹れ直す。
何だか妙に様になってると言うか、わざとらしく格好つけているように見えたが、気のせいだろう。
「それでトネリコだけど、探しに行くよりソールズベリーに訪れるのを待った方が賢明よ。女王歴では考えられないでしょうけど、今は氏族同士の争いが盛んで、土地を広げる為に妖精の殺害は推奨されてるぐらいだから」
マシュのオルテナウスは英霊相手でも引けをとらないが、何百、何千と同時に相手どれるものではない。
歯がゆい気持ちはあるが、戦場に裸一貫で飛び出すのと同義で、無謀であることを悟った。
「ソールズベリーは土地に浄化の力があるとか、歴史が長いとかで、争いの地になることは滅多にないの。だから争いの仲裁で傷ついたトネリコが定期的に身を寄せにくる。それを待つのはどうかしら?屋敷には、いつまでも泊まっていていいわよ」
「どうして、オーロラ様は……ここまで良くしてくれるのですか?」
「あら?最悪の未来を視て落ち込んでいたら、実はこんな明るい未来でしたって言われたのよ。それで私がどれだけ救われたか。……ちょっとトンチキだったけど、これからの年月を楽しく生きることが出来る。むしろ受けた恩を返しきれなくて困ってるぐらいだわ」
その時、オーロラは本心から笑ったのだろう。
翅が煌めき、威光が差したように見えた。
マシュはそのあまりの美しさに飲まれて、数秒ほど思考を停止した。
「……はっ。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「よろしく、マシュ。……あ、屋敷に住むなら『あの子』に伝えておかないとね」
「そう言えば、同居人の方がいるのでしたね。先ほどもスープやサラダを乗せたおぼんを二階に運んでいましたが、ご病気なのでしょうか?」
「ええ、そうなの。サッカーがしたいって張り切っていたのに、最近はベッドから起き上がることも難しいみたいで。妖精の粉が効かないから精神的なものなのかもしれないけど、会話は普通に出来るのよね。だから何が原因なのか八方塞がりで……もしよければ力になってくれないかしら?」
「それはもちろんです。不肖ながら精神医学の心得がありますので、何か役立てることがあるかもしれません」
その心得とは、医者ではなく患者としての経験が大半を占めていたが、最低限の知識と処置の方法はカルデアで得ている。
(精神的な病と言うことは、環境によるものでしょうか?それとも生活の変化……しかし、ベッドから起きれなくなっただけで見た目は元気そうとは、これまた一体?)
そこでマシュは重要なことを思い出す。
(オーロラ様の引き取ったその人は、まだ幼い子供でしたね。前の生活があまりよろしくなかったそうですし、外に出ることを無自覚に恐れているのかもしれません)
だとしたら部外者の自分がいきなり干渉するのは逆効果になるかもしれない。
今日のところは簡単な挨拶だけ済ませよう。そうオーロラに連れられて登った先の部屋。
「おや?お客人……ですか?これは珍しい」
白髪の痩せた男性が一人。不思議そうな顔をして出迎えた。
「ええ。この子はマシュ。貴方もこの家に
「……そうですか。どうもこんにちわ。ベッド上からすいません。この屋敷の居候の人間です」
何かがおかしい。
「オーロラ様。やはり名前がないと不便ですよ。そろそろ私の名は決まりましたか?」
「うーん。ずっと考えてはいるんだけど、いまいちピンっとくるのがなくてねぇ……もう少しだけ待ってくれないかしら?」
「はぁ。分かりました……申し訳ありません。この通り私はオーロラ様から名を貰うことを待っている名無しでして、今は……
まるで老成したような丁寧なお辞儀。まだ青年に見えるのに彼からは、抗いようがない老いと死期を感じさせられた。